金色のコルダ 土浦梁太郎×日野香穂子 「山下公園(街EDに寄せて)」 作:二重螺旋二重
(土浦ならではの力業の所業や恥ずかしい言動に、読みながら地面にめり込んで下さい。)
途中、ドラマCD内のファータ達の昇進試験のエピソードがちらりと出て来ますが、その話も知らなくても楽しめる仕様としてあります。
「土浦君も、ほら、入ろうよ!」
その言葉と同時に、パシャリと水をかけられた。
香穂子は、今、山下公園の南端にあるキャスケード型の噴水の中に靴を脱いで入っている。
バルセロナのグエル公園を模してるんだかいないんだかといったこの新名所は、
実は香穂子の大のお気に入りなのである。
もともと水音、特に噴水の音が好きだと言う香穂子は、山下公園に来れば、必ず噴水巡りをする。
御互いの家との位置関係から、いつもまず最初は、このキャスケードだ。
「お前、いい加減、歳考えろよ。」
親水公園として、日本の噴水にしては珍しく中に入ることが許されているこの場所でも、
実際に、靴を脱いで中に入っているのは、小学生以下の子供ばかりだ。
「大人は入っちゃいけないとは書いてないよーだ。それに、私たち、まだ大人じゃないでしょ?」
図体は、もう既にこれ以上ないってくらい大きくなったがな。特に俺の場合。
それに、お前のその水に浸った足の甲や飛沫を受けた白い足の脛などは、もう全然「お子様」たちのそれとは
違った威力を発してるから、だから、他の野郎がそれを目にする前に、とにかくはやく、そこからは出て欲しい。
自分自身、もう少し、その無邪気に水の中を行き来する香穂子を眺めていたい衝動もあり、そこは二律背反なのだが。
だが、今日は、目的もあることだしな、
「だが、香穂、そうおちおちもしてもいられないだろ。ほら、遊んでると、実力行使にでるぞ」
そう言って、キャスケードの中の香穂子の脚の後と背の後に自分の腕を滑り込ませ、
よっと、言う掛声とともに、水の中から香穂子を抱き上げた。
「う、うわ!土浦君、何、何するの!?これって、いわゆる、お姫様抱っこなんじゃ!きゃっ!」
流石に、周囲の目もあるので、その場ですぐに下ろした。
そして、まあ、なんだ、恥ずかしい時こそ、素知らぬ顔で事務的に。
「当初の目的、思い出せ。一ヶ所に時間かけてると、全部回り切れなくなるぞ。今日は必ず全部回るんだろ?」
そう言うと、香穂は、上気した顔の前で、手をひらひらさせて、風を送るような仕草をしながら、
「た、確かに。じゃ、じゃあ、手始めにに、ここから、採取しはじめよ、っと。」
と、ややどもり気味に言った。
そして香穂子は、持参した鞄の中から、小さなボトルを取り出し、
それに半分ほど水を汲み、そして残り半分には…
「残りは、この水音が入るからね!」
そう言って、笑った。
その笑顔が、あまりに可愛かったので、照れ隠しに、
「さっきの、お返しだ」と、俺自身もキャスケードで手を濡らし、
それを香穂子の頭の上で、はじいて水を飛ばした。
「う、きゃ!!!!っもう!!!そうだね、じゃあ、次、次!」
次は、公園のほぼ中心に位置する水の女神像の噴水。
姉妹都市であるサンディエゴ市からの寄贈によるものだそうだ。
香穂子が、ここにも入れたらいいのにー、と、言っているのを、急いで全身で阻止する。
流石に山下公園の顔たるこの噴水に靴を脱いで入られても困る。
「だって、あの女神が持ってる壺から落ちてきた水をボトリングしたかったんだもん。」
「いや、出てないだろ、あそこからは、そもそも」
あれ?そうだっけ?と首をかしげる香穂子。
・・・お前、幼稚園や小学校の頃から、一体、何回、ここ来てるんだ?それくらいはちゃんと見とけよ。
仕方ないなあ、といって周囲にいくつか巡らされている小さな水の噴射口に手を近づけて、そこから水を汲もうとする。
…それも、周囲にめぐらされた花壇を乗り越え(これ自体、多分公園管理局から文句がくる行為だろう)、
噴水周囲のコンクリート部分に足を掛けながら、いかにも危ういバランスで水中に落ちそうになりながらやっているので、
結局、俺が腰のあたりを支えてやりながら、ということになったが。
(これは役得なんだか拷問なんだか…)
最後は、公園北端のインドの泉水塔。同じく姉妹都市のボンベイ市からの寄贈品だそうだ。
小さな東屋に覆われた場所にあるこの泉水塔は、噴水らしいという意味では、一番噴水らしい形をしている。
香穂子は、インドというフレーズからの連想か、自然と『歌の翼に』を鼻歌で口ずさんでいる。
が、ドイツ語の原詩は、ごく最初の方しか覚えてなかったらしく、途中からは、いい加減な歌詞になり
最後には、単なるハミングに代わっていた。
「ここは、採取しやすいね!それに、なんていい音。一番、噴水らしい音、だね。」
多分、厳密に言うと、本当は噴水の水を採取すること自体も
公園の決まりごとでは「禁止事項」に含まれているのではないかという気はするが、
今回は、そのあたりは目をつむっていようと思う。
なんと言っても、あの羽根付きチビたちのたっての願いなんだ。
それまでもなんとなくは耳にしていたが、
あのファータという生き物たちは、厳密な縦系列の階級社会に生きていて、
そして、時々、昇級試験なるものがあるらしいのだ。
以前、王崎先輩たちのコンクール時に活躍していたファータたちが、アルジェントに昇格し、
その記念に花火を見たいと言いだしたことがあった。
あの時は、花火という単語をファータが知らなかったばかりに、ピンポン玉を投げ付けられたり、
クラッカーの大音量に見舞われたりと、散々な目に合ったが、結局、最後に、
森の広場で、皆で囁かな花火大会を開いて、ファータたちの門出を祝ったのだった。
そして、あれから数カ月。コンクール期間中しか視認することが出来ないと言っていた割に
夏休み明けにひょっこり姿を現したリリのやつに、今度また昇格することになったファータ達に引き会わされた。
それは、俺と香穂にとっては、忘れたくても忘れられない思い出の曲を管理していたラーメ3人(3匹か?)。
ラ・カンパネッラのラーメのアヴェルス、イリース、フリューム達だった。
最終セレクション、同曲対決をすることになった俺たちだったが、結果はほんの僅差で香穂の勝ち。
その勝利に寄与したのは、やはり、このラーメたちの力によるところが大きいのだろう。
実際、見事な解釈だった。俺としてもあの負け方は気持ちがいい。
そんな彼らが、アルジェントとなり、この横浜の地を去るにあたって、欲しがったもの。
それが、噴水の水、だったというわけだ。
”コンクール期間中、あの思い出の臨海公園や駅前や森の広場で、何度も何度も練習をしてくれたでしょ?”
”あそこのお水には、あなたたちの音楽が染み込んでいると思うの”
水に音楽が染み込んでいる、その表現はなんともファータらしい。
確かに海や川の水は流れて行ってしまうが、噴水や池の水はずっと、そこにあって、
俺たちの練習の様子を聞いていたのかもしれない。
「さ、じゃあ、あとは駅前の噴水に回って、それから学校に帰って森の広場で…」
香穂子の声が尻つぼみに小さくなり、そこに哀愁の色が滲んだ。
そう、駅前と森の広場で用を済ませたら、その後は、「お別れ」が待っているのだ。
優しい香穂子。情の深い香穂子。
巻き込まれ型であんなコンクールに参加させられ、最初は迷惑にも感じていただろうに。
それが、今では、たぶん、友達と同等の親愛の情をあのチビどもに抱いているはずだ。
そんな、彼女が選ぶ別れの姿は、きっと絶対に「笑顔で見送る」と決めてるはずだ。
いつも一番近くで見ているから、どうしたって分かっちまう。
そのくせ、まったく涙脆いんだからな。
「香穂…。俺の前では、無理すんな。」
そう言って、その小さな頭をぐいッと自分の胸に寄せた。
「うん…」
引き寄せるに使った腕に、香穂の頬を伝う暖かい涙が触れた。
「どうせなら、その涙もボトリングしとけ。」
「え?なんで…?涙なんて不純物入れたら…腐っちゃわないかなあ?」
…そもそも、たぶん、噴水の水ってだけで、腐るだろ。時間がたてば自然に。
少なくとも「魔法」なんてものが、普通には存在しないはずの、この世界では。
あいつらの世界(モンドって言ったか?)じゃ、どうだか知らないがな。
しかし、こいつの天然ぶりも、時に殺意すら湧くよな。
…次の台詞が、思いっきり、言いにくくなっただろうが。
「お前の涙ボトルから聞こえてくる音は、やっぱり、あの時の愛の挨拶かも、な…。
…そうしたら俺が、記念に貰っといてやるよ。」
「え?え?え?」
それでも、何のことか分らないという顔で、ぽかんとしている香穂子を残して、
俺は、足早にその場を立ち去ることに決めた。
そして、かなりしばらくしてから、やっと意味が分かったのか、香穂子の声が遠くから追って来た。
「もう!土浦君!だから、恥ずかしいセリフ、禁止!って言ってるでしょ~~~!!!
過去に自サイトに掲載していたものの再掲載です。
少し古い作品ですが、発掘&展示品として。
読んで頂き、とても嬉しいです。ありがとうございました。
コルダでは、月日、土日、柚香、他、男子学生たちがわいわいやっているコメディタッチのお話も良く書きます。かなり昔から書いているため、個人サイト→支部→ハーメルンと移行しております。支部にもコルダだけで100作品近くありますのでそちらもどうぞ。
二重螺旋・拝