「此処で樫尾隊員、熊谷隊員が続けて
結束の実況に、会場が湧き上がる。
蔵内に続いて、王子隊二人目の脱落者。
そしてそれを仕留めたのは、3対1で不利な状況だった熊谷。
しかも帯島を狙うように見せかけての不意打ちであり、駆け引きの巧みさが見て取れた。
「最初から、熊谷隊員はあの場で樫尾隊員を落とすつもりで行動していたようですね。自身の脱落も、折り込み済みでしょう」
「けど、なんで熊谷ちゃんは帯島ちゃんより樫尾を優先して狙ったんや? そないに樫尾が厄介だったっちゅー事か?」
「理由は幾つか考えられますが、第一に王子隊の選択肢を削り取る為でしょうね」
嵐山は試合映像を見ながら、話を続ける。
「このMAPと天候は、王子隊が設定したものです。つまり、王子隊には明確な
「成る程、MAP選択で有利になった王子隊をまず潰しとこいう判断か」
「概ねその解釈で問題ないと思います」
嵐山の言う通り、このMAPを選択したのは王子隊だ。
当然MAPを活かした戦術も用意してあったし、何より視界条件が最悪な砂嵐の中で王子隊だけは地の利を生かして自在に動く事が出来る。
王子隊は確かにMAP選択で有利を取ったが、その分普段より狙われ易くなっていたというワケだ。
「王子隊の最大の強みは、その作戦立案能力と機動力を活かした連携です。つまり、連携こそが肝の部隊であり、隊員が複数生き残っているだけで王子隊は戦術上の選択肢を無数に追加する事が出来るワケです」
「けど逆に、隊員の数が減れば減る程不利になる、ちゅー事か」
「はい。王子隊は突出したエースを中心に戦術を組み立てる香取隊とは逆に、連携を前提とした作戦で詰め将棋のように相手を追い込んでいくチームです。そうなるとどうしても、人数が減った後のリカバリーが難しくなってしまうワケです」
そう、王子隊には明確なエースがいない。
隊長の王子の戦闘力は優秀な部類に入るが、一人で不利な戦局を覆す程の実力を持っているというワケではない。
エース中心のチームはエースが落とされれば一気に崩される危険を孕んでいるが、その分爆発力がある。
逆にエースがいない王子隊は、一人落とされてもリカバリーが効き易いが、一旦不利な状況に陥ってしまうとそこからの復帰が難しくなる。
王子隊の獲れる点を取って余計なリスクは負わない、という行動方針はそういった隊の強み弱みを理解しているからこそ打ち出したものだろう。
現在試合を行っている弓場隊には弓場、那須隊には那須と七海という明確なエースがいる。
そして、七海以外の二人は明確なダメージは負っていない。
当初王子隊が狙っていた熊谷は弓場隊によって落とされてしまい、茜は現在に至るまで発見出来ていない。
この状態で茜を探し回るのはリスクが高過ぎる為、流石に出来ないだろう。
王子隊が不利な局面になっているのは、まず間違いない。
「樫尾隊員が落ちた事で、王子隊は行動を大幅に制限されたと言っても過言ではありません。此処から王子隊長がどう動くかが、今後の展開の鍵となるでしょう」
この状況で、王子が出来る事は限られている。
弓場と七海の戦闘に再度介入したところで、自分が落とされるか七海が弓場に落とされるか、そのどちらかしかない。
先程まで王子が二人の戦いに介入していたのは、あくまで時間稼ぎの為である。
王子隊が王子一人しか残っていない現状、時間稼ぎなどしても意味はない。
故に王子が取れる選択は、神田達を狙うか、那須を狙うか、リスクを承知で茜を探すか、そのいずれかになる。
定石通りであれば神田達を狙うのがベターであるが、それは当然神田達も承知している。
王子の襲撃は、当然警戒している筈だ。
かといってグラスホッパーを装備した那須相手では、王子一人では分が悪い。
茜を今から探すのは、そもそも現実的とは到底言えない。
どの選択肢を選んでも、常にリスクは付き纏う。
王子の、決断のしどころだった。
「王子隊長の選択が、注目されるところですね」
『王子くん、樫尾くんが落ちたわ。熊谷さんは弓場隊に仕留められたみたい』
「了解した。中々厳しくなってきたね」
王子は羽矢からの報告を聞きながら、思わず溜め息を吐いた。
作戦自体は、悪くはなかった筈だ。
建造物のない岩山ばかりのMAPで那須や七海の動きを制限し、砂嵐で狙撃を対策。
その隙に獲れる点を奪取するのが、王子隊の作戦方針だった。
だが、予想以上に那須隊がMAPと天候に適応するのが早過ぎた。
狙撃が殆ど機能しない事を利用し、那須は砂嵐を隠れ蓑として機会が来るまで隠密に徹し、
那須隊の中では最も落とし易いと見た熊谷は、自分が狙われている事を知ると自ら弓場隊の前に姿を現し、更には彼女を仕留める為に派遣した樫尾をも落としてしまった。
現在、王子隊の得点は0Pt。
このまま何も戦果が出ずに王子が落とされれば、間違いなく中位落ちだ。
確かに以前よりは善戦しているが、結果が出なければ意味はないのだ。
頑張りましたが出来ませんでした、が通用する程甘い世界ではない。
無論、ランク戦が戦闘訓練の一環である事は承知している。
隊員同士が競い合い、レベルアップする為の機会。
それを否定するつもりはないし、王子とてランク戦の意義は理解している。
だが、やるからには勝ちたいと思って何が悪い。
別段、A級になって固定給を得ようだとか、そういう事を考えているワケではない。
けれど、競技として成立している以上貪欲に勝ちを狙いに行くのは当然だと、王子は思っている。
ランク戦は、部活の大会と同じだ。
勝てば嬉しいし、負ければ悔しい。
良い成績が残れば誇らしいし、逆に順位が落ちれば消沈する。
勝ちたいから、戦う。
それは競技を行う者である以上、共通する認識の筈だ。
中には七海のように悲惨な過去を体験し、大切なものを守る為に強くなる、という者もいるだろう。
それはとても立派だと思うし、そういった者達には敬意を表する。
王子には、そう大層な理由は無い。
四年前の大規模侵攻で家族や友人を失ったワケではないし、近界民を憎んでいるワケでもない。
ただ、自分の力を活かせる場として面白そうだから入隊した。
その程度の、理由である。
(けれど、想いに貴賤はない。想いの強さは、戦いには関係ないんだ)
以前聞いた、太刀川の持論を思い出す。
戦いに、気持ちの強さは関係ない。
NO1攻撃手は、日頃からそう豪語している。
その通りだと、王子は思う。
勝負を決めるのは、戦術と個々の実力、そして運。
それだけである。
気迫が乗れば、確かに実力が伯仲している相手に押し勝てる事もあるだろう。
だが、それはあくまで実力が近い者相手のみ。
圧倒的な格上相手には、気持ちだけでは勝つ事は出来ない。
それが、当然の理屈だ。
合っている。
間違ってはいない。
頑張れば勝てる、などという言葉は幻想だ。
勝つ為には必要な努力を重ねる事は、
それに加えて、明確な勝利の為の具体案と、それを運用する的確な判断が必要となる。
確かに自分は、不利な戦況を一人で覆せるようなエースではない。
しかし、このまま成す術がないとは欠片も思っていない。
プランはある、それを実行する意思もある。
あとは、機会を待つだけ。
「このままじゃ終われない。出来る事は、なんだってしようじゃないか」
バッグワームをたなびかせ、王子は砂嵐の中を突き進む。
王子隊の策士は、孤軍奮闘を開始した。
『テメェ等来るぞっ! 射撃だっ!』
「帯島っ!」
「はいっ!」
オペレーターの藤丸から檄が飛び、神田と帯島の二人は上空を見上げる。
そこには、砂嵐の中降り注ぐ無数の光弾。
それを見た二人は一塊となり、固定シールドを展開した。
「……っ!」
「うわ……っ!」
二人分の固定シールドが、降り注いだバイパーを防ぐ。
だが、防ぎ切った直後、上空に第二波の光弾の雨が出現した。
「く……っ!」
神田は、熊谷の最後の一撃によって足が削られている。
故に、バイパーから逃げ切る事は最早不可能。
これをどうにかするには、シールドで防ぐ以外道はない。
(けれど、それじゃあじり貧だ。熊谷さんは、こうなる事を見越して俺の足を削ったのか……っ!)
此処に来て、熊谷が神田の足を削った事が響いてくる。
神田は、小柄で身軽な帯島程ではないがそれなりに走れる隊員だ。
足が無事であったのなら、バイパーを防ぎながら那須に肉薄する事も可能だったであろう。
だが、足が削れてしまった以上神田はこの場から動けない。
砂嵐に隠れ、那須の姿は未だに見えない。
そう遠くにいないであろう事は分かるが、明確な位置までは掴み切れない。
「ののさん、那須さんの位置は分からないかな?」
『バッグワームを使ってるみてぇで、レーダーには映らねぇな。あんまし得意じゃねぇが、弾道解析で何とか割り出してみるわ』
「頼みました」
神田は藤丸の返事を聞き、固定シールドで光弾を防ぎながら思案する。
那須の位置が特定出来ても、神田が動けない以上防戦一方の状態を抜け出すのは難しい。
恐らく那須は、突撃銃の射程の外からバイパーを撃ち込んでいる筈だ。
当然一発一発の威力は落ちている筈だが、かといって固定シールドを解除すれば合成弾で落とされかねない。
那須隊の狙撃手である茜は、未だ姿を見せていない。
つまり、自分達の様子を何処かから伺っている可能性は充分考えられる。
彼女を通じて神田達が固定シールドを解除した事が那須に伝われば、合成弾を撃ち込んで来るだろう。
(蔵内が落とされたのは、恐らく合成弾によるもの。しかし、種が割れているトマホークで落とされたとは考え難い。コブラが使われた可能性も見るべきだ)
蔵内はレーダーに映っていなかった事から、バッグワームを着て移動している最中に落とされたと思われる。
本職の射手である蔵内が、那須が使う事を知っているトマホーク相手にやられたとは考え難い。
トマホークは見た目は派手だが、きちんとシールドを広げれば対処は出来る。
要は遠隔操作出来るメテオラがトマホークなのだから、種さえ分かれば防御は可能だ。
にも関わらず、蔵内は那須に1対1で落とされた。
つまりそれは、那須が予想外の一手を使った事を意味している。
そして那須のトリガーセットから考えられる可能性は、一つしかない。
アステロイドとバイパーの合成弾、
それが使われた可能性が高い。
(元々、合成弾を使える程の射手なんだ。合成弾の手札が一つだけとは限らない以上、初見だからという理由で可能性を切るべきじゃない)
元より、那須隊は初見殺しの使い方が非常に巧い。
思いも依らぬ一手で戦況を覆すのは、那須隊の常套手段だ。
ならば、あらゆる可能性を考察し、最大限に警戒するべきだろう。
「外岡、那須さんの姿は捉えられないか?」
『今の所駄目っすね。ちらちらは見えるんすけど、一度撃つ度にグラスホッパーまで使って移動してる上に、射撃中も常に跳び回ってるんで当てられる気がしないっす』
合成弾でも使ってくれれば別なんすけどね、と外岡はぼやく。
彼の言葉通りなら、那須はノンストップで移動しながらこの射撃を敢行しているらしい。
恐らく、弓場隊の狙撃手である外岡を警戒しての事だろう。
確かに外岡は優秀な狙撃手だが、高速機動中の那須を狙い撃つ事は容易ではない。
それに隠れる場所がないこのMAPでは、狙撃手は一度見つかればそのまま落とされる。
外岡が狙撃を行う為には、落とされる前提で撃つ必要があるワケだ。
無駄撃ちは、出来ない。
だが、このままでは時間経過と共に不利になっていくのは最早明白。
もしも万が一、弓場が七海との一騎打ちに敗れるような事があれば七海がこちらに来てしまう可能性がある。
そうなれば、もう詰みだ。
那須一人相手でさえ、防戦一方を強いられているのだ。
七海まで加わってしまえば、最早勝ち目はない。
神田の足が削られていなければやりようはあったかもしれないが、過ぎた事を言っても意味はない。
この状況で、何が最善か。
神田は思案し、前を向く。
「帯島、外岡。聞いて欲しい。作戦を説明する」
そして、決断を下した。
「勝つぞ」
強い、想いを込めて。
神田も王子も考えて動くタイプだから書き易い。
でも他の作者の話を聞くとイコさんのが動かし易いって人もいるから、人それぞれで適性があるみたいね。
此処でこの作品での神田のトリガーセットを公開します。
メイン 突撃銃(アステロイド) 突撃銃(ハウンド) シールド FREE TRIGGER
サブ FREE TRIGGER FREE TRIGGER シールド バッグワーム
典型的な銃手の構築です。特殊なトリガーはセットされてません。
犬飼タイプのサポーター系銃手だと考えての構築です。トリオンは6くらいの想定。