・IFポイント:もしヴラドが疑われてなくて、二十二話ラストシーンに間に合っていたら。
(書いてて設定との矛盾が発生した話なので、深く考えずに読んでください)
・若干のホラー
・ノリで書いたので、フォントによる演出有り。
――第一層 裏路地
――男は一人、無様に縮こまり、震えていた。
その後悔は、昨日の晩まで遡る。
……簡単な仕事だった。 一対一でも多分勝てるくらいのレベル差がある女を十人で捕まえ、地下ダンジョンに送る。 たったそれだけのハズだったのに!!
確かに標的に教会に逃げ込まれた時には焦った。 その教会に黒の剣士がいた事も焦燥を加速させた。
だがその心配は、女が一人でトボトボと俯きながら教会から出た事で霧散した。 霧散
――異常を感じたのは、女を裏路地に追い込み、ブロックで逃げ道を塞いだ直後。
死地に送るべく、隊員の一人に回廊結晶を寄越す様に声を掛けた。
――返事は、無かった。
疑問に思い、隊員の点呼を取ると、その隊員が居なくて。
代わりに、路地の隅に人形が――
――
不気味に思い、一先ず場所を変えようと判断した。
――後から考えれば、この時点で任務を放り出して逃げるべきだった。
誰かしらに後を付けられていると判断。 始末場やギルドホームの場所を悟られないよう、女が逃げられない様にブロックで囲みながら徒歩で園外まで出る事にして動く事数分。
最後尾にいた筈の隊員が、物音一つ立てずに人形に――
――
たちの悪い悪戯だと思った。
一瞬
念の為、隊員の一人を偵察に向かわせた。
けれど十分経っても帰って来ず、もう一人に向かわせたら、曲がって直ぐの死角にあったと言って、
この時点で、部隊は浮き足立っていた。
圏内にも関わらず抜剣する隊員すら現れ、先頭をズンズン進み始めた。
嫌な予感を感じ、呼び止めるも、遅かった。
曲がり角で姿が見えなくなった一瞬。
その一瞬で、抜剣していた隊員は――
隊員が次々と消え、人形に代わっていく。
余りの非常事態に、一先ず見晴らしの良い場所で対策を考えようとして、少しばかり高くなって丘のようになっている場所まで逃げた。
それが、いけなかった。
丘の中央にある木。
噂では稀に5コルで売れる木の実が落ちるらしい木に辿り着くと、その根本には、
慌てて人数を数えるも、今回は減っていない。
……いなかったが、内一人が気掛かりな事を口にした。
――『十人の小さな兵隊さん』、と。
どういう意味だと訊いた。 周りは開けた場所で死角が無いのも、人形があるのに誰も減っていない事実も、油断を助長した。
その隊員は、震える声で、「じゅ、『十人の小さな兵隊さん』は、」とまで言い、
――静まり返った周辺に、
ッ! ば、馬鹿な、圏内だぞ?!
有り得ないと思いつつも、急ぎ警戒するよう指示を出す。
けれど、その震える隊員は、突然笑い出した。
「何がおかしい!?」
「は、はは、ハハハハハ! 『6人の小さな兵隊さん、丘で遊んでたら1人が蜂に刺されて、残り5人』! 俺は六人目だ! 俺は六人目だ!!
ハハ、ハハハ!
――もう嫌だぁぁぁぁぁぁああああ!!!」
「お、おい! 待て!?」
その隊員は発狂したように叫びながら、走って町の闇に消えてしまった。
………これで、後5人。
もう形振り構っていられなかった。
捕まえていた女も放り、転移結晶でギルドホームのある黒鉄宮まで転移する。
これで安心だと思った。
もうこの際キバオウも裏切って、何処かへ雲隠れしようと思った。
ただ、そんな世迷い事は――
最後の転移エフェクトから現れたのが、
――気が付けば、以前逃げ帰る羽目になったダンジョンに潜っていた。
ここなら誰にも知られていない。 ここなら誰も急にいなくならない。 その筈だ。 その筈なのに!
一人減って、
有り得ない、有り得ない、有り得ない、有り得ない! 有り得てはいけない!!!
震えている、残り二人まで減った部下を叱責しながら、ダンジョンから出る。
犯人は、俺たちがあのままダンジョンを潜って逃げると考えているに違いない。 そうであってくれ。 そうに決まっている!!
人形を踏み壊している途中で気がついた、赤いマントに書かれた一文――『3人の小さな兵隊さん、動物園に歩いて行ったら熊に抱かれて、残り2人』。
だったら
走った。
必死に走った。
夜通し走った。
――疲れのあまり立ち止まると、朝日が顔を照らしていた。
後ろを見ても誰も居ない。 が、ギルド共通ストレージに俺宛のアイテムが送られたという表示が点滅していた。
「……なんだ、単に逸れただけだったのか! 全くビビらせやがって!!」
自然と声が大きくなる。
震える声を誤魔化すように、自分に言い聞かせる様に、大声で独り言を言いながらアイテムストレージを開き――
――出てきたのは、八つ裂きにされた人形と、黒焦げの人形。
辛うじて無事な背中に刻まれた詩は、『2人の小さな兵隊さん、日向ぼっこしてたら日に焼かれて、残り1人』。
「…………う、うわぁぁぁああああああああ!?!?」
散々走ったのも忘れ、人形を放り出してまた町を走る。
転移結晶の存在も忘れ黒鉄宮に駆け込み、俺たちが占拠している一室に逃げ込む。
カーテンも閉め、ライトも全て消し、限界まで身を縮こませながらクローゼットに隠れる。
ガタガタと震えながら、何時間経ったか。
……半日経っても何も起きず、次第に恐怖が薄れる。
大の男がクローゼットに隠れている事がバカらしくなってきて、次いで勝手に消えた九人の隊員への怒りが込み上げ、クローゼットの扉を蹴り開け――
「――ヒッ!?」
その光景に腰を抜かしていると、メッセージが届く。
半ば無意識にウィンドウを開くも、同層にいる事で送れる簡易メッセージで送り主は分からなかった。
内容は、――終わりの一節。
『――1人の小さな兵隊さん、1人になってしまって首を吊る。 そして――』
ゴクリと生唾を呑み、最後の一言を口にする。
「「そして、
………?! 誰だ!?」
自分以外の声が確かに聞こえ、ズッコケながらも慌てて振り返る。
けれど、誰もいない。 自分の気配すら分からない程の
――
もう一度、メッセージで送られた詩を読む。
「……は、はは。 自分で首を括れってか? 絶対やるかよ! 俺は解放軍だ! 俺たちは、最強なんだ!! あんなバケモノじゃない、俺たち人間がアインクラッドを攻略するんだ!!
その俺たちが、俺が首を吊る訳が………
……………ん?」
その時、恐怖のあまり一周周って冷静になった思考が、警鐘をならす。 絶対に見逃してはいけない違和感を見過ごしていると絶叫する。
――もう此処は、怪物と胃の中だと。
ガチガチと煩い自分の歯の音も無視し、人形が首を吊っている方を見る。
………何も、見えない。
カーテンの隙間からの日光で見えた筈の人形が、見えない!
代わりに視界に入るのは、頭一つ分高い所で瞬く――
――一対の青い星、と、横倒し、の、紅い、月――
「ヒッ―――――うあああああああぁぁぁああああああああ!?!?」
腰が抜け、それでも必死に、普段走るより速いんじゃないかと思うスピードで這いずりクローゼットに飛び込む。
これは夢だこれは夢だこれは夢だこれは夢だこれは夢だこれは夢だこれは夢だこれは夢だこれは夢だこれは夢だこれは夢だこれは悪い夢なんだ! 覚めろ覚めろ覚めろ覚めろ覚めろ覚めろ覚めろ覚めろ覚めろ覚めろ覚めろ! 覚めろよ、早く覚めてくれよっ!?
震えて上手く動かない手で、力一杯扉を閉める。
ガツっという音がなり――
「………あ、ぁぁあ、あ、ぁ………」
――閉まり切る直前。
そのスキマに、指が差し込まれる。
当然、扉は閉まらない。
「……く、来るなぁ!! 閉まれ閉まれ閉まれ閉まれ閉まれ閉まれ閉まれ、閉まれぇ!!」
――10人の小さな兵隊さん、食事に行ったら1人が喉につまらせて、残り9人
何処からともなくあどけない少女の声で、歌が聞こえる。
――9人の小さな兵隊さん、寝坊をしてしまって1人が出遅れて、残り8人
それは勿論、子供をあやす
――8人の小さな兵隊さん、デボンへ旅行したら1人が残ると言い出して、残り7人
それは、死神を喚ぶ『呪いの唄』。
――7人の小さな兵隊さん、薪割りしたら1人が自分を割って、残り6人
その唄が始まれば、誰も生き残れない。
――6人の小さな兵隊さん、丘で遊んでたら1人が蜂に刺されて、残り5人
最後の一人になるまで、死体すら残さず消えていく。
――5人の小さな兵隊さん、大法官府に行ったら1人が裁判官を目指すと言って、残り4人
そして、最後の一人になってしまえば、あと出来るのは祈るだけ。
――4人の小さな兵隊さんが、海に行ったら燻製ニシンに食べられて、残り3人
……唄う死神が、直々に殺しにやってくる。
――3人の小さな兵隊さん、動物園に歩いて行ったら熊に抱かれて、残り2人
そうなればもう、助からない。
――2人の小さな兵隊さん、日向ぼっこしてたら日に焼かれて、残り1人
あぁ、ほら。 何処までも無慈悲に冷酷に残酷に。 全力で抑えていた扉が、地獄の門へと早変わりする。
――1人の小さな兵隊さん、1人になってしまって首を吊る、そして――
異音を立てて扉がこじ開けられ、もう俺の身を守ってくれるものは何も無い。
「ま、まっで、まっでぐれ。 たすけ――」
巨大な手で頭を鷲掴みにされ、強引にクローゼットから引き摺り出される。
「たすけてくれ! 金でもあいてむでもなんでもだず! だか、だがらだずけ――」
「――もう詠んだのだから識っているだろう。 その唄の最後の一節を」
一瞬、引き摺る力が弱まる。
尤もその一瞬は、死刑宣告の為の一時でしかなかったが。
「―――
「ま、待っで! じにだぐない! じにだぐ――うあ“あ“あ“あ“あ“あ“ぁぁぁぁあ“――」
数分後
薄く西日が差し込む誰もいないその部屋には、
人形が一つ、小さな音で縄を軋ませていた――