痛みを識るもの   作:デスイーター

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総評、第六戦

「此処で決着~……っ! 那須隊三人の連携により、生駒隊長を撃破……っ! 結果、那須隊に生存点が入り6:4:2で、那須隊の勝利ですっ!」

 

 宇佐美の声が響き渡り、会場が歓声に包まれる。

 

 三人相手に大立ち回りを演じた生駒も然る事ながら、その実力を如何なく発揮した生駒相手に勝利してみせた那須隊の戦いぶりも凄まじい。

 

 熱戦を直で観戦出来た者達は、大いに盛り上がっていた。

 

「いやあ、凄かったね。三人相手に圧倒してみせた生駒さんもそうだけど、犠牲を出しながらも生駒さんを打倒してのけた那須隊もね」

「そうだね。ROUND5での戦いでも思ったけど、那須隊の戦いにはかなりの気迫を感じたよ。多少の失点は恐れずに、相手を落としにかかるんだから。いざという時の思い切りは、群を抜いてるね」

 

 犬飼と北添は、口々に両者を褒めそやす。

 

 それだけの称賛を受けて然るべき試合であった事は、事実である。

 

 彼らは、それだけの戦いをしてのけたのだから。

 

「でも、イコさんとの一騎打ちに応じたと見せかけてしっかり罠を張ってたあたり、七海くんも抜け目ないというかクレバーというか。ホント、油断ならないよね」

「でも、俺七海くんのそういうトコ好きだぜ? 感情と実利を切り離して考えられるって、結構得難い技能だし。機転も効くし判断も的確、隊に欲しいくらいだよ」

 

 犬飼はぽろりと、七海に対する本音を溢す。

 

 こう見えて、七海の引き抜きに失敗した事を割と引きずっているらしい。

 

 …………まあ、引き抜き役をあの二宮に任せた時点で結果は決まってたな、と開き直りもしているのだが。

 

「犬飼くん、それ本気にする人いるから気を付けた方がいいよー?」

「はいはい、気を付けまーす」

 

 ぼそりと宇佐美に耳打ちされた犬飼は、冷や汗をかきつつ笑顔で返答した。

 

 こと七海に関しては感情のブレーキが壊れる少女の事は、犬飼も知っている。

 

 本気で七海を狙っていると思われて狙われるのはゴメンだ、と考えた犬飼は溜め息を吐いた。

 

 幸い、最後の一言は小さく溢しただけである為マイクには拾われていない。

 

 迂闊な事はこれ以上言わないようにしよう、と犬飼は固く誓うのであった。

 

「さて、それじゃあそろそろ総評に移ろうか。まずは香取隊からでいいかな?」

「了解。じゃ、始めよっか」

 

 宇佐美の話題転換に飛びついた犬飼は、背筋を伸ばしてマイクを握る。

 

 総評の、始まりだ。

 

「香取隊は、作戦は割と上手く嵌ってはいたと思うよ。初動も、割と良い感じだったし」

 

 香取隊の作戦は、七海をスパイダーによるワイヤー地帯に追い込み、足止め。

 

 生駒隊は隠岐を真っ先に落として生駒旋空の脅威度を減らしつつ、三浦がワイヤー地帯と那須との疑似的な共闘を以て足止め。

 

 そして、七海を救援に来た熊谷と茜を狙って刈る。

 

 それが、今回の香取隊の持ち込んで来た作戦だった。

 

 そのいずれも、最初の時点では上手く行っていたと言えるだろう。

 

「けど、香取隊にとって予想外だったのは那須隊が中々七海くんの戦場に介入しなかった点と、三浦くんが那須さんごと早期に落とされた点。ゾエさんは、この二点についてはどう思う?」

「そうだね。強いて反省点を挙げるとすれば、那須隊が香取隊の目的に気付いた後の対処が少し甘かったって事かな」

「ま、そうだよね」

 

 犬飼は北添の意見を肯定し、続ける。

 

「七海くんを足止めするのは予定通りだけど、相手が自分達の作戦目標に気付いた可能性が高いと察した時点で次の手を打たなくちゃならなかった。たとえば、あの場は香取ちゃんに任せて若村は敢えてあの場から一歩離れて周囲を索敵しても良かったかもだ」

「けど、それだと若村くんが各個撃破されちゃうんじゃない?」

「そうだね。けど、それは香取隊にとってはむしろ好都合なのさ」

 

 何故なら、と犬飼は笑みを浮かべる。

 

「あの状況で若村くんがやられる相手としたら、熊谷さんか日浦さんだよね。つまり、若村くんが落とされた時点で二人の位置が割れるワケだ。そうなったら、香取ちゃんがその場に急行して二人を落とせば最初の目標は達成出来るって寸法さ」

 

 そう、あの場面では単独行動を取って落とされるリスクを上げるデメリットよりも、標的を炙り出せるというメリットを優先すべきだった。

 

 若村が落とされたとしても、香取が熊谷と茜を落とせれば元は取れる。

 

 ランク戦では、失点より得点が重要。

 

 それを理解しているからこそ、那須隊は最後は捨て身の策に打って出たのだ。

 

 香取隊には、まだそのあたりの思い切りが足りなかったとも言える。

 

「後は香取ちゃんが身を隠して、生駒隊と那須隊の戦いに横から介入出来れば更に得点を重ねられる可能性もあった。あくまでたらればの話だから、本当の所はどれが正解かなんて断言は出来ないんだけどね」

 

 それでも、そういう()()()があったっていうのは覚えておいた方が良いよ、と犬飼は告げる。

 

 犬飼の指摘は、あくまで()()()()()()()()()()()という()()()()()()だ。

 

 それが本当に正しい選択だったかどうかは今となっては分からないし、既に結果が出ている以上意味のない話にも聞こえるかもしれない。

 

 だが、()()()()()()()()()()()と識る事は重要だ。

 

 手札の数は、そのまま隊の強さに直結する。

 

 切る事の出来る手札(カード)は、多い方が良い。

 

 犬飼は、そういう話をしたワケだ。

 

「ま、でも前よりずっと心構えや動きは良くなってるよ。今後には、充分期待出来るかな」

 

 

 

 

「好き放題言ってくれちゃって、もう」

「…………けど、犬飼先輩の言った事は的を射てる。まだまだ、改善の余地があったって事だな」

 

 香取隊の作戦室にて、犬飼の解説をむすっとした表情の香取と真剣な表情の若村が聞いていた。

 

 両者とも、悔しさが隠し切れていない。

 

 だが、不貞腐れる様子は一切見られなかった。

 

 二人は共に、犬飼の指摘を甘んじて受け入れている。

 

 否、積極的に拝聴しそれを自らの糧にしようとしている。

 

 それだけでも、彼女達があの敗戦からどの程度変わったかが見て取れる。

 

 勝てない、と自棄になる香取の姿も、彼女の粗を探すだけの若村の姿も、最早ない。

 

 此処にいるのは、あくまで共に戦うチームメイト。

 

 敵でもなければ、馴れ合うだけの関係でもない。

 

 共に戦い、上を目指す。

 

 そう決意した、ボーダーの一員なのである。

 

 そんな二人を、三浦は穏やかな顔で見詰めている。

 

 奥に座る染井も、何処か眼差しが優しかった。

 

 隊の変化を好意的に受け入れているのは、彼等だけではない。

 

 チームの全員が、変化を好ましく思っている。

 

 これまで足踏みし続けた分の負債は払い切れてはいないが、今は以前より毎日が充実しているように思う。

 

 それはきっと、本当の意味で彼らがチームとして一つになった証のようなものだろう。

 

「とにかく、今回の反省を活かして次に繋げよう。まだ、今期だって二試合残ってる。やり方次第で、充分挽回出来る筈だ。そうだよね? 華」

「ええ、まだ終わったワケじゃない。やれるトコまで、やってみても良いと思う」

 

 染井は、そう言ってじっと香取を見詰める。

 

 その視線に気付いた香取は、軽く笑みを浮かべてみせた。

 

「そうね。華がそう言うなら、やってみようかしら」

「そうだな。まだまだ、やれる事はたくさんある筈だ。諦めるにはまだ早い、って事だな」

 

 香取に続き、若村も力強くそう告げる。

 

 敗戦による落ち込んだ空気は、既に払拭されていた。

 

 彼女達は、これからも進み続けるだろう。

 

 まだ、その躍進は終わったワケではないのだから。

 

 

 

 

「じゃ、次は生駒隊だね」

「そうだね。いつも通りといえばいつも通りだけど、今回は特にイコさんのクレバーさが目立つ試合だったね」

 

 北添はまず、と前置きして話し始めた。

 

「隠岐くんが真っ先に落とされたのって、割と珍しいよね? これまでの試合じゃ、割と最後の方まで残ってるイメージだったし」

「そうだね~。あれで隠岐くん、割と隠密能力高いしね」

 

 いざとなればグラスホッパーもあるし、と宇佐美は補足する。

 

 実際、隠岐は大抵の試合では終盤まで生き残る事が多い。

 

 グラスホッパーを使いこなす身軽さも然る事ながら、隠岐のステルス性能は割と高い。

 

 その気になれば、幾らでも機を待って忍ぶ事が出来るのだ。

 

 故に生駒ほどではないが生存能力が高い方であり、最後に生駒と隠岐だけ残る、といった展開もこれまでの試合では見られている。

 

 それだけ、彼の立ち回りは()()のだ。

 

「けど、今回は香取隊にとってどうしても邪魔だった隠岐くんは真っ先に狙い落とされた。それが、流れを変えた一因である事は間違いないね」

 

 犬飼の言う通り、この試合で隠岐が早期に落ちた事は、大きな意味がある。

 

 隠岐という観測手が序盤で落ちた為に、生駒旋空の照準を定める為の()が足りなくなったからだ。

 

 それがなければ、遠距離からの生駒旋空で香取や七海を両断していた可能性は充分有り得る。

 

 香取隊の思惑通り、生駒隊は不自由を強いられた格好になったワケだ。

 

「けど、水上が捨て身で生駒旋空を使う隙を作って状況を動かしたのは流石だよね。あれがなきゃ、あのまま那須さんに削り殺されてただろーし」

「だね。那須さんを野放しにしたらどうなるかは、ROUND1やROUND4でしっかり証明されてる。あそこは、捨て身だろうと強引に落として正解だったと思うよ」

「そうだねー。那須さんがあのまま生きてたら、試合はもっと違った展開になったかもしれないしね」

 

 もし、あのまま生駒達が那須に足止めされ続けた場合、最悪香取や若村を片付けた七海達と合流される恐れがあった。

 

 そうなれば、幾ら生駒とて防戦一方を強いられる。

 

 自由自在に弾道を操る那須の援護を受けた七海であれば、場合によっては失点なしで生駒を仕留めた可能性すら有り得る。

 

 那須と七海を、合流させてはいけない。

 

 これは、那須隊と戦う上でのある種の鉄則である。

 

 合流を許した結果どうなったかは、ROUND1やROUND4が物語っているのだから。

 

「ホント今回は、生駒さん無双、って感じだったね。勿論、それをフォローした隊員のサポートあってのものだけど」

「生駒さんの()を作った水上も、熊谷さんと日浦さんを釣り出した南沢くんも、きちんと隊に貢献してる。色々策を弄されても、しっかり四点取れるあたりは生駒隊だよね」

 

 

 

 

「えー、此処に特に活躍出来んかった奴がいます。はい挙手」

「おれっす。すいません」

 

 水上に煽られ、隠岐がびしっと手を挙げる。

 

 言葉尻だけ見れば責めているように見えるが、なんてことはない。

 

 いつもの、じゃれあい(漫才)の一環である。

 

「隠岐は、罰として俺らに女の子紹介する事ー」

「いやいや、紹介出来るような子はおりませんって。それに、そんな事言うとマリオちゃんが怒りまっせ?」

「はぁっ!? なんでウチが怒らなアカンのやっ!? あほらし」

 

 突然話題を振られた真織が、顔を真っ赤にして怒鳴り散らす。

 

 それをチャンスと見た生駒隊の面々が、攻勢(悪ノリ)を開始した。

 

「すまんな。マリオちゃんを差し置いて可愛い子探すとか、俺らデリカシーちゅうもんがなかったわ」

「そうっすね。おれらにはマリオちゃんがいますもんね」

「そやそや、マリオは可愛いで」

「うわキッモ、キッモッ! ────って、このやり取り何度目や……っ!?」

 

 あははははは、と隊室が笑いに満ちる。

 

 勝とうが負けようが、彼らの空気は変わらない。

 

 勝ちも負けも、笑って流す。

 

 改めて、意思を確認し合う必要はない。

 

 最初から負けっぱなしで終わって満足する者など、この隊には誰もいないのだから。

 

「イコさん」

「なんや?」

「どやった?」

「楽しかったで。悔しいけどな」

 

 水上は生駒の返答にそか、と短く返す。

 

 それで充分。

 

 今回は負けてしまったが、次は勝つ。

 

 持てる知略を尽くして、勝ってみせる。

 

 それが、リベンジに闘志を燃やす生駒を支える隊のブレインとしての自分の役目だと信じて。

 

 

 

 

「最後は那須隊だね。最初は香取隊の作戦に嵌められたように見えたけど、そこからの立ち回りは地力の高さが見て取れたね」

「そうだね。七海くんは不利な状況に追い込まれたけど、即座に持久戦に切り替えて粘ってみせたし。そのあたり、流石だなあって」

 

 北添の言う通り、今回の那須隊は序盤で香取隊の作戦の発動を許してしまった。

 

 スパイダーという七海のサイドエフェクトの弱点を突くトリガーを戦術として持ち出され、隊の中でも重要度の高い七海を一か所に釘付けにされてしまった。

 

 七海は単騎でも出来る事が多い分、相手としては出来る事なら真っ先に補足しておきたい相手だ。

 

 それを一か所に留められた影響は、とても大きい。

 

 だが、その上で七海は一切焦る事なく持久戦に切り替えた。

 

 そうする事で逆に足止めを画策した香取隊を焦らし、思考の陥穽に落とす為に。

 

「七海くんは、多分早い段階で香取隊の作戦を見破っていたと思うよ。そうでなきゃ、早々に熊谷さんか日浦さんを介入させただろうし。つまり、那須隊は敢えて七海くんを放置する事で香取隊に焦りを生み出したってワケ」

「多分、香取隊が七海くんの足止めに固執しちゃったのもその影響だろうね。なまじ一度作戦が上手く行ってる最中だから、中々他の行動を取れなかった。きっと、それも那須隊の狙い通りだよね」

 

 香取隊は、これまでの経験から()()()()()()()というものがあまりない。

 

 最近は改善されてきているが、負けが込んだ経験もあって()()()を過剰に恐れる所があった。

 

 これが、最初から作戦が上手く行っていないのならば、香取隊も早期に作戦を切り替えただろう。

 

 しかし、実際には作戦は上手く嵌まり、狙い通り七海の足止めという()()を果たした状態となっていた。

 

 その()()()()()()()を捨てるには、香取隊の思い切りが足りなかった。

 

 これは明確な、経験不足故の陥穽と言える。

 

 那須隊は、それこそを狙ったのだ。

 

「ワイヤー地帯に捕まった段階で、七海くんは思考を切り替えて()()()()()()()に終始した。あの場で本当に足止めされていたのは、香取隊だったってワケだね」

「罠に嵌めたつもりが実は嵌められていたとか、流石というかなんというか。ホント、ただでは転ばないね」

「ま、簡単に言えば香取ちゃんと若村くんの実力不足も原因の一つだから、精進あるのみではあるけどね。一週間かそこらの急場で強くなれるほど、現実は甘くないって事」

 

 犬飼は解説を聞いている香取隊に敢えて聞かせるつもりで、発破をかける。

 

 香取隊に今回の作戦を伝授したのは犬飼なのである意味良い性格をしているが、それでも今の彼女達ならば悔しさを糧に出来るだろうと彼は考えていた。

 

 これでも、弟子が可愛いのは事実なのだ。

 

 ただ、方針が割とスパルタなだけで。

 

 甘やかすような余分など、犬飼にはないのである。

 

「後はそうだな。さっきも言ったけど那須さんが早期に落ちたのは確かに痛かったけど、それでもきちんと作戦を立てて生駒さんを迎え撃ったのは凄いよね」

「それで実際に倒しちゃってるしね。分かってはいた事だけど、本当に今期の那須隊はモノが違うよね」

 

 ゾエさんもうかうかしてやれないなー、と北添は軽く笑う。

 

 七海と親交の深い北添にとっても、彼の成長は喜ばしい。

 

 今回の結果を聞いて、影浦もきっと上機嫌の筈だ。

 

 好敵手の成長を喜ばない程、彼は薄情ではないのだから。

 

「ホントホント、B級中位の下の方から一気に駆け上がってるし、今期のダークホースと言っても過言じゃないよね」

「ダークホースというか、台風の目だよね。ホント、那須隊怖ぇー、としか言えないなあ」

 

 にやりと、犬飼が笑う。

 

 那須隊への称賛は本心だが、それはそれとして二宮隊(自分達)が彼らに負けるとは考えていない。

 

 否。

 

 今この瞬間も、那須隊を攻略する方策を試行錯誤している筈だ。

 

 犬飼は、決して相手を過小評価しない。

 

 ()()()()()()()()()()()と認識した以上、あらゆる策を以て叩き潰す。

 

 それが、二宮隊のバランサーである彼の役目なのだから。

 

「ま、今回の総評はこんな所かな」

「うん。そうだね」

 

 犬飼と北添が総評の終わりを告げ、宇佐美に目配せする。

 

 意図を汲み取った宇佐美は、マイクを握り声を張り上げた。

 

「これで、B級ランク戦ROUND6、昼の部を終了します……っ! みんな、お疲れさまー」

 

 宇佐美の宣言を以て、試合の閉幕が告げられる。

 

 B級ランク戦ROUND6は、これにて終了となった。




 ROUND6、終了。これはこれで楽しかった。

 香取ちゃんの次なる活躍をお楽しみに。
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