朝食で突如始まった質問コーナー。盛り上がる面々だったが渚砂の質問をきっかけに話は予想外の方向に?
その余波を思いっきり受けた渚砂は放課後にとんだ大失敗をしでかしてしまう。
そんな渚砂のことを知らないまま玉青は生徒会室で深雪からのヒヤリングを受けていたが…。
■目次
<賑やかな朝食>…玉青視点
<訪問者は生徒会長>…渚砂視点
<前置き>…玉青視点
<賑やかな朝食>…玉青視点
「渚砂ちゃん。一人で着られますか?」
「ごめん玉青ちゃん。ちょっとだけ手伝ってもらえる?」
「いいですよ。髪を少し持ち上げていてくださいね」
この数日ですっかりお馴染みとなった朝の支度の光景。聖ミアトル女学園の制服は黒を基調としたもので、落ち着いていてそれでいて優雅さを感じさせる素敵なデザインの制服だ。一見するとドレスのようにも見えるこの制服を気に入っている生徒は多く、私もその中の一人だったりする。
ただ複雑なデザインの弊害として着たり脱いだりに手間がかかる構造のため、朝の支度や体育の授業の時は一苦労である。ミアトル育ちとも言える私でさえそう思うのだから、編入してきて日の浅い渚砂ちゃんにはさぞ大変だろう。まぁそのおかげで着替えの手伝いにありつけるわけだから私としては嬉しいけれど。
(それにしても…本当に華奢ですわ)
制服を発注する際に採寸したので数値としては知っているが、実物を目の前にすると溜息が出そうになる。腰も細く胸も薄めでまさにスレンダーといった感じだ。もし強く抱き締めたら折れてしまいそうな儚さを秘めている。
ふと衝動に駆られて腰に手を回してみる。そう長くもない私の手でも容易く左右から包み込めた。
「わわっ。急にどうしたの玉青ちゃん?」
驚くのも無理もない。つい出来心で行ったそれは傍から見れば後ろから抱き締めているようにしか映らないはずだ。
「ご、ごめんなさい。渚砂ちゃんの腰があまりに細いものだから」
謝りつつも手はそのままだ。引き剥がされるまでもう少し渚砂ちゃんの感触を堪能させてもらおう。
「う~ん。私は玉青ちゃんが羨ましいけどな…。玉青ちゃんって結構胸おっきいよね」
「でもサイズが上がると下着を買い替えないといけないので大変ですよ?この丘では休みの日に外出したりしないと可愛いデザインのは手に入りませんから」
私のものと比較していたのだろうか?自分の胸を触っていた渚砂ちゃんの動きがピタリと止まる。その顔には少しだけ哀愁の色が浮かんでいた。
「今、玉青ちゃんとの間に初めて壁を感じた気がする…」
(華奢なこと気にしていたんですね。渚砂ちゃんはそのままでもとっても可愛らしいのに)
あはは、と愛想笑いをしたもののなんともいえない空気が二人の間を流れる。気まずさからそっと渚砂ちゃんから離れ、咳払いをして誤魔化す。
本当はもう少し抱きしめていたかったけど仕方がない。女の子同士といえど体重などの身体的なお話は慎重を要する。いや、女の子同士だからこそか。不用意な発言は場合によっては一触即発になることだってあるのだ。今回は私がちょっと迂闊だった。
「髪を結びますから座ってくださいね」
少しでも機嫌を直してもらおうと渚砂ちゃんを丁重にお迎えし髪のセットをしてあげる。最初は渚砂ちゃんが自分でやっていたが、どうせなら可愛さがより際立つようにと役目を買って出た結果、今では私の日課となった。
サラサラの髪を梳く度に渚砂ちゃんはくすぐったそうに身をよじる。私はというと鏡と睨めっこをしながら微調整の真っ最中だ。最後にリボンを整えて、はい完成。
「さあ終わりましたよ渚砂ちゃん。ふふふっ。今日も私の渚砂ちゃんはとっても可愛いですわ」
いちご舎では朝食と夕食はみんなで大食堂に集まって食べる決まりとなっている。もちろん寮生活なので遅刻は禁物。もし遅れると上級生やこわ~い指導係のシスターにお叱りを受けることに。今朝は食堂の入り口で隣室の紀子さん千早さんペアに会ったので一緒に座ることにした。
食事の前には恒例のお祈りの時間。修道院が母体のミアトルはもちろんのこと、スピカ、ルリムの2校もみんな揃ってお祈りする。まどろっこしくて苦手という生徒もいるが私はこの時間が好きだ。
制服に身を包んだ生徒たちが静かに祈りを捧げる様子は絵画の題材になっても不思議ではない。そんな中にいると自分も心が洗われるような気持ちになり、心が落ち着く。
「それではエトワール。食前の祈りを」
「ええ、わかったわ」
煌びやかな銀髪の生徒が立ち上がり、良く通る澄んだ声で祈りを捧げ始める。他の上級生の方には申し訳ないけれど、一目で特別な存在とわかるオーラを放っていた。
彼女の名前は花園 静馬(はなぞの しずま)。エトワールという呼び名は彼女の役職名であり大半の生徒が名前ではなくこちらを用いて彼女を呼ぶ。
━エトワール━
それは1年に一度全校生徒による総選挙で選ばれる憧れの的。その称号は決して名誉だけのものではない。その発言力は各校の生徒会長よりも強く、3校を束ねる存在として君臨している。
本来であれば2人1組で参加しベストカップルに与えられるものだが、彼女はたった一人でエトワール選に出場したうえに圧倒的大差で選出されてしまった。前例のない事態ではあったが全校生徒による意志として認められ、史上初の一人エトワールとして役割をこなしている。
整った顔立ち、腰まで伸びた銀髪、スラリとした長身ながら制服越しでもわかる豊かなバスト。格式高い名家のご令嬢だけあって仕草や立ち居振る舞いには気品が溢れ、そのうえ学業も運動神経も抜群とくれば人気が出て当然である。
素行に少々…、いや重大な問題を抱えているのが悩みの種でもあり、同時に人気の秘訣であったりもするのだが…
お祈りが終わるとみんなで仲良くお喋りしながらの朝食が始まる。流石に食事中一言も発してはならないなんて修道院さながらの掟はないので、思い思いの話題に花を咲かせ盛り上がっていく。
今日は渚砂ちゃんが色々と疑問に思ったことに答えてあげる質問コーナーが急遽開催され、紀子さんと千早さんがテンポ良く解決していた。
「はい!次の質問いいですか?」
「どんどん聞きたまえ。私と千早が何でも答えちゃうよ~」
「あんたはまた調子に乗って」
「前から疑問だったんだけど、エトワール様ってどんな人なの?」
まずい、と思いながらも身体が思わずビクッ反応してしまった。この話題は出来れば避けたい。
「玉青さんから教えてもらってないの?」
「うん。玉青ちゃんはよく知らないからって。ね?」
ええ、まぁと頷いたものの渚砂ちゃんだけならともかくこの二人がいては逃れる術はない。捕まるのは時間の問題だ。
その証拠にふ~ん、とでも言いたげな表情でこちらを見つめてきている。目を合わせないようにそっぽを向いたものの、そのプレッシャーに汗がつーっと頬を伝っていく。
「玉青ちゃんがどうかしたの?」
ああ、お腹を空かせたオオカミの群れに餌を放り投げるような真似を。当然二人は待ってましたと言わんばかりにこれにかぶりついた。叶うならばこの場を逃げ出したい。
「玉青さんはね、エトワール様から━━━」
「━━━交際を迫られたことがあるのよ」
紀子さんの言葉を千早さんが引き継ぐ。その華麗なコンビネーションには賞賛を送りたくなる。こんな時でなければの話だが…。これも信頼の為せる技なのか、それともテレパシーでも使えるのか。
「ふ~ん、そうなんだ」
そのままパクパクとご飯を口に運ぶ渚砂だったが、ん?と首を傾げると動きが止まる。
(あれ?なんだろ…。今とんでもないことを聞いたような。あ、そうか交際だ。うん、交際こ~さい)
「ええーーーーっ!?交際ーーーーーーー!?」
「しーーっ!渚砂ちゃんてば声が大きいですよ?」
人差し指を口に当てヒソヒソ声で渚砂ちゃんを制する。ちょっと周囲がザワついたが、幸いエトワール様たちからは離れた席だったのでなんとか聞こえずに済んだようだ。
「ごめんごめん。驚いちゃって。交際ってその…お付き合いするってことだよね?」
「ええ」
あまり言い換えになっていないことには突っ込まないでおく。
「お、おおお女の子同士だよね?」
「そう…なりますね」
「それでっ!?玉青ちゃんはOKしたの?」
「いえ…丁重にお断りしました」
渚砂ちゃんの圧が凄い。ぐいぐいと後ろに押されているみたいだ。ちなみに目の前で勿体ないよね~とか、付き合えばよかったのにとか言ってる二人のことは無視しておく。下手につつこうものなら何が飛び出してくるかわかったものではない。触らぬ神に祟りなし。
「そ、そうなんだ~」
私の答えに少し落ち着いたのか渚砂ちゃんがほっと息をつく。よし、チャンスだ。今のうちに違う話題に。
「そうだ渚砂ちゃん、この間の━━━」
「ねぇ渚砂さん知ってる?玉青さんって結構モテるのよ」
わざとらしくパンッと手を打ってまで注意を引こうとした私は憐れにもその格好のまま凍り付く。渚砂ちゃんがどちらに食い付いたかと言えば…。
「玉青ちゃんが…モテる?」
「ええそうよ。まぁ顔も良くて頭も良くてそのうえ性格も良いとくれば、ほっとかれないわよね」
「「ね~」」
顔を見合わせて頷き合う二人を前にようやく私もハッと我に返り、二人を止めにかかる。
「ちょ、ちょっとお二人とも何を言っているんですか。渚砂ちゃんに変なこと吹き込まないでください!」
「だって事実だし」
「渚砂さんはどう思う?」
「ええっ!?私に聞かれても困るよ。エトワール様に迫られたってだけでもびっくりなのに、そのうえモテるだなんて。というかここでは女の子同士で付き合うのって当然って感じなの!?みんな当たり前のように話してるけど」
その質問に、渚砂ちゃんを除いた3人で「あー」といった表情を浮かべて顔を見合わせる。
「とりあえずエトワール様は別として。交際までいくのは相当珍しいんじゃないかな」
「私と紀子も仲良いけど別に付き合ってるわけじゃないしね~」
「実は私もその~交際経験はなくて」
これには渚砂ちゃんではなく二人の方が食い付いた
「玉青さんでもそうなんだ~。やっぱり女の子同士って難しいのかな?千早はどう思う?」
「周りでは付き合ってるなんて話聞かないわね。もし付き合っていてもオープンにしないのかしら。隠れてこっそり?みたいな」
「みんな興味はあるんだろうけど、いざってなると躊躇っちゃうのかな~」
紀子さんの言葉は的を得ている。というのも私がまさにそうだったからだ。私に交際を申し込んできた人たちはタイプこそ違えど、みんな素敵な方々だった。けれど勇気がなく臆病な私は、ただただごめんなさいと頭を下げることしか出来なかった。もし一度でもOKをしていたら今見えてる世界も変わっていたのかもしれない。同性の女の子に対してそこまでの感情を抱くというのはどんな気分なんだろう。今の私にはまだわからない。渚砂ちゃんに抱く好意でさえも、まだ友達としての範疇を超えてはいないのだから。
(静馬様ならきっとご存知なのでしょうね。この疑問の答えを)
その後は4人ともすっかりクールダウンし、静かに朝食を終えた。
その帰り道、渚砂ちゃんを先に部屋に戻した私は紀子さんと千早さんを捕まえ注意喚起を行うことにした。
「いいですか二人とも。渚砂ちゃんにはエトワール様のことはあまり話さないでくださいね。特にプレイガールだとかキス魔だってことは、ぜーーーーーったいに内緒ですから!」
いわゆる静馬様の素行の問題と言うやつである。渚砂ちゃんの情操教育に良くないし、不用意にフラフラ近付いたら餌食になってしまうかもしれない。みんなが知っていることなのでいずれは渚砂ちゃんの耳にも入るだろうが、今はまだ早い。この二人に口止めしておけば当分は安心できる。過保護と言われようがこれでいいのだ。渚砂ちゃんにはまたお母さんみたいって言われてしまうかもしれないけど…。
<訪問者は生徒会長>…渚砂視点
「それにしても玉青ちゃんがモテるなんてね~」
「もう、またその話ですか。部屋でもしたじゃないですか」
校舎へ向かう道を歩きながらまた口にしてしまった。食堂での会話はどうやら私にとって刺激が強すぎたみたい。エトワール様のこととか、玉青ちゃんのこととか。まだまだ私の知らないことがこの丘にはたくさんある。
「でも、驚いたけど驚きじゃないっていうか。うまく言えないけど玉青ちゃんだったらそういうこともあるのかな、なんて思ったりして」
「どういう意味ですか?渚砂ちゃん」
「ほらなんていうか玉青ちゃんってさ。まず美人でしょ、それにお勉強も出来て、あとすっごく優しい。だからモテても不思議じゃないっていうか」
玉青ちゃんの良いところを指折り数えていく。とりあえず3つ。ほんとはもっとも~っとあるんだけどわかりやすいのを3つ。ってあれ、これじゃ千早さんが朝言ったのと変わんないや。
「あんまりからかわないでください。渚砂ちゃんの意地悪」
「え~だってほんとにそう思うんだもん。それに友達が人気ないよりかは人気者の方が嬉しいに決まってるよ」
「渚砂ちゃんがそう言うなら」
渋々だけど受け入れてくれたようだ。
(玉青ちゃんってば謙遜しすぎだよ~。勿体ないな~。もっと堂々としてればいいのに)
そしたらきっとエトワール様にだって引けを取らないと思う。出会ってすぐの私がこう思うんだから玉青ちゃんをもっとよく知ってる子だったら余計そうなんじゃないだろうか。
「どうしたんですか?渚砂ちゃん?」
「んーん。何でもない。やっぱり玉青ちゃんは美人だなって」
「もぉー渚砂ちゃんってばー」
怒った玉青ちゃんに追いかけられて校舎までの道を走る。かけっこだったら玉青ちゃんにだって負けないぞー。この時の私はまさか朝の会話のせいであんな恥ずかしい勘違いをしちゃうなんて知る由もなかった。
その日の放課後。廊下の近くに居た私は突然声を掛けられた。
「ちょっといいかしら。涼水玉青さんを呼んで欲しいのだけど」
振り返るとそこには、一目で上級生とわかる凛とした空気を纏った生徒が立っていた。長身でスタイルも抜群の美人さんだ。どこかで見たことがあるような気がする。どこだっただろうと記憶を辿っているとポンッと浮かび上がった。
「生徒会長の…え~っと六条様?」
正解と言ってフフッと笑った顔もなかなか素敵だ。それに優しそうな印象を受ける。
「私は六条深雪。あなたは編入生の蒼井渚砂さんね。よろしく」
「は、はい。こちらこそ。でもなんで私の名前を?」
差し出された握手に応じながら疑問をぶつけてみる。生徒会長と一般の生徒では知名度に差が有りすぎる。ましてやちゃんと面識があるわけでもないのに、私の名前を知っているだなんて。
「高校からの編入生は珍しいもの。流石に覚えているわ。それに、これでも生徒会長ですもの」
おお~。なんだかとても大人っぽい。2つしか年は変わらないはずなのに…。上級生ってみんなこんな感じなんだろうか?
「それで六条様。玉青ちゃんにはどんな御用でしょうか?」
名前を記憶してくれていたという嬉しさもあり、私もなるべく親切にしようと用件を伺ってみた。ここで聞いておけばスムーズに取り次ぎが出来るというものだ。ナイス私。意気込んで返事を待っていたものの当の六条様からの返事はなかなかこない。
「六条様?」
「あ、ごめんなさい。用件なんだけど教えてあげられないの」
えっと…。なんでだろう?何か秘密のことなんだろうか。はてなマークを浮かべる私に六条様はこう告げた。
「玉青さんと二人きりで話がしたいの」
「二人きり…ですか」
「ええ、人に聞かれると困るから場所も変えるつもりよ」
「は、はぁ」
よく分からず気の抜けた返事をしてしまった。二人きりじゃないとダメなことって…。あれも違う。これも違うよねと考えるうちにとある答えに辿り着いてしまった。
(あれ?あれあれあれ?もしかしてこれってこ、こここ告白なんじゃ…)
もう一度落ち着いて考えてみよう。目の前にいる六条様はとっても美人さんで見るからに頭も良さそう。玉青ちゃんとはお似合いだ。そんな六条様が玉青ちゃんを訪ねてきた。しかも二人きりで話がしたいと…。場所を変えるってのはきっと校舎の裏とか屋上とかそういうところで。うん、間違いない。そうに違いない。
普段の私だったら気付けなかったけど、今日の私は一味違う。そう、私は知っているんだ。玉青ちゃんがモテると。
(玉青ちゃんはモテる。玉青ちゃんはモテる)
危ないところだった。気付かなかったら友人の出会いを邪魔することになっていたかもしれない。本日2度目のナイス私。しかもこっちはとびっきりのファインプレーだ。
一度結論に行きついてしまうともう妄想が止められない。今までに見た映画のシーンがいくつも頭をよぎり、今まさに二人は…。
「━━━さん。渚砂さんっ!」
「は、はいっ!」
「大丈夫?少しボーッとしてるみたいだけど」
「だ、だだだ大丈夫です。今玉青ちゃん呼んできますから。少々お待ちください」
気合は充分だったものの、自分が恋のキューピッドなんだって思うと途端に緊張してしまって身体が上手く動かせない。右足と右手が同時に前に出ちゃってる。機械仕掛けの人形か、はたまた糸で操られた操り人形か?といった有様でギクシャクと歩いていく。
そんな渚砂の様子を見た深雪は静かに心の中で思った。
(蒼井渚砂さん。聞いていたよりもずっと面白い子ね。ミアトルにはあまりいないタイプの子だわ。いかにも編入生って感じで良いわね)
「た、玉青ちゃん。玉青ちゃんにお客さんだよ」
「お客さん?どなたでしょう?」
なんとなく大声で言うのも悪いと思い、耳元でヒソヒソと話しておく
「あのね、六条様が玉青ちゃんと二人きりで話がしたいって」
「六条様が?」
私に釣られて玉青ちゃんもヒソヒソ声になっている。うん、と頷きつつ外の廊下にいることも伝えておく。
「頑張ってね、ファイトだよ!玉青ちゃん」
「え?と、とにかく行ってきますね。あ、そうだ。今日一緒に帰れなくてごめんなさい。必ず埋め合わせはしますから」
「いいから、いいから。早く行ってあげて玉青ちゃん」
パタパタと教室を出ていく後ろ姿に小さく手を振りながら、私は友人を見送った。
「ふーーーー」
これで役目は果たしたはずだ。そう思うと疲れがどっと押し寄せてきた。実際にはほとんど動いていないので精神的な疲労というやつだ。
(そういえば玉青ちゃんが帰ってきたらどうしよう。あんまり根掘り葉掘り聞いちゃ悪いよね。かと言って何にも触れないのも不自然だし…)
う~ん。安心していちご舎に帰れると思った矢先にまた新たな問題が。こういう時の距離感って難しいんだよね。
(というかさっきは玉青ちゃんがモテるの嬉しいって思ってたけど、よくよく考えると玉青ちゃんとの差が酷いことに…。やっぱり複雑かも)
朝の胸のこともあるし、なんだか同い年とは思えないや。玉青ちゃん、オトナだ。一人でうんうん唸っていると紀子さんと千早さんの隣室ペアが戻ってきた。
「あーー。二人ともどこ行ってたの?玉青ちゃんが大変だったのに」
「玉青さんが?」
「どうかしたの?」
「あのね、さっき生徒会長の六条様が来て、玉青ちゃんと二人っきりでお話したいって。だから呼んで欲しいって頼まれたの」
「え~と、それで?」
「それでって…。それだけだよ」
「えっ?それで終わりなの?」
「うん」
反応に困ったのか二人は顔を見合わせては首を傾げている。おかしい。どうにも二人との間に温度差を感じる。玉青ちゃんの一大事のはずなのに…。もしかして二人は気付いていないのかも。そう思うとちょっとだけオトナになった気がして嬉しい。私って単純だ。
「二人は朝、玉青ちゃんがモテるって言ってたでしょ?つまりそういうことだよ」
「どういうことよ」
「二人ともまだわからないの?ズバリ、六条様は玉青ちゃんに告白しに来たってわけ。どう?」
プライバシーに配慮しヒソヒソ声で話しながら自慢の推理を披露する。後で思い返すと私はなんて恥ずかしい顔をしてたんだろうってくらいドヤ顔をしていたと思う。でもこの時は自信満々だったわけで…。一体どんな反応が返ってくるのかと内心ワクワクしていた。にもかかわらず二人が盛大に笑い始めたものだから私は驚いてしまった。
「えっ?えっ?なんで二人とも笑ってるの。だって玉青ちゃんと二人きりで話したいって来たんだよ?これってそういうことじゃないの?」
「もぉーー渚砂さんってばやめてよー。私たちのこと笑い死にさせる気ー?」
「そうよ渚砂さん。いくら冗談でももう少し上手くつかないと」
「な、なんで信じてくれないの?私本気だよー?」
ついムキになって手をブンブンさせながら必死に抗議する。それでも笑い続ける二人に訴え続けていたら二人とも私が本気だとわかってくれたみたいだ。
「ねぇ千早。これ渚砂さんマジなんじゃ」
「そうね、私もそう思うわ。なんだか悪いことしたわね」
なんだか理解のベクトルがねじ曲がっている気がする。心なしか二人の目も可哀想なものを見るようなそんな感じだ。いまだに自分の名推理を信じてやまない私に千早さんが教えてくれた。
「渚砂さん、よく聞いてね?六条様は名家の出身で小さい頃から許嫁がいらっしゃるの。だから今までそういった浮いた話は一切聞いたことがないし、たぶん本当にないんだと思う。それにあの方は品行方正なことで有名だからなおさらね。そんな六条様が尋ねてくるとすれば、生徒会に関することとかそういう真面目な用件くらいしか考えられないってわけ。」
「まぁ渚砂さんは六条様のこと知らなかっただろうし仕方がないよ。うん」
えっと…。つまりこれって。
「か、かかか勘違いしてたってことぉーーーーー?」
二人が大袈裟に頷く。あんなに自信満々だったのにこんなことって。
「あは、あははははははは。はぁ~~~」
がっくりと肩を落とす。穴が入ったら入りたい。恥ずかしくって死んじゃいそうだ。もしビデオかなんかでドヤ顔を撮られていたら一生言いなりになっていたかもしれない。それくらいの大失敗だ。顔を手で覆いながら足をジタバタさせたものの、火照った顔の熱が収まる気配はない。
「どうしよう。玉青ちゃんが帰ってきても顔見れないよ」
「玉青さんには多分勘違いのことはバレてないから平気よ。何食わぬ顔でいつも通りにしてれば問題ないわ」
「うん、ありがと。努力はしてみる」
なぜこんなことになってしまったんだろうか。もちろん私が早とちりなのもある。けれど一番の原因は…。自分を慰めてくれている二人が朝あんなことを言わなければ。そう思わずにはいられない。でも慰めてもらってる手前それを言うことは出来ない。仕方なく私は心の中で叫んだ。
(二人のバカーーーーー)
<前置き>…玉青視点
「さあ入って。今日は誰もいないから貸し切りよ」
失礼します、と言って入ったのはミアトルの生徒会室だった。
「お茶を淹れるから好きなところに座って待っていてもらえるかしら?」
私がやりますと言いたいところだが勝手がわからないので大人しく待つことにした。生徒会室には何度か入ったことはあるが、こうしてじっくりと眺めるのは初めてだ。オフィスとかでよく見る収納棚には書類等が綴じられたバインダーが分類に従って規則正しく並んでいる。
「生徒会室はどう?あまり人を招くようには出来てないから味気ないかもしれないけど」
六条様が運んできたトレーには素敵なカップが2つ載せられていた。どうぞ、と勧められたお茶にお礼を言ってから口をつける。おいしい。お世辞でもなんでもなく本当においしい。私が特別な時にだけ淹れるとっておきの茶葉にだって引けを取らない味だ。
「生徒会ではいつもこんなおいしいお茶を飲んでいるんですか?」
「お目が高いわね。静馬のワガママで高い茶葉を使っているの」
そう言って六条様は悪戯っぽく笑った。六条様もこんな風に笑うんだ。
六条深雪様。大抵の生徒は六条様とか六条生徒会長と呼んでいる。歴史ある名家の出身で静馬様と並ぶお嬢様であり、成績優秀かつ品行方正。何事にも真面目に取り組む性分でミアトルのまとめ役。容姿に関しては陰のある美人といった印象で、華のある静馬様とは対照的ではあるものの横に並んでも決して見劣りしない顔立ちだと思う。ただ普段の厳しい印象から近寄りがたいと感じる生徒もいるとか。
(話してみるとむしろ優しい印象を受けるのですが…。勿体ないですね)
「そろそろ始めるけれどいいかしら?」
「はい、もちろんです」
今日呼ばれたのは他でもない ルームメイトである渚砂ちゃんのことについてだった。きちんと学校に馴染めているか普段の様子を教えて欲しいとのことだ。もちろん渚砂ちゃんのためならばとすぐに了承した。質問内容はどれもオーソドックスなものばかりだったのであまり悩むことなくスラスラ答えられた。
「━━━以上で終わりよ。ありがとう玉青さん」
「い、いえ」
ちょっと拍子抜けしてしまった。この学園内において渚砂ちゃんに一番詳しいのは自分であるという自負があったので、意気込んで秘密の渚砂ちゃんノートを持参したものの、残念ながらその出番がなかったからだ。
(といってもこのノートには渚砂ちゃんのスリーサイズとか人に言えない情報もたくさん有りますからね)
惜しいようなホッとしたような。そんな気持ちになりつつカップに口をつけると最後の一口だったみたいで丁度カップが空になった。
渚砂ちゃんの件も終わったし程よいタイミングだ。声を掛けて失礼しよう、そう思っていたところに六条様の方から声を掛けられた。
「ねぇ玉青さん。お茶のおかわりはいかが?」
「でもあまり長くお邪魔しては…」
「そう言わずに少しだけ。ね?」
「ではお言葉に甘えて」
応じながらも違和感を覚えていた。なんだか六条様の纏う空気が変わったような?気のせいだろうか。
「ごめんなさいね。少々強引だったかしら」
「いえ、そんなことは」
せっかくのお茶なのだからいただいていこう。そんな風に軽く考えていたことを私は後悔することになる。
「帰られてしまったらどうしようかと思っていたわ」
「他にも何か私に御用があったんですか?」
クスリと笑った顔は先程の悪戯っぽい笑みとはまるで別物で、とても深い何かを秘めているようなそんな表情だった。
「━━ここからが本題なの━━」
六条様の真っすぐな目が私を貫いていた。
※改行だけ行いました。スマホで見てみたら目がチカチカして潰れそうだったので…。流石に1つも改行してないと見づらいですね。申し訳ありません。
閲覧ありがとうございます。
今回はだいぶ長くなってしまいました。
視点についても玉青ちゃん以外の視点もありますので前書きに目次を作って誰の視点かを書いてみました。
さて、ようやく静馬様が登場しましたね
アニメでは猛威を振るった静馬様ですが今回は顔見せ程度です。
静馬様ファンの方はすみません。
あとタイトルなんですが本文内のセリフから持ってきています。
ガンダムX方式ですね。
私が初めて見たガンダムがこれでした。
ジャンルの中で初めて触れたものって印象に残りますよね。
どうしても基準になってしまうというか。
ストパニ同様思い出深い作品です。
以上です。それではまた。