夢幻の月の禁じざるをえない遊戯   作:リヴィ(Live)

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夢月ちゃん、精神年齢かなり低めなのでご注意


プロローグ 夢幻の月は幻想に沈む

 ◇

 

 そこは、とても静かな、二人の世界。

 現代のような活気的な雰囲気もなければ、魔界のような禍々しい覇気に包まれている訳でもない。ただ、二人(・・)という(・・・)静寂が広がっている。

 空は日が登ることなく常に星空。その真ん中に浮かぶ巨大な三日月。まるで夢のように静かで、幻のように儚い、二人だけの世界。

 

 魔界、現代、天界──この世全てに存在する世界にどれも属さぬ、夢と幻の月。

 

 そんな世界の主は、双子の悪魔。

 二人の詳しい出生は彼女自身にしか分からないが、二人は悪魔という種族の中では異端中の異端と呼ばれる存在だった。双子の妹は翼を持たず、双子の姉は悪魔とは真反対の天使の翼を持つ、忌み子とも言える存在だったと言う。

 さらに、妹はありとあらゆることに不向きで、不器用で、力もなかった。対して姉はありとあらゆることに優れ、器用で、悪魔という種族を優に超える力を持っていた。

 何も出来ない妹に、姉は寄り添い続けた。愛し続けた。生まれた時からずっと一緒の、たった一人の妹を。

 妹は何も出来ない自分を唯一愛してくれる姉を、同じように愛した。生まれた時からずっと一緒の、たった一人の姉を。

 

 姉はやがて、その強すぎる力で恐れられるようになった。ありとあらゆる者たちに恐れられるようになった。それに応じて妹に対する侮辱も大きくなった。

 そこで、姉は考えた。この強大な力で、二人だけの世界を作ればいいと。

 外からは幻のように見えて、夢のように過ぎ去る楽園を作ればいいと。

 双子は、その世界に閉じこもった。そして、外からは誰も認識出来なくなった。なぜなら、その世界は夢の(・・)ように(・・・)脆く(・・)幻の(・・)ように(・・・)儚い(・・)のだから。

 幻は幻にしか見えない。夢は夢にしか見えない世界。それこそが、その世界の本質。たった一人の妹を守るための防壁。

 

 だが、妹はそんな姉の思惑など知りもせず───

 

「ねーさま、鬼ごっこしよ!」

「?いいけど」

「やったー!ちなみに、場所は外の世界ね!」

「!?!?」

 

 外の世界に興味津々で、鬼ごっこという名目で遊びに行くのであった。

 

 ───今ここに、幻想の住人達行われるてんやわんやな禁じざるをえない遊戯(鬼ごっこ)が幕を開ける。

 

 ◇

 

 幻想郷。

 そこは最後の楽園と呼ばれ、古に伝わる幻想と妖怪たちが住まう忘却の果て。忘れ去られたものたちが集う、古きよき日本世界。

 そんな世界は、外の世界…現代と結界で隔てられ、守られている。最古の妖怪、そして幻想郷創造者の一人である八雲紫を初めとした賢者達が作り出した結界はそう簡単に破れるものではない。

 それこそ……現代に残る紫の知らない妖怪や、他世界からの侵略がない限り。

 

「───なんですって?」

 

 だが、今回だけはその格が違った。

 結界の管理は、人間の守護者である博麗の巫女と紫で行われている。結界に異変があればすぐに気がつけるように式神や術式を貼ってあるため、すぐさま察知はできる。

 紫はその例のごとく、結界に何かが通ったような歪みがあったのに気が付いた。だが、その結界から感じられた力は、紫が冷や汗をかくほどのものであった。

 その力が決して強い訳でない。それこそ結界を通っていった力は並の妖怪程度だろう。だが、力の質は紫の記憶に刻まれたトラウマにも近いものであった。

 

「…彼女に手を出せば……きっと、怒り狂うでしょうね、あの悪魔は」

 

 忘れもしない。かつての異変で、太陽の畑を中心に活動している風見幽香が、自らの配下たちを連れて幻想郷へと現れた時。

 あの時点では、驚異となるのはリーダー格である幽香のみであった。最古の妖怪である紫と肩を並べるほどの力を持つ彼女は、紫自身が相手になればいいと考えていた。それ以外の妖怪は事前情報通り、そこそこの力を持つ程度だったため、巫女やその辺の妖怪に任せればいいと思っていた。

 だが、そこにはイレギュラー(・・・・・・)がいた。明らかに下調べにはなかった双子の悪魔が。それだけならば良かった。

 その力は、悪魔という生き物の範疇を大きく超えた破壊者のそれだった。爪は大地を引き裂き、砲撃の如き魔力砲は山を穿つ。その姿は魔王のそれであり、悪魔、という言葉が烏滸がましいほどの、種族を大きく超えた力。

 

 ────夢幻姉妹。最強最悪の双子の悪魔。

 幽香達が根城としていた夢幻館は、幻想郷とある世界の狭間に位置する。夢幻姉妹は、そのある世界の主だ。夢幻世界と呼ばれる世界に二人で住まい、愛し合い、禁断の遊びを繰り返していると聞く。

 今回通過した者から感じた力は、彼女達の持つ力の質と全く同じものだった。それも、妹の方に酷似したものだった。

 しかし、最強最悪の双子の悪魔と言われてはいるものの、彼女らが最強最悪と呼ばれているのは姉、幻月の凶悪な力にある。実は妹の方の夢月は大した力はなく、並の妖怪程度と変わらないものであった。事実、被害を出したのは全て幻月の力によるものである。

 

 ならなぜ、紫は弱い方の妹の幻想入りを恐れたのか。その答えは、かつて起こした異変にある。

 なぜ、貴女達のような強大な悪魔が、こんなちっぽけな世界を狙うのか。紫は、幻月に問うた。

 すると幻月は───

 

『夢月が外に出たいって騒いでたから、幽香に乗っかってきただけ。私は夢月の付き添いよ。仕事は夢月に這い寄る虫の駆除と幽香の攻撃命令だけ』

 

 と、答えた。そこに敵意はなく、思えば幻月は夢月の傍を離れず、幽香の命令があれば攻撃を下した──その攻撃が規格外すぎるが──だけであり、幻月本人にこの世界をどうこうしようとは考えていなかった。

 つまり、幻月の行動理念は全て夢月にある。そんな妹が幻想郷に入ってくれば、自ずと姉である幻月が表に出てくることになる。

 ───考えすぎかもしれないが、もし夢月に何かあれば、幻月は本当に幻想郷を破壊し尽くすだろう。それだけは、避けなければならない。幻月はそれほどの力を持っている。それこそ、自ら世界を作れる程の力が。

 

「(…しかも、今の年代は当時を知らない者達が多いわ。変に手を出さないよう、藍と私で注意を呼びかけておきましょう)」

 

 当時、首謀者である幽香と、強大な力を見せた夢幻姉妹は幻想郷の住民たちに恐れられ、あの異変のことは禁句とも言えるほどの恐怖とトラウマを植え付けられた。事実、紫も彼女らのことはできるだけ相手にしたくない。

 だが、時代が流れ、彼女らの強さと恐ろしさを知らない者達が多い。そういうもの達が変に刺激を与え、怒らせてしまったら幻想郷の存亡が危うい。

 

「…先が思いやられるわ」

 

 細心の注意を払わねば。

 そう思って移動しようとした時、姉の方が幻想入りしたのは言うまでもない。

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