アストラエアの丘で   作:クラトス@百合好き

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■あらすじ
 疲れて帰ってきた玉青を温かく迎える渚砂。今にも眠ってしまいそうな玉青はすぐにベッドへ倒れこんでしまう。いつも頑張り屋の玉青を心配した渚砂は甘えていいと優しく諭し、玉青のお願いを聞いてあげることに。
 最初はいい雰囲気だった二人だが、玉青のお願いはやがてとんでもないハプニングに発展して!?
 蒼井渚砂視点でお送りする<膝枕には危険がいっぱい!?>今回は短めとなっております。

■目次

<膝枕には危険がいっぱい!?>…蒼井渚砂視点


第3章「玉青ちゃんのケダモノッ」

<膝枕には危険がいっぱい!?>…蒼井渚砂視点

 

「おかえり玉青ちゃんっ!六条様のお話ってなんだったの?」

 

 う~ん。とりあえずこんな感じかな。私は玉青ちゃんの帰宅に備えて呼びかける練習をしていた。勘違いしちゃってたのもあって顔を合わせるのが気恥ずかしい。だから下手なことを言って墓穴を掘らないように練習してるというわけだ。

 

 まぁ玉青ちゃんは怒らないとは思うけど…。

 

「それにしても遅いな、玉青ちゃん」

 

 時計に目をやると私が帰ってきてからもうだいぶ時間が経っていた。

 

「やっぱりそういうお話だったりして」

 

 いや、やめておこう。うん。せっかくこうして練習してるんだし、余計なことを考えてると地雷原に突っ込んじゃいそうだ。頭をブンブンと振って下らない考えを消し去っておく。

 

 そうこうしてる内に廊下から足音が聞こえてきた。急いで扉に顔を寄せ聞き耳を立てる。

 

「あっ、この音は玉青ちゃんだぁ!」

 

 音の主に気付いた私は勢いよく扉を開けて出迎えた。

 

「玉青ちゃんおかえりっ!」

「な、渚砂ちゃんっ!?どうしたんですか、飛び出してきて。何かあったんですか?」

「えっ、あっ、ううん何でもないよ。玉青ちゃんの帰りが遅いから心配しちゃって」

 

 練習の成果は全くなかったけどまぁいいか。無事に玉青ちゃんをお迎え出来たわけだし。

 

「そうですか、なんだか嬉しいです。ただいま、渚砂ちゃん」

 

 ひとまず部屋へと入り荷物を置いた玉青ちゃんは大きな欠伸をしていた。ちょっと珍しい。でもきちんと手で口を隠しているあたりお嬢様なんだなって思う。私だったら平気で口開けちゃうもん。

 

「なんだか疲れてるみたいだね。大丈夫?」

「ええ、六条様の話がヘビーだったものですから。もうヘトヘトです」

 

 そう言うなりベッドに倒れこんでしまう。あらら、こりゃ大変だ。

 

「六条様のお話って結局なんだったの?」

 

 内心緊張しながらずばり聞いてみた。あ、ほら、一応…ね?万が一ということもあるし。

 

「生徒会に入らないかというお誘いでした」

「あーやっぱりそうだったんだ。紀子さんと千早さんもそうじゃないかって言ってたよ」

「あの六条様ですからね」

 

 私は勘違いしてたけど、なんて天地がひっくり返っても言わない。

 

「私もそうなんじゃないかな~って思ってたんだ。玉青ちゃん優秀だもん」

 

 こんな言葉だって平然と言いのけた…はずだ

 

「ふぁあ、…ごめんなさい。少し眠くなってしまって。どうしましょう。顔を洗えば目が覚めるでしょうか」

 

 その顔はぼんやりとしていて今にも寝てしまいそうだ。瞼が重いのかしきりに目のあたりをこすっている。私の経験上こういう時はちょっとでも睡眠を取ったほうがスッキリするものだ。授業の時も無理に頑張るより一瞬カクンッてしちゃった方がいい気がする。あっ、これは先生には内緒だけど…。

 

「夕食まで結構あるし少しだけ仮眠取ったら?30分くらいしたら起こしてあげるよ」

「本当ですか?じゃあ着替えだけしたら少し横になりますね」

「うん、静かにしてるからゆっくり休んでね」

 

 早速着替えを始めた玉青ちゃんだけど眠気で身体が動かないのかその動きは緩慢だ。大変そうなので毎朝のお礼にと手伝ってあげることにする。

 

「ごめんなさい。渚砂ちゃんに手伝わせてしまって。」

「いいのいいの。気にしないで。むしろ玉青ちゃんのほうこそもっと私のこと頼ったり甘えたりしていいんだよ」

 

 期待に応えられるか自信はないけど。でもルームメイトなんだし支え合わないとね!

 

「甘える…。それでしたら渚砂ちゃんにお願いが…」

 

 おお、早速玉青ちゃんからお願いだー。なんだろ?私に出来ることだといいなぁ。

 

「遠慮せず言ってね。私頑張るから。あっでも変なこととかはダメだよ?」

「あの、その…ひざ。や、やっぱりいいです。ごめんなさい」

 

 言いかけて辞めちゃった。ひざ?っていうのは聞こえたけど…。首を傾げていると玉青ちゃんはいそいそとベッドに入ろうとしてるとこだった。

 

「待ってよ玉青ちゃん。ちゃんと言ってよ」

「い、いいんです。忘れてください」

 

 慌てて布団を被ろうとする玉青ちゃんをよく見るとお顔が真っ赤だ。

 

「玉青ちゃん顔真っ赤だよ。もしかして熱でもあるの?」

「こ、これはその恥ずかしくて」

「恥ずか…しい?」

 

 あっ、と小さく声を漏らした玉青ちゃんはしまったという表情を浮かべるが私はばっちりと聞いてしまっている。

 

「お願い事って恥ずかしいことだったの?」

 

 そう尋ねると玉青ちゃんの顔がますます赤くなった。

 

(玉青ちゃんって意外とわかりやすい)

 

 普段は私ばっかりあたふたしてるのでこういう状況は新鮮だ。それにオトナっぽい玉青ちゃんも私と同い年の女の子なんだって気がして安心する。いつもみんなに気を配ってるんだから少しくらい肩の力を抜いたってバチは当たらないはずだ。私も休む手助けくらいはさせて欲しい。

 

「笑ったりしないから言ってよ」

 

 布団の上からポンポンと優しく叩くとすっぽりと布団を被っていた玉青ちゃんがひょこっと頭を出した。玉青ちゃん可愛いなぁ。

 

「絶対に笑わないでくださいね。あの、渚砂ちゃんに━ざ━くら、して欲しくて」

 

 肝心の部分だけボソボソッと消え入りそうな声で言うもんだから、ちゃんと聞き取れなかった。

 

「ごめん、もう一回言ってもらえる?」

「だ、だから。ひざまっ、膝枕ですっ!渚砂ちゃんに膝枕して欲しいんです」

 

 言うなり再びサッと布団を被って隠れてしまう。そうか、だからさっき言いかけた時にひざって言ったんだ。それで納得した。

 

「うん、わかった。ちょっと待ってね」

「いいんですか!?渚砂ちゃん」

 

 ベッドに上がろうとした私に向かって玉青ちゃんが驚きの声を上げる。

 

「もぉ~照れくさいよ玉青ちゃんってば。恥ずかしがる必要なんてないのに」

 

 よいしょっと。玉青ちゃんのベッドにお邪魔して四つん這いで移動していくとベッドはキシキシと音を立てた。まずは枕をどかし、代わりに自分がそこへ収まる。正座だと大変そうだから少し崩して楽な姿勢にさせてもらおう。

 

 うん、これで準備オッケー。太ももをポンポンと叩いて玉青ちゃんに合図を送る。

 

「玉青ちゃん、準備できたよー。ほら、早く早く~」

「は、はい。それじゃあ失礼…します」

 

 玉青ちゃんは遠慮がちにそぉっと頭を乗せてきた。顔を横向きにして小さく丸まりながら。サラサラの青い髪が太ももに当たってこそばゆい。

 

「どうかな?気持ちいい?」

「えっと…」

 

 むぅー。玉青ちゃんってば私を気遣ってちゃんと頭を乗せてない。首に力を入れて頭を浮かせているのかあまり重さを感じなかったのですぐに気付いた。

 

「ダメだよ。せっかく膝枕してるんだから。ほら」

「でも…」

「でもじゃありません」

 

 頭に手を乗せ強引に太ももに密着させると今度こそ頭の重みがしっかりと伝わってきた。よし、これで大丈夫。

 

(渚砂ちゃんの太ももの感触が…)

 

 フニッとした柔らかな太ももの感触としっとりとした肌触りに玉青はドキドキしてしまう。

 

(それに…渚砂ちゃんの匂いが…)

 

 まるで全身を包み込まれているような気がして眠気なんて吹き飛んでしまった。むしろドキドキが止まらなくて一瞬だって眠れそうにない。そのうえ呼吸するたびに匂いがしてくるものだから玉青は正気を保つので精一杯だった。

 

「どう?どう?ねぇ玉青ちゃん」

「凄く気持ちよくて心地いいですよ。正直たまりませんわ。ずっとこうしていたいくらいです」

 

 ようやく玉青ちゃんの口から感想を聞けた。でもちょっと大袈裟だよ~。まぁ喜んでくれたんなら私は嬉しいけど。

 

「じゃあよく眠れそうだね。よかった、玉青ちゃんの役に立てて」

「眠るだなんてもったいない。渚砂ちゃんの感触をもっと味わいたいですわっ!あっ…」

 

 私の言葉に勢いよく反応した玉青ちゃんはその反動でクルっと向きを変え上向きになってしまう。そうすると私と玉青ちゃんは目が合うわけで…

 

「渚砂ちゃん」

「玉青…ちゃん」

 

 時が止まったようにしばし…見つめ合う。なぜかわからないけど言葉が出なくて、ただただじっと玉青ちゃんを見つめてた。窓の外から聞こえてきたチチチッという鳥の鳴き声にハッと我に返る。

 

「ご、ごごごごめんなさい渚砂ちゃん」

 

 見つめ終わると急に込み上げてきた恥ずかしさから逃げるように玉青は両手で顔を覆い隠した。

 

「わ、私のほうこそごめん。つい目が合ったから」

 

 意味不明な言い訳をしつつ顔を逸らす。さっきまでは全然恥ずかしくなかったのに今はもう目を合わせるなんてとてもできない。顔だけじゃなく全身がカアッと熱くなった。

 

「膝枕って思ってたより恥ずかしいかも」

 

 素直な感想がポロリと口から零れた。だから玉青ちゃんは言い出せなかったのかな。でもこれなら言えないのも納得かも。

 

「私も知らなかったんです。こんなにドキドキするなんて」

 

 いまだに顔を覆ったままの玉青ちゃんが呟いた。あれ?いま…。

 

「玉青ちゃんもドキドキしたのっ!?」

「ということはなぎさちゃんも?」

 

 お互いの顔を確認しようとした私たちは再びパチっと目があって動きを止めた。あわわわわわ。今度は二人してすごい勢いで顔を逸らす。

こんなになっちゃうなんて膝枕って凄い…。束の間の静寂が過ぎると玉青ちゃんは気まずそうにモゾモゾと身体を動かし始めた。

 

「あのっ!そ、そろそろ…起きますね」

「あっダメだよもう少し休まなきゃ」

 

 玉青ちゃんに休んでもらいたい一心で私は手を動かした。すると━━━。

 

「えっ?渚砂ちゃっ━━━んんんっ!?」

 

 身体を起こそうとしたとこを無理に引き止めようとしたものだから玉青ちゃんはものの見事にバランスを崩し、ドサっと着地した。

私の太ももに…下向きで。

 

「うわぁあああああ。た、玉青ちゃんっ!?」

「ん~~~渚砂ちゃん離しっんんーー!?」

 

 驚いて押さえつけちゃったせいで玉青ちゃんは私の太ももの間に挟まり必死にもがいていた。離せばいいはずなのに気が動転しててますます手に力が入ってしまう。

 

「んっ。ちょっ、やだっ玉青ちゃんってばくすぐったいよ。んっ。離れてってば」

 

 吐息が太ももに掛かって変な声が出ちゃった。は、恥ずかしい。先程とは全く別の種類の羞恥心によって再び身体がカアッと熱くなった。

 

「だって渚砂ちゃんがおさえっ━━━ん~~!?」

 

 ますますめり込んでいく玉青ちゃんの頭はずりずりと上の方へとズレていき、気付けばスカートのめくれ上がった私の…えと…そのぉ。

 

 パ、パパパパパパンツに当たって。

 

「わわわわわわわダメーー。ダメダメッ。ダメーーーー。玉青ちゃん息するの禁止っ、禁止だから。っていうか玉青ちゃんどこに顔押し付けてるのぉーーーー」

(こ、こここれって渚砂ちゃんのパンツが…目の前に)

 

 それに息をするなと言われても、もがけば酸素は失われるわけで…。そうなれば息を吸うのは生理現象なわけで…。そんなことを考えつつ玉青は思いっきり息を吸った。

 

「あーーーーー。ダメって言ったのに玉青ちゃん今思いっきり息吸ったぁーー。信じらんない。玉青ちゃんのバカバカバカーーー」

「わ、わざとじゃないんです。不可抗力ですってば。信じてください渚砂ちゃん」

 

 必死に手をバタつかせようやく脱出した玉青は身体の前で両手を振って無実をアピールした。しかし、渚砂は警戒の目を向けたままだ。

手でガッチリとスカートを押さえつけやや涙目になっている。

 

「━━━玉青ちゃんのケダモノッ━━━」

「うっ」

 

 後ずさる玉青ちゃんの一挙手一投足を監視しながら私はある重大な事項について考えていた。これっばかりは尋ねないわけにはいかない。乙女の尊厳が懸かっているのだ。

 

「匂い」

「えっ?」

「に・お・い。まさか玉青ちゃん匂いとか…嗅いでないよね?」

 

 とっても大切なことだ。キッと玉青ちゃんに鋭い視線を送り尋問する。

 

「どうなの?玉青ちゃん」

「ど、どうって言われても」

(そりゃあ呼吸はしましたけど…)

 

 私の剣幕に恐れを抱いたのか、玉青ちゃんはじりじりと後退を続ける。

 

「ちゃんと答えて」

「か、嗅いで…ません」

 

 明らかに歯切れの悪い回答。それに加えて目を逸らしこちらを見ようともしない。これは、どう考えても…。

 

「息…してたよね?思いっきり」

 

 いくら玉青ちゃんといえど流石においたが過ぎる。私だって怒らざるを得ない。

 

「呼吸しないわけにいかないじゃないですか。あれでも一生懸命抑えてたんですよ」

「だってすっっっごく恥ずかしかったんだもん」

 

 今だって思い出すとカアッて身体が熱くなっちゃう。それくらい恥ずかしかった。

 

「だ、大丈夫ですよ渚砂ちゃん。安心してください、誰にも言ったりしませんから。二人だけの秘密です。ねっ?」

「わざとじゃ…なかったんだよね?」

「もちろんじゃないですか」

 

 大袈裟に頷きながら玉青ちゃんがじわりと近付いてくる。シャーッと威嚇する猫でも相手にするみたいにそろりそろりと。

 

「うん、わかった。玉青ちゃんがごめんって謝ってくれたらそれで終わりにする」

「渚砂ちゃんっ」

 

 私の言葉にパァッと玉青ちゃんの顔が輝いた。別に私だって玉青ちゃんが嫌いになったわけじゃない。ちゃんと仲直りして明日からも楽しく暮らしたい。玉青ちゃんを許してハッピーエンド。それが一番だ。

 

「ごめんなさい、渚砂ちゃん。私が悪かったです。もうあんなことしませんから機嫌を直してください」

 

 よしっ!私も玉青ちゃんに謝ろう。

 

「ううん、私の方こそごめんね。押さえつけちゃったから苦しかったでしょ?」

「全然平気です。たしかに苦しかったのは事実ですけど、

 ━━とっても良い匂いがしましたから━━」

 

 最後の最後で玉青ちゃんは口を滑らせた。両手で小さなガッツポーズまでしながら…。全然ロマンチックじゃない感じに時が止まった後、私は玉青ちゃんに冷たく言い放った。

 

「今日はもう、玉青ちゃんとは口を利かないから」

 

 縋りつく玉青ちゃんを振り払い、私は隣室の二人に教わったバリケードを築くべく行動を開始した。もちろん翌日まで一切喋らなったのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




※改行だけ入れました。





 二日連続での更新と言うこともあり短めとなっております。前回が静馬様と千華留ちゃんのオトナな雰囲気のやり取りだったので今回はひたすら甘々な展開となっております。というわけで渚砂ちゃんと玉青ちゃんがひたすら部屋でイチャイチャしてる回でした。渚砂ちゃんがさりげなく足音だけで玉青ちゃんを判別してましたね。可愛いです。
 どうなんでしょう、こういう明るい雰囲気の話のほうがいいでしょうかね?
元カノが出たりとかってのはウケなそうな気も…。千華留ちゃん可愛いと思うのですが。


 書いてて気付いたのですが、玉青ちゃんよりも渚砂ちゃんの時の方が書きやすい気がします。元気で活発系というか、躍動感溢れるというか、踊っている感じがします。動かしやすいってことでしょうかね。アニメ版で渚砂ちゃんが色んなキャラから愛されてたのも納得という感じです。

 次回も読んでいただけたら幸いです。以上です。



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