痛みを識るもの   作:デスイーター

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生駒隊⑥

『七海先輩。生駒先輩が真っ直ぐそっちに向かってます。バッグワームはもう使う気はないみたいです』

「そうか。了解」

 

 小夜子からの通信を聞き、七海は前を────生駒がいるであろう方向を、見据えた。

 

 この状況下で、生駒がバッグワームを使う意味はあまりない。

 

 強いて言えば生駒旋空の射程距離に入ったかどうかを誤魔化せるという利点があるが、この試合で未だ茜の位置は割れていない上に()()()()となった熊谷もいる。

 

 バッグワームを付けているとそれらへの対応が遅れる可能性がある為、この状況下で使用するのはリスクが高い。

 

 それにそもそも先程生駒旋空が飛んで来た事から、既に旋空の射程距離内にいるであろう事はバレている為使う意味もないのだ。

 

 この状況下でバッグワームを使わないのは、順当と言えるだろう。

 

「熊谷は、上手く隠れられたか?」

『ええ、大丈夫』

『ただ、南沢くんがバッグワームを使って(消えて)いるので注意して下さい。多分、熊谷先輩と茜を探してるんだと思います』

 

 了解、と通信越しに熊谷と茜の声が響く。

 

 熊谷は、既にこの場にはいない。

 

 ハウンドの射程ギリギリの場所に、隠れて貰っている。

 

 彼女に前線を張って貰って七海が後衛よりの位置に回る、という選択肢もあったが、相手はあの生駒だ。

 

 熊谷に前衛をやって貰うよりも、七海が突貫して彼女がハウンドで援護射撃をする方が有効だと判断した。

 

 七海が全力で回避主体で戦う以上、当然メテオラ殺法を組み込んだ戦いになる。

 

 そうなると熊谷が近くにいてはメテオラに巻き込んでしまう危険があるし、何より生駒相手には純粋に()()が欲しい。

 

 故に熊谷には、疑似的な射手としての立ち回りをして貰った方が都合が良い。

 

 以前であれば那須が落ちた時点で援護射撃は望めなかったが、熊谷がハウンドを習得した事でこうした応用も効くようになっている。

 

 隊の成長が伺える、嬉しい変化と言えた。

 

「…………来たか」

 

 視界の向こうに、ゴーグルをかけた男の姿が見える。

 

 男は、生駒はゴーグルの奥に覗く眼でしっかりと七海を見据え、薄く笑みを浮かべた。

 

「待ってたんか。意外やな」

「今回は、正面からやらせて貰います。そういう作戦方針(オーダー)が出ましたから」

 

 七海はそう告げ、不敵な笑みを浮かべて見せた。

 

 個人戦では、ついぞ勝ち越せなかった相手。

 

 攻撃手のランクこそ村上の方が上だが、それで生駒を侮る程七海は馬鹿ではない。

 

 居合いという技術を収めた剣術家としての腕と、クレバーな判断力。

 

 その実力を疑うような愚か者は、まずいない。

 

 前回の試合と違い、閉所という不利状況ではなく味方からの援護もあるが、それで確実に勝てると思う程七海は自惚れてはいない。

 

 攻撃手ランク6位、生駒達人。

 

 彼は、全霊を以て挑まなければ倒せない。

 

 そういう、相手だ。

 

「勝たせて貰うで、七海」

「それは、こちらの台詞です」

 

 生駒と、正面から対峙する。

 

 七海の身体が、低く沈む。

 

 生駒の手が、弧月の柄にかかる。

 

「────旋空弧月」

 

 旋空、一閃。

 

 それが、開戦の合図だった。

 

 

 

 

「生駒隊長と七海隊員が、正面からかち合った……っ! このROUND6、最後の大一番の始まりか……っ!?」

 

 七海と生駒の一騎打ちじみた戦いが始まり、会場が湧き上がる。

 

 それを見ていた犬飼は、へぇ、と目を細めた。

 

「奇襲じゃなくて、正面からか。不意打ちは通じないと見たのかな?」

「多分、そうだろうね。不意打ちを失敗して落とされるリスクより、旋空の斬線が見える位置にいた方が良いって判断かも」

「まあ、生駒さんは不意打ちへの対処能力も結構高いからね。ログを見ているなら、順当な判断かもしれない」

 

 それに、と犬飼は告げる。

 

「多分、七海くんが正面から戦う事にしたのは生駒旋空で隠れた熊谷さん達を炙り出されないようにする為だろうね。全員が隠れたら、きっと生駒さんは旋空で障害物を薙ぎ払うだろうし」

「確かにそうかも。二宮さんと同じで、障害物は物理的に排除出来るのが生駒さんの強みの一つだからね」

 

 犬飼の言葉に、宇佐美も同意する。

 

 もしも七海までバッグワームを使って隠れた場合、恐らく生駒は生駒旋空を用いて建物を斬り裂き彼等を炙り出しにかかっただろう。

 

 それを防ぐ為、敢えて七海は正面から生駒と対峙したのだ。

 

 七海の機動力相手では、余計な一手は命取りになる。

 

 故に七海は自ら姿を晒す事で、熊谷達を隠す事を優先したのだ。

 

 更に言えば、七海は射手や狙撃手とならともかく攻撃手との連携には致命的に向いていない。

 

 回避主体である為近くにいる味方へのフォローが難しく、メテオラを多用するので攻撃手との連携では味方を巻き込んでしまう恐れがある。

 

 攻撃手との連携では、七海の強みの幾つかを潰してしまいかねないのだ。

 

 そういった様々な要因から、七海は正面から迎え撃つ選択をしたと考えて良いだろう。

 

 少なくとも、ライバルと正面からやり合いたかった、などという理由だけでそういった選択をする事はまずない。

 

 それが、七海という攻撃手の性質なのだから。

 

「七海くん単独じゃ、生駒さんには勝てない。七海くんは回避能力や攪乱能力は一級品だけど、攻撃力となると上位の攻撃手には一歩譲るからね」

 

 だから、と犬飼は笑みを浮かべる。

 

「仲間のフォローを何処まで活かせるか。それが鍵になるね」

 

 

 

 

「────メテオラ」

 

 生駒の斬撃に対し、七海は予め起動しておいたグラスホッパーを踏み込み、上空に跳躍。

 

 神速の抜刀、『生駒旋空』を回避する。

 

 そして、そのまま空中にグラスホッパーを展開。

 

 生駒の背後に回り込み、メテオラを射出する。

 

「旋空弧月」

 

 それを生駒は、通常の旋空の連射で迎撃。

 

 空中で斬り裂かれたメテオラのトリオンキューブが、連鎖的に爆発する。

 

 しかし、その程度は七海も想定済み。

 

 爆煙に紛れ、姿を消した七海はグラスホッパーを起動。

 

 曲線の軌道で爆破を的確に回避しながら、生駒に向かって突貫する。

 

「────」

「────ッ!」

 

 だが、七海のスコーピオンは生駒の弧月で受け止められる。

 

 生駒はそのまま旋空を起動し、スコーピオンの刃ごと七海を斬り裂かんとする。

 

「……っ!」

 

 しかし、そこに上空から無数の光弾が飛来。

 

 その光弾は、『ハウンド』は、生駒を正確に狙い撃つ。

 

「────」

 

 それだけではない。

 

 七海はすぐさまグラスホッパーを用いてその場から飛び上がり、変わりと言わんばかりにメテオラを降り注がせた。

 

 ハウンドとメテオラの、集中砲火。

 

 光弾と爆撃の雨が、生駒に向かって降り注ぐ。

 

「────旋空、弧月」

 

 その流星雨に対する生駒の対処は、単純明快。

 

 即ち、旋空を用いての光弾の迎撃。

 

 生駒旋空が撃ち放たれ、七海のメテオラを斬り裂いた。

 

 切断された事で、メテオラが起爆。

 

 その誘爆にハウンドも幾らか巻き込まれ、結果的に生駒に着弾する光弾の数は少なくなる。

 

 生駒はシールドで的確にハウンドを防御し、ハウンドが放たれた方向へ切っ先を向ける。

 

「旋空────」

 

 腰を沈め、再び旋空の抜刀態勢に入る。

 

 熊谷の位置が分かった以上、それを放置する選択肢は有り得ない。

 

「────」

 

 そして当然、それを黙って見ている七海ではない。

 

 七海はスコーピオンを投擲し、生駒の斬撃を妨害する。

 

「────弧月」

「……っ!?」

 

 だが、その投擲はそのまま見もせずに(ノールックで)放たれた()()()()()で斬り落とされた。

 

 生駒旋空で熊谷を狙ったのは、フェイク。

 

 本命は、それを囮にした七海の釣り出し。

 

旋空弧月

 

 その罠に引っかかった七海へ、今度こそ生駒旋空が放たれる。

 

 神速の抜刀からの、目にも止まらぬ一閃。

 

 その一閃は、回避が間に合わなかった七海の脇腹を斬り裂いた。

 

「く……っ!」

 

 致命傷こそ免れたが、少なくないトリオンが傷口から漏れ出ている。

 

 一瞬でも回避するのが遅ければ、恐らくそのまま胴を両断されていただろう。

 

 矢張り、一筋縄で行く相手ではない。

 

 七海はグラスホッパーを用いた空中機動で、一瞬にして攻撃手の間合いから退避する事が出来る。

 

 だがそれは、生駒旋空という超射程を持つ生駒相手には通用しない。

 

 彼相手に安全な位置まで退避するとなれば、七海の攻撃範囲からも外れてしまう。

 

 ROUND1の時のように、射程外から一方的に爆撃を敢行して封殺する、という手はそもそも使えない。

 

 第一、生駒は弾丸すら旋空で迎撃してしまう。

 

 流石に全てのトリオンキューブを斬り裂く事は出来ない為、ハウンドやバイパーを迎撃するのは現実的ではない。

 

 けれど、衝撃を与えれば起爆するというメテオラの性質上、全てを斬れずとも幾つかのトリオンキューブを斬り裂き誘爆させればそれで事足りる。

 

 七海の豊富なトリオン量により、彼の扱うメテオラの爆破範囲はかなり大きい。

 

 その大きすぎる爆破範囲により、先程の那須のように弾数を絞った爆撃でなくとも誘爆に巻き込んでしまう範囲が大きい為に容易に旋空で迎撃されてしまうのだ。

 

「流石です。けれど……っ!」

 

 こちらも、負けるワケにはいかないと、七海は強く生駒の姿を見据えた。

 

 立ち止まれば、そのまま斬られて終わり。

 

 故に、止まるという選択肢は有り得ない。

 

 七海は壁面に着地し、そのまま滑走。

 

 そして、グラスホッパーを分割し大量に展開。

 

 壁面から跳躍した七海はグラスホッパーを連続して踏み込み、生駒の周囲を縦横無尽に疾駆する。

 

乱反射(ピンボール)か……っ!」

 

 グラスホッパーの分割展開による、高速攪乱機動術。

 

 乱反射(ピンボール)

 

 それが、七海の次なる一手だった。

 

 右へ左へ、前へ後ろへ。

 

 目にも止まらぬ速さで、七海が跳弾の如く跳ね回る。

 

「旋空弧月」

 

 生駒はそれに対し、旋空で薙ぎ払う事で対処。

 

 拡張斬撃が、跳弾と化した七海へ振るわれる。

 

「────」

 

 しかし、それは七海も予測済み。

 

 七海は旋空が放たれる直前に地面に着地し、スコーピオンをその手に獣のような低い姿勢で生駒へ斬りかかる。

 

「甘いで」

「……っ!」

 

 けれど、その攻撃は失敗に終わる。

 

 生駒は即座に旋空を解除すると、そのまま弧月を振り下ろす。

 

 弧月の一閃により、七海のスコーピオンは斬り砕かれる。

 

「旋空弧月」

 

 続け様の、旋空一閃。

 

 七海が回避するよりも早く、ブレードが七海の右手首を斬り落とした。

 

「く……っ!」

 

 七海は即座に跳躍し、建物の上へ退避。

 

 そのまま跳躍を繰り返しながら、生駒の姿を油断なく見据えた。

 

(生駒旋空と通常の旋空、更に旋空そのものをフェイクとする立ち回り。厄介だな)

 

 先程から、生駒は敢えて旋空を使用する都度音声認識を用いている。

 

 更に生駒旋空と通常の旋空を使い分け、旋空をフェイクとした攻撃や防御まで織り交ぜて来る。

 

 生駒旋空が来るのか、それとも通常の旋空か、はたまた旋空自体がフェイクなのか。

 

 こちらにその判断を強要する事で、この立ち合いを有利にしている。

 

 矢張り、強い。

 

 分かっていた事ではあるが、改めて思う。

 

 この男は、強敵だ。

 

 故に、全霊を以て排除する。

 

 あらゆる手段を用いて、勝利を。

 

 七海はスコーピオンを切断された右腕から展開し、再び生駒へ斬りかかった。

 

 

 

 

「さーて、熊谷さんは何処かなー」

 

 二人が戦っている主戦場の、すぐ傍。

 

 路地の裏を、バッグワームを着た南沢が駆けていた。

 

 目的は、位置の割れた熊谷の追撃。

 

 あのまま同じ場所に留まっているとは思わないが、それでも遠くには行っていない筈。

 

 だからこそ、位置が割れた瞬間彼が此処に急行したのだ。

 

 生駒が有利に戦えるよう、熊谷をこの場で抑える為に。

 

 仕留める必要はない。

 

 ただ、主戦場に介入出来ない状態に持ち込めればそれで良い。

 

 南沢はオペレーターの真織からそう言われていたが、隙あらば此処で仕留めてしまうつもりであった。

 

 チャンスがあれば、逃さない。

 

 それが、南沢の基本思考だった。

 

「おっ、発見……っ!」

 

 南沢の視線が、路地を駆ける熊谷の姿を捉えた。

 

 熊谷は南沢に気付くと、即座にハウンドを撃って来る。

 

「おわ……っ!」

 

 慌ててハウンドをシールドでガードし、南沢は即座にバッグワームを脱ぎ捨てる。

 

 そしてグラスホッパーを起動し、一気に熊谷へと肉薄した。

 

「……っ!」

「おっと」

 

 熊谷もまたバッグワームを解除し、弧月で南沢を迎撃。

 

 再度誘導弾(ハウンド)を撃ち放ち、無数の光弾が南沢へ迫る。

 

「そのくらい……っ!」

 

 南沢は慌てる事なく、シールドでハウンドをガード。

 

 そのままグラスホッパーを展開し、一旦上へ逃げようとする。

 

 

 

 

(今だ……っ!)

 

 それを、物陰から見ていた者がいた。

 

 その少年は、若村は、その手に突撃銃を構え、引き金を引いた。

 

 

 

 

「……っ!? や、やっちまったぁ……っ!?」

 

 物陰から放たれた、無数の銃弾。

 

 それは、ハウンドを受け止めた事で強度が下がった南沢のシールドを容易く貫通し、彼に致命傷を与えた。

 

 その弾丸が撃ち放たれた先には、バッグワームを着た若村の姿。

 

『戦闘体活動限界。緊急脱出(ベイルアウト)』」

 

 その姿を視界に収めながら、南沢は光の柱となって消え去り────。

 

「が……っ!?」

 

 ────若村の額に、一発の銃弾が撃ち込まれた。

 

 その閃光銃(ライトニング)の一撃を誰が放ったかは、言うまでもない。

 

 建物の屋上に佇むのは、愛銃のライトニングを構えた茜の姿。

 

 ようやく姿を見せた若村を仕留めたのは、此処に至るまで隠れ潜んでいた彼女に他ならない。

 

「ま、最低限の仕事は出来たな」

 

 若村はそう呟き、小さく笑う。

 

『戦闘体活動限界。緊急脱出(ベイルアウト)

 

 機械音声が若村の脱落を告げ、若村は笑みを浮かべながら戦場から離脱した。




 若村の事忘れてた人挙手。

 最後に一仕事やらせようとは前から決めてました。

 で、誰を落とすかというと南沢以外は返り討ちにされる未来しか見えなかったんでこういう結果に。

 多分次あたりでこのROUNDも終わりかなあ。
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