tgt.0の後半を家継視点に大幅改稿しています!
開示される情報自体はほぼ変わっていないため、読まなくても支障はありません。もうがっつり直したいところはないので、読み返したときにちまちま直すくらいだと思います。度々改稿してすみません!
肌寒くなり、シャツの上にセーターを着込まなくてはいけない季節になってきた。
気温が下がると余計に眠くなるので苦手だ。暖を取ろうと学ランのポケットに手を突っ込む。
ズボンにもポケットはあるが、そちらにはおしゃぶりの箱が入っている。あれは常にひんやりしているので触りたくない。
冷たい風に身を縮こまらせながら目的地へ向かう。
今日見回りを担当する場所は、すこし離れた位置にある商店街だ。
眠い目を擦りながら閑静な住宅街を歩いていると、ふいに声を掛けられた。
「おいガキ、ちょっとツラ貸せや」
耳にタコができるほど聞いた台詞だ。小さな溜息を吐いて振り向く。
ヤのつく職業らしき方々が10数名、嫌な笑みを浮かべながらこちらを見下ろしている。各々の手にバットや折り畳みナイフまで握られており(治安が悪すぎる……)と内心ぼやいた。
声を掛けてきた男が、これ見よがしにナイフをちらつかせる。
「おまえ、フーキイインだろ? なら雲雀恭弥に連絡取れるよなぁ?」
「取れるね。それがどうかした?」
横目で周囲の状況を確認する。男たちは家継を囲もうと、じりじり距離を詰めてきていた。
――幸いなことに、そして彼らにとっては不幸なことに、一般人は近くにいない。
男は機嫌がよさそうに馴れ馴れしく家継の肩へ腕を回し、顔を近づける。
「いますぐ呼び出してくれねーかなぁ。さもないと――」
刹那、家継は裏拳で男の鼻を折った。
「ぐあああッ!?」
ゴキッなんて鈍い音とともに悲鳴が響く。すかさず鳩尾にも一発入れ、男が地面に崩れ落ちる。
「テメエ、何しやがる!!」
怒号とともに一斉に武器が向けられ、家継は目を細めて薄く笑った。
「ごめんね。きみらみたいな雑魚を紹介すると、おれが咬み殺されるんだ」
「な、なんだこのガキ……!」
「おい何やってる! 早く潰せ!」
三節棍を振るい、飛び掛かってきた男たちをまとめて昏倒させる。
どの攻撃も止まっているように見えるほど遅い。思い通りの場所に攻撃が来て、腕を振るえば必ず攻撃が当たる。
的確に、流れ作業のように処理していく。
なにもかもが順調で、だからこそ、家継はもやもやとした気持ちを抱えていた。
(今はちゃんと動ける。じゃあ、なんでディーノさんとの手合わせでは体がうまく動かないんだろう……)
しばらく沢田家に泊まっている兄弟子、ディーノ。
家継はあれから、事あるごとに彼へ勝負を挑んでいた。
しかし何度戦っても勝てない。それどころか、日に日に自分の動きが悪くなっている気がするのだ。
「よくもアニキを! 死にさらせや――ぐあっ!!」
「テメエェェ! ぐっ……!」
「う~ん……ほんと、絶好調のはずなんだけどな……」
最後のひとりの頭を塀に叩きつける。血が飛び散って「あちゃ」と小さく声を上げた。
人様の家の塀を汚してしまった。
まあ、風紀委員に連絡すれば掃除してくれるだろう。
折り重なった男たちに意識がないことを確認していると、冷たい風が吹いてひゃっと肩をすくめた。寒い。早く帰りたい。
冷えた手で携帯を取り出し、比較的よく話す風紀委員に連絡を取る。
「あー武藤くん? ヤクザの塊が落ちてるから回収に来てくれるかな」
『うす、分かりました』
「じゃーね」
簡潔に用件を伝えて電話を切り、位置情報を送る。ひとりやふたりなら自分で運ぶが、さすがにこの量は無理だ。
三節棍をしまった家継は、後片付けを丸投げしてさっさと歩き出した。
――警察官が制服を着ているのは、一目で警察だと分かるようにするためであり、犯罪の抑止に繋がるからだと聞いたことがある。
それなら風紀委員の学ランと腕章(とリーゼント)も、並盛町においては近い意味を持っているのではないだろうか。抑止力以上に、恐怖や怨恨を生み出している気もするが。
こちらの服装にぎょっとした表情を向けてくる住民たちを見て、そんなことを考える。
少々ハプニングはあったものの、無事に商店街へ到着した家継は見回りを始めた。
しかし今日はなかなか出番が多い日のようだ。
30メートルほど先のほうで「キャァァ! 引ったくりよ!」と悲鳴が聞こえる。
どれだけルールを敷いても、暴力で支配しても、犯罪を起こす者は絶えないらしい。
歩行者を突き飛ばしながら男がこちらへ走ってくる。
彼は家継の服装を見て眉をひそめたが、体格的に脅威ではないと思ったのだろう、そのまま突き進んできた。
わざと避けるように後ずさる。
真横を男が通り抜けようとした瞬間、足を突き出して引っ掛けた。勢いよく体勢を崩した男に手刀を打ち、一瞬で意識を刈り取る。
人目のあるところで無駄に暴力を振るう気は流石にない。
うつ伏せに倒れた男の手からカバンを取り、埃を軽く払った。息を切らしながら駆け寄ってきた中年の女性が、家継を見て目を丸くする。
「まあ……! あ、あなたが取り返してくれたの?」
「はい。どーぞ、お怪我はないですか?」
「ええ、ええ、大丈夫よ。ありがとう、風紀委員ってあなたみたいな子もいるのねえ!」
ほっとしたようにカバンを受け取った女性は「これくらいしかないんだけど、よかったら食べて」と個包装の飴玉を3つ渡してきた。ソーダ味だ。
(おばちゃんって何でみんな飴玉持ってるんだろう……)
中年以上の女性を助けたとき、飴玉をもらう確率が異様に高い。毎度のことながら不思議だ。美味しいので文句はないが。
家継は「ありがとーございます」と微笑みながら受け取って、何度も礼を言う彼女に手を振った。
人の目もあり軽めに攻撃したので、引ったくり犯の意識はいつ戻ってもおかしくない。すぐ逃げられないよう、背中によいしょと座り込んだ。
通路のど真ん中だったせいで、人々は家継たちを避けるように大きく迂回している。
飴玉を口に放り込みながら、もう一度風紀委員に位置情報を送った。ヤクザのついでに回収してもらおう。
膝の上にひじを乗せて、頬杖をつく。
じっとしていると余計に眠い。回収班が到着するまでこのまま寝ようかな、なんて欠伸をしていたとき「いーくん?」と声がした。
――この呼び方をする人物はひとりしかいない。
一気に目が覚め、勢いよく振り向くと、目を丸くした母が立っていた。
「うわっ、か、母さん!?」
「まあ、何してるの? 人の上に座っちゃいけません!」
まずい。まさかこんなところで会うとは。
背筋に冷や汗が伝う。慌てて立ち上がりながら「いや、違うよ、これは!」と手をぶんぶん振った。
「この人、引ったくりなの! だから逃げないよう重しになってたんだ」
「やだ、そうなの。引ったくりって……危ないわねえ、怪我はない?」
「全然ないよ、ほらちょー元気」
腕を広げて見せると、眉根を下げていた母はほっとしたように笑った。「もう、男の子ってほんとにやんちゃなんだから」と両手で頬をむにむに挟まれる。
彼女の手が、まだまだ形を保っている飴玉に当たったようで「ん? なに食べてるの?」と尋ねられた。
「さっきカバン取り返したお礼にって、飴もらった。まだ2個あるから1個あげるよ」
「あらいいの? ありがとう~」
どーぞ、と母の手に飴玉を載せていると、馴染みのある声が商店街に響く。
「ツグさん!」
風紀委員が数人、リーゼントを揺らしながら駆け寄ってきた。先頭にいる男は先ほど連絡を取った武藤だ。ヤクザの回収が終わったのだろう。
「ごめーん。これ、引ったくりだからついでに持って行ってほしくてさ」
「ああ、それでですか。分かりました」
武藤は頷き、他の委員に目配せをして気絶している男を運んでいった。仕事が早くて助かる。
すぐに去ってしまった彼らを見送り、母は不思議そうに「お友達?」と首を傾げた。
「同じ委員会の子だよ。おれじゃ運べないから、あの人たちに警察へ連れて行ってもらったんだ~」
「まあ、風紀委員ってそういうこともしてくれるのねえ」
うちの学校だけだと思う、という言葉は飲み込んで微笑む。
「それより、母さんはなんでここに? いつものスーパーより遠いよね」
「ああっそうだったわ! 今日、この商店街にあるスーパーで大安売りしてるのよ~! だから頑張って来ちゃったの」
「な、なるほど……それでか」
完全に身内はいないと油断していたので、いまだに心臓が跳ねている。
手刀したところを目撃されなくて良かった。弟にもだが、母にだって暴力のぼの字も見せたくない。
「買い物、付き合うよ。荷物重いでしょ」
「いいのよ、いつも沢山お手伝いしてくれるじゃない。休みの日くらい遊んできなさいな」
「遊びまくってるからだいじょーぶだよ、ね、一緒に行きたいな~」
甘えるように手を握ると、彼女は「まあ」と嬉しそうに笑った。
「いーくんが来てくれるなら心強いわ。じゃあ張り切っていっぱい買っちゃいましょ!」
「やった、任せて~!」
見回りの続きは買い物のついででも出来る。
まるで今日1日、何事もなかったかのような満面の笑みで母にくっつく。
そうしてふたりは繋いだ手をゆらゆらと揺らしながら、スーパーへ足を向けた。
▽▽▽
数時間後。
オレンジ色の夕日に照らされながら、親子は戦利品を抱えて帰路についていた。
Lサイズのレジ袋5つ。そのうちの4つを家継が、残りを母が持っている。重くないか心配されたが、普段から3kgの三節棍を腕に留めているのだ。どうということはない。
それよりも家継は、購入した食料や日用品の量にちょっと引いていた。
沢田家には驚くような勢いで居候が増えている。どれだけ買っても足りないのだろう。
もうすこし、買い物に付き合う回数を増やしたほうがいいかもしれない。
和やかに会話しながら公園の横を通りがかったとき、知っている顔を見つけて家継は声を上げた。
「あれ、獄寺くんだ」
「あら?」
いつも元気にダイナマイトを爆発させている彼が、珍しくひとりでブランコに座っていた。
すこし項垂れているようにも見える。いったいどうしたのだろう。
母と顔を見合わせて、ふたりは自然と獄寺のほうへ足を向けた。
「ほんとだわ、獄寺くんじゃない」
「何してるの~?」
「! お母様、お兄様……」
「ん? ひとり? ツナたちは?」
「いや……自分はそろそろ帰ろうかと……」
母が首を傾げると、獄寺は焦ったような様子で言葉を濁した。本当に珍しい。
彼が立ち上がろうとブランコの鎖を掴んだとき、母が「あら」と声を上げた。
「そのブレスレットじゃない? 高校生の不良の方たちが上納品として持ってきたっていうのは」
「え!! なぜそれを……?」
「獄寺くんのことはツナがよく話すもの、ねえ?」
「うん。晩ごはんのときとか、いつも話してるよ」
ほとんどは獄寺の怖いところを話しているというか、被害報告のようなものだが、それでも昔に比べればずっと楽しそうだ。
なかなか友達を作れていなさそうで心配していたのだが、獄寺や山本たちのおかげで綱吉は随分明るくなった。
町内で問題を起こすのは勘弁してほしいが、感謝だってしているのだ。
「いつも……10代目がオレの話を?」
「ええ。ツナの口から獄寺くんの名前が出ない日はないわ」
「そうそう。いつも仲良くしてくれてありがとね」
感極まった様子の獄寺は瞳を潤ませ「すいません10代目! オレ間違ってました!!」と言いながら走り去ってしまった。
「獄寺くん?」
きょとんと目を丸める母に、家継は「なんか、解決したみたいで良かったね」と肩をすくめる。
「解決って、なにが?」
「さあ……? おれたちも早く帰ろ、寒いよ~」
「そうだったわ! 日が落ちる前に帰らなくちゃ」
母を促して歩き始める。
それにしても、友達のことで悩むなんて、青春してるみたいでちょっと羨ましいなと思った。
その日の夕食後。
風呂を終えた家継は、自室で枕を抱えて寝転びながら、リボーンとダラダラ取り留めのない話をしていた。
家庭教師は夜だというのに、2杯目のエスプレッソを飲んでいる。
夕方に獄寺が落ち込んでいる様子だったのは、強化プログラムとやらをさせられていたから――らしい。
考案者がリボーンという時点で、ハチャメチャだったんだろうということが窺える。
「獄寺くん、可哀想に……」
「アイツの強化プログラムは成功したからな、次はおまえだぞ」
「おれ!? いらない、いらない」
足をバタバタさせて抗議すると「ホコリ立てんな」とクレームが来た。
リボーンの真っ黒な瞳がきらりと光る。
「おまえだって補欠とはいえボンゴレのボス候補なんだ。しっかり教育してやらねーとな」
「いいよお……ツッくんを助けてあげて、おれボスになる気ないし」
「……そういや、ツナもめちゃくちゃ嫌がってんのに、おまえは積極的にボスになるとは言わねーんだな」
思い出したかのように彼が「なんでだ?」と首を傾げた。
家継だって代われるものなら代わってやりたい。しかし、それでは駄目なのだ。
「だって、ツッくんがボスになったら守ってくれる人が増えるでしょ? おれがボスになったとしたら……もしツッくんかおれ、どちらかしか助けられない状況になるとするじゃん。そしたら、きっとおれが優先されちゃう。それじゃ駄目なんだよ」
「そこまで考えてるとキメーな」
「シンプルな暴言!」
エスプレッソを飲み終えたリボーンが、うつ伏せだった家継の背中に飛び乗る。
「ぐえ」
「だから戦えることも隠してんのか。おまえがボスやればいいってツナに思わせねーように」
「それもあるけど……暴力は見せたくないんだよ」
「オレは毎日ツナに銃ぶっ放してるけどな」
「努力を泡にしてくれてどーも……」
恨めしい気持ち半分、期待半分で溜息を吐く。
この家庭教師はやり方はめちゃくちゃだが、生徒のことをよく見ている。おかげで確実に綱吉は成長しているのだ。
だからどれだけ理不尽に見えても、口を出さないようにしようと決めていた。
「あいつも薄々は勘づいてそーだけどな。どこに弟の体を片手でぶん投げる、か弱いお兄ちゃんがいるんだ」
「だって、ツッくんが危ないときはどうしても手が出ちゃって……!」
痛いところを突かれて顔をしかめた。
……そろそろ覚悟を決めるべきなのかもしれない。
おしゃぶりのことはともかく、家継が不届き者をボコりまくっている不良の一員であると……いや、言えない。無理だ。絶対幻滅される。
枕に顔をうずめて「うううううう」と唸った。リボーンが小さく鼻を鳴らす。
「それと、ディーノのこともどうするつもりだ。日ごとに動きのキレが悪くなってんぞ」
「……」
本当に、嫌なことばかり聞いてくる。
枕から顔を上げてぼそぼそと呟く。
「……分かってるよ。明日は、ちゃんとする」
「本当か? 明日も腑抜けてやがったらネッチョリお仕置きだからな」
「う~~ん……」
動けない原因は、なんとなく分かっていた。けれど、それを認めたくない。
まだどうにか出来るかもしれないが――出来ないかもしれない。
眉間に皺を寄せながら、家継は「なんとか、してみるから……」と呟いた。