雪は溶けない   作:箱葉

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tgt.14 花の散るらむ

 

 

 鼻先で花弁が舞っている。

 不規則な動きを目で追っていくと、それは膝のあいだに挟んだコップの中へ落ちていった。

 

「おー、見て、桜入りのお茶」

 

 木にもたれながら座っていた家継は、恭弥を見上げて声を掛ける。

 腕を組んで立っていた幼馴染は横目で「行儀が悪いよ」と注意してきたあと、また視線を上へ向けた。

 

 そんなことを言われても両手は団子と、それが入った容器で塞がれているし、地面に水筒のコップを置くのは虫が入りそうで嫌だ。レジャーシートを持ってこなかった恭弥が悪い。

 

「いーの、誰も見てないんだから」

 

 三色団子をやんわり齧りながら、家継も満開の桜を見上げた。

 

 

 空は青く、絶好の花見日和だ。

 家継はわざわざ花見をするほど桜が好きな訳ではないが、毎年幼馴染に誘われるので参加している。

 小学生までは明日行こうね、なんてかわいらしく約束をしていたのだが、中学生になった去年からは早朝に電話で叩き起こされるようになった。誘い方はどうにかしてほしい。

 

 とは言うものの断る理由はないし、幼馴染が持ってくる団子は美味い。むしろ団子目当てで参加しているようなもので、電話が来たときからウキウキしていた。

 しかし――今日は、起きたときからなんだか落ち着かない。そわそわするような、嫌な予感に近い気分だ。

 こういう日は大抵、不審者という名の殺し屋に遭遇する。

 

(久々のお客さんかもしれないな……)

 

 晴れやかな青空と薄桃色の花弁を見つめながら、黙々と団子を咀嚼する。

 

 人っ子ひとりいない桜並木は静寂に包まれており、鳥の声や葉擦れの音しか聞こえない。風紀委員に一帯を封鎖させているおかげだろう。

 すこしやりすぎな気もするが、家継も静かな空間のほうが好きなので止めはしなかった。

 

 団子を食べ終わったころ、風紀委員のいる辺りがにわかに騒がしくなった。なにか問題でも起きたのだろうか。

 膝で挟んでいたお茶を飲み干し、串を容器に放る。水筒とゴミの入った袋を持って立ち上がったころにはもう恭弥が歩きだしていた。

 小走りで後を追う。近づくにつれ見えてきたのは綱吉、獄寺、山本の3人と、地面に倒れ込む風紀委員だった。

 

(あちゃ~……!)

 

 ここで一番出会いたくなかったメンバーだ。

 

「なにやら騒がしいと思えば君たちか」

 

 声を掛けた恭弥に、綱吉が「ヒバリさん!」と驚きの声を上げる。家継も幼馴染の背後からひょっこり顔を出して「おれもいるよ~」と手を振った。

 

「兄さんまで! 何してんの?」

「団子食べるついでに、お花見してたんだ。ね」

 

 同意を求めると恭弥が「うん」と頷く。

 

「僕は群れる人間を見ずに桜を楽しみたいからね、風紀委員に追い払ってもらっていたんだ」

 

 そう、追い払ってもらっていた。

 しかしその風紀委員を綱吉たちが倒してしまったとなると、どうなるかは火を見るより明らかだ。

 

「でも君は役に立たないね。あとはいいよ、自分でやるから」

「い……委員長」

「弱虫は、土にかえれよ」

 

 風紀委員がトンファーで殴り飛ばされた。綱吉たちに走る緊張に、家継はまた(あちゃ~~)と額に手を当てる。

 どうやって恭弥を止めようか考えていたとき「いやー絶景絶景! 花見ってのはいいねー♪」と浮かれた男の声がした。

 

「っか~~やだねーー男ばっかっ!」

 

 酔っぱらった様子の男が、酒瓶を持ってふらつきながら現れる。綱吉が「Dr.シャマル!」と呼んだ彼に見覚えがあった家継は、目を見開いて声を上げた。

 

「ああっ、セクハラ保健医!」

「おっ! ああ……なんだお前か。相変わらず紛らわしいツラしてんなぁ」

 

 体育祭のとき殴り飛ばした男だ。間違いない。

 

「まだいやがったのか!! このやぶ医者、ヘンタイ! スケコマシ!」

 

 獄寺が散々な言葉を浴びせている。綱吉もシャマルと呼んでいたし、すでに知り合いなのだろう。「ク、クビにしたはずじゃ……」と怒りに震えながら指を差すと、保健医は高笑いしながら酒瓶を振った。

 

「大人を舐めちゃいけねーぜ。いくらでも手はあんのよ、あっはっは!」

 

 拳を握りしめ、殴りたい衝動に耐えていると「セクハラ?」と恭弥が軽く首を傾げた。

 

「そう! こないだ女と勘違いされてさ……」

「ん~? おめーが暴れん坊主か。おまえ姉ちゃんいる?」

「消えろ」

 

 恭弥は即座に保健医を殴った。「のへー!! ふぎゃーっ!!」と断末魔が響くなか、家継はこっそりガッツポーズをした。

 

(よっしゃ、ナイス!)

 

 暴力は良くないという認識は持っているものの、やはり暴力でしか解決できないこともある。

 満面の笑みで頷いていたそのとき、ふいに嫌な予感がしてその場から飛びのいた。

 

 視界の端に映った羽虫に(なんだ、蚊か……)と安心する。やけにしつこかったので潰しておこうかと手を打ち合わせたが、ギリギリで逃げられてしまった。

 さっきの嫌な予感はなんだったのだろう。蚊に刺されることが危ない――わけがないし、気のせいだったのかもしれない。朝から気が張っているので過剰に反応してしまったのだろう。

 蚊を見送って視線を戻すと、保健医は桜の木にもたれかかって伸びていた。

 

「おまえと戦うかもしれねーと医者を呼んでおいたんだが、その医者が真っ先にボコられちまったな」

「リボーン!」

「あ、せんせー」

 

 保健医の頭上にある枝に、いつの間にかリボーンが座っていた。今日は花見に合わせてか、利休のような恰好をしている。

 

「赤ん坊、会えて嬉しいよ」

 

 恭弥がトンファーを握りしめたまま笑う。そういえば彼はリボーンと戦いたがっていた。リボーンが相手をしてくれたら、綱吉たちは無事で済むのだが……。

 

「オレたちも花見がしてーんだ。どーだヒバリ。花見の場所をかけてツナが勝負すると言ってるぞ」

「なっ!? なんでオレの名前出してんだよー!」

(そうはいかないよなあ……)

 

 予想はしていたが、やっぱりそういう展開になってしまった。

 

「いいよ。どーせ皆つぶすつもりだったしね。じゃあ君たち3人と、それぞれサシで勝負しよう。お互いヒザをついたら負けだ」

「ええ! それってケンカ!?」

「あの~、ツッくんは入れる必要なくない?」

「全員、例外はナシだ。邪魔をするならきみもだよ」

 

 トンファーを向けられ、家継は「うーん、パスで」と両手を上げた。

 弟の前で戦うわけにはいかない。しかし弟がやられるのも――いや、これも成長のためだ。見守らなくては。

 ぐっとこらえて一歩下がると、リボーンが茶化すように声を掛けてくる。

 

「ツナがヒバリと戦うのが嫌なら、ツグがツナと勝負するっていうのはどうだ?」

「絶対嫌だけど!?」

 

 弟に攻撃できないのを分かっていて何を言っているんだ。ぶんぶん首を横に振る。

 恭弥が「あの3人は僕の獲物だよ」と不機嫌そうに眉をひそめ、家継は呆れたように返した。

 

「はい、はい、おれは棄権するから、お好きにどーぞ」

「お好きにしないでー! 無理だって、兄さんのほうがマシだよ!」

「心配すんなツナ、そのために医者も呼んだんだから」

「気絶してるけど!? てかあのひと女しか診ないだろ!」

 

 元気に怯える綱吉の前に獄寺が立つ。

 

「10代目。オレが最高の花見場所をゲットしてみせますよ!」

 

 そういえば獄寺と山本は以前、恭弥にやられていなかっただろうか。応接室に落ちていたのを運んだ覚えがある。

 大丈夫だろうか、とすこし離れて様子を見る。

 

「てめーだけはぶっとばす!!」

「いつもまっすぐだね。分かりやすい」

 

 獄寺は猪突猛進に突っ込んでいったかのように見えたが、恭弥がトンファーを振るうのに合わせて体を捻った。駆け抜けるのと同時にダイナマイトが放られる。

 

「おお~」

 

 獄寺の戦うところは何度か見たことがあるが、すこし柔軟性が増したかもしれない。ドガァンと爆発音が響き、恭弥が煙に包まれる。

 しかし、そんなものではあの戦闘狂を止められないだろう。

 家継の予想通り、トンファーで爆風を散らした恭弥が煙の中から現れる。攻撃を避けようとした獄寺が膝をついてしまった。

 

「獄寺は膝をついた。ストップだ」

「やだよ」

 

 恭弥はトンファーを振り上げて追撃しようとしたが、鋭い金属音とともに止められる。いつの間にか、山本が刀を持って対峙していた。

 

「次、オレな」

「日本刀……?」

「山本のバット~!? なに物騒なもん渡してんだよ!」

 

 綱吉の言葉に首を傾げる。どう見ても日本刀なのに、バットとはどういう意味だろう。

 それにしても……山本が戦うところをまともに見るのは初めてだが、かなりセンスがいい。元々運動神経がいいのもあるだろうが、野球だけでなく剣道も嗜んでいたのだろうか。

 

 とはいえ踏んだ場数の違いは歴然としている。トンファーに仕込まれた(かぎ)で体勢を崩され、山本も倒れてしまった。

 

 次は綱吉だ。さすがに丸腰では戦わせないだろうと思ったとおり、リボーンが死ぬ気弾を撃ち込む。

 

復活(リ・ボーン)!! 死ぬ気でヒバリを倒す!!」

 

 死ぬ気モードになった綱吉は、なぜか「レオンー!!」とリボーンのペットを呼んだ。ぴょんと飛んできたレオンが自分の形を変化させ――ふんわりとしたハタキになった。

 それを掴んだ綱吉が恭弥と真っ向からぶつかる。

 

「なんでハタキ!?」

 

 もっと武器らしいものはなかったのだろうか。(喧嘩の仕方を知らなさすぎるよツッくん……!!)と頭を抱えながら見守っていたが、思った以上にハタキはぽふぽふ活躍していた。

 

「きみは変わってるね。強かったり、弱かったり。よく分からない」

「うおおお!!」

 

 あり得ないことにトンファーとハタキで互角に戦っている。笑えばいいのか、感動して泣けばいいのか分からない。

 しかし綱吉があの幼馴染と渡り合えているのは、本当にすごい。

 

「がんばれ~!」

 

 拳を握りしめて応援していたが、長時間拮抗していたせいで綱吉の死ぬ気モードが切れてしまった。額の炎が消え「わっ、ちょっ、まって!」と綱吉が後ずさる。

 恭弥が止まってくれる訳もなく、振り上げられたトンファーに思わず家継は目を覆った。

 

「ひいっ!」

 

 悲鳴とともに、どさっと音がする。重さ的に綱吉ではない。トンファーで殴るような音も、いつまで経っても聞こえてこない。

 おそるおそる手をずらし、薄く目を開いて驚愕した。

 恭弥が膝をついている。

 

「……え?」

「えー!? うそっ、オレがやったの!?」

 

 綱吉は頭を抱えているが、違うはずだ。そんな簡単に彼が膝をつくわけがない。

 リボーンが「違うぞ。奴のしわざだぞ」と指を差した。その先に居たのは――先ほどまで倒れていた保健医だ。

 

「おー、いてて。ハンサムフェイスに傷がついたらどーしてくれんだい」

「シャマルは殴られた瞬間に、トライデント・モスキートをヒバリに発動したんだ」

「トライデント・モスキートって……?」

 

 家継の問いに、リボーンは口の端を上げて笑った。

 

「シャマルは普段は医者だが、殺し屋でもあるんだ。あいつの得意技は、666種類の不治の病原菌をもつ蚊を操り、敵を病死させる『トライデント・モスキート』だぞ」

「ええっ、そんなのアリ!?」

 

 恭弥はシャマルの蚊に刺されて動けなくなったということらしい。

 リボーンの知り合いという時点で、ただの保健医ではないことに思い至るべきだった。

 むっと口をへの字に曲げながらシャマルを睨むと、彼は腹の立つ顔で「わりーけど、超えてきた死線の数が違うのよ」と笑った。

 

「ま、ついでに前の仕返ししてやろうと思ったそこのチビには避けられちまったが」

「チビ……っておれのこと?」

「おめー以外に誰がいんだよ」

 

 そういえば、さっき嫌な予感がして蚊を避けたが……あれがシャマルの蚊だったのか。

 

(きっちり潰しておくんだった……)

 

 内心舌打ちしながら恭弥のもとへ近づく。

 

「ねえ、恭弥にかけた病気って死ぬやつじゃないよね?」

「そいつにかけたのは桜に囲まれると立っていられない『桜クラ病』だ」

「ピンポイントで最悪なものを……!」

 

 毎年花見に来ているくらい桜が好きなのに、なんてことだ。

 さっさと治すようシャマルを締め上げようとしたとき、恭弥がふらふらとよろめきながらも立ち上がった。綱吉が「ヒバリさん!」と呼びかけると、ちらりとこちらに顔を向ける。

 

「約束は約束だ。せいぜい桜を楽しむがいいさ」

 

 そう言い捨てて、幼馴染は不安定な足取りで去っていった。

 治してもらわなくていいのか、と思ったが、彼のプライド的に許さないのだろう。声を掛けたら余計に怒らせるのは分かっている。伸ばしかけた手を下ろし、黙って見送った。

 

「これで花見できんな」

「10代目の手柄っすよ! ぜってーシャマルじゃねえ!」

 

 山本と獄寺が綱吉に声を掛けるかたわら、リボーンが家継を見下ろして「おまえはどーすんだ? 花見に参加するか?」と尋ねてくる。

 

「やー、おれも負けた側だし退散しよっかな」

「え、沢田先輩帰るんすか?」

「もう団子でお腹いっぱいだし、桜もイヤってほど見たからいーよ。帰って寝てるね~」

 

 水筒とゴミ袋を持ったまま軽く手を振り、家継はその場を後にした。

 

 未だに嫌な予感が続いている。朝から感じていたざわつきの正体はシャマルかと思ったが、どうも違うらしい。

 リボーンが花見に付き合っているあいだに片付けてしまおうと、自宅とは反対の方向に歩を進めた。

 

 しばらく歩いていると、ふいに背後から気配を感じた。

 やはり、これは――殺し屋だ。

 リボーンが来てから、殺気をモロに放っているような殺し屋は見なくなっていたから久々だ。

 気づかないふりをして、道の途中にあったゴミ箱へ袋を放り込み、鼻歌を歌いながら人の少ないほうへと移動する。

 

 辿りついたのは、シャッターが半開きになった大きな倉庫だった。今は使われていないことを知っているので、心置きなく好き勝手にできる。

 家継はポケットに手を突っ込みながら、倉庫の中へ足取り軽く入っていった。

 背後でガシャン、とシャッターの閉まる音がして――立ち止まる。

 

Che idiota, isolarti di tua spontanea volontà(馬鹿め、自分から孤立するとはな)

 

 低い男の声に笑いだしそうになった。イタリア語だ。

 実は、中国語のほかにイタリア語もリボーンから教えてもらっていた。ボンゴレの本部はイタリアにあるし、いつかは必要になるだろうと思ってのことだったが、スパルタ授業に耐えた甲斐がある。おかげで何を言っているのか分かるようになった。

 

(昔からずっと、みんな知らない外国語を喋るなあとは思ってたんだけど、そっか、イタリア語だったんだ)

 

 またひとつ幼い頃からの謎が解けて気持ちいい。

 振り向くと、銃を取り出している最中の男と視線が合う。

 家継はゆっくりと目を細め、不敵に笑ってみせた。

 

L’idiota sei tu(馬鹿はそっちだよ)

 

 男が目を見開く。まさか通じるとは思わなかったのだろう。

 反射的に男が銃をこちらへ向けたが、もう遅い。

 彼は、家継がポケットに手を入れる前に襲ってこなければならなかった。

 箱に炎をまとわせ、蓋が音もなく開く。

 

 ――瞬間。家継を中心に、球状の炎が爆発的に広がった。

 殺し屋が声を上げる間もなく白い炎に飲まれる。

 銃を構えた状態で男の動きが止まり、体表に霜が現れ、細かな氷の軋む音とともに――氷像が出来上がった。

 

 何度も見た光景で、今更なにも感じることはない。白い息を吐きながら辺りを見回した。

 半径10メートルほどの空間が炎に包まれている。その中では空気中の水分までもが凍り、ダイヤモンドダストのような、雪のような粒がきらめいていた。

 

(久々におしゃぶりの力使ったな……あ!?)

 

 しまった。次は殺さず戦ってみようと思っていたのに、癖で殺してしまった。

 

「ああーーっ!」

 

 一度凍ってしまったら家継でも元には戻せない。なんてことだ。

 頭を抱えようとしたとき、ポケットから光が漏れていることに気がついた。

 

「……ん?」

 

 箱を取り出してみると、おしゃぶりが白く発光している。心臓が嫌な音を立てた。

 

(なんだ、これ)

 

 蓋をぱちんと閉じると光は収まったが、中でどうなっているかは分からない。

 ほんのすこし蓋を開けてみる。

 いつも通りのおしゃぶりがあったが、またうっすらと光り始めたので慌てて閉じた。

 

 こんなことは初めてだ。眉をひそめながら唾を飲み込む。今まで見たことのなかった現象に、ぎゅっと強く箱を握った。

 なぜ突然光り始めたのだろう。体調に変化はない。変わったことと言えば――同じおしゃぶりを持つリボーンが現れたこと、くらいだ。

 

 まさか彼に反応したのか?

 分からないが、この場に長く留まるのはまずい気がする。

 家継は殺し屋の氷像を叩き割り、欠片が蒸発していくのを尻目にシャッターを足で蹴り上げた。

 開いた隙間を通り抜け、何食わぬ顔で倉庫から出る。

 

 自宅に向かって歩き、しばらくしたところで鳥の羽ばたく音がした。

 

「ツグ、奇遇だな」

「せんせー! どうしたの、花見は?」

 

 鳥へ変化したレオンに乗ったリボーンが、家継の目の前で止まる。内心冷や汗をかきながら、家継は微笑んで首を傾げた。

 

「ちょっとな。それよりおまえ、オレと同じおしゃぶりを持った赤ん坊を見なかったか?」

「いや……見てないけど」

「そうか。じゃあな」

「あっ、ちょっと!」

 

 どこか急いでいる様子のリボーンを慌てて呼び止め、「どうしたの、友達を探してるの?」と尋ねる。しかし、彼は「説明はまた今度な」とだけ言って飛び去ってしまった。

 

 空高く飛んでいった教師を見上げながら、ゆっくり、細く溜息を吐く。

 

 リボーンは『オレと同じおしゃぶりを持った赤ん坊』と言った。おそらく、家継のおしゃぶりが光ったのと無関係ではない。彼が探しているのは家継の可能性がある。

 しかし、おしゃぶりを持っている者は基本的に赤ん坊の姿をしている……のかもしれない。だから家継はそんなに怪しまれずに済んだのだろう。危なかった。

 

 彼が家継を探している理由はまったく分からないが――いちど、詳しい話を聞いてみる必要があるかもしれない。

 

 殺し屋は片付けて、身バレの危機も回避した。それでも徐々に、日常が変化していくような……何かが変わってしまうような不安が残っている。

 

(あーあ、せっかくのお花見日和だったのに)

 

 ふいに近くの桜の木から飛んできた花弁を捕まえた。

 炎を出した余韻が残っていたのか、つまんだ指先から花弁が凍っていく。

 ぱちんと弾いて粉々に砕き、家継は歩き始めた。

 

 

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