その日の夜、甲賀の主な面々が弾正屋敷へと揃っていた
「しかし、また急にきよったの刃」
「いやぁ、悪いな弾正」
周りからは険しい睨みが刃に向かう
「しかし、歓迎されないのはいつも通りだねぇ」
「かっかっかっ!あたり前じゃろうて」
刃と弾正は静かに飲んでいると
「さぁ、刃殿。」
陽炎が刃に酌をする
「おぉ!これは陽炎殿が弦之介様以外に酌をするとは珍しいですなぁ!」
丸々とした髭面の巨漢、鵜殿丈助が横槍を入れる
「その、ようなことはあるまい。鵜殿殿であったな。陽炎殿は美しく、気立ても良い。何度か足を運んだ際、目にしておるゆへ将来よい奥方になるであろう」
「ほほぅ!だいぶ陽炎殿がお気に入りのようですな!やはり甲賀の女は良かろうて、伊賀の女は尻まて硬とうと聞きますゆへ」
丈助の言葉に甲賀衆が笑い出す
「くはははは!硬いとはよう言われる!あははははは!しかし伊賀の女は股も硬たいからなぁ!甲賀の者であれば人のできている、弾正、弦之介、室賀どのと如月殿以外は相手にされんで有ろうな!!それに伊賀の女の尻は硬いとは随分軟弱なようでお主らこれはどうやら布キレより柔らかいようじゃのう!甲賀の女人も可愛いそうじゃのう里に四人しか満足させられる男がいないとわのう!だーーはははは」
刃は股間の前でピコピコと指を動かすと膝を叩いて笑い出す
「己!伊賀者が!」
「やめよ!」
甲賀衆が立ち上がるのを見て弦之介が止めるがその内の一人が腰の刀に手をかける
「よさぬか!」
「甲賀をここまで侮辱されてだまっておられるか!」
男が刀を抜こうとすると
「すまない、陽炎ちゃん」
「なっ!?」
刃は陽炎の懐に手をいれる
「この伊賀者が!!!」
刀を抜いた瞬間に金属音がなり、男の後方に落ちる
「いささか、悪ふざけが過ぎるのでわないか?あそこまで殺気を出して斬りかかろうなぞ」
刃は静かに底冷えする声をだす。
男の後ろには刀と共にクナイが落ちている。刃がとっさに投げたのである
「俺の隣には女人がいるのだぞ!もし、巻き込まれたらどうする!女の顔や着物を下らない喧嘩の血で汚す気か!女人を任務ならいざ知らず下らぬ揉め事に巻き込むんじゃねぇ!!」
ビシビシ
刃の持つ杯や膳にヒビが入り砕ける。刃からのとてつもない殺気に全員が油汗を流すが腐っても甲賀の上役意識を保つ
「刃殿、怒りを納めてくだされ。この者も悪酔いが過ぎた。もう、下がらせますゆえ。この通り」
弦之介は刃の前に立つと頭を下げる
「弦ちゃんがそこまでするなら仕方ないな」
刃の殺気は嘘のように消える
「陽炎、代わりの杯と酒じゃ」
「か、かしこまりました」
「すまぬのう、刃よ」
「弾正、少し甘過ぎるんじゃねぇか?」
「これは手厳しい」
弾正は笑いながら返す
しばらくすると陽炎が戻ってくる
「すまぬが弦之介よ。あやつがしかと戻ったか確認してきてくれぬか?これ以上客人に粗相があってもいかん」
「うむ」
弦之介は陽炎と入れ替わるように出ていく
(弾正のやつここで弦之介に席を外させるとはどういことだ?)
「刃殿、先程は甲賀のものが失礼致しました。」
そう言うと陽炎は体を預けながら酌をする
「いや何、こちらも無礼を働いた」
「なにを仰います。先に挙げられた方以外の甲賀の男は無骨で女子の心など何も知らぬ者ばかり、しかし刃殿はちがう。なぜ私の武器に気づいていたのに咎めぬのですか」
「なに、女子のすることに一々目くじらをたてていたら嫌悪な相手の里のおなごなぞ口説けぬであろう?」
「まぁ、今宵も私を口説いてくださるのかしら」
陽炎はそう言い顔を背けながら頬を染め髪をすくう
「勿論」
「ならば、二人で、ゆっくりと飲みませぬか。部屋で」
そう言い耳に吐息が掛かる
弾正は目を瞑りながら酒を飲む
「なに、気になされるな。この丈助が弦之介様には言うておきますので」
「うふふ。こちらですわ。刃殿」
刃は誘われるがままに客室へと向っていく
「さぁ、刃殿」
「しかし、よかったのかこんなに月が綺麗に見える部屋をかしてもらって」
「良いのですよ。」
「にしても、陽炎ちゃんと呑むの初めてか?」
「そうにございます。しかし刃殿も酷いお方です。」
「ん?」
「甲賀の誰が聞いているか分からぬのに口説いてこられ、私がどれだけ切のう思っていたとお思いか」
刃はぐいっと酒を煽る
「甲賀と伊賀が共に歩む道が見えて来たんだ。そろそろゆっくりと歩みたいものよ。かつて弾正とお幻は恋仲でたったんだ」
「弾正様が!?」
「声を落とせ。触れ回る話でもない。昔の話さ、その時も祝言の話が持ち上がったのだが織田襲来により二人が同じ道を歩むことはなくなった。あいつらを幸せにしてやれなんだ」
「陽炎ちゃん、気をつけたほうがいいよ。今回も何かしらおこるかもね。」
「刃殿は何か知っておられるのですか?」
「あぁ、甲賀か、伊賀か、はたまた別のところか何かしら動くであろうな。弦之介と朧にはその様なお想いはさせたくないものだ。」
刃はそう言い部屋に入ると布団に横になる
「刃殿、なればその哀しみ、この陽炎でお忘れくだされ」
陽炎は刃の上に股がると着物をはだけて行く
「やめておけ。お前は後悔するぞ?そなたの目を見ればわかる愛なき情事などお前を傷つけるだけだ。」
刃は陽炎の着物を直そうとするが
「刃殿は私がお嫌いでしょうか?」
「ぐぬっ」
胸に顔を押し付け上目遣いで見る
「刃殿」
潤ませた瞳で刃を見つめながら口づけをする
「この先は逃しはしないぞ」
「刃殿のお好きなように」
二人の声は夜が開ける直前まで響いていた
「はぁ、はぁ、んっ」
陽炎は顔を赤く染めながら部屋から出る
「随分手こずったようだな陽炎」
「左衛門殿。えぇ、私の毒でもここまで持つとは。しかも死にかけながらも・・・・・ほんにイヤらしい奴であった」
「こちらは陽炎殿が篭絡されるのではとヒヤヒヤであったぞ。して、伊賀者とは楽しめたかの?」
陽炎はギロリと丈助を睨む
「いい加減にせぬか丈助。伊賀鍔隠れ衆が棟梁の次席に位置するこの男を殺れたのはでかい。不戦の約定があるが女との情事でいったとあらば不戦にも掛かるまい。しかし、陽炎苦労を掛けたのう」
「いえ、この事は弦之介には」
「あぁ、さて、身なりを整え、明日起こしに来たときに死んでいたようにせねば弦之介様も不信感を強くもたれよう」
「そうじゃのう。こやつ泊まった後は必ず弦之介様の見送りでかえっておる。今日だけとは不信になるのう」
三人が見る先には口から血を流して倒れている刃の姿である