びーうぃっちど!   作:sakunana

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少女達の1マイル

パドックは終わり、本番は近づき、バ場入場も終えて桜花賞の出場ウマ娘はゲート前でそれぞれの入念な準備を行う。胸に手を当て息を付く者、スタンドに居る誰かを探すように見る者。桜花賞は阪神レース場で行われるジュニアCクラス限定のG1、そこに出場しているウマ娘は同世代では上位の選ばれた者達が揃うが、それでも経験はまだ浅くこのレースが初G1という娘も多く、どこか落ち着かない様子が全体的にあるものだった。

 

「あの娘……」

 

と、画面に映るウマ娘の一人にスイープが目を留める。出場するウマ娘はまだ子供といった雰囲気を大勢が出すものだったが、その中でも小柄で更に幼い子供が迷い込んだんじゃないかというほどの娘がキョロキョロと辺りを見渡している姿がそこにあった。

 

「どうしたの?スイープちゃん……って、あの娘、小さいね。カレンと同じクラス、ううん、まだ学園入学前の娘って言ってもおかしくなさそう」

 

カレンチャンも画面を見てスイープが思った事と同じような感想を口に出す。

 

「実際、おかしくないかもね~」

 

後ろの席から肯定の言葉が届き、二人は後ろを見る。そこには机に腕を乗せ顔を乗せて身体を預け力を抜けきらせたような格好をした右耳のカバーと頭の左側に付けた菊の花の飾りが目立つ芦毛のウマ娘──セイウンスカイが居た。

 

「どういうこと?」

 

「あの娘はニシノフラワーっていってね。小さい頃から天才少女と評判で、その才能を買われてトレセン学園に入るのも本来認められた年齢未満でも許可が出て飛び級で入ってきたわけよ。つまり実年齢ではあの周りにいる他のジュニアCクラスにいる娘達より年下。今、そこの芦毛の君が言ったように、君より下というのも事実かもよ」

 

首を傾げて聞いたスイープにセイウンスカイはすらすらと説明をする。

 

「飛び級、そんなこともあるんだ~」

 

「まあ、そう滅多にある事じゃないようだけどね。そんなわけであの娘には注目も集まって今日も一番人気のようだよ。どんな走りを見せてくれるか楽しみだ。と、話はここまでにしようか、始まるよ」

 

そうセイウンスカイに促されてスイープとカレンチャンは画面の方を見る。

既に全てのウマ娘の準備は終わっていて、そして、ゲートが開かれた。

 

出遅れなく全団がスタート。派手に逃げる娘もおらず縦長にはならない形で落ち着き、最初の直線を進んで行く。

 

「まあ、こんなもんだよね」

 

部屋に歓声も挙がる中、後ろのセイウンスカイがのんびりとした口調で触れる。

 

「こういう風になりやすいレースってこと?」

 

「そうだね、全体的にゆったりと後半勝負という事が多くなるよ。1番人気の彼女は先行型のようだけど不利ではない他の差しの娘がどう出るか」

 

せっかくなのでレースの事を知ってそうな人には色々聞いてみようとしたスイープに、画面から目は離さずセイウンスカイは答える。スイープがそこまで聞いて顔を戻すと、1番人気、ニシノフラワーは他の娘を率いるかのように前を行く集団の中心に位置していた。けれども、まだ二番手三番手とも差は無く入れ替わりも繰り返される。

 

やがてレースが進み少々遅れを取る者も出てきたが大部分が団子状態のままは変わらない、そのまま第4コーナーを抜けて直線に入る頃にニシノフラワーが前に抜け出した。

その動きに視聴覚ホール内も現地の音もざわめいた。今日最も注目が集まる者の仕掛け、このまま行くのか、早いんじゃないのか、そんな数々の思いが誰かがそれを言葉にして口にしなくてもスイープへと伝わるようだった。

 

逃すまいと他の娘もスパートを仕掛ける。だが、ニシノフラワーはレース前に見たような可愛らしい少女の様子はなく、キッと前だけを見据えて追いすがる者を気にする事なく差を開かせていく。そして、誰にも追いつかれることなく最後に待ち受けていた坂も乗り切りゴール板を通過した。

 

2着には3バ身以上の差を付ける快勝。「やるねえ」、「天才少女って言われるだけあるのね」と、ホール内からも賞賛の声があがり、スイープはそれを聞きながら画面中の観客席に手を振る、再びあどけない少女に戻ったニシノフラワーの姿を見ていた。

 

「いやいや、素晴らしいね。素直な良い走りをするよ、あの娘。まだ駆け引きというにはまだまだだけど、覚えたら恐ろしいだろうね」

 

後ろのセイウンスカイが手を叩きながら評す。

 

「お姉さんのライバルになりそうってこと?」

 

「それはどうかなってところだけどね。私は距離が長い方が合うし、あの娘は短距離向きじゃないかな。そんなに詳しく知ってるわけじゃないけどさ。それじゃ、レースも終わったし私は行こうかな。君らに解説するのも楽しかったよ、じゃあね」

 

と、セイウンスカイは席から立ち上がり荷物を持ってヒラヒラと二人に手を振りながら他の邪魔にならないようにして部屋の出入り口に向かっていき、残された二人はレース解説から表彰そして勝利者インタビューまでをこのホールで見ていった。

 

 

レース観戦を終えて早めの夕食も終えて、今、スイープは寮の部屋で学校の宿題と明日のテスト勉強と格闘していた。

 

「あーあ、G1レースの日にはライブ中継まで見て一段落ってところなのにさ、こんなのやらないといけないなんて」

 

なかなか進まない宿題のページをパラパラ捲りながらスイープは溜息を付く。宿題の事も明日のテストのことも頭にあったけれど、忘れたくらいどうってことないと悪い点数を取ったからといってなんだと理由を付けてライブも見逃すことなく時間を使おうと思っていた。しかし、偶々学園の見回りをしていたクラス担任に出会ったところで宿題についてはここのところ連続で提出が遅れてテストも平均を大きく下回る結果なために釘を刺され、最後に付け加えられた「酷い場合には親を呼んでの面談」との言葉に流石にそれは避けたいとライブを見るのは諦めて机に向かう事を決めたスイープ。

 

「あ、そういえば……」

 

と、そこで何か思いついたように声を上げてベッド上に置かれていたシイナを見る。

 

「こうさ、宿題の答えが全部埋る魔法とかないの?」

 

「そんなもん無いよ」

 

「無理か。あ、じゃあ、そうだ。明日の事が分かる術は使えるわけでしょ?それなら明日のテストの問題を教えてよ」

 

「ズルだろ、それ。後ね、明日の事が分かるってそういうのじゃないから。たとえば天気の話だったら相当な確率で当てられるけどね、そういう話のもの」

 

「相当って何?絶対じゃないの?」

 

「そこまで精度を高くはできないよ。時の流れに不確定要素は付き物さ」

 

「そんなのだったら天気予報を見るので十分だわ」

 

「ああ、他にはテストの問題は分からなくてもテスト中のアクシデントなら読めるよ」

 

「どういうことよ」

 

「だから、テスト中に鳥が部屋の中に紛れ込んでくるとか、テスト中にクラスメイトの誰かが滑って尻餅を付くとか、そういう予測なら」

 

「何の役に立つのよ」

 

「突然の音なんかにびっくりしないで済む!」

 

「要らないわ、そんなの」

 

自信を持って答えたシイナにシッシッと退けるようなポーズも付けてスイープは答える。と、一旦は机に向き直したが再び勉強へのやる気は起こらず雑談を続けようとシイナを見る。

 

「何?」

 

「そういえば、どうだった、レースを観て」

 

「まあ、君らって脚が速いよね」

 

「そうじゃなくて、盛り上がってたし面白かったでしょ」

 

「んー、大勢が一つの目的に向かって競うというのは人の興味を引くというものまでは分からないでもないけれど、ああも大勢の人が見に来るものだと思ってなかったねえ」

 

「面白くなかった?」

 

「そうは言ってないよ。スイープから聞いたものや本で読んだものよりも興味深いところもあったし。今日のあの勝った女の娘、あの娘がその大勢から拍手で迎えられたり、位の高そうな人から物を受け取る辺りは大魔女の儀式を思い出すようで良かったね」

 

シイナはしみじみ自分の世界の事を思い出すようにして話すと、魔法が当たり前のようにある世界についての話にスイープはすぐさま食いついた。

 

「儀式って何?何やるの?」

 

「だから言っただろう。そうしたとんがり帽子が大魔女の証だって。だから、大魔女として正式に認められる時は古くから建てられた大魔女の聖堂でそれを受け取る儀式をするんだよ。国を上げてお祝いして大勢の人に見守られながら聖堂の中心で大魔女の中でも経験と知識が豊富な賢者とも言われる方から帽子をその頭で受け取るんだ。同じ魔女だけじゃない、他の人も、人じゃない精霊達も皆で祝福して、その厳かな雰囲気が最高なんだからね」

 

「凄く詳しく語るんだね、そこまで言うなら見た事あるんだ」

 

「僕らの世界にも遠く離れたところの物事を映す術はあって、それも中継されるからね。あと1回は学校のツテで直接見た事だってある」

 

先程の術の説明した時よりも「どうだ!」と言ったように伝えるシイナに(そんなに自慢したいんだ……)となりつつも、実に楽しそうに話す相手にそれを口に出すのは止めて話を進めるスイープ。

 

「じゃあ、私もG1に勝って表彰されるのが、この世界にとっての大魔女に近づくってことだったり?」

 

「そうじゃないかな。というわけで頑張ってね。明日のテストの結果は知らないけど、宿題が終わるまでは寝ないようにその度に起こしてあげるから」

 

「そんなに時間かからないわよ、もう!」

 

現実から逃れようと話をしていたけれども結局は引き戻されて、自分としても早くに終わらせたいのはあってスイープは口を尖らせながらも机と向かい、この日曜日を終えていったのだった。

 

 




今回の短めの日常話はここで終わりです。
次から本格的に大勢のウマ娘が絡まった緩い物語が始まっていきます。

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