アストラエアの丘で   作:クラトス@百合好き

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■あらすじ
 渚砂と玉青の2人に隣室の紀子と千早も加えた合計4人でのお茶会。今回は千早お手製のお菓子が食べられるということもあり開催前から盛り上がる参加者たち。しかし紀子の不用意な発言のせいでなにやら不穏な空気になってしまう。不安を残しつつも開催されたお茶会は波乱の展開が待っていて?
 果たしてミアトル随一の仲良しコンビを待つ結末とは!?


 仲が良すぎてトラブルメーカーな紀子と千早の人騒がせな一日をギュッと3話でお届けします。


■目次

<Dear紀子>…竹村千早視点

<カップケーキは雄弁で>…涼水玉青視点

<返信>…水島紀子視点


第5章「ごちそうさま」

<Dear紀子>…竹村千早視点

 

気付けばいつも隣に紀子がいた。幼稚園の時も、小学校の時も。

そして中学に上がって発表されたいちご舎の部屋割りでも紀子と一緒だった。

部屋割りが記載されたプリントを見た時は二人して抱き合って喜んだっけ。

私にしては珍しくはしゃいでぴょんぴょん跳ねまわったのを覚えている。

あれからもう3年か。

あっという間だった気もするし、そうでもなかった気もする。

ただ変わらないのは今も私の隣には紀子がいるということだ。

 

 

 

「今日は弓道部の朝練がある日でしょ。よかったらこれ、朝練の後お腹空いたら食べて」

「おおっ!ありがと。朝食食べ過ぎると動けないし、かと言って軽くしてもそれはそれで動けないしで難しいんだよね~」

「試しに甘さ控えめにしてみたから糖分も多少はマシなはずよ」

 

 私からクッキーの包みを受け取った紀子はそれをカバンの中にしまい込んだ。相変わらず荷物が多い。まぁ弓道部だから仕方ないと言えば仕方ないけど、私だったら絶対にめげてると思う。

 

「そうそう千早。明日のお茶会のお菓子、しっかり頼んだわよ!隣の二人がビックリするくらい美味しいやつ、よろしくね」

「まったくもう。自分は作らないくせに安請け合いして~。考えるの大変なのよ」

 

 お茶会とは隣室の玉青さんと渚砂さんが持ち掛けてきた秘密のイベントのことだ。なんでお茶会が秘密のイベントかって?まぁ聞いて下さいよ。注目はその開催時間。なんと消灯時間を過ぎてから見回りのシスターを避けつつひっそりと行うのだ。もちろんバレたらまずいけど、バレなきゃいいわけで…。時には布団を被ってやり過ごしたりとこれがなかなかにスリル満点で面白かったりする。美味しいお茶とお菓子にスリルが加われば自然と会話も盛り上がるというわけだ。

 

 お茶はいつも玉青さんが美味しいのを淹れてくれるから、お菓子の用意は専ら他の参加者の担当ということになる。参加者は私と紀子以外にも4人ほどいて、ミアトルの1年生が一人に、いつの間に仲良くなったのかスピカの子が三人だ。私たちは残念ながら紀子の朝練の関係でそう頻繁に参加できないけど、今回のように都合が合えば参加することにしている。

 

 明日は私と紀子の参加5回目ということで、その記念にと紀子がお菓子を自作して持っていくと言い出したのだ。私に相談もせずに。まぁ私も料理部に入っているからそれくらいなら…とOKしてしまったわけなんだけど。実はまだ…何を作るのかも決まってなかったりして…。

 

「ねぇ紀子。あんたは何か食べたいものある?」

「う~ん。今クッキー貰ったからクッキー以外なら何でもいいよ。千早のお菓子どれも美味しいし、何でも大丈夫じゃない?」

「はいはい、そりゃど~も。せいぜい頑張りますよ」

 

 何かコレってリクエストしてくれたらよかったんだけどなぁ~。

当てが外れた私は、いってきま~すと元気よく出ていった紀子を見送り、レシピノートを片手に何を作ろうかと悩み始めた。適当にめくってそのページのものでも作ろうかな?いやいや、隣の二人も食べるんだし。

 

 今回の参加者は私たちと隣の二人の計4人ということもあり多少手間が掛かっても何とかなりそうなのは幸いだ。これで8人分用意するとかになっていたらちょっと厳しかった。とはいえう~ん。意外と悩ましい。そんな感じで部屋の中を行ったり来たりしながらパラパラとノートをめくっていた私の手があるページでピタリと止まった。

 

「カップケーキかぁ~。これならお茶会でも食べやすいしいいかも。紀子の大好物だし」

 

 そうだ、これにしよう。ホイップクリームやチョコソースを添えれば味も変わるから飽きないし、なにより作り慣れてるから失敗する心配が少ない。たしかカップケーキ用の可愛らしい模様の型があったはずだからそれを使えば見た目も問題ないだろう。

 

 一旦作るものが決まってしまうと頭の中に次々と作業工程が浮かんでいく。料理ってそういうものだ。この作業量なら添えるソースをもう一つくらい増やしても大丈夫かな?なんて余裕まで出てきちゃう。今日試作して部のみんなに味見をしてもらっておけば明日の準備は万全になる。

 

「ようしっ。一丁頑張りますか」

 

 そこでふと私の中に疑問が浮かび上がった。前々から気になってはいたんだけどついつい聞きそびれてしまっていた疑問が。

 

「紀子ってなんでカップケーキが好きなんだっけ?」

 

 いつも美味しそうに食べていたのは覚えてるんだけど、なんで好きかはよくわかってない。まぁいいか。紀子の好物なのは間違いないし。

 

 隣の二人も喜んでくれるといいなぁ~。私はそう思いながらノートをカバンにしまうと材料のチェックのために学校へと急ぐのだった。

 

 

 

 

 

 

「あれ?お守りの位置が…変わってる」

 

 部室で着替えようとした紀子はある異変に気付いた。それはとても些細な変化。だけどとても大切なこと。弓を引く際に時折胸当てに引っかかって邪魔をしていたお守りの位置がいつの間にか直っていたのだ。

 

「な~んだ。ちゃんと私の背が伸びてたことに気付いてくれてたんだ。でもいつ直したんだろ?洗濯で渡した時かな。ほ~んと、何にも言わなくたって気付いてくれるんだからなー千早は」

 

 黙っていても親友が気付いていてくれたことに満足し、紀子の顔はついついにやけていた。

 

「以心伝心ってやつかな。まぁ私と紀子の仲だしね。ん~この分だと、お菓子作りは邪魔しないように引っ込んでたほうが良さそうかな?」

 

 

 

 

 

 

 くぅ~。さっきまでは晴れやかな気分だったのに…。紀子のやつ~。調理室でのチェックを終えて教室に来た私はまさかの事態に困惑していた。

 

「明日のお菓子は千早さん特製のスペシャルなもので、味もスイーツ店に引けを取らないからお楽しみにって。ねっ玉青ちゃん」

「ええ、まぁ。あの~紀子さんはそう言っていましたけど、そこまで凝ったものでなくて大丈夫ですからね?作る手間や材料費のこともありますし」

「た、玉青さんだって高い茶葉とか使っているじゃない。お互い様よ、お互い様」

 

 色々と心配してくれた玉青さんに精一杯の虚勢を張りつつ私の頭は紀子への恨みでいっぱいになっていった。

 

 まさか紀子が二人に対してこんな大法螺を吹いていたとは…。一体いつ言ったのかは知らないが私の身にもなるべきだ。そりゃあ料理部なんだし下手とは言わないけどさ。いくらなんでもハードル上げすぎでしょうが。ハードルの横の棒が見えないくらい遥か上空まで上がっちゃってる。渚砂さんは食べるの好きだし、玉青さんは育ちが良さそうだから美味しいもの食べ慣れてそうだし。

 

(紀子のやつが教室来たらとっちめてやる)

 

 そこまで二人に言ったからには紀子だってきっと手伝うつもりのはず。というかこれで手伝わないだなんて言ったら怒るわよ…紀子。

 

 それから少しして朝練を終えた紀子が教室に現れた。私がそんなことを思っているとは露程も知らないまま呑気に笑いながら。

 

「みんなおはよー。あっ千早、クッキー美味しかったよ。この調子で明日もよろしく。そうだ、あとお守りの位置ありが━━━」

「━━━ちょっと紀子。二人から聞いたわよ。あんたなんだってそんな大見得切ったのよ?プレッシャー掛かって大変でしょうが。まったくもう。今日の放課後調理室で待ってるからね?」

「えっ?なんで?」

「なんでって…。手伝いに決まってるでしょ。他に何があるのよ?」

 

 これはまさか、手伝う気ゼロ?いやいやいや、いくら紀子だって私に全部任せっきりなわけないはず。言うだけ言っておいて、じゃああとはよろしくだなんてそんなことは。

 

「あーごめん。部長に練習見てもらう約束しちゃってて、今日は無理かな」

「へ、へー。今日『は』無理なんだ」

 

 私の声のトーンに玉青さんの耳がピクリ、ピクリと反応している。どうやら私の心境を悟ったらしい。このままではまずいと思ったのかすかさず紀子のフォローに入る。

 

「まぁまぁ千早さん。どうか落ち着いて下さい。紀子さんだって今日はダメなだけで本番の明日はきっと、ね?」

 

 チラチラと紀子に目配せして合図を送る玉青さん。相変わらず気配り上手で渚砂さんが羨ましく見えてきた。うちの紀子も少しくらいは見習ってくれないものかしら。

 

「えっと…。明日も、練習…かな」

「紀子っ!?あんたまさか一切協力しないつもりじゃないわよね?

「な、なんだよ~。だいたい隣に居ても私することないし、邪魔なだけでしょ」

「信じらんない。あんだけ渚砂さんと玉青さんに言っておいて自分は知らんぷりってこと?」

「知らんぷりじゃなくて千早を信用してるってこと。任せて安心っていうか」

「あんたってばすぐああ言えばこう言う。こういう時に限って口達者なんだから」

 

 自分でも分かってるんだけどこうなってしまうと私たちはもう止まらない。フォローしようとしていた玉青さんもお手上げ状態で、ただ見つめるばかりだ。ほんとになんでこんなことに…。私と紀子は仲良いはずなんだけどなぁ。

 

「と、とにかく。私が色々お膳立てしてあげたんだから、千早は頑張ってお菓子作ってくれればいいの!」

「お、お膳立てですってぇ?紀子っ!あんたそれ本気で言ってるの?」

 

 さすがにこれにはカチンときた。前から紀子は自分勝手で無責任なところもあったけどここまでじゃなかったのに。いくらなんでも調子に乗り過ぎだ。

 

「千早だったら美味しいの作って当たり前でしょ?とーぜんよ、とーぜん」

「へ、へ~。随分評価してくれてるのね。ありがとう」

 

 ワナワナと私が震えてることにも気づかず無神経なことを言い続ける紀子。そろそろ私も限界だ。

 

「そうよ。私が評価してあげてるんだから感謝しないさいよ。ち・は・や」

「光栄だわ。紀子にそこまで言ってもらえるなんて。明日は頑張るから楽しみにしててね。の・り・こ?」

「あ、あの私で良ければ明日の放課後手伝いに行きますよ?そうだ、渚砂ちゃんも調理室行ってみませんか?まだ行ったことなかったですよね?」

「えっ?う、うん。そ、そういえば調理室行ったことないからこの機会に行ってみたい…かも」

 

 流石にまずいと思ったのか再び玉青さんが渚砂さんも巻き込んでの鎮火を試みてくれる。でも申し訳ないけど手遅れだ。もう既にマグマがドカーンと吹き出してしまっている。紀子だって分かってるはずだ。私は紀子にお灸をすえるべく密かに決意した。

 

「ありがとう二人とも。なんだか私たちの喧嘩に巻き込んじゃって。でも明日は私一人でやるから大丈夫よ。安心して頂戴」

 

 私は二人の申し出を丁重に断った。なんでかって?ちょっと良いこと思いついちゃったんだもの。紀子に向けたとっておきのサプライズを。そのためにはお茶会参加者がいない方が好都合だ。そう思うとなんだか楽しくなってきてしまった。

 

 なにせ作るのは紀子の好物のカップケーキ。これを利用しない手はない。先程同様に頭の中でレシピを組みあげていく。目指すは見た目が寸分違わぬ塩たっぷりケーキ。私から紀子への戒めを込めたとっておきのメッセージだ。

 

 覚悟してなさい紀子。お望み通りとっておきのお菓子を振る舞ってあげるから。ふふふふふふふふ。

 

(ああ、千早さん。全然目が笑ってない。これは…波乱の予感ですわ)

 

 

 

 

 

 

 

<カップケーキは雄弁で>…涼水玉青視点

 

 結局何もできないままにお茶会当日の夜を迎えてしまいました。

 

(大丈夫でしょうか、千早さん。正直心配なのですけど)

 

 もしもの場合に備えて一応日持ちするお菓子を用意してはあるが、千早さんがちゃんと作ってきてくれるに越したことはない。というかそうであって欲しい。今日見た限りでは険悪なムードではなかったけど、あまり自信はない。どうみても紀子さんに対して不満を募らせていたから変な風に爆発しないといいのですけれど。

 

「楽しみだね~玉青ちゃん。千早さんどんなお菓子作ってくるかな?」

「渚砂ちゃんったらさっきからそればっかりですね」

「だって待ち切れないよー。紀子さんすっごくお美味しいって自慢してたし」

 

 渚砂ちゃんは今日の二人を見て少し安心したのかすっかり警戒モードを解いてるみたい。私の考えすぎなんでしょうか?

 

 仕方がないのでとりあえずは二人を迎える準備に専念するとして…。小さなテーブルの上には4人分のカップと取り分けるためのお皿。沸かしたお湯とティーポット。そしてとっておきの茶葉は少しでも良い雰囲気になればと奮発した逸品。普段の茶葉だと紀子さんに申し訳ないというのもありますけど…。

 

 チラリと時計に目をやるとそろそろ待ち合わせの時刻。とりあえずこちらの準備は問題なし。後は二人を待つだけだ。

 

 そして渚砂ちゃんと二人で息を潜めて待っていると、コンコンッとドアをノックする音が。

 

「あっ、二人かな?」

 

 小さな声でコソッと話しかけてくる渚砂ちゃんをシーッと制しながら様子を窺います。すると今度はコンコンコンと短く3回。どうやら大丈夫みたい。ホッとして渚砂ちゃんに合図をします。

 

「開けていいですよ渚砂ちゃん」

「うんっ」

 

 渚砂ちゃんがそっと扉を開けるとそこには二人の姿が。千早さんの手には大き目の袋が下げられている。今回のお菓子に違いないけどたくさん作ったのだろうか?それとも一つ一つが大きいとか?そんな予想をしつつ二人を部屋の中へと迎え入れた。

 

「こんばんわ~」

「お邪魔しま~す」

 

 シスターに見つからないうちに扉を閉めてとりあえずは一安心。

 

「やっぱり合図があると便利ね」」

「うんうん。ドア開けた途端にシスターと鉢合わせとか嫌だもん」

 

 千早さんの言葉に渚砂ちゃんが頷きながら答えた。夜間はシスターが見回りに来ることもあるのでその対策としてさっきの合図を考えたのだ。ノックの音を利用したもので最初に2回、そのあと3回するのが決まりになっている。こういうのも気分を盛り上げるのに一役買ってたりで意外とバカにできない。

 

 それにしても千早さん落ち着いている。どうやら私の心配は杞憂に終わったみたいだ。

 

「さぁ席についてください。今お茶を淹れますから」

 

 テーブルの周りに用意した4つのクッションにそれぞれ腰掛ける。

私がティーポットにお湯を注ぎ、しばらくして紅茶の良い香りが部屋に広がっていくと千早さんがさっそく反応してくれた。

 

「良い匂いね。玉青さんのことだから高い茶葉を用意してくれたんでしょう?」

「ふふふ。流石千早さんですね。気付いていただけると奮発した甲斐があります」

 

 千早さんの様子に安心したのと茶葉が無駄にならなかった喜びで私は嬉々として今回の茶葉を3人に紹介していく。今日の茶葉はとっておきのダージリンだ。芳醇な香りが特徴で渚砂ちゃんもお気に入りの品である。

 

「じゃあ私は千早の作ったお菓子でも出しておくかな。さーて千早は何を作ったのかなー?」

「ええっ?紀子さんはお菓子が何なのかご存知ないんですか?」

「わ、私はほら…手伝ってないし」

 

 なんだか悪い予感がしてきた。サプライズで驚かせるために内緒にしてるんだと良いんだけど…。

 

 私の不安など知る由もなく、紀子さんのジャーンという控えめな音量での掛け声と共に袋が開けられた。

 

「わぁ~カップケーキだ。千早、私の好物にしてくれたんだ。ありがとう千早っ!」

 

 そう言うなり、紀子さんは千早さんの手を取ってはしゃぎだした。なかなかの喜びっぷりである。作った千早さんも少々驚いていた。それほどの好物なんだろうか?

 

「えっ?ええ。(まさかこんなに喜ぶなんて…)」

「ねぇねぇ玉青ちゃん。この包装の紙も可愛いね~」

「ええ。こんな模様のまで売ってるんですね」

 

 渚砂ちゃんが言うようにカップケーキは色鮮やかな包みで着飾っており、袋の中にちょこんとお上品に佇んでいた。横に置かれた入れ物の中身はクリームか何かだろうか?一目で力作であることが分かる顔ぶれである。

 

「紀子さんはカップケーキがお好きなんですね」

「えへへ。まぁね」

 

 そう短く答えたけどさっきの喜びようといい、このはにかんだ笑顔といい、相当思い入れがあるに違いない。千早さんもわざわざみんなに内緒にしてまで紀子さんの好物を作ってあげるなんて、なんて可愛らしいんだろう。素直に言えないから仲直りの証にお菓子をというわけだ。ふふふ。これなら安心して食べられますね。

 

 正直勝手に気を張ってたものだからお腹ペコペコだ。今なら食欲旺盛な渚砂ちゃんとだって良い勝負出来るかもしれない。

 

 さっそくお皿に取り分けようとすると千早さんからストップが掛かった。

 

「私がやるわ。ケーキ自体も味が何種類かあるから被らないようにしないといけないもの」

「すっご~い。付けるソースもあるのにケーキ自体も味が違うんだ~。まるでお店みたいだね、玉青ちゃん」

「ええ。これ作るの大変だったでしょう?」

「まぁ、意外とどうにかなるものよ。一人でもね」

 

 あれ?最後の部分だけやけにはっきりと聞こえたような。やっぱり根に持っているんだろうか…。いやいや、きっと気のせいだ。

 

 とりあえずお菓子の方は千早さんにまかせ、私は紅茶をカップに注いでいく。うん、今日も美味しそうだ。私がカップを渡すと渚砂ちゃんが各自の前へと置いていってくれる。

 

「二人共仲良いね~。コンビネーション抜群じゃない」

 

 紀子さんから茶々を入れられつつも配膳が完了すると、机には紅茶とお菓子が勢揃いしこれぞお茶会といった様相を呈した。なかなかに豪華なビジュアルで、その様子にしばし見惚れてしまうほどだ。

 

「今日は華やかだね~」

「千早さんのカップケーキのおかげですね」

「あら、玉青さんが用意したこのティーカップだって素敵よ」

「えへへ。千早のカップケーキ楽しみだな~」

 

 なんて4人で感想を述べつついただきますの合唱をして、いざお茶会スタート。

とりあえず紅茶に口を付けていると紀子さんからこんな提案が。

 

「まずは玉青さんと渚砂さんが食べてみてよ。千早のカップケーキは絶品なんだ。だから是非二人に食べて欲しくてさ。きっと驚くよ~」

「食べ方とかは気にせず好きなように食べてね。いきなりホイップクリーム付けて食べるのだってアリよ」

 

 なるほど。でもせっかくだからプレーンなものをそのまま食べてみたい。そう思って手に取るとどうやら渚砂ちゃんも同じ考えだったようだ。せーので食べようかと思ったら渚砂ちゃんは口を開けて一足先にパクッとかぶりついてしまう。渚砂ちゃんずるい。

 

「んーーーー。おいし~~~」

 

 渚砂ちゃんが驚きの声を上げる。そのまま間を置かずにパクッパクッと追加で2口も。それだけ美味しかった証拠だろう。渚砂ちゃんの顔を見てるだけで美味しいのが伝わってきて、じわりと唾液が溢れてくる。遅ればせながら私も1口っと。

 

「ん~」

 

 食べてみるとフワリとした食感と共にほのかな甘さが口の中に広がっていく。そのままでもとっても美味しい。外からは分からなかったけど生地の中央にはナッツが隠されていて、それがサクサクと違う食感を生み出して良いアクセントになっている。ナッツ自体もとても香ばしく風味豊かなことから、事前にひと手間加えられていることは間違いないだろう。

 

 カフェで出したって恥ずかしくない文句なしの逸品である。

 

「たまりませんわ~。千早さんのカップケーキがこんなにも美味しいなんて」

「うんうんっ。紀子さんが自慢したくなるのもわかるよ~」

 

 私も渚砂ちゃんもすっかり千早さんのお菓子の虜になってしまった。恐るべし、ミアトル料理部。渚砂ちゃんの胃袋を掴むために私も弟子入りしようかな?な~んて。

 

「ちょっと照れるわよ~。二人とも褒め上手なんだから」

「凄いでしょ?千早のカップケーキ。作ってくれる度に改良されてて、どんどん美味しくなっていくんだよ~」

「ほら紀子。私たちも食べましょうよ」

 

 そう言ってまずは千早さんがぱくり。味見していても美味しいものは美味しいようでその顔を綻ばせた、ように見えた。その時の私には。

 

(さぁ紀子。次はあなたの番よ。私の特製ケーキをじっくり味わうといいわ)

 

 まさかそれが悪い笑みだとはまるで知らないまま、紀子さんは大きく口を開けて…ガブリッ。きっと疑うことなんて考えていなかっただろう。でもその顔はすぐに苦悶に歪んでいって…。

 

「んんーーー!?」

 

 明らかに美味しいものを食べた時とは違う悲鳴を上げながら紀子さんが仰け反った。

 

(ようしっ!)

 

 千早は心の中で歓声を上げつつ他の3人からは見えないように机の下で小さなガッツポーズを作る。

 

(どうよ塩たっぷりの特製ケーキの味は。他と見た目が変わらないよう作るのに随分苦労したんだから。たくさん驚いてくれなきゃ意味がないわ)

 

 何が起きたのか分からない紀子さんは慌てて紅茶を口に含みどうにか流し込む。

 

(なにこれ?めちゃくちゃしょっぱいんだけど。え?なんで?)

 

 千早さんは悪魔の笑みを浮かべていたものの、驚いた紀子さんに顔を見られると、あっという間にどうしたの?とでも言いたげな表情を浮かべた。さっきまでのほほんとしていた自分が恨めしくなってくる。私としては止められなかった後悔半分に、二人への呆れが半分といったところか。

本当にこの二人ったら…。

 

(千早さん、紀子さんの分のケーキにだけ何か細工してますね。見た目は他とまったく変わらないのに…)

 

 見た目が違えば怪しむに決まっている。食べ慣れてる紀子さんなら少しでも異変を感じたら当然口にしないはずだ。にもかかわらず食べてしまったうえにあの仰け反りよう。とんでもなく無駄に手の込んだイタズラだとしか言いようがない。

 

 そんなことするくらいなら部屋で会話でもすればいいのに、と思ったのは内緒だ。

 

「ちょ、ちょっと千早?これどういうことよ。味おかしいんだけど」

「そんなことないわよ。今日のは自信作だもの。(紀子の分以外は…だけど)だってその証拠に渚砂さんと玉青さんは美味しいって食べてるじゃない。ねぇ?」

「ええっ?」

 

 まさか私と渚砂ちゃんを巻き込むつもりなんだろうか。まぁ同じ部屋に居る時点で巻き込まれてはいるわけだけど…。

 

 クククといかにも悪そうな笑みを湛えつつ千早さんは紀子さんに見せつけるようにケーキを食べ進める。一方の紀子さんは口をパクパクさせて何か言おうとしているが言葉が出ないらしい。

 

「あんたの舌がおかしいんじゃないの?それじゃ味見係も務まりそうにないわね」

「な、なにをー!言ったわね千早」

 

 紀子さんはぐぬぬとあからさまに悔しそうな顔を浮かべながら手に持ったケーキを見つめ、自分の舌がおかしいのか?といった様子でしきりに首を傾げた。

 

 そして意を決したようにケーキを見つめるとおもむろに口に含み…。

 

「んー!?んんーー!?」

 

 先ほど同様に悲鳴を上げながら仰け反った。紀子さんには申し訳ないけどリプレイ映像を見ているような気持ちになる。少し面白い。いえ、もちろん笑ってませんよ?決してそんなことは…。決して。ええ、笑ったのは渚砂ちゃんと千早さんだけですから。

 

 私が紀子さんのカップに紅茶を注ぎ急いで手渡すと、紀子さんはそれをぐぐぐーっと豪快に飲み干した。少々茶葉が勿体ないけどこの際仕方ない。正直千早さんの方を見るのは怖かったけど、チラリと覗くとざまーみろと分かりやすいくらいに得意気な表情を浮かべている。もし天狗だったら鼻が相当伸びていたに違いない。

 

 どうにかこうにかケーキを飲み込んだ紀子さんははぁはぁと肩で息をしながら千早さんに詰め寄った。

 

「やっぱりーーー。千早あんた私のにだけなんかしたわね~」

「ああ~、もしかして一人で作業してたから砂糖と塩を間違っちゃったのかしら?気付けばよかったんだけどごめんなさいね。悪気はないのよ」

 

 とてつもなく悪意たっぷりのケーキを食べさせつつサラッと言いのける千早さん。怒らせるととんでもなく怖いタイプかも…。

 

「ゆ、許さないんだから」

 

 当然紀子さんは怒り心頭で早くも臨戦態勢に入る。ああ、楽しいお茶会になるはずが…。

 

「許さないだ~?それはこっちのセリフよ。紀子が悪いのよ?人の苦労も知らないで無責任においしいの作れーだなんて言うから。挙句の果てに美味しくて当然ですって?それで手伝うわけでもないのにふんぞり返ってるんだからほんと失礼しちゃう。よくそんなこと平然と言えるわね。私も久々に頭にきちゃったわよ。紀子のことなんてもう知らないだから」

 

「だ、だからってカップケーキに細工しなくたっていいじゃないかっ!千早のバカッ」

「別にいいでしょ。カップケーキくらい」

「カップケーキ『くらい』ってそれ本気で言ってるのっ!?」

「本気も本気よ。何よっ!ちょっと好物を悪戯に使われたくらいで」

 

 なんだろうこの感じ。なんだか引っかかる。いくら好物とはいえ千早さんが言うようにここまでこだわるものだろうか?一方の千早さんはよっぽどお怒りらしく取り付く島もない。紀子さんは一体どう反撃するんだろう?と思っていると…。

 

「うっ…、うう…」

「えっ?の、紀子さん…?」

 

 紀子さんは俯いて身体を震わせていた。私はてっきりすごい剣幕で言い返すものだと思っていたから、これに驚くなと言う方が無理に決まっている。あの紀子さんが言い返すどころか涙目になっているなんて誰に想像が出来ただろうか。この姿には千早さんもビックリして呆然としている。それはそうだろう。千早さんだっていつもみたいに言い返してくるのを想像していたはずだ。

 

 いやむしろ千早さんだからこそ、そういう姿しか想像していなかった可能性もある。それがまさかこんなことになろうとは…。

 

「紀子…?ちょっと!なによ、シュンとしちゃって。いつもの威勢はどうしたのよ?言い返しなさいよ。泣いてるフリしたって私はごまかされないんだから。いつもみたいに、ほら早く!」

 

 その証拠に千早さんの言葉にいつものキレがない。それどころか最後の部分なんてなんとか聞き取れるかどうかという音量だ。それとは対照的に今度は黙っていた紀子さんが一気にその思いを爆発させた。

 

「バカッ!バカッ!千早のバカーーッ!いつも感謝してるわよ。無責任なんじゃなくてそれは千早の料理の腕を信頼してるからよ。千早の料理で美味しくなかったことなんて一度もないじゃない。だから信じてたのに。手伝いだって私が手伝うより千早一人の方がよっぽど手際がいいから、だから邪魔しないようにって…私、私」

 

「の、紀子?」

 

 溜め込んだ分その勢いは凄まじくて簡単には止まらない。

 

「今回だって二人に千早のお菓子を食べて欲しくて、それで一生懸命アピールしたんだよ。私二人に自慢したかったの。千早のお菓子こんなにおいしんだよって、そう…自慢したくて。だから袋から出てきたのがカップケーキだった時私嬉しかったんだ。絶対に美味しいって分かってるから。でもそれ以上に…。こういう時に私の好物を作ってくれたことが一番…嬉しかった。気持ちが通じてるんだって思った。それなのにこんなの…。ひどいよ千早」

「確かにあんたの好物なのは知ってたけど。でもそれは数ある内の一つでしょ?」

「違うっ!私にとっての千早のカップケーキはただの好物じゃない。想い出の…味なの。他の誰かが作ったやつでも、お店で売ってるやつでもなくて。千早が作るカップケーキが私の好物なの。千早は忘れちゃったの?」

「お、覚えてないわよっ!いつの話よ。まさか幼稚園の時とか言わないでしょうね?」

 

 千早さんの言葉に紀子さんはただ黙って首を振った。

 

「1年生の時。千早が料理部で習ったんだって言って初めて作ってくれたのがカップケーキだったんだよ。いちご舎でも同じ部屋になれてよかったねって、そのお祝いに。何回も失敗した中で一番出来が良かったやつだけど美味しくなかったらごめんねって…そう言って。今のに比べたら見た目も全然良くないけど、美味しかった。その時のカップケーキ、すっごく美味しかったんだ。味とかそういうんじゃなくて、千早が初めて私のためにって作ってくれた料理だったから。きっと黒コゲでも私は美味しいって答えてた。だから私にとって千早のカップケーキは特別なんだ。千早との思い出の味だから。だから、だから…」

 

(それで袋を開けた時あんなに喜んでいたんですね)

 

 千早さんは紀子さんがそこまでカップケーキに思い入れがあるとは知らずに悪戯に使ってしまったんだろうけど、紀子さんからすれば耐えられないことだったに違いない。きっと特別なものを穢されて悔しかったんだと思う。

 

「し、知らないわよっ!だってあんたそんな話一度もしてくれなかったじゃない。言ってくれなきゃ分かるわけないでしょ!理由はわからなかったけど、作ればあんたが喜んで食べてくれるから今まで何度も作ってたんでしょうが。言ってくれてたら、知ってたら、もっと一生懸命作ってあげたわよ。なんで言わなかったのよ。そしたら今日だって…。そうよ。今日だってなによ。いつも感謝してるだの、二人に自慢したかっただの。そうならそうだってもっとちゃんと言いなさいよ。あんたいつも余計なことばっか言う癖に大事なこと全然言わないんだから。勝手に通じ合った気になってるんじゃないわよ、このバカー!」

 

「だって千早なら気付いてくてるって思ってたんだもん。言わなくたって千早なら大丈夫だって思ったのよ。今朝だってクッキー用意してくれるし、お守りだって直してくれてたじゃない。いつもいつもいつも、何も言わなくたって気付いてくれてこっそりやってくれるから。千早なら分かってくれるって…」

「分かんない。あんたのことなんか全然わかんないわよ。いつだって紀子はこうして欲しいのかなって思って色々してたけど、本当は合ってるかどうか不安で。余計なことしてないかな?とか、嫌だったのかな?って聞きたかったけど聞けなくて。何かしてあげてもあんたニコニコ笑うだけで何にも言ってくれないから、本当は何が正解だったのかわからないこともあって…」

「千早がいつもそうやってくれるから私勘違いしちゃったじゃない。千早は…私に優しくしすぎだよ」

「紀子だって…私のこと信じすぎよ。ちょっとは疑いなさいよ。ほんとにバカなんだから」

 

 お互いが秘めていたことを口にしあうと、堰を切ったように言葉が溢れてきて。相手の言ってることも理解できるから涙だってもう止まらなくて。大切だから、傍に居すぎたからこそ伝わらないこともあって。部屋には二人のすすり泣く声が木霊した。

 

 私と渚砂ちゃんは少しでも二人が落ち着けるようにと、二人の背中をさすってあげる。二人がひとしきり泣いた後、千早さんはすくっと立ち上がりこう言った。

 

「部屋に戻って忘れ物取って来る」

「忘れ物?」

 

 私と渚砂ちゃんがなんだろう?と顔を見合わせるが見当もつかない。そのうえ千早さんは私たちに構うことなく部屋を飛び出してしまった。私たちは仕方なく紀子さんの背中をさすりながらその帰りを待つことにする。幸い千早さんはすぐに戻ってきた。手に何やら袋を抱えて…。

 

 その袋を千早さんがスッと紀子さんに差し出したのを見て、私にもようやくその中身の見当がついた。

 

「ほら、ケーキ。紀子の分。あんたが途中で謝ってきたらちゃんと美味しいの食べさせてあげようかと思って作っておいたの。別に仲直りの印ってわけじゃないけど、あんたの…その、好物みたいだから」

「いい…の?私、千早の苦労とか知らないでいつも好き勝手ばかり言ってたのに」

「作っちゃったものはしょうがないでしょ。食べなきゃ勿体ないし」

 

(まったく、素直じゃないですね、千早さんも。普通に渡せばいいのに。でも、その方が二人らしいかも)

 

 さて、どうしたものか。二人のせいで私と渚砂ちゃんもまだ全然ケーキを食べてないし、紅茶も冷めてしまっている。もちろん二人だって食べてないし、紀子さんに至ってはようやく本命のケーキが届いたという段階だ。そのうえ時間もかなり経過していて、日によってはお開きにするケースもある時刻ときてる。

 

(だけどまぁ、今日はもうヤケですわ。ええ、ヤケですとも)

「じゃあ紅茶を淹れなおしてお茶会を続けましょうか。せっかく紀子さんの分のケーキが届いたんですから」

「えっ?大丈夫なの?玉青ちゃん」

「もちろんです。こんな時はみんなでパーッと騒ぐのが一番ですわ。ね?そうでしょう?」

「ごめん二人とも」

「ありがとう」

 

 さっきまで泣いてた二人も少しずつ元気を取り戻し、ようやく笑顔を見せてくれた。やっぱりこの二人は笑っていてくれないとなんだか落ち着かない。

 

「ではもう一度。いただきます」

「「いただきまーす」」

 

 再開したお茶会は最初どこかぎこちなかったものの、次第にいつも通りのお茶会の雰囲気へと変わっていった。その間中紀子さんと千早さんは時折顔を見合わせては笑い合うの繰り返し。最後の方なんて肩を組んではしゃいでいた。

 

(まったく二人とも、世話がかかるんですから)

 

 私たちにも迷惑掛けたこと、少しくらいは反省したのだろうか?でもまぁ二人がこうして幸せそうにしていると、今日くらいは許してあげようかなんて気になってしまう。ほんとにずるいんだから、この二人は。きっとこれからも今日みたいな日を繰り返して絆を深めていくんだろうな。

 

 机の上に目を向けると空になったティーカップと綺麗に食べられたケーキの包み紙が仲良く鎮座している。とっておきの茶葉の出費は少し痛いけど、二人の笑顔に免じて今回限りの出血大サービス。そしてカップケーキは甘いけど、どこかちょっぴり苦いオトナの味だったかな?今日はもうお腹いっぱいでごちそうさまだ。

 

「紀子ってば食べ過ぎじゃない?それじゃ明日の朝ご飯食べられないわよ」

「あれだけ言ったのに千早のカップケーキ残すわけにいかないでしょ」

「じゃあ塩ケーキも食べる?」

「それは勘弁してよー」

 

 そんな二人に釣られて私と渚砂ちゃんも一緒に笑う。紀子さんと千早さん、仲直り出来て本当によかった。

 

「━━ごちそうさま━━」

「なんで二人を見ながら言ったの?玉青ちゃん」

「ふふふっ。二人を見てるとつい…ね?そう言いたくなってしまって」

(これからも仲良しでいてくださいね、二人とも)

 

 お互いのことを知り過ぎてそのせいで衝突しちゃうなんてちょっぴり妬けちゃう。トラブルメーカーなところもあるけれど、喧嘩してもすぐに仲直り出来ちゃう素敵で、そして愛すべき二人組。

 

 どうかこのミアトルの仲良しコンビが末永く幸せでありますように。そんな祈りを込めながらもう一度だけ心の中で呟いた。

 

 とっておきの…ごちそうさまを。

 

 

 

 

 

 

 

<返信>…水島紀子視点

 

 お茶会を終えた私たちは自分の部屋へと戻り早々にベッドで横になっていた。明日も学校はあるので何はともあれ睡眠は取っておかねばならない。身体をゴロンと転がし千早の方へと向くと千早はこちらに背を向けていた。まぁ、こっち向いて寝づらいのは分かるけどさ。

 

「千早~。起きてる?」

「起きてるわよ」

 

 ぶっきらぼうな声で返事が返ってきた。まだ少し怒ってるのかな?

 

「千早。今までごめんね」

「そーゆー話はもうおしまい。早く寝ないと明日に響くわよ」

「ちゃんと二人の時に言いたかったから」

「言っとくけど私はもう寝るから。だから声かけられても返事はしないわよ。いいわね?」

 

 そう言うなりわざとらしく布団をガバッと被ってしまった。あらら、こりゃ明日にならないと喋れないかな?

 

 それにしても隣の二人には結構恥ずかしいところを見られちゃったなぁ。喧嘩はいつものことだけど、今回ばかりは流石に…。明日とか顔を合わせづらいかも。

 

 千早はもうピクリとも動いていない。どうやら本当に寝るつもりみたいだ。はぁ~。今夜はもう少しだけ千早と喋っていたいんだけどな。どうすればいいかな?そうだっ!

 

「ねぇ竹村さん、起きてる?」

 

 私は久しぶりに千早のことを名字で呼んでみた。本当に何年か振りじゃないかってくらい久々だ。ずっと千早とかあんたとか呼んでた気がする。すると千早がモゾモゾ動いているのが見えた。ついでにクスクスという笑い声も。

 

「もう!何よそれ?笑っちゃったじゃないの。あんたに名字で呼ばれるのなんてくすぐったくて仕方ないわ」

「あはは。引っかかった~。もう寝たフリは禁止だからね」

 

 笑っちゃったことで観念したのか千早もこちらへ身体を向け、お互いベッドに寝転んだままで向かい合う。

 

「起こすためってのもあったけど、もう一度最初からやり直せないかな~と思ってさ」

「別に最初に戻る必要はないんじゃない?あんたと居た時間が無くなったわけでもないんだし、今まで通りで。お望みなら最初からでもいいけど…。どうする?水島さんは?」

 

 ちゃっかり名字で呼んでやんの。でもやっぱり千早に名字で呼ばれるのって変な感じ。たしかにくすぐったいや。

 

「千早がそう言うならそれでいいか。ねぇ千早…」

「なに?改まっちゃって」

「私とさ、これからも親友でいて欲しいんだ。ダメかな?」

「あんたにしては随分素直じゃない」

「だってほら。ちゃんと言わないとさ…。伝わらないかもしれないじゃない?だから言っておこうと思って。ミアトルを卒業してさ、大学行ったり就職したり、もしかしたらお互い良い人見つけて結婚して子供産んだりしてもさ、私と親友でいてよ。ずっとずっとず~~っと。忙しくてなかなか会えなくてもさ、会ったら笑って喧嘩して仲直りして。そうだ、たまにでいいからカップケーキも作って欲しいな~」

「いくらなんでも欲張りすぎよ。まぁ、紀子とならそれも楽しそうだけど。私たちってさ、他の人から見たらず~っとクラス一緒で部屋も一緒で、いわゆる腐れ縁ってやつじゃない?でも私今日思ったんだ。それはちょっと違うかなって。色々一緒だったのは確かに偶然だけど、それでも一緒にいることを選んだのは私なんだなって」

「千早って時々頭良さそうなこと言うよね~。でも納得かも。私も選んだんだね、千早の親友でいることを」

「そうよ。私たちは選んだのよ。他の誰でもなく、お互いを」

「そっか~。なんか安心したら急に眠くなってきちゃったよ」

「私も~。そろそろ寝ましょうか」

「じゃあ」

「ええ」

「「おやすみなさい」」

 

私の隣には千早がいた。幼稚園の頃からず~と一緒で、一度も離れたことがないから家族みたいに思ってた。

いつも私の世話を焼いてくれて、ちょっと口うるさい時もあるけれど私のことをとても心配してくれる。

どんな些細なことにも気付いてくれるから、たくさん甘えちゃって…。

照れくさくてあまり口には出来なかったけど、いつもちゃ~んと感謝してたよ。

今までありがとう。

いっぱい迷惑掛けた分はこれから頑張るから許してね。

今日みたいな日もあるけれど、どうかこれからも私の隣にいてください。

大好きな千早へ。親友の紀子より。

 

 




※改稿内容について。改行だけ入れました。内容はそのままです。




 いかがでしたでしょうか?今回は百合抜きで、女の子同士の友情がメインとなっております。アニメではそう多くない登場ながらも視聴者の心を鷲掴みにしたであろうミアトルの熟年夫婦こと紀子千早ペア。真剣に恋愛している子もいれば、今回のように友情で結ばれた親友の関係でいる子たちもいるよって示したかったのですが…。ちゃんと友情っぽく書けてますかね。一応自分では頑張ったつもりなんですが、百合として見ていただいてもそれはそれで嬉しいです。
 前回千華留ちゃんが言ってた交際始まっちゃいそうなペアの筆頭候補に見えなくもないくらい仲良いですのでもしかしたらこの先…なんて。


 さて次は二人の存在を一気に押し上げたアニメ14話のお守りに関するエピソード。やり取りはそんな長くないんですけど二人の魅力がギュッと詰まっていたシーンだと思います。そんなお守りですが…サラッと直ってましたね。二人を書くならお守り出したいな~と思ってたので登場させちゃいました。言わなくてもこんなに気付いてくれるんだったら、たしかに少し勘違いしちゃうかも。

 
 いや~毎回似たようなこと言ってそうですけど書いてみるとどのキャラも可愛いんですよね~。今回の紀子千早ペアも魅力的なのにその魅力を伝えきれない(場合によっては足引っ張ってるかもしれない)のが残念で仕方ありません。今回もあと少しあと少しと言いつつどんどん長くなってしまいました。二人の魅力が少しでも伝われば幸いなのですが…。そんなこんなで今回の後書きはここまでです。前回長かったのでほどほどにと。それでは~。

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