雪は溶けない   作:箱葉

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tgt.7 ライバルの登場・上

 

 

 青い空、流れる雲、清々しい空気。

 そしてぽかぽかの日光を浴びながら、家継は久々に屋上で昼寝をしていた。たまには新鮮な空気を吸いながら寝ないと、毛布の魅力に囚われて引きこもりになってしまう。

 

 ――ドォォォォン……

 

 心地よく微睡んでいたそのとき、重低音がビリビリと鼓膜を震わせた。

 爆発音がしたのは向かいの校舎の上空からだ。思い当たるのは獄寺のダイナマイトだが、それにしては規模が大きすぎる。花火だろうか。

 

 目を閉じたままうつらうつらと考え、そして、特に嫌な予感はしなかったので昼寝を継続することにした。

 

「甘ぇぞ、ダメツグ」

「いだっ!?」

 

 唐突に顔面へ強烈な蹴りを食らう。

 鈍い痛みを訴える頬をさすりながら身を起こす。「なにすんの……」と神出鬼没の家庭教師をむっと睨んだ。

 

「爆発音や銃声がしたら一発で飛び起きろ。そんなんじゃ立派なマフィアにはなれねーぞ」

「ええ、そんなこと言われても」

「今の爆発は、イーピンっつー香港の殺し屋の技だ。ツナを狙ってきたんだぞ」

「でも……ツッくんに危険はなかったでしょ?」

 

 唇を尖らせながら言えば、その通りだったのかリボーンはすこし黙る。

 

「……分かんのか?」

「せんせーがここにいるってことは解決したんじゃないの。あとは勘かな」

「勘だと?」

「うん。自分や家族が危ないってときは勘でだいたい分かるし、ちゃんと起きれるよ。だから大丈夫だって」

 

 といっても、勘の精度が高まったのはリボーンがやって来てからだ。あまりに毎日爆発音や銃声が響くものだから、とんでもない勢いで体が順応してきたのである。

 最初こそ不安で眠りが浅かったが、安全な音とそうでない音の区別がついたおかげで逆に寝やすくなってきた。彼に感謝すべきかもしれない。

 

「勘、か……。もしかしておまえ、戦闘も勘でやってるタイプか?」

 

 唐突な問いに、戸惑いながら頷く。

 

「え。まあ勘っていうか、反射神経で? 逆にそれ以外なんかある?」

「なるほどな。戦闘中は動物並みの知性、と」

「喧嘩売ってる? 人間も動物だよ」

「言い間違えた。刺胞動物(クラゲ)並みの知性だ」

「脳ないじゃん!」

 

 失敬な。クラゲよりはさすがに考えていることがあるはずだ。

 例えば何を、と聞かれても出てこないが。

 

「教え甲斐のねーつまらん生徒だと思ってたが、ようやく指導方針を固められそーだな。おまえにはとりあえず、頭を使って戦うことを叩き込んでやる」

「頭を使って……?」

 

 戦闘中に考えることなんてあるだろうか。

 疑問符を浮かべて、ふと、リボーンへ襲い掛かったときのことを思い出した。

 

『動きは悪くねえが、簡単に上を取れちまうぞ』

 

 あのときの言葉。

 上を取られたなら武器を投げつければいい、と大して気にしていなかったが。

 

 もし三節棍を足場にされないよう、もっと早く引っ込めていたら? リボーンの行動範囲に気を配っていたら?

 綱吉が撃たれることはなかったかもしれない。何かが、変わったかもしれない。

 

「もっと相手の行動を読め……ってこと?」

 

 眉間に皺を寄せながらリボーンを見る。

 彼はニヤリと笑って、ボルサリーノを軽く傾けた。

 

「ちょうどいい相手がもうすぐ日本に来る。楽しみにしてろよ」

 

 言い終えると、返事を聞かずにリボーンは屋上から出ていった。

 

「……ちょうどいい相手?」

 

 残された家継はただ、怪訝な表情で閉められた扉を見つめるしかなく。

 彼の言葉の意味が分かったのはその数日後だった。

 

 

▽▽▽

 

 

(なにあれ……)

 

 家継は塀に隠れながら、帰るはずだった自宅を眺めた。

 

 ――我が家の前で、黒服の男たちが大量にたむろしている。こわい。

 

 ざっと10数名。揃って異国の風貌なうえ、この町のチンピラより遥かに戦えそうな者ばかりだ。

 

 いつもの()()()かと咄嗟に身を隠したものの、人様の家の前で談笑しているわ、殺気はないわでとても暗殺しに来たようには見えない。

 ということは、リボーンが言っていた『ちょうどいい相手』の可能性が高いだろう。

 

(黒服があんなにいると威圧感あるな……絶対近づきたくないんだけど)

 

 自分の所属している組織を棚に上げてドン引きしていたが、家へ帰るにはあの中へ突っ込むしかない。溜息を吐いて、彼らがいるほうへ足を向けた。

 男たちはこちらに気づいた途端、統率の取れた動きで道の両端に並んだ。

 

「お帰りなさいませ、沢田家継殿」

「え……? あ、どうも……」

 

 ずいぶん態度がうやうやしい。

 何なんだこいつら、と訝しみながら一番近い男に声を掛ける。

 

「うちに、何かご用ですか」

「ボスがお待ちです。さあ、どうぞ」

「……はあ」

 

 男は問いかけに答えず、ただ家のほうへ手を向けた。

 

 ボス――ということは、彼らは護衛か。

 十中八九マフィアのボスだろうが、かなり地位の高い人物が家に来ているのかもしれない。

 

 嫌な予感はずっとしているものの、すでに綱吉は帰宅している時間だ。弟だけ面倒な目に遭わせるわけにはいかない。

 行きたくないなあと嘆息しつつ、話しかけた男に会釈して自宅へ向かう。

 

 黒服の男たちが並ぶ中をつっきり、門の前に着いた――そのとき。

 

「バカーー!!」

 

 綱吉の叫び声とともに、2階の空いている窓から手榴弾が飛び出してきた。

 

「え!?」

 

 ランボのものだろう、見覚えのある紫色のそれがこちらへ向かって落ちてくる。

 まずい。このままでは黒服たちが爆発に巻き込まれる。

 弾き返そうと三節棍を取り出した瞬間、それよりも早く窓から人影が飛び出した。

 

「てめーら、伏せろ!!」

 

 見知らぬ青年が空中で鞭を振るい、手榴弾を絡め取って放り投げる。間一髪、上空で爆発が起きた。

 

 青年が地面に着地するのをぽかんと見つめる。

 彼は黒服の男たちに囲まれて「ボス」と呼ばれ、笑い合っていた。

 

(あれが、マフィアのボス……)

 

 暗殺者は腐るほど見たが、ボスと呼ばれる存在をちゃんと見たのは初めてかもしれない。

 立ち居振る舞いは洗練されており、部下からの信頼も篤いように見える。マフィア相手に言うことではないが、かっこいいし良い人そうだなぁという印象だった。

 

 しかし、悠長に構えていられたのはそこまで。

 

「ディーノさん、かっこいい……」

「――は?」

 

 2階の窓から顔を覗かせた綱吉の一言で、あり得ないほどドスの利いた声が出た。青年への好感度がジェットコースターのように急降下する。

 

(おれ、生まれてから一度もツッくんにかっこいいって言われたことないのに……!?)

 

「お、兄貴のほうも帰ってたのか! へえ……面構えは悪くないな。覇気もあるし、体幹もしっかりしてる。今んとこ、ツナよりボスに向いてんじゃねえか?」

 

 弟には絶対聞かせられない声が聞こえたのか、こちらに気づいた青年が笑みを浮かべながら近寄ってきた。その肩にリボーンが飛び乗る。

 

「普段はこんなにピリピリしてねーんだけどな。おまえに対して戦闘態勢に入ってるだけだぞ。良かったな、レアツグだ」

「嘘だろ何でだよ!」

 

 「そんなレアいらねえー!」と叫んだ、いけ好かない相手を目を細めて眺める。

 よく見れば金髪金眼で家継とカラーリングが被っているうえ、家継より頭ひとつ分以上飛び出た身長に女の子受けしそうな顔、つまりイケメンと分類される人間だ。

 ぎゅっと眉間に皺を寄せると、ディーノが口元を引きつらせた。

 

「驚かせちまった……んだよな、すまん。オレはディーノ、キャバッローネファミリーの10代目ボスだ。リボーンの元教え子で、お前たちの兄弟子にあたる。よろしくな」

「あにでし……」

 

 兄ポジションまで被ってしまった。

 綱吉の兄はひとりで充分だ。お呼びでないのでお帰り願いたいが、わざわざイタリアから来ていただいたマフィアのボス(周囲に部下付き)にそんなことを言えるはずもなく。

 

「…………沢田家継です。よろしくお願いします」

 

 渋々、本当に渋々挨拶を返した。

 詳しくは家の中で、という流れを切るようにリボーンが口を開く。

 

「ちょうどいいな。ツグがやる気みてーだし、夕飯前の運動にいっちょ手合わせしてこい」

「え!? オレはこれから色々話すことが……」

「拳で語り合え。ツグもそれでいいだろ?」

「おれは大歓迎だよ。近くに空き地があるので、そこでどうですか? 『兄弟子殿』」

「あー……お前が良いんなら、良いけどよ」

 

 ディーノが苦笑する。

 今までで一番リボーンに感謝したかもしれない。家継は満面の笑みを浮かべた。

 合法的に気に入らない相手と戦えるって最高だ。

 しかし弟に見られる訳にはいかないので、まだこちらを見下ろしていた綱吉へ向けて朗らかに手を振った。

 

「ツッくーん! 今からディーノさんと親交を深めてくるから、家で待っててくれる~?」

「うん? 分かったー!」

 

「……なあリボーン、オレすげー嫌われてないか」

「あいつ筋金入りのブラコンだからな。兄ポジションを奪われた気になってんだろ」

「マジかよ……」

 

 目の前でひそひそと交わされる会話は、リボーンの言う通りだったので否定するところがない。かといって認めるのも癪なので聞こえていないフリをした。

 

「お前たちは帰ってろ」

 

 部下を帰そうとしたディーノに、リボーンがかぶりを振る。

 

「いや、ロマーリオは連れて行け」

「何でだよ、手合わせするだけだろ? 大丈夫だって!」

「大丈夫じゃねーから言ってんだ、いいから連れてけ」

 

 確かに、マフィアのボスが護衛もつけずにいるというのは危険だろう。

 綱吉もいずれはこういう風になるのだろうか、と考えながら、部下を含めたディーノたちを目的地まで案内した。

 

 

 空き地は長年放置されており、人通りも少ないのでちょっとひと暴れするには最適だ。

 広めの公園程度の空間で、距離を取った家継とディーノが向かい合う。リボーンとロマーリオは入り口付近で観戦するらしい。

 

「まさか、ろくに会話もせず手合わせする羽目になるとは……」

 

 困ったように肩をすくめるディーノへ、リボーンが「油断するなよ」と笑う。気安いやり取りは確かに、彼らも教師と生徒だったであろうことを窺わせた。

 

「分かってるって。なあツグ、おまえ武器は持ってるか?」

「はい。いつでもどうぞ」

 

 頷くと、ディーノは先ほど振るっていた鞭を取り出して構えた。家継はその場に突っ立ったまま動かなかった。

 ロマーリオと呼ばれていた男が手を上げる。

 

「じゃあ、オレが合図するぞ──始め!」

 

 手が振り下ろされたと同時に、鞭が目前に迫った。

 即座に取り出した三節棍で弾き返す。

 

「へえ! それがお前の武器か!」

 

 ディーノが楽しそうに口角を上げる。家継は黙ったまま、三節棍の中心を持って回転させながら駆け出した。

 鞭使いと戦うのは初めてだが、形状的に三節棍とあまり変わらない気がする。違いは硬いか、柔らかいか程度だろう。それならすぐに勝てるはず。

 

 ――そう、思っていた。

 

 がくんと足を引っ張られ、危うく地面に頭を打ちかける。いつの間にか足首に鞭が巻きついていた。手をついて転がることで振り払ったが、すぐさま追撃が来る。

 横薙ぎに払った攻撃もあっさりいなされる。距離を詰めようにも、自在にしなる鞭がどこまでも追いかけてくるせいで詰められない。

 

(いや、全然違う! あっちのほうがリーチ長いし最悪!)

 

 おまけに柔らかいせいで軌道も読みづらい。

 苦戦しそうな予感に小さく舌打ちした。向こうは余裕そうな表情なのがまた腹立たしい。

 

 反射的に避けたり、弾いたりすることは出来るのだ。

 ただ、それだけ。

 それだけしかできない。

 

 これは確かに、リボーンの言う通り頭を使わなければ勝てない相手だ。いきなりマフィアのボスをぶつけてくるなんて、スパルタにも程がある。

 苛々して闇雲に武器を振り回したりもしてみたが、どれもまともに当たらない。

 

 幼馴染以外でここまで苦戦する相手は初めてだった。

 いや、もしかしたら過去に殺したマフィアたちの中にはいたのかもしれない。まともに戦えば苦戦するような相手が。

 けれど彼らは、超常的なおしゃぶりの力で消してしまった。

 

 ――こんなことなら、おしゃぶりに頼らず戦いを挑んでみればよかった。

 

 思考が逸れた隙にディーノの蹴りが腹に入り、体が浮く。

 

「……っ!!」

「よそ見してる余裕があんのか?」

 

 転がって体勢を整え、間髪入れず飛んできた鞭を払う。

 

「こんなこと、なら……もっと、戦っておけばよかった、と思って」

 

 けほ、とむせながらも家継は口の端を吊り上げた。

 ギラギラと獰猛に輝きだした瞳に、視線を真正面から受け止めたディーノはわずかに目を見開いた。

 

(でも、楽しい、かも)

 

 やっと体が温まってきた。

 そもそも、家継は戦うことが好きだ。動けば動くほどいい具合に体温が上がって、より速く、より強く、自由に体を動かせる。それがとても気持ちいい。

 

 突然激しくなった家継の攻撃に、段々とディーノのほうが防戦一方になる。しかしそれでも決定打を与えることはできない。

 兄のポジションがどうのというのは、もう頭になかった。

 家継はただ、勝ちたかった。けれど勝つためには。

 

『動きは悪くねえが、簡単に上を取れちまうぞ』

『頭を使って戦うことを叩き込んでやる』

 

(わかった、わかったから)

 

 主張するように脳内でリボーンの声が響く。

 ダンッと力強く踏み出し、三節棍を無理やり高跳び棒のように使って高く――高く跳ねあがる。

 

「上を、取ればいいんでしょ」

 

 宙に浮いた体は、真下のディーノ目掛けて落ちていく。鞭が持ち主を守るように迫ってきたが、その隙間を縫うように三節棍を投げつける。

 あっさりと避けられたが、その一瞬、ディーノの集中が武器に向いた。

 胴体に鞭が迫る。

 

 ――しかし、家継はあえて避けなかった。

 

 鋭い一撃がシャツと皮膚を切り裂く。鞭が体に触れた瞬間、それをしっかりと掴んだ。腕ごと引っ張られたディーノが目を見開く。

 手繰るように勢いよく引き寄せ、急接近する。そして。

 

「なにっ――!?」

 

 身体を捻った全力の蹴りがディーノの顎に炸裂した。

 彼の体がぐらりと揺れ、たたらを踏む。手足をついて着地した家継が、追撃しようと構えたとき。

 

「――そこまでだ」

 

 リボーンの声が響き、びくりと動きを止めた。

 

「……もう終わり?」

「初めましての挨拶としては充分だろ」

 

 まだ、一撃入れることができただけだ。

 三節棍を握りしめたが、近寄ってきたリボーンとロマーリオにその気がないのを見て溜息を吐いた。

 張り詰めていた緊張が緩む。家継は脱力したようにその場で座り込んだ。ディーノも「いってえ~……」と顎を押さえながらフラフラ近寄ってくる。

 

「まだ脳みそが揺れてる……顎を狙ってくるとは容赦ねーな」

「年下に攻撃入れられてんじゃねえ。しかも武器まで取られやがって、0点だ」

「嘘だろ!? 無茶言うなって!」

「ちなみにツグも0点だ」

「ええ、なんで……?」

「オレに上を取られたから上を取ろう、っつー考えが安直すぎる」

 

 考えろと言われたから、家継なりに考えたのに。

 不満げにリボーンを見下ろすと、彼は呆れたように鼻を鳴らした。

 

「肉を切らせて骨を断つっつーのは悪かねえが、それで自分のほうがダメージ受けてちゃ意味ねーだろ」

 

 小さい手で指差され、自分の体を見下ろす。腹から胸にかけてシャツが破れ、血が滲んでいた。

 

「……あ」

「うわっ血! おいツグ、大丈夫か!?」

 

 気づかなかった。血が流れていると認識したら余計に力が抜けて、その場にくたりと寝転がる。沸き立っていた血が急激に冷えていく。

 

「おまえのほうが重傷だから、ディーノの勝ちだな」

「言われなくても分かってるよ~……」

 

 大きく溜息を吐きながら、片腕で顔を覆った。悪態をつきそうになったが、ライバルの前でみっともない姿を晒すわけにもいかず、唇をモゴモゴ噛みしめる。

 

「あ~……悔し~……鞭は卑怯だよ、チートじゃん」

「あっはっは! おまえの武器も相当厄介だろ? ヒヤヒヤさせられたぜ」

「……絶対うそだ」

「いや本当だって! まさかツナの兄貴がここまで戦えるとは思ってなかったよ。ロマーリオ、頼む」

「ああ」

 

 ゴトンと音がしたほうを見ると、ロマーリオが家継の隣に救急箱を置いていた。

 

「あの、止血とか自分でやるから、いいです」

「そのまんま帰るわけにもいかねーだろ? いいから見せな」

 

 断ろうとしたものの、にっかり笑ったロマーリオに手際よく服を剥ぎ取られた。

 幸い傷は浅く、すぐに血は止まっていたようだ。正直怪我より消毒液のほうが痛くて嫌いなので、治療されているあいだ家継はギュッと顔をしかめていた。

 

 隣でしゃがんだディーノが笑みを浮かべながら「どうだ? ちっとは兄貴分として認めてくれたか?」と覗き込んでくる。

 家継は黙ったままディーノを見つめた。

 

「……認めるというか……いや、強いことは認めてます。でも……」

「でも?」

「ツッくんのお兄ちゃんはおれだけだから……!!」

 

 くっと絞り出すように言う。ロマーリオが包帯を巻きながら「だはは! こりゃ厄介だな!」と笑った。

 

「いや、オレは兄そのものになろうとしてる訳じゃねーからな!? 兄貴分として、困ったときには助けになろうって思ってるだけで!」

「くうう……!!」

 

 そんなことは分かっている。しかし理解と納得は別モノだ。

 ディーノが出来る男であればあるほど、ポジションを奪われるという焦りが止まらない。けれど弟にとっては、頼れる相手は多いほうがいいのだろう。

 分かってはいるのだ。もう一度「くうう」と唸って、家継はその場に大の字で倒れ込んだ。

 

「おいおい、包帯が汚れるだろ」

「おれはここで心頭滅却しながら寝るので、どうぞお帰りください。あとロマーリオさん治療ありがとうございました」

「いや寝るな寝るな! おまえが複雑な気持ちを抱いているのは分かったから、とりあえず一緒に帰ろーぜ。なんならおぶってやるから」

「起きます」

 

 これ以上面倒を見られたくない。

 唇をへの字に曲げながら起き上がり、もぞもぞと服を着た。シャツについた血が見えないよう学ランのボタンを留めていく。

 

 そして改めて、苦笑しながらこちらを見下ろすディーノに視線を向けた。

 あのまま戦っていたとして、いつかは家継のほうが負けていただろう。リボーンは、家継が動き回って傷を悪化させる前に止めたのであろうことは分かっていた。

 分かっていたから、余計にむかつくのだが。

 家継はぼそぼそと小さな声で言った。

 

「でぃ……ディーノ、さん。手合わせ、ありがとう……ござい……ました」

「すっげー嫌そう! オレもいい体験させてもらったぜ、ありがとな」

「……次は勝ちます」

「戦うより、色々頼ってくれたほうが嬉しいんだけどな!?」

「おれは戦ってくれたほうが嬉しい」

「お、おう、そうか……」

 

 引きつった顔で笑ったディーノは「まあまた、機会があれば、な」と大変あやふやな言葉を返した。

 

 

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