スネイプ(♀)の一人称はなぜ我輩なのか?   作:ようぐそうとほうとふ

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呪い

 

 ハリーはグリフィンドール寮に帰ってくるやいなやソファに倒れ込んだ。そして一言も発さず、そのまま黙り込んでいる。

 ロンとハーマイオニーはそんなハリーを見てからお互い顔を見合わせた。

 

「…これって失敗?」

「そうみたいね」

 

 ハーマイオニーはハリーからスリザリンのローブをひったくってなんとか前を向かせようと足掻いたが、ハリーは近年稀に見る粘り強さでそれを拒絶した。

 

「ハーマイオニー、放っておいてあげなよ」

「でもロン…」

「いいから。失恋は時間でしか癒えないんだよ」

 

「失恋はしてないッ!」

 

 ハリーが突然怒鳴るせいでまだ起きてる上級生たちの視線が三人に集まった。しかしハリーの声だとわかるとみんな慌てて目を逸らした。継承者疑惑は依然として晴れていないからだ。

 

「喋った…」

「喋れるなら早く何があったか教えてよ…」

 二人は見るからに呆れている。ハリーは渋々起き上がってついさっきあった事を伝えた。

 

「秘密の部屋については…先生もよく知らないみたいだった。ただ僕が継承者かどうかっていうのはしっかり否定したよ」

「ハリー、そんなのわかりきってることでしょ」

 ハーマイオニーはため息をついた。ハリーはムッとしながら話を続けた。

「先生は生徒を襲ってるのは人じゃないって考えてるみたいだった。人ならダンブルドアが捕まえられるし」

「そこまでわかっていて先生たちは手も足も出てないってことね」

「うん」

「で?それだけで落ち込んだりしないだろ」

 ロンは秘密の部屋のことなんかよりハリーとスネイプに何があったかに興味津々らしかった。ハリーは物凄く渋い顔をして、何があったか話した。

 

 

「えぇ?!じゃあポリジュース薬を使ったのがバレたの?!」

「バレたのに生きて帰ってこれてるのがすごいわ」

「うん。ちょっとなんで僕を嫌うのかって聞いたら口論になって…今になって思うと先生が僕を追いかけてこなかったのは変だね…」

 

 あのときハリーは完全に頭に血が上っていて、スネイプがどんな顔をしていたかなんて見る余裕はなかった。

 とはいえ12歳の男の子に本人から自分を嫌う理由を聞いて冷静でいろというのも無理な話だ。

 ただ父さんのことを話題に出した途端、スネイプが動揺していたのは間違いない。

 

 

 やっぱり、父さんとスネイプの間には何かあったんだ…。

 

 

 ハリーは二人には決して言わなかったが、その確信だけは得られた。

 ロンは黙り込んでしまったハリーにウンウンとうなずきながら励ますように肩を叩いた。

 

「まあはじめ嫌い合ってた二人が惹かれ合うなんてよくある話だから、気を落とさなくても」

「…ねえロン、あなた恋したことないくせになんでさっきからそんなに訳知り顔なの?」

「こ、恋したことないなんてなんでわかるんだ?」

「へー。じゃああるの?」

「ない…けど…」

 

 ハーマイオニーは露骨にため息を吐き、ロンはムッとしていた。ハリーは何も言わなかった。

 

「…とにかくね、ハリー。スネイプの前ではおとなしくしましょう。後日改めて尋問されたら…もうたまったもんじゃないわ!」

「うん。わかった。…っていうかもう今回でだいぶ思い知ったよ。スネイプは…僕のことを憎んでる…」

 

 ハリーはがっくりうなだれて、そのまま動かなくなってしまった。ロンとハーマイオニーはなんとか慰めようと明るい声を出した。

「ハリー、恋愛って時には待つことも大切よ」

「君だって恋したことないくせによく言うよ」

「なによ。文句あるのかしら?」

「べっつにぃ」

「…僕寝る…」

 

 ハリーは突っ込む気力も起きないし、かと言って二人の漫才を聞いてられる余裕もない。そのまま立ち上がり、フラフラしながら寝室へ向かった。ロンもハーマイオニーもひき止めなかった。

 

 ロンの言うことは一部正しい。

 ハリーには時間が必要だった。

 

 自分を嫌いだと断言されて、激しく傷ついた心を自覚して。ようやく自分の胸にある感情が“恋”だとわかった。

 

 でも…恋なら、神様。

 よりによってなんでスネイプに!

 一目惚れなんて、魔法よりも理不尽で解明不能なものが自分の身に降りかかるなんて…。

 

 あの日、スネイプに見惚れたあの時の記憶が消し飛んでしまえばいいのに!

 こんなのまるで解けない呪いだ。

 

 ハリーはベッドに倒れ込んだ。どこまでもどこまでもマットレスに沈み込んで行きたかった。

 

 

「父さんは…スネイプに何したんだろう…」

 

 


 

 

 

 バレンタイン当日の喧騒はスネイプの気分をますます逆撫でた。

 ロックハート、あの最悪のナルシスト男がここぞとばかりに騒ぎを起こしたからだ。

 吐き気を催す邪悪な仮装を施した小人が授業中だろうとところかまわずバレンタインカードを配達しやがったのだ。スネイプは一度この小人を絞め殺してやろうかと思ったが、彼らもまた被害者だと思い改めた。

 いつか報いを受けさせたいとも思ったが、あの男が改心することなどあり得るのだろうか?…なさそうだ。

 

 ハリー・ポッターに対しては、もう本格的に無視するしかないと言う結論に至った。

 ポリジュース薬の材料を盗んだばかりではない、あいつは自分が最も触れてほしくない部分に無神経に触れたのだ。

 子供に怒るなという理性の声が聞こえてきた。しかし、ジェームズ・ポッターに関することはどうも感情の歯止めが利かないのだ。

 自分が思春期の頃に抱えていたどうしようもない激情、我儘、不満なんかがむくむくと湧き上がり、自制心をめちゃくちゃに踏み荒らしてしまう。昨日は初めて、本人の前でそれを漏らしてしまった。

 もう一度対峙したらきっとまた我慢できない理不尽な怒りに駆られてしまうだろう。

 だから無視する他ない。

 しょうがないことだ。

 

 ポッターも仲間の二人も盗みの罰を恐れてか、自分の目の届く場所では縮こまっている。(いい気味だ)

 ただでさえ今は校内が危険な状況なのだから、四六時中そうやって隅で大人しくしてくれればいいのに。

 少なくとも目に入らない限りは、ポッターアレルギーは起きないのだから。

 

 

 しかし、スネイプのそんな期待は常に裏切られるものだ。

 

 ハッフルパフ対グリフィンドールのクィデッチ戦の開始直前、ハーマイオニー・グレンジャーとペネロピ・クリアウォーターが石になってしまった。

 

 更に悪いことに、ハグリッドは逮捕。ダンブルドアは理事会により停職を言い渡され、雲隠れした。

 

 

「とにかく薬を作らなければなりません…」

 

 マクゴナガルが珍しく憔悴した面持ちで言った。今やマクゴナガルが校長が留守の間生徒たちを守らなければいけない。

 

 スネイプとスプラウトはマンドレイク薬のため授業以外のすべての時間を温室で過ごすことになった。マンドレイクのニキビが取れ次第すぐに調合を開始するため、万全を整えた。

 

 テストと重なってスケジュールは過酷だったが、犯人探しができない以上できることに全力を注ぐべきだ。

 

 

 しかし

 敵はいつだってこちらの都合など決して構ってはくれないのだった。

 

彼女の白骨は永遠に『秘密の部屋』に横たわるであろう

 

 

 


 

 

 

 セブルス・スネイプはふくろう試験で好成績を修め、無事希望の科目のイモリ課程に進むことができた。六年生になってますます、周りの生徒たちは将来について真剣になりだした。

 例のあの人が暴れているこのご時世、スリザリンの一部界隈では当然“死喰い人”が選択肢として現実的に見えてくる。

 同期の中でスネイプは筆頭候補生だった。

 成績優良で魔法の腕も寮一番だ。唯一ケチをつけられるとしたら箒乗りくらいで、それも腕前としてはだいたい平均だった。

 そしてなにより、闇の魔術への造詣の深さ、そしてためらいなくそれを振るう度胸が彼女の地位を確立させていた。

 誰もがスネイプを重要人物であるかのように扱った。

 

 

 

「リトル・死喰い人。まさにそんな感じだな、スニベリー」

 

 薬草学の手伝いで校舎から離れた北塔裏の資材置き場にいたスネイプに背後から誰かが声をかけた。振り向くと、シリウス・ブラックが立っていた。

 

「…話しかけるな、ブラック」

「闇の魔術の()()()()()はご機嫌斜めか?…スネイプ。すっかりバッドガール(イケてる子)が板についてきたな」

 シリウスの皮肉に対してスネイプは冷淡に答えた。

「私は自分を変えたつもりはない。私が呪いをかける前に消えろ」

 スネイプはそう言い捨てると足早にその場を去ろうとした。しかしシリウスはスネイプの進路にすっと回り込み立ち塞がった。

 

「どうしてエバンズと仲直りしない」

「できるわけないだろ」

「やってみなきゃわからないだろ」

 

 スネイプは杖を抜いた。杖先から閃光が瞬く。シリウスは咄嗟に身をかわして呪文を避けた。

 

「いきなりなんて卑怯だぞ!」

「卑怯もクソもあるか。学校の外じゃいちいちお辞儀をして呪文を掛け合ったりしないぞ」

 

 スネイプはもう一度杖を振った。シリウスも今回は盾の呪文で防いだ。先生に見つかったら二人共大減点の後罰則だ。シリウスは呪文の掛け合いで負ける気はしなかった。でも別に今日は喧嘩しに来たわけではない。

 

「エバンズともとに戻れないから、死喰い人なんか目指してるのか」

「違う。私は強くなりたいだけだ」

「はあ?」

 

 スネイプは真剣だった。シリウスはその気迫に押されて思わず間抜けな声を出してしまった。

 

「闇の帝王はいずれ魔法界を支配する。そしたらマグル生まれはどうなる?私はリリーを守りたい。私が強くなれば叶うことだ」

 

 スネイプがこんなバカげた未来の話を真面目に言うものだから、シリウスは思わず大声で反論してしまった。

 

「君は本物の馬鹿なのか?!例のあの人なんかが本当にダンブルドアを倒して、魔法省を乗っ取ってマグル生まれを虐殺するなんて信じているのか?」

「お前こそ冷静に考えてみろ。ダンブルドアは年をとってる。魔法省は骨抜きのスカスカだ。ここ数年で何人の"まともな"魔法使いが消えた?」

 

 実のところ、正義と呼べる勢力はどんどん弱体化してきている。頻繁に起きる拉致拷問殺害でメンバーは減っているし、危険な立場に家族や人生を投げ打って身を投じることができる魔法使いは限られている。

 

「…だからって悪の道に進むなんて、死んだほうがマシだ。スネイプ、お前本気でそれが正しいって思ってるのか?」

「ああ。強くなれば、偉くなればルールを作れる。誰にも私の想いを隠さなくてもいい。馬鹿にされたりもしない。誰にも文句なんて言わせない…」

 

 シリウスはスネイプの気持ちを知っていた。もうずっと前から、彼女の情念のこもった視線がリリーに注がれているのを見てきた。

 だからこそ、あの日の自分の行いがスネイプを怒らせるには十分残酷だったのはわかっている。

 

 しかし。

 

「僕は…あの日のことは君が悪いと思う」

「…そうだ。私が悪い」

 

 シリウスは歯噛みした。

 違う、そういうことじゃないんだ。

 

「僕は君をバカにしたことはあるけど、君の感情を馬鹿にしたことなんてないだろ」

「…どうだかな。一緒だろ」

「全然違うだろ!?」

「お前にとってはな」

 

 スネイプの声は今まで聞いたことがないくらい冷えていた。怒りでも激情でもない、密度の高い感情の肌触り。

 

 

「私には、お前がひどく傲慢に見える」

 

 言い放たれた言葉に、シリウスはあえて挑発的に返した。

 

 

「つまり君は僕を許すつもりなんて一切ないわけだ」

「あたりまえだろ。今までさんざん憎み合ってやりあってきて」

 

「じゃあどうすれば償えるんだ?」

「そんなの無理」

「一回間違ったら、もう全部だめなのか?」

「そうだ」

「許してもらえないのか?」

「そうだ」

「すべてを水に流してやり直すことも?」

「無理。当たり前だ。一度やったことは消えない」

 

 シリウスは黙った。

 スネイプの激しい拒絶に対してショックを受けたのではない。

 

 今言ってることは全部スネイプとリリーの関係に返ってくる言葉だ。スネイプも多分わかっていっている。

 そして、彼女は自分の言葉に無責任なタイプではない。

 自分の言葉で、自分に呪いをかけているんだ。

 

「わかったなら、二度と私に構うな」

 

 

「…やっぱり君は馬鹿だ」

 

 

 シリウスはスネイプの背中を蹴っ飛ばしてやろうか悩んだ。けれども彼女の肩が思ってたよりもずいぶん華奢なのに気づいて、やめた。

 

 

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