インフィニット・デモン・ストラトス (I・D・S) 作:フラッシュファントム
黒い人型ロボットをバラバラに破壊したソロモンは標的を俺達に変える。
バラバラになった黒い人型ロボットは残骸をよく見ると人が装着していない無人機である事が分かった。奴の近くに散らばっている機械部品がそれを証明している。
「ソロモン……何故ここに!?」
俺は驚愕する。奴とは嘗て1度だけ戦った事がある。あの時はジョニーさんとリグレットさん、俺の3人がかりでかつ准将とグリーフの救援が来たので何とかなった相手だ。
黒鷲が本来の姿であれば辛うじてではあるが善戦はできるかもしれない。しかし今の俺の機体は事実上弱体化しているので何処までこの場を持たせられるかどうか分からない。
『織斑君、鳳さん、直ちに避難してください!!』
「山田先生、申し訳ありませんがアレはヤバイ代物です! 私達が逃げたらどうするつもりですか?
教員の部隊が到着するまで私が時間を稼ぎます!」
幸いにも戦線からの離脱は容易だ。観客席を確認すると人が滞りなく減っている事が分かる。もしもセキュリティがハッキングされて非常口が閉ざされていたら大変な事になっていただろう。
奴に勝てないが時間稼ぎくらいはできると思い対峙する。
「鳳さん、今すぐここから離脱しろ! こいつはかなり危険な奴だ!!」
「一夏、何言ってんの!? 私も戦うわ!」
鈴音にそう忠告するも彼女は戦おうとする。それを見たソロモンは戦闘態勢に入った。
《汝…ワレニ…チカラヲ……ミセロ!》
ソロモンはいきなり目の前に現れると同時に右手に持った太刀で斬りかかってきた。左手に持ったブレードで咄嗟に防ごうとしたがその勢いが強すぎてアリーナの壁に叩きつけられた。背中に叩きつけられた衝撃が全身に襲い掛かるも俺は何とか堪える。
「一夏! このっ!!」
鈴音は怒りを露わにしながら龍咆で攻撃をするが奴は刀で全て切り伏せる。ソロモンは瞬間移動の如く彼女に接近して両手の刀を振り下ろす。鈴音は分離させた双天牙月が刀を防御したが押されていた。
「きゃぁっ!?」
《タリン……ソノテイド……》
鈴音はソロモンの攻撃を受けきれずに吹き飛ばされ、壁に叩きつけられた。鈴音のエネルギーは少ないと考えた俺は少しでも時間を稼ぐために注意をこちらに向ける。改めて確認すると鈴音は意識こそ失ってはいないが今の一撃でエネルギーの殆どを削られたように見えた。
突撃銃の引き金を引いて弾丸を3発撃って、ソロモンを牽制する。それに気づいた奴は狙いを変えて瞬間移動で接近してきたがあの時と速さは同じだ。
「くっ!?」
左手に持ったブレードでソロモンの斬撃を受け止めて鍔競り合いに持ち込んだ。
しかし奴の力の方が圧倒しており俺は競り負けてしまい攻撃を受けた上に弾き飛ばされてしまった。
黒鷲の耐久値を確認すると半分になっていた。このまま真面に戦っていたら不味い…。
《ホンキヲ……ミセロ……》
奴は瞬間移動をしながらこちらに攻撃を繰り出している。
突撃銃で応戦するもソロモンは銃撃を刀で斬りおとして瞬間移動で再び接近する。
近距離は奴の領域で勝ち目はないがあれをやるしかない!!
「この距離なら……どうだ!」
捨て身の覚悟で刀を振り下ろそうとしたソロモンに突撃銃の弾と肩のミサイルを全弾、撃ちこんだ。更にその直前にアサルトシフトに切り替えたので現状で繰り出せる最大の火力を奴にお見舞いしてやった。爆風と衝撃を至近距離で受けた黒鷲は右腕と胴体をひどく損傷してしまった。
ミサイルで生じた爆発の煙が晴れると多少のダメージを受けた程度のソロモンが目の前に立っていた。そいつは左手に持った刀を横一閃で薙ぎ払うが咄嗟にシールドシフトに切り替えて攻撃を防いだ。
「がぁっ!?」
バリアで防いだにも関わらず攻撃はかなり重かった。バリアは一撃で粉々に砕け散り、アリーナの中央に弾き飛ばされてしまった。辛うじて受け身を取ることができたが黒鷲の耐久値は10%以下だ。奴は向かって徐々に近づく。
「いっ……一夏!?」
鈴音はボロボロになった俺を見て悲鳴に近い叫びをあげた。鈴音は体を何とか動かそうとするが機体の損傷が酷く、身動きをとることすら困難なようだ。教員部隊の到着はまだなのか……。
「くそっ…ここで終わりなのか……」
そう覚悟したがソロモンは何故か無人機の残骸に近づいてそれを回収、体内に取り込んだ。奴はそれが終わると直ぐに瞬間移動の様な速さでその場から姿を消した。
力を振り絞って立ち上がった俺は奴の奇襲攻撃を警戒するがそれっきり姿を見せる事は無かった。その後に教員部隊が到着するも既に戦いは終わっいた。レーダーで敵影を確認するも全く見られなかったのだ。
「あいつ……何処に消えた…」
静寂に包まれたアリーナで俺はそう呟いた。
ソロモンとの戦闘後、俺と鈴音はアリーナの管制室で織斑先生と山田先生からの事情聴取を受けていた。内容は乱入してきた無人機の事とそれを一瞬で破壊した謎のロボットの件だった。
無人機の残骸はソロモンに全て持っていかれてしまったので解析しようが無いとの事だった。
「織斑、無人機を回収した奴の事をソロモンと称していたがどういう事だ…? 説明しろ」
「大変恐れ入りますがソロモンの事については我々の機密事項に触れるのでお話はできません。その話を聞きたいのでしたら山田先生と鳳さんを退室、その情報を誰にも話さない事を約束していただけたら話すことができます」
織斑先生にソロモンの事について問い質された。この質問は必ずすると予想していたので山田先生と鈴音の退室と他言無用を条件として奴話をすると交渉を試みた。
「ちょっと一夏! あいつの事を知っているんでしょ!? アタシにも話すのが筋でしょ!?」
「良いだろう。鳳、山田先生済まないが席を外してもらえないか」
織斑先生は俺の条件を受け入れたが鈴音は納得できないと俺にそう訴える。しかし山田先生により管制室から出て行った。それを確認した俺は織斑先生にソロモンについて語る。
「今から申し上げる事は絶対に口外しないようお願いします。
ソロモン……私がいた世界では亡霊と呼ばれている謎の存在です。
あれは第一世代アーセナルの試験機、
そいつは破壊した物を捕食します。最初に乱入した無人機はソロモンが捕食したので何も残っていないのがその証拠です。私は奴と一度だけ遭遇して戦いました。あの時は仲間が救援を要請したおかげで何とかなりましたが……。次に奴が襲撃したらどうなるか……分からないです」
俺は記録された映像を改めて見ながらそう説明する。それを聞いた織斑先生は納得していない表情を見せていた。
「情報はそれだけか……? 他にはないのか!?」
「残念ながらソロモンについて私が知っている事はこれが全てです。これ以上は何も知りません」
織斑先生にそう問われたがこれ以上は何も知らないと断言した。俺が嘘をついていないと判断した織斑先生は自室に戻って休めという指示を出したのでそれに従い、自室に戻った。
それから今回の稼働データを確認すると今までよりも多くのパーツと武装データが解禁された。ソロモンとの戦闘が要因だと思うと皮肉な事だと感じた。
(このデータ量なら俺が得意な戦闘スタイルができるかもしれない!)
そう考えて機体と武装の組み合わせを夢中で行った。作業を終える頃には朝日が昇っていたがその日は休みだった事は幸いだった。
一方、何処かの研究室では無人機とソロモンの戦闘記録を見ている者がいた。
「何なのこいつ、いっくんの力を測るために送ったのに平気で壊して取り込んだ……。
こんなボロッちぃロボットに負けるなんてありえない! しかもあいつ全く本気だしてなかった様に見えるから束ねさん激オコだぞー!!」
不思議の国のアリスに出てくる少女、アリスに酷似した服を着ており、頭に兔耳のカチューシャを付けている女性は激しい憤りを見せていた。自身が作った傑作を壊れかけに見えるロボットに破壊、取り込まれた光景に怒っているようだ。
「こいつ何ものなんだろう……? 束さんも分からない……不気味ね~」
女性は映像を見ながらそう呟いた。
黒鷲のデータ(ソロモン戦後)
ヘッド:オサフネ
ボディ:ヘカントケイル
プロセッサー:メモリアップ
アーム:ライキリ
レッグ:スサノオ
武装
右腕(RW):グリムリーパー(アサルトライフル)
左腕(LW):シルバーレイヴン(マシンガン)
肩(SW):サンダーバードⅡ(ミサイル)
オーグジュアリ(AUX):ハンドグレネード
右パイロン(RP):プロミネンス(レーザーブレード)
左パイロン(LP):ギリングインパクト(バズーカ)
次は欧州から転校生が来ます。