独自設定、独自展開、オリキャラ、原作キャラ死亡と地雷たっぷりの小説となっております。そういう類のものが苦手という方はブラウザバックをお願いします。
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今更ですが、この小説には軽度のネタバレが含まれております。原作未読の方はご注意ください。
屹立する山々は、降りしきる雪で白く染め上げられている。
ひらりはらりと舞い散る雪は風により強く激しく大地を叩いている。一寸先も見えぬほどに濃い雪は、時に人々を山に迷わせる凶器にもなっていた。
緩い勾配で山頂にまで続いていく山道は真っ白で、足跡の一つも見つけられない。枯れた木々が空高く聳えていた。
辺りは薄暗くなっていて、逢魔が時はその口を開き、彷徨う者を誘い連れ去る準備をしていた。
木々の影が、薄暗くなってきた地面と同化し滲んで消えたその時、どこからか足音が響いてきた。
ざくりざくりと新雪を踏みしめる音は、吹き荒れる雪と風の中で、何故かはっきりと響いた。樹間を乾燥した風が吹き抜ける。木々がその枯れた身を揺らす。まるで、予期せぬ侵入者にざわめいているかのようだった。
それは、一人の少女だった。
闇夜に溶けていくほどに黒い髪は腰まで届くほどに長く、少々紅い毛先が木枯らしに吹かれ揺れている。
大きな薄紅の瞳に、小さな鼻。
外見だけを見れば、その少女は顔の整った、可愛らしい少女である。
しかし少女の格好は、一言で言ってしまえば異様だった。
近代化している現代社会においては珍しいといえる藁の雪靴を履いており、歩き続けているのかその藁はぼろぼろ。
さらにその目を引くのは、彼女の服装であった。
まだ冬が始まったばかりとはいえ、山の夜は冷える。新雪を踏みしめるだけで膝辺りまで沈むほどに雪が積もっている場所なら、その寒さはなおさらであろう。
しかし、少女はかなり──いや、命知らずといって差し支えないほどに軽装で山登りをしていた。
身に着ける服装は、これまた古臭い市松模様の羽織。かなり昔のものなのか、ところどころ擦り切れている。
灰と白ばかりの世界で、緑と黒の市松羽織はいやというほどに目立っていた。
しかし少女は寒そうなそぶりを見せるどころか、常人ではすぐにへばってしまいそうなほどの速さで山を登っていた。
くぐもった吐息は、何故か咥えている竹のせい。
全体的に、彼女の格好は異様だった。異様だからこそ、灰の世界で儚げな美しさを放っていた。
空に伸びる木々の枝は、ぼんやりと眺めていると罅割れた模様のようにも見えてくる。空を見上げていた少女は、ふと何かに気づいたのか後ろを見た。
闇が広がっていた。
先ほどまでは薄闇のせいで灰色になっていた雪だけだったその空間には、今や雪どころか後ろに生えている枯れ木さえも見えないほどの闇が渦巻いている。
夜が彼女に追いついたというわけではない。その部分以外は先ほどと変わりなく薄闇が広がっている。その部分だけ、どす黒い闇だった。
少女は、静かに腰を低くする。それはまるで、いつでもその闇にとびかかれるような恰好で──
不意に、闇の中から何かが出てくる。それは、どろどろに溶けた腕だった。
這いずるように出て来た腕は、もがくように雪を掴み、苛立たし気にそれを投げ捨てる。どうやら全身を出したいが、つっかえて出れないようだ。化け物はようやく後ろにあった枯れ木を掴み、その全身を闇夜に現した。
鬼だった。
腕から溶け落ちた肉片は、雪の上に落ち全てを蒸発させながら地面へと消えていった。間抜けに開かれた口からは涎が延々と垂れ続けており、その鬼に知性がないことが伺える。
充血した虚ろな目は、それでもはっきりと少女を捉えていた。どうやら、彼女は今夜の獲物らしい。
鬼が跳ぶ。身体が溶けているとはいっても、その身体能力は人間を遥かに凌駕しており、普通の人間なら視認も出来ぬような速さだった。
しかし少女は焦ることなく薄紅の目を閉じる。それは、まるで精神を研ぎ澄ましているようで──
鬼が少女を切り裂こうとその腕を振るう。ぶら下がっていただけの肉片が飛び散り、肉片が飛ぶ延長線上にある全ての物を蒸発させていく。
振り切られた腕は、少女の柔肌を裂き骨を砕き肉片と臓物を辺りにまき散らす────はずだった。
脳内でその光景を描いていたはずであろう鬼は、何故か空ぶった腕を不思議そうに見つめる。
先ほどまで目の前にいた少女が、消えていた。
足跡は残っている。しかし、目の前にはいない。
もともと知能があまり高くない鬼は、すぐに混乱状態に陥り暴れ始めた。辺りにある木々をへし折り、地面をその猿臂で乱暴に叩く。しかし、少女は現れない。
ふと、破壊行動を止めた鬼の耳に、雪を踏む音が聞こえた。
急いで振り返るが、やはり姿はない。しかし、はっきりと足跡だけは残っている。
もしかして、と鬼は思う。
もしかして、こいつは何か不思議な幻術を使うのではないか、と。
ここに住んでいる人間が、開国とやらで周囲の見知らぬ人間と関係を持ってから、既に百年以上の月日が経つ。その交わりの中で、ついに人類はまやかしの術を手に入れたのだろうか、と。
しかし、それは正しくはない。
慣れないことを考える鬼の上を跳ぶ一つの影。
それは、先ほどまでぼんやりとしていた少女だった。
顔のいたるところに青筋を立てている少女は、まっすぐに鬼だけを見て唸り声をあげた。
鬼は、その唸り声に顔を上げる。しかし、もう遅い。少女は足で近くにある木を蹴り、鬼に肉薄する。そして体を捻り、とても単純な蹴りを放った。
蹴りは、すぅと鬼の顔に当たって────
「ぐがっ!」
そのまま鬼の首をもぎ取った。もぎ取られた鬼の頭は、何が起こったのかわからないという表情のまま、闇の中へと消えていった。
その隙に少女は走り出す。鬼はこんな生ぬるい攻撃で死ぬことはない。鬼を殺すには、専用の鉄で作った刀で頭を切り離すか、太陽の陽に晒すかしかない。
その両方の術を持たぬ少女は、敵を一時的に再起不能に陥らせ、逃げ出したのだ。
走る彼女を励ますように、片耳に付けた旭日の模様のような耳飾りが揺れている。
──少女の名前は
禰豆子は、ふと立ち止まって空を見上げる。空はすっかり暗くなって、暗闇からにゅっと出てくるように雪がひらひらと落ちてくる。
禰豆子は未だに鬼のまま、一人で各地を流離っていた。そんな生活にも、もう慣れてしまった。
時は平成。もうすぐで二十世紀が終わるという時分。戦争、敗戦、バブル。日本は様々な困難を乗り越えて、発展の第一歩を踏み出し始めた頃であった。
日本は大きな変化の中にいた。しかし彼女だけは、ただ変わらぬ悠久の中に閉じ込められたまま、時の流れに身を任せ生きている。
かつて彼女の隣にいた兄の姿は、ない。
──彼女の兄、竈門炭治郎が死んで、既に八十年という年月が経とうとしていた。
作者は原作十七巻までの知識しかありません。
これから起こることと作品内での情報が間違ってる可能性もありますので、ご注意ください。