マフィアランドから帰ってきた家継は、数日後「手合わせしよう」と恭弥を呼び出して山に来ていた。
昔から戦うときに使っている場所だ。
内緒話をするのにも最適で、基本的に誰も来ないし、ひらけた場所にいれば盗み聞きしようとしても聞こえない。
家継はただ戦うために来た訳ではなかった。
マフィアランドで知った、重大な事実を問いただすために来たのである。
「じゃ、いつも通り6時までね」
「ちょっと待った! その前に聞きたいことがあるんだ」
「……なに?」
さっそく笑顔でトンファーを構えた恭弥を止めると、怪訝そうに眉をひそめられる。
「あのさ、せん……リボーンに、白いおしゃぶりを持った赤ん坊は知らないかって聞かれたことない?」
おそるおそる尋ねると、彼はあっさり「ああ、そういえばそんなこともあったね」と答えた。
「いつ!? おれ全然聞いてないよ!?」
「去年の秋だったかな。どうせきみは嫌がるだろうと思って、知ってるけど言わないって伝えたけど」
「あ、ありがとう……ありがとうなんだけども……!」
できれば、そういうことを聞かれたという報告も欲しかった。おかげで半年くらい無駄に警戒する羽目になったではないか。
「なんで探してるかとか言ってた? 覚えてる?」
「それを聞いてくるってことは、赤ん坊はまだ君の正体に気づかず話をしてきたのかい」
頷くと「なんて聞かれたの」と逆に質問される。ちょうどいい機会だったので、マフィアランドで起きたことを簡潔にまとめて共有した。
「ワオ、じゃあ赤ん坊みたいなのがあと6人いるってこと? 素晴らしいね」
絶対全員と戦うつもりだ。幼馴染の戦いに関する執着はどこから来ているのか、いつも不思議に思う。
「僕と話したときは、白いおしゃぶりを持ったネーヴェという赤ん坊を探してるってことと、伝説上の人物だから会ってみたいって話しかしなかったよ。君に話したこととあまり変わらない」
「そっか〜……なんで探してるのか分かれば、まだ安心できるんだけどなあ」
「さあ。どちらにせよ、明かすつもりがないなら同じことじゃないの。それより、いいことを思い出した」
「いいこと?」
首を傾げると、恭弥はいつになく上機嫌な様子で笑った。
「赤ん坊に、ネーヴェの情報を教えてくれたら3日間ぶっ続けで戦ってやると言われてね」
「よく黙っててくれたね!?」
「代わりに、君に3日間ぶっ続けで戦ってもらおうと思ってたんだった」
家継は額に手を当てながら「……なるほど」と返した。
恐ろしい条件だが、それでも恭弥にしてはかなり譲歩してくれているのだろう。
ずっとリボーンと戦いたがっていたし、ここは感謝の気持ちを込めて付き合うしかない。覚悟を決めて頷いた。
「黙っててくれてありがとうね……。先に母さんに泊まるって連絡していい?」
「いいよ。水分補給はしていいけど、寝るのは許さないから」
「え? 睡眠なし?」
「なし」
「昨日ツッくんとゲームしてたから寝不足なんだけど!」
というか、それでなくとも6時間以上続けて起きていられたことがない。生きて帰れるのだろうか。
なしったらなしだよ、と笑う幼馴染によって、突如地獄の3日間が幕を開けた。
▽
「うう……寝落ちしそうになるたび殴って起こしてくるの、ほんと有り得ないんだけど……」
地獄の3日間が終わり、翌日。
泥のように眠りたかったのに体の至るところが痛すぎて眠れないという二次被害を抱え、家継はふらふらと公園のベンチに座り込んだ。徹夜明けとはこういう感覚なのだろうか。
見回りの日だが流石にやっていられない。今日のスケジュールは日光浴に変更だ。
自販機で買った炭酸ジュースを一気に飲んで溜息をつく。
「あ゙~……」
夏休みに入ってから強さを増した日差しが気持ちいい。このまま眠れたら最高なのだが。
ぐったりとしたまま空を見上げていたとき「おお、沢田! 奇遇だな!」と声がして視線を向ける。涼しげな格好の了平が、眩しいほど元気に駆け寄ってきた。
「やー笹川くん。ランニング中?」
「ああ、オレは毎日このルートを通っているのだ! 沢田は……もしや修行中か!?」
「え、なんもしてないよ。なんで修行?」
「なに!? 学ランを着て暑さに耐えているのかと思ったが、もしや耐えるという段階を越えているのか!?」
「暑さに耐える修行ってなに?」
勘違いに笑いながら、首を横に振る。
「違うよ。おれ体温がめちゃくちゃ低いからさ、このくらいがちょうどいいの」
「なに? 体温が……冷たッ!!??」
訝しげに家継の額を触った了平は、手を押さえながら数歩後ずさった。
「寒さに弱いとか、なんとか聞いた気はするが……それは極限に大丈夫なのか!? 病院に行くか!?」
「全然大丈夫だよ~。お医者さんからも、奇跡的に問題ないって言われてる」
「そうだったのか。クラスメイトだというのに、全然知らなくてすまんな」
「いや、おれほとんど教室にいないし当たり前だよ」
別の場所で眠っていることが多いので、話す機会すらないのだ。綱吉関連でやっと了平とは話すようになったものの、他のクラスメイトは顔すら覚えているか危うい。
そういう意味では了平はかなり貴重な相手だった。彼が「そうだ」と思い出したかのように手をポンと叩く。
「今週末、おまえは空いているか? オレは海で先輩の手伝いをする予定なのだが、どうせならおまえたちも呼んで遊ばせてやろうと思ってな」
「えっ、海!?」
「ああ。先ほど沢田の弟も誘ったぞ」
思わず家継は食いついた。マフィアランドで遊べなかったことを未だに引きずっていたのだ。しかも弟と一緒なんて、これは行くしかない。
「行く! ありがとう、笹川くん!」
「そうか、分かった! ほかの友達も誘っていいからな!」
友達と言えるような相手は恭弥くらいしかいないが、絶対に来ないだろう。
あとギリギリ草壁も入るが、彼と遊びらしい遊びをしたことがない。一瞬誘ってみようかと思ったが……呼んでも気遣ってばかりにさせてしまう気がする。
「おれは……多分ひとりで行くかな」
「遠慮しなくてもいいんだぞ。では、週末にな!」
遠慮しているのではなく、ただ友達がいないだけである。
去っていく了平に手を振って、家継は(楽しみだな~!)と笑みを浮かべた。
▽
「海だ~~!」
雲ひとつない青空の下、日光を反射して海がきらきらと輝いている。
家継は水着の上に、太ももを半分覆えるくらい大きな長袖のパーカーをしっかり着込んで砂浜に飛び出した。
「海だよ、ツッくん!」
「海だね、兄さん……!」
くううと噛みしめている家継たちを、不思議そうに見ているのは獄寺と山本だ。
綱吉はいつものふたりを呼んだらしい。すっかり兄よりも友達が増えて何よりである。
「ずっと気になってたんすけど、沢田先輩が持ってるのは何なんすか?」
「ん? これ?」
山本が指した、ごちゃごちゃと物が入ったバケツを持ち上げて、家継は自慢げに胸を張った。
「商店街で買った『超絶技巧!プロ級砂遊びセット』だよ」
「へーっ! 面白そっすね!」
「商店街で変なもの買いすぎじゃない?」
綱吉の言葉にいやいやと首を横に振る。
「舐めてもらっちゃ困るよ。この砂遊びセットを使ったら、どんなに繊細な作品でも作れるって説明書に書いてあったんだから」
「どんなに繊細な作品でもっスか!? なんの器具が入ってんだ……?」
「凝り性な人が食いついてるー!」
興味を示した獄寺に、バケツの中に入った様々なアイテムを披露する。海を楽しむために買ってきたおもちゃが注目を集めていて嬉しい。
綱吉は市民プールで練習して泳げるようになったらしいし、みんな準備は万端だ。
「おまたせ~」
「着替えてきましたー!」
ふと周囲がざわついて視線を向けると、可愛らしい水着姿の京子とハルもこちらに来ていた。
山本がパラソルを立てながら京子に話しかける。
「笹川のアニキ、泊まり込みで来てんだって?」
「うん。ライフセーバーやってる先輩の手伝いで来てるんだよ」
(手伝いって、ライフセーバーだったんだ)
ライフセーバーといえば、小学生のころ綱吉と一緒に沖に流されて、体が冷えすぎて動けなくなり溺れかけたところを助けてもらった覚えがある。
屋台などのバイトであれば冷やかしで手伝ってあげようかとも思っていたが、海には入れない。申し訳ないがビーチを満喫させてもらおう。
「よく来たな、おまえたち!」
大きな声がして見上げると、ライフセーバーがよく座っている高い椅子に腰かけた了平がいた。
「ライオンパンチニストで並盛のランブルフィッシュは、夏のひとときをライフセーバー見習いとして過ごすのだ!!」
半分言っている意味は分からなかったが、獄寺が「あの妙な動きで溺れた奴を助けられんのか?」と呟いているのを聞いてしまった。
(妙な動きなんだ……)
すこし不安だが、了平が泳げなかったとしても流石に先輩とやらがなんとかしてくれるだろう。多分。
「さっそくオレの仲間を紹介しよう。と、その前に、こちらが夏バテ気味のパオパオ老師だ」
「ぱ……」
「で、でた!」
パオパオ老師――もといリボーンは、椅子の上でぐったりと転がっていた。老人にしか見えないせいで余計に危うい状態に見える。
リボーンだし大丈夫だろうとは思うが、心臓に悪い。
「そしてこちらが……」
「困るんだよね、ゴミ捨てられっと」
なにやら不穏そうな声がする。
砂浜のほうで褐色の男3人組が、小学生くらいの子供の胸ぐらを掴んで持ち上げていた。
「オレらの仕事増えるっつーの?」
「ご……ごめんなさい」
「分かりゃいいのよ。じゃあここら一帯掃除しといてくれよ」
子供を砂浜に放り投げた彼らに眉をひそめる。駆け寄ろうかと思ったが、その前に子供は家族の元へ走り去っていった。
そして、ガラの悪い3人組は家継たちの前へ来た。
「ああ、いた! 彼らがライフセーバーの先輩だ」
「うい~っス」
(こいつらなの!?)
救命という意識が1ミリもなさそうな者たちだが、大丈夫なのだろうか。
「先輩たちは元並中ボクシング部だ」
「お、もしかして了平の妹ってコレ? へー、なかなかオレ好みかもしんない」
「こ……こんにちは」
おずおずと挨拶した京子の肩に、先輩のひとりが腕を回す。
「んじゃー女の子は一緒にあそんべ!」
「おまえらはしばらく海の平和を守ってくれや」
ハルも連れていかれそうになり「ちょっと――」と言いかけたとき、家継の肩にも手が回された。
「え?」
「きみも一緒にいこーや」
「ちょっ、まっ、エ゙ッ!?」
綱吉の素っ頓狂な声が聞こえる。まさか兄までナンパされるとは思わなかったのだろう。家継もびっくりだ。
上半身も水着もパーカーで隠れているから女子と勘違いされたのだろうが……逆に動きやすいかもしれない。
あえて否定せず、家継は肩に置かれた手を振り払って京子とハルの元へ駆け寄った。
ふたりの手を掴み、自分のほうへ引き寄せる。女子側として傍にいたほうが守りやすい。
「やめてよ、きみたちと遊びに来たわけじゃない」
「そのとーりだセンパイ! こいつらを呼んだのは遊ばせるためで、ライフセーバーを手伝わせるためではない!」
女の子たちを庇うように前に出ると、了平も制止に加わってくれた。
「分かんねーのか了平? オレたちはかわいい後輩にライフセーバーの素晴らしさを知ってもらいたいんだ」
「なるほど!」
「なるほどじゃねーだろ!」
獄寺のツッコミに内心同意する。
了平は騙されやすいタイプなのかもしれない。将来変な壺を買わされそうで心配だ。
京子とハルが「だったら兄を手伝います」「そーです! ハルはツナさんたちと泳ぎに来たんですから!」と言うと、先輩たちが馬鹿みたいな笑い声を上げた。
「へー、どいつがツナさんだ? ツナってマグロのことだろ?」
「そーとー泳げるんだろーなぁ」
「それウケるー!」
「はああ!? ツッくんの名前は世界一かっこいいんだけど!!」
「ちょっ、にい、お、落ち着いて!」
思わず三節棍を出そうとしたものの、弟の言葉ではっと我に返る。
危ない。弟や女の子たちの前で普通にタコ殴りにするところだった。
「そうだぞ、おに――そちらのお方の言う通りだ! てめーらバラすぞコラ!!」
「ほーう、やるか? だがケンカはパスだぜ。オレたちはライフセーバーだかんな」
「やるならフェアにスポーツで勝負してやる。3対3のスイム勝負! 敗者は勝者の下僕となるんだ」
「なあ!?」
「なに言ってるんですか!?」
妙なところで理性的な先輩たちの提案に、綱吉とハルが叫ぶ。しかし、その口をリボーンがグローブで塞ぎながら「面白そーだな」と出てきた。
思ったとおり元気そうだ。渋るメンバーの口を次々に塞いでいく。
「んじゃ決まりだな」
「そんな! 何してくれてんだよ、おまえ!」
「勝ちゃーいいだけのことだぞ」
リボーンの言葉に、納得したように山本が「そりゃそーだな。まあいっか」と頷く。
家継も同意見だった。綱吉にはリボーンがついているし、獄寺と山本も余裕で彼らに勝てるだろう。
ルールは沖のほうに見えるたんこぶ岩をぐるっと回り、戻ってくる勝負に決まった。3本中2本先取で勝ちらしい。
「んじゃオレ、一番手いくぜ」
「3本目は10代目、頼めますか?」
「えー! オレもー!?」
「沢田弟ではまだ心配だ! オレが泳ごう!」
「ざけんな芝生頭! おまえが泳いだら勝ち目はねえ!」
4人がわいわいと泳ぐ順番を決めているあいだ、京子とハルがこっそり小声で話しかけてきた。
「お兄さん、助けてくれてありがとう!」
「ほんと、助かりました~!」
「いえいえ。みんなが勝負しているあいだも、危ないから念のため傍にいてね」
「うん!」
「きゃっ、ツナさんと血が繋がってるだけあります……!」
頬に手を当てたハルに「ツッくんを今後ともよろしくね~」と笑いかける。
話し合いが終わったらしい綱吉が、不安そうな表情で立ち尽くしていたので3人で話しかけることにした。
「ツナくん、しっかり応援するね!」
「応援します!」
「う、うん! ありがとう!」
「おれも砂遊びしながら応援してるね~」
バケツを揺らしながら言うと「なんで砂遊び!?」とツッコまれる。
「どーせツッくんたちが勝つだろうし、暇だからさ。じゃ、頑張って~」
「なんか軽いな……」
ひらひらと手を振って綱吉を見送り、家継は京子たちの近くに腰を下ろして砂遊びセットを取り出した。
京子とハルも誘ったが、ちゃんと応援したいからと断られてしまった。本当にいい子たちだ。
勝負が始まり、第1泳者として山本が海に飛び込んでいった。横目で様子を見つつ砂遊びに集中する。
(やば、この砂遊びセット霧吹きとかノミまである! これはペンキとか塗る用のコテじゃない……?)
やたら重いなとは思っていたが色々詰め込まれすぎだ。商店街の商品、侮れないかもしれない。
そうこうしているうちに一周回ってきたようだが、山本の姿が見えず綱吉たちがざわついている。
スピードで追い抜かれたとは考えにくい。だとすれば、考えられるのはたんこぶ岩の裏に先輩たちの仲間が潜んでいたとか、そういったところだろう。
第2泳者として出た獄寺も戻ってこなかったが、嫌な予感はしないし心配はしていなかった。2本先取というルールも、最悪先輩たちをボコればなかったことにできる。
しかし、ありがたいことに向こうのほうからルール変更の申し出があった。
「大サービスだ。次の1本でおまえが勝てばそっちの勝ちにしてやるよ」
「ええ!?」
「待たんかセンパイ! 奴らが心配だ、岩へ行ってくる!」
「そーだよお兄ちゃん!」
了平がそう言い、綱吉も感動したように「お兄さん!」と目を輝かせる。
「わかんねー奴だなー了平! いま奴らは岩の自然と語り合ってるんだ、邪魔するな」
「なるほど!」
「お兄ちゃん!!」
京子が困ったように声を上げた。天然な兄を持つと大変そうだ。
「別に心配しなくてもいーと思うよ。ツッくんが勝つだけでいいんだからラッキーじゃん、がんばれ~」
「気が抜ける応援をどーも……」
スコップを振りながら笑顔を向けると、綱吉は肩を落としながら海へ向かっていった。
勝負開始のピストルが鳴る。昔はまったく泳げなかったのに、練習の成果かちゃんと泳げていた。すこし不安だったが、なんとかなりそうだと内心安堵する。
周囲を確認したが、リボーンの姿が見えない。なら、万が一なにかあっても大丈夫だろう。
「誰かーー! うちの子を助けてーー!!」
そのとき、近くで女性の叫び声がした。見ると、沖のほうまで子供が流されている。
さすがに立ち上がって様子を確認したが、綱吉がルートを外れて助けに行こうとしているようだ。
(大丈夫だと思うけど……危なそうだったら行こうかな。でも、往復でこの距離は体がもたないかも……)
了平は無理そうだし、獄寺と山本が居てくれたら助かるのだが。
そう考えていると、端のほうで獄寺と山本が次々に砂浜に気を失った男たちを積み上げているのが見えた。やはり待ち伏せされて返り討ちにしていたらしい。
同時に周囲がどよめき、死ぬ気モードになった綱吉がすごい勢いで泳いでくるのも見えた。
先輩ふたりが笑いながら綱吉のほうを見ている。
「へっ、そーはいくか。岩のカゲには後輩がたんまりいるんだ」
「ボコボコにしてやれ」
(……そっちがその気なら、おれが手を出してもいいよね)
獄寺たちには気づいていないらしい先輩たちを見て、ひっそりと笑った。
作品も完成したし、ちょうどいい。家継は持っていたスコップを放って、女の子たちに「ごめんふたりとも、ちょっと後ろ向いててくれる?」と声を掛けた。
「うん? わかった」
「はい……?」
「ん? どうしたんだ、お嬢ちゃん」
こちらに気づいた先輩たちにも「おにーさんたちも、後ろ向いてくれる?」と微笑みかける。
「なんでオレたちもなんだよ」
「砂遊びも飽きてきたし、おにーさんたちと遊ぼうと思って。サプライズだよ。……水着、見たくないの?」
自分のパーカーをとんとん叩きながら首を傾げてみせる。簡単に後ろを向いてくれた瞬間、ふたりに手刀を入れた。
砂浜に倒れ伏す先輩たちを見下ろしながら手を払う。
(チョロすぎる……これ使えるな……)
プライド的に女の子のフリをするのは苦しいものがあるが、こういうやむを得ない状況のときは便利かもしれない。
「もう振り向いていいよ」
「はい……あれっ!? どうしちゃったんですか、この人たち」
「なんか、急に蚊に刺されて倒れちゃったみたい。蚊は潰しといたよ」
「えーっ、お兄さんありがとう! この人たち、大丈夫かな?」
きっと不快な思いをしただろうに、それでも心配する京子は優しすぎる。綱吉は見る目があるなと思いながら、適当に「大丈夫でしょ、死にはしないよ」と笑った。
綱吉が子供を連れて帰ってきて、獄寺と山本も合流する。
「えらいよツッくん、遭難した子供を助けるなんて!」
「へへ……やっぱ死ぬ気モードは必要だったけどさ」
「死ぬ気モードだってツッくんの力なんだから一緒だよ」
照れくさそうな弟を褒めちぎる。
海で勝負していた先輩は帰ってくる途中で殴り飛ばしてきたらしい。さすが我が弟だ。これで邪魔をする先輩たちは誰もいなくなった。
「よかった、これで思う存分遊べるね!」
「兄さんはずっと遊んでただろ! ……ん?」
綱吉が家継の後ろにある作品に目を留めたので、自慢げに披露する。
「見て、サグラダ・ファミリアだよ」
「すげーの完成してるー!?」
心置きなく遊べたのは、綱吉が成長したおかげや、その仲間たちが頼もしかったおかげだ。
感謝の気持ちを込めて「みんなお疲れさま。良かったら食べ物とか飲み物買ってきなよ、全部奢るからさ」というと、喜びの声が上がった。
好きなものを食べ、遊ぶ弟たちを眺め、さらに砂の城を作る。
穏やかな時間の中で、マフィアランドで過ごせなかったひとときを取り戻したような気分だ。
少々ハプニングはあったが、今度こそ思う存分海を満喫した家継は「海、さいこ~!」と上機嫌に笑った。