慈愛の私と太陽の君   作:グランド・オブ・ミル

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長く執筆活動から離れていた私のリハビリ作品です。軽い気持ちでお楽しみください。


第1話~慈愛と太陽~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 2000年以上にわたって築き上げられてきた人類の文明は、今から丁度百年前に終わりを迎えた。遥か昔に存在したという「魔神族」という異形の化け物達。彼らが世界中で人々を襲い始めたからだ。

 

 きっかけはイギリスのとある研究チームだった。イギリスでも有数の名門大学で考古学を専攻する学生から成るそのチームは、面白半分であるレリーフに手を付けてしまう。それはまだイギリスがブリタニアと呼ばれていた頃に作られたとされるものだ。

 

「遥か昔、女神族、妖精族、巨人族、人間が力を合わせて悪しき魔神族を封印した。」

 

 _と、彼らの興味をひく逸話まであった。とにかく彼らは好奇心のままにそのレリーフを調べ、いつしか解呪の方法まで辿り着いてしまった。そうなれば彼らに躊躇う理由などなく、その方法を実行に移してしまったのだ。研究チームの中に偶然女神族の血を引く者がいたことも災いした。

 

 そうして長い眠りから覚めた魔神達は真っ先に目の前にいた研究チームの面々を喰らい、瞬く間に全世界に広がった。現世の生物に比べて圧倒的に強く、飛行能力を有し、おまけに魂まで喰らう彼らに人々は忽ち恐怖に包まれた。

 

 もちろん、人間も黙ってやられ続けたわけでもなく、国連から軍を派遣し、魔神族討伐作戦が決行された。普段いがみ合っていた国々もこの時ばかりは一致団結して未曾有の脅威に立ち向かった。

 

 だが、魔神族の脅威は予想以上だった。現代兵器が魔神族にまったく通用しないというわけではない。むしろ赤色の魔神に対しては人間同様に銃も爆弾も効いた。しかし、問題は彼らの生命力だった。闇の力を持つ彼らはちょっとの傷や身体の欠損はすぐに再生してしまう。

 それに加え、赤色魔神ならともかく、その上位種である灰色や銅色の個体には最早攻撃すら通らないという有様だった。他にも空を高速で飛び回る青色魔神や、山のように巨大な通称アルビオンと呼ばれる個体も存在し、人類は劣勢に立たされた。

 さらに悪いことに魔神族には同族をとてつもない速度で増やす手段があるらしく、強さに加えて数も抑えきれなくなり、ついに国連軍は敗北した。

 

 その戦いから百年、かつて地球の支配者であった人類はその姿をなくし、今は圧倒的上位の存在である魔神族に怯えながら細々と命をつないでいる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ふ~ん、ふふ~ん♪」

 

 ここはかつて日本と呼ばれた土地。その荒廃した町を一人の少女が歩いている。歳は中学生から高校生程度、容姿は整ってはいるが、特別美人かと言われればそうでもない。黒い髪をツインテールにして、服は紺色のタンクトップにデニムのショートパンツ。文明が崩壊する前ならば、どこにでもいそうな少女だ。だが、他にはない特徴として、彼女の瞳は一切の光なくドロッとした闇に覆われており、額の左側には禍々しい紋章が刻まれている。

 

 そもそもこの世界で、少女だろうと屈強な男だろうと、人がたった一人で何も持たずに出歩いていること自体がおかしいことだ。世界中が魔神族の脅威にさらされている今、人間はあちらこちらでコミュニティと呼ばれる小さなグループを作り、外出の時は身体能力に秀でた者が武器を装備し、ごく少数で、魔神族に見つからないようにこそこそと移動する。

 

 だが、この少女は武器はおろか、通りの真ん中を堂々とハミングしながら歩く。普通なら自殺行為である。

 

「お、美味しそうな獲物発見!」

 

 しかし、この少女は例外であった。生まれつき特異な力を持っていたからだ。

 

 町の外れまで歩くと少女は大きめの黒い牛と出会った。昔この辺りにあった大きい牧場から野生化したものだ。牛は少女の姿を見ると鼻息を荒くし、闘争心剥き出しで突進してくる。

 

少女は牛のその姿を見るとニコッと笑い、拳をぐっと握った。するとその拳に漆黒の闇が宿った。

 

「フフッ、そぉれっ!」

 

ドブッ!

 

少女が闇を宿した拳をボールを投げるかのように振るうと闇が触手のように発射され、牛の頭から尻までを貫いた。

 

「ふふ~ん、これで数日はもつね♪」

 

獲物を仕留めた少女はご機嫌で牛の死体を引きずり始めた。少女が体の何倍もある大きな牛の死体を引きずるその光景は異様だ。

 

「待てっ!!」

 

「ん~?」

 

少女が獲物を持って住み処へ帰ろうとすると突然怒声を浴びせられた。少女がその方向へ視線をやると、ナイフや自作の槍等で武装した屈強な男達がいた。

 

「おじさん達誰?」

 

「誰でもいいだろう? それよりも嬢ちゃん、そんな大きな獲物を一人で持って帰るのは大変だろ? 俺達が手伝ってやるよ。」

 

この男達、運搬を手伝うという名目で獲物の山分け、あわよくば横取りを狙っているようでニヤニヤとした欲の笑みを隠しきれていない。

男達の思惑を知ってか知らずか、少女は首を横に振る。

 

「いいよ別に。私一人で運べるし。」

 

「ウソ言っちゃいけねぇよ。そんなデカいの、嬢ちゃんが運べるわけねぇじゃねぇか。」

 

「大丈夫だってば。」

 

最初は体面上優しく少女を説き伏せようとした男達だが、一向に獲物を渡そうとしない少女に段々とイライラが隠せなくなってくる。

 

「わかんねぇ奴だな! いいからよこせってんだ!!」

 

ついに男達の一人が少女の牛に手をかけた。

 

ドズンッ!

 

「…………え?」

 

それがいけなかった。

 

「いいって言ってるのに、しつこいよおじさん。」

 

少女の掌から放たれた闇がその男を横腹から貫いた。その男は何が起こったか分からないまま、ゴブッと大量の血を吐いて絶命した。

 

「ひ、ひいぃ!!」

 

「ま、魔神だぁ!!」

 

少女のその力に他の男達は恐れおののいた。この世界の人間にとって魔神は絶対に出会いたくない存在なのだ。

 

「むう、失礼な。私は人間だよ。」

 

男達のその反応に少女は頬を膨らませた。いくら特異な力を持っているといっても彼女は人間なのだ。

 

「ふざけるなっ! お前みたいな化け物っ、人間なわけあるか!」

 

「俺が奴を引き付ける! その間にお前らは逃げろ!」

 

恐ろしい魔神の怒りを買ったと思った男達、その中の最も高齢でたくましい男が槍を構えて少女の前に立ちふさがった。

 

「源蔵さん! 無茶ですよ!」

 

「お前達はまだ若い! 生き残って拠点の者達と共にこの地を離れろ!」

 

「っ…! 源蔵さんっ…」

 

「案ずるな、俺はこれでも魔神共との戦闘経験が__」

 

「くだらない。」

 

頼りになる老人と若者達のお涙頂戴の場面。それを黙って見届ける程少女は親切ではなかった。

 

「え?」

 

「邪魔だよ」

 

ボンッ!

 

少女が腕を振るっただけでそれまで若者達を導いてきた源蔵は水風船のように弾けとんだ。まるで彼のこれまでの人生を嘲笑うかのように。

 

「げ、源蔵さん……」

 

「そんな……」

 

「ダラダラとメンドくさいんだよ。私はお腹すいてるのに。どうせ弱いんだからとっとと死んで」

 

少女は源蔵だったものをグチャッと踏み、手に魔力を集中させる。

「よくも……! よくも源蔵さんをっ……!!」

 

「あの人がどんなに俺達を助けてくれたかも知らないで……!!」

 

「許さねぇ!!」

 

源蔵という男は余程人望があったのだろう。それまで逃げ腰だった男達が全員武器を構えて少女に向かっていった。

恩人の敵をとるべく強敵に立ち向かっていく若者達。場面だけ見ればまるでマンガのワンシーンのようだ。人から人へ意志が受け継がれて行く。なんと感動的な場面。

 

だが、悲しきかな。彼らは罪をおかしたのだ。この少女__"慈愛のエスタロッサ"に手を出したという大罪を。

 

「"獄炎(ヘルブレイズ)"」

 

ゴオッ!!

 

罪人達は皆例外なく地獄の炎に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま~!」

 

とんだお邪魔虫との戦闘もあり、少女が住み処に帰ったのは日が暮れた頃だった。

 

「エスカノール~、帰ったよ~。」

 

エスタロッサはまるで男達との戦闘などなかったかのようにご機嫌に同居人の名を呼ぶ。彼女にとって先程の男達の思いや覚悟など記憶に残す価値もないのだ。

 

「お帰りなさいエスタロッサさん。わっ、今回もまた大物ですね!」

 

少しして住み処の奥からエスタロッサと同い年くらいの茶髪の少年が出てきた。エスカノールに獲物を褒められたエスタロッサは誇らしげに胸を張る。

 

「さっ、早くご飯にしよ! 私お腹すいちゃった。」

 

「はい、分かりました。ではその牛を切り分けるのを手伝ってください。」

 

「うん! エスカノールの料理美味しいから楽しみだな~。」

 

これが彼女達の日常。彼らは魔神が跋扈する世界を特異な力を駆使してたくましく生きていた。

 

 

 

 




この世界の人間達はまるでメタルギアサヴァイヴのように生きています。

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