ミカベネ物語 戦争編 作:ミ景
「では、改めて自己紹介をしよう! 私はサダナーン! 爪先の使徒を務めている者だ!!」
白い羽根があしられた高級そうな帽子を持ち、綺麗にお辞儀する彼女の姿は洗練されていて、それこそ役者顔負けに様になっていた。
「……」
ワイが返答に困っていると、キューブが口を開く。
「我々は既に知っているが、ここは礼節を特にここでは大事とされている、挨拶をしては如何かな、卜部殿?」
そういえば、状況は全くと言っていいほど把握出来ていないが目の前に立つ二人への挨拶が済んでいないという事実。
それどころではないと思ったのが正直な気持ちであるが、促されて断れるほどの強いメンタルを持っていないワイは素直に受け入れることにした。
「挨拶が遅れて申し訳ない、ワイは───」
そこで言葉は扉が勢いよく開かれた音にかき消された。
長身のキューブや、派手な貴族服を身に纏ったサダナーンたちに遮られて、よく見えないが新たな来訪者の気配。
床をコツコツと鳴らして進む、歩みの音が嫌に響く。
それが近づくと目の前の二人は後ろを確認することなく、互いに脇へ逸れて道を開けた。
ワイの目の前には頭に白い下ベールと黒のベールを頭に被せ、身体のラインがわからない程度の黒いロングのワンピース姿……所謂修道女を彷彿とさせる姿の女性が立っている。
身長は頭一つ分ほどの低く、こちらを見上げるように黒縁の眼鏡越しでこちらを見据える瞳は澄んだ綺麗な青色をしており、顔立ちも整っているのも手伝って、見つめられている気恥ずかしさかワイが視線を僅かに下げるもそれは口元で停止。
火は点いていないものの、煙草が一本咥えられており、聖職者の姿には相応しくないと違和感。
その視線に気づいたのか明らかに不機嫌そうに眉を歪める。
「おい」
声の持ち主は眼前の女性だということは口元が動いたことで嫌でもわかった。
「なんだね、シスターM?」
キューブの返答がお気に召さないのか、視線をこちらから外すことなく、女性は舌打ちと共に言葉を続ける。
「その呼び方は止めろ、それでどうしてテメェらいる? 神父はどうした?」
「ああ、それなら───」
即答しようとしたサダナーンの口を白手袋で覆われたキューブの左手が覆う。
「問1、善処しよう。 問2、開戦まであと僅かで我々も悠長に構えていられない。 問3、彼に留守を預かった───以上だ」
サダナーンも両手で親指を立てて、首を縦に振り、それを肯定しているようだ。
「わかった。 とりあえずここからは出て行け、コイツと話がしたい」
一度、キューブとサダナーンは顔を見合わせる。
わざとらしく肩を竦めるサダナーンと、彼女の口を塞いでいた手を離し数秒間思案する素振りを見せたキューブは……わかった、と一言残して、開け放たれていた扉から退出。
それ後を追うサダナーンは首を傾げているが、最後にはこちらに手を振っていた。
扉が閉じられて、改めて状況の整理をしようとするワイを他所に再び声が響く。
「よう、私はテメェ様の名前知らないんだけど、なんて言うんだ?」
「……あー、ワイは卜部……
そこで何か考えているように、顎に手を当てて呻る女性。
口に咥えた煙草を器用に移動させながら難しい顔をしている。
「結構変わった名前してるな……」
「はい?」
予想だにしない一言にワイは反射的に声を出す。
「気を悪くさせたら謝るが、何せ『ウラベ・ウラベミカネ』なんてそうそうない名前だろ」
「……」
この短時間で頭が変な方向にパンクしてしまいそうだった。
「すいません、ちょっと訂正します。『ウラベ・ミカネ』が正しい名前でした。」
「お、そうか、それなら納得したよ。 私はここでシスター……の真似事のようなものをしているメルティだ。 よろしく」
差し出されたのは白い手袋を嵌めた右手。
「あ、どうも」
僅かな違和感が過るがそこでワイはその握手に応じるしか出来なかった。