ミカベネ物語 戦争編 作:ミ景
眩しい光。
そこで自分が目を開けていることに気がつく。
朦朧とする頭で目を向ければ机を挟んだ先には壁があり、壁に設置された上着掛けには女物の服があった。
自分の状態がベッドの上で横たわっているということを理解して、視界の端で規則正しく秒針を鳴らす置時計が映る。
時刻は昼を回ったくらいで部屋に立ちこめる熱気とカーテンから洩れる光源の発生源から今日も快晴だということがわかった。
昨晩飲んだ酒のせいか、鈍った思考で今日の予定を検索。
少しずつ鮮明になっていくと同時に記憶が無くなるほど飲んだのかと呆れた感情が湧き出てきた。
そこでふと、ワイは確認の為に部屋を再び見回す。
女物の服を着るような趣味などがないし、最低限の家具くらいしかないのでワイの部屋ではないと高速で結論に至った。
それにあまりにも無機質な内装に、ここは安ホテルの一室とも導く。
上半身を起こして、自身の身体を見下ろすと裸の胸板が見えた。
下半身は白いシーツに覆われている。
ワイは恐る恐る、シーツの下に隠された半身を探った。
「…………」
意識が覚醒して、”何故全裸なのか?”と疑問が頭を圧迫するとは流石に予想できなかった。
とりあえずと、床の絨毯へ両足を下し、ベッドに腰掛ける姿勢で辺りを見渡す。
床にはワイの衣服や下着、靴が散乱しており昨晩一体何があったか自分の脳内に検索を掛けようとするもこめかみの鈍い痛みと、脳内の奥からくる鋭い痛みの二重奏が響く。
声にならない悲鳴。
親指と人差し指でこめかみを揉んで、痛みの嵐が去るのを待つ。
幾分かマシになったと思った時だ。
「う、うん」
と艶っぽい呻き声がワイの背後から聞こえた。
しかし、振り向いても誰もいない。
警戒しながら探していると、それはベッドと壁の隙間からだと気づく。
覗き込むと人肌が見えた。
白い背中に滑らかな
つまり、全裸の女が倒れていた。
「──────────ッ!?」
言語にならない悲鳴を上げようとする口を両手で抑えながら、一度その場から離れる。
両者とも裸の男女がホテルの一室で過ごせば、何も起こらずはずはなく……。
イヤイヤイヤ!
とにかく、コイツは一体誰なんだ。
焦りつつ接近し、女の顔を覗こうとして、鼻に痛みが走る。
どうやら、壁から出ていた突起に鼻先をぶつけたようだ。
目尻に溜まった涙で視界がぼやけながらも、鼻を手で押さえる。
痛みを堪えながら、ベッドと壁の狭間を見下ろすと、女の背中に赤い滴が跳ねていた。
鼻の下に熱いものを感じ、急いで鏡を探すも、近場にないので部屋の手前の扉を開けると、洗面台と白磁の便器が並んでおり、正面の鏡を通して鼻血を流している間抜けな格好をした自分と対峙した。
蛇口を捻り、水を勢いよく流しながら、顔を洗う。
冷たい水が火照った自分には丁度良く感じられた。
排水溝へ流れていく赤い線を眺めているとまたもや、こめかみが僅かに痛んだ。
鼻血もすぐに止血し、濡れた顔を用意されていたタオルで拭う。
何とも間抜けだと自分を笑うも、実際は笑えない状況だと思い出す。
あの女は誰なんだ?
そう思いながら、流石に恰好がつかないので下着とジーンズを穿いてからベッドに戻ったワイは再び、隙間に倒れている女の傍に近づく。
意識のない彼女の肩を掴んで、その横顔を覗いてみた。
……少なくとも知り合いではない。
女を観察する。
象牙色の肌に肩まで伸びた白銀の長髪。
美人であるが、どこか険のある顔立ち。
それに恐らくまだ若く、下手をすれば女というよりは少女とも判断できた。
「……いや、それは逆にマズいだろ」
口に出ていたと慌てて、手で塞ぐがもう遅い。
呻き声に反射して身を引くと、女の瞼の下で睫毛が震える。
ようやく目が開いた。
覚醒したばかりで眠たそうな蒼い瞳が、ワイの注視と出会う。
壁とベッドから身を起こした彼女は、一糸纏わぬ全裸であった。
当然、程よく膨らんだ胸と、その桃色の山頂が目に入る。
ワイの視線は女の鍛えられた腹筋をたどり、更に降下しようとしたところで、慌てて目を逸らした。
そんな風に動揺していると、女の朦朧とした瞳に意識が宿り、こちらを捉える。
直球で尋ねてみることにした。
「あー、あの、貴女様はどこの女様であらせられるでしょ───」
「────!」
女は予備動作なしに右足を跳ねさせた。
半ば、脊髄反射に近い形で強烈な回し蹴りを、右腕を掲げて受けるが、重い衝撃に身体が軋む。
足を引くと同時に、いつの間にか彼女の左手に握られていたナイフが、ワイの鼻筋へ近づいていた。
鼻先を掠めて、後方へ回転。
床に着地したこちらを追って、全裸姿の女がベッドを蹴って、飛翔してくる。
煌めくナイフの切っ先を躱すが、そこから瞬時に上段からの一撃に切り替わっていた。
ワイは右手で女の左手首を打って凶器を手放せて、左拳を脇腹に打ちこむ。
苦痛の呼吸が吐き出されるのを待たずに、掴んだ彼女の左手を捻って転がし、最後に首筋へ左手刀を放った。
床に倒れた女の鳩尾に膝を落とし、喉へ拳を叩き込もうとした時に、我に返る。
「あ、えっと、すいません!」
ワイが跳び退くと、彼女は床に手を付いて胃液を吐く。
肩を上下させて喘いでいる姿を見て、罪悪感を覚えた。
それでいて、どのような動きも見逃さないようにしている自分がいるのにも気づく。
先程の技は昔、無理矢理教えられた護身術……というよりは明らかに殺人が目的の類であった。
チラついた回想を首を振って霧散させると、女を見下ろしながら冷静になる。
そもそも何故顔も知らない女に命を狙われたのか……。
もしかして、酔った勢いで無理矢理押し倒した、とか?
……え、なにそれヤバくない?
……と、とにかく、本人に聞いてから判断しても遅くはないはずだ。
床で荒い息を吐いている女に問いかけてみる。
「えっと、ワイにいきなり襲ってきたのは……貴女様になにか、こう、いけないことをしたからでございますでしょうか?」
彼女は肩で息を整えながら考えこんだ。
「……記憶が、ない、のか?」
「……えっと、まあ、うん、そう……かも」
ワイが心配していると、女はようやく返答してくれた。
「……そうか、すまない。 私も混乱していたようだ。 いやな、流石に目覚めた眼前に半裸の異性がいたら驚いてしまってな」
女が苦しい息の下、僅かに紅潮した顔で微笑んだ。
「大丈夫だ、貴方が心配するような犯罪行為は行われていない」
胸を撫で下ろした同時に、自己嫌悪と罪悪感の渦が精神を蝕んでいった。
えっ……正当防衛とはいえあんなことして笑いかけてくれるとか、優し過ぎませんか!?
これ、マジで土下座どころか、切腹ものじゃないの?
いや、というか今するわ、うん。
覚悟を決めて、叩き落としたナイフを探していると、彼女から衝撃の一言が付け加えられた。
「何故なら、両者ともが合意の上で行ったのだからな」
その時。
ワイこと、