IF仮装演算戦争:鮮血の伝承   作:カリーシュ

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第2話

 

 

 

 

 

悪魔――アルターエゴ:ブライアン・ヴラドがそう名乗り、和人がマスターである事を、その重大性を理解しきれていないながら肯定してしまった翌日。

二人は死臭漂う家を後にし、適当な空き家に入り込んでいた。

 

「……さて。 つい勢い余りお前を巻き込んでしまったが、はて。 どう説明したものか」

 

異常事態の連発で疲れていたのか、到着する頃には既に爆睡していた和人を寝かしつけていた、カバーすら掛かっていないベットに二人で座り、アルターエゴは頭を捻る。

人ならざるサーヴァントという存在。 聖杯について。 そしてこの戦争において一応存在するルール。 これらについてどの程度、どうやって説明するか。

幼過ぎて一般教養ですらどれほど有しているか判別が着かないアルターエゴは、暫くして漸くある程度考えが纏まったのか、半ば問い掛ける様に和人に対して話しかけた。

 

「マスター。 ランプの魔人の御伽噺は分かるか?」

 

「う、うん。 テレビでやってた」

 

「ならば話は早い。 マスターが巻き込まれた聖杯戦争とは、とどのつまりそのランプを巡る七組の闘争である」

 

「……どんな願いも叶うの?」

 

「ただしそのランプは映画のラストで創られた悪人入りバージョンである」

 

「ぇ」

 

某映画に出てきたランプに閉じ込められたヴィランを思い出してフリーズする和人。

 

「……あんなの欲しい人、いるの?」

 

「中身を正確に知らぬ者。 勝利者という証を欲する者。 参加者全員が闘争の果ての景品、その真実を知る者ではない。

まあどれ程汚れていようと聖杯の願望機としての機能は所詮、膨大な魔力で過程を飛ばすもの。 願った内容について明確な道筋さえを示してやれば問題無いやもしれぬが、現実的ではない」

 

分からない単語でもあったのか、今度は和人が首を捻る。

子供が少年へと成長した姿を知るアルターエゴは、とても想像出来なかった光景に微笑みながら話を続ける。

 

「……マスターはただ生き残る事のみに注意を払うがよい。

さて、次はサーヴァントについてだ。 サーヴァントとは、あらゆる時代、あらゆる場所の英雄を現代に喚び出したものだ」

 

「えいゆう?」

 

「基本的にはヒーローのようなものだ」

 

その一単語を聞き、和人は僅かに目を煌めかせる。

 

「おじさんもヒーローなの!?」

 

「おじっ!? ……まあよい。 うん、仕方あるまい」

 

その一単語を聞き、アルターエゴは肩を落とす。

 

「残念ながら、余はそんな大層な者ではない。

……所詮、俺は――」

 

己の左手に視線を落とすアルターエゴ。 俯いた事で表情が伺えなくなったが、幼子から見ても分かりやすい程意気消沈していた。

 

「……話を戻すぞ、マスター。

サーヴァントは確かに現代に肉体を持つ存在ではあるが、所詮は魔力で構築された仮初めの身体。 言うなれば幽霊だ。 故に」

 

アルターエゴの長躯が忽然と搔き消える。 身体を構成する魔力量を調整し、物理的に消える霊体化を行ったのだ。

しかし、さっきまで明確にそこにいた人物が当然目の前から消えて無くなる光景は、幼子の心臓に悪過ぎた。

 

「あ、あれ?! あっ、あっ、」

 

まるで陽炎の様に消えてしまったアルターエゴ。 再び一人になってしまったと早とちりした和人が、眦に涙を浮かべ――

 

「――やれやれ。 これでは単独行動などとても無理だな」

 

空間に直接色付けしたかのように、黒い英霊が実体化する。

テレビで見たマジックショーの様に何処からともなく消えては現れてみせた事に和人が目を丸くしていると、今度は頭の中に直接声が響いた。

 

『今見せた霊体化及び実体化の他、この様に念話が可能である。 前者に関しては霊体の特権よな』

 

口を開かず、けれど和人に話しかける自称幽霊。

尤も、唯一頼れる相手に依存し掛けている幼子からは、人外の領域に浸かる怪物への忌避感などとうの昔に消えていた為、純粋たる感嘆の声だけがあった。

アルターエゴが、もう一度やってみてくれとねだる和人をどうにか宥めた後。 最も重要な事を伝えると前置きし、マスターたる和人の右手、その甲に刻まれた、絡んだ二本の直剣、交点には花と思わしき、入れ墨のような紋様に指を乗せた。

 

「これは令呪という、謂わば余に対する絶対命令権だ。 三度しか使う事が出来ぬが、この令呪をもって命じた事は、余の意思を問わずおおよそ全てが実現可能である。 飛べと命じられれば空を駆けよう、蘇れと命じるのであれば如何なる重症であろうと立ち上がろう。

……そして、果てよと命じるなら、唯々諾々と従おう。 お前にはその権利があり、余はそれに従う理由がある」

 

紋様から指を離すと、割物を扱う様に優しく、節榑立った大きな手を幼い頭に乗せた。

 

「余には願いがある。 だがマスターよ、お前が聖杯に望む願いは在ると言うならば、余は譲ろう。 何せ――」

 

自笑するかの如く小さく頬を吊り上げ、和人に聞こえない様に呟いた。

 

「……誰かの願いを叶えてやるなどと嘯いたのは、これが三度目であるが故。

今度こそ、()はその願いを果たしてみせる」

 

アルターエゴの脳裏浮かぶ光景。

繋がりの有無を判別出来ない和人には、その光景を伺い知る事は出来なかった――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――時は過ぎ、文明の光のみが世を照らす夜。

 

「――聖杯に招かれし英霊は、今! ここに集うがいい。 なおも顔見せを怖じるような臆病者は、征服王イスカンダルの侮蔑を免れぬものと知れ!」

 

雷を纏う牡牛が引く戦車、その御者台に聳え立つ巨漢が吼える。

クラス、ライダー。 真名『征服王』イスカンダル。

紀元前四世紀にマケドニアを率いた、紛れも無い王。 その王が、吼えたのだ。

 

その真名に誇りがあるならば、姿を見せよと。

 

……史実であれば、現れるのはアーチャーと、それに釣られたバーサーカーのみだった。

アサシンは嘲笑い、キャスターはそもそもライダーの一喝が届かぬ位置にいた。

 

――だが、今は違う。

 

「――我を差し置いて王を称する不埒者が、一夜のうちに二匹も涌くとはな」

 

黄金の輝きが街頭の頂上に実体化すると同時に、二騎(・・)のサーヴァントが出現する。

 

「――ほう。 ならば名乗るがよい、そこの。 竜の子たる余が聞き届けてやる」

 

一騎はアルターエゴ。 己の名に誇りは無くとも、その名に纏わる誇りを穢す事を容認出来ぬ怪物が、黒コートを翻し壇上に現れる。

 

そして、――

 

 

「――随分と煩く吠えるのですね。 王と名乗るならば、もう少し節度を覚えられては?」

 

もう一騎。 この場に存在しない筈である、銀髪の少女(・・・・・)が、倉庫の屋根から飛び降りて姿を現した。

 

 

 

 

 

……この事態に大いに動揺する羽目になったのは、何を隠そうマスターたちであった。

その場でもろに六騎のサーヴァントの睨み合いに巻き込まれたウェイバーとアイリスフィールは顔色を無くし、ライフルでケイネスを狙っていた切嗣とケイネスは、ケイネスのすぐ近くから出現した英霊に冷や汗をかいていた。

けれど誰よりも困惑していたのは、アサシンの視界を共有する言峰綺礼――ではなく、アーチャーのマスターである遠坂時臣だった。

 

『何故だ? 何故アサシンがあの挑発に応じる?!』

 

綺礼から逐次詳細を聞いていた時臣が、僅かに声を震わせる。

 

「どうしますか、師よ」

 

『……アサシンに真名だけでなく、クラスも名乗らせるな。 偶然の産物とはいえ、ハサン・サッバーハ以外のアサシンを召喚したという利を失う訳にはいかない。 如何なる理由で姿を見せたか分からない以上、令呪を使うといい』

 

「承知しました」

 

時臣の采配を受け、薄暗く地下室に赤い一筋の光が満ちる。

 

「令呪を以って命ず。 己の正体を秘匿せよ。

 

 

 

 

 

――アサシン、『ジャック・ザ・リッパー』」

 

 

 

 


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