「此処で決着……っ! 最後まで生き残った那須隊には生存点2Ptが加算され、6:2:2で那須隊の勝利です……っ!」
結束の盛大な結果報告に、会場が一気に湧き上がる。
最後の弓場と七海の戦いは、それだけ見応えのある代物だった。
その決戦に花を添えた茜の活躍も、決して無関係ではないだろう。
「エース同士の戦いは、日浦隊員の支援を得た七海隊員が勝ち取りましたね。ギリギリの戦いでしたが、七海隊員の作戦勝ちと言えるでしょう」
「あれ、日浦ちゃんはなんで間に合うたん? さっきの説明やと、那須隊の二人は間に合わない可能性が高いいう話やなかったんか?」
「恐らく、那須隊長の援護を受けてあの場に駆け付けたのでしょうね」
嵐山はそう告げると、説明を始める。
「那須隊長は、足が削られていた為あの場所からの移動は困難でした。グラスホッパーがあっても、機動力の大幅な低下は否めません。那須隊長が七海隊員の下へ向かうのは、間に合わない可能性が高かった」
「それは日浦ちゃんも同じやろ? 日浦ちゃんは足は削れておらんかったけど、そもそも機動力が低いワケやん? テレポーターにも限界がある言うたんは自分やで?」
「ええ、ですから那須隊の二人は二人一緒に七海隊員の下へ向かう事は諦めたんでしょう。その代わり、日浦隊員をあの場所に放り込む作戦を実行したんです」
つまり、と嵐山は告げる。
「那須隊長は、グラスホッパーを使って日浦隊員を七海隊員の下へ送り込んだんです」
「あん? 日浦ちゃんはグラスホッパーは使えんからテレポーター使うとるんと違うんか?」
「ええ、ですから正確には那須隊長は日浦隊員を
あ、と生駒は声を漏らす。
此処まで来れば、生駒とて気付く。
茜がグラスホッパーを使って七海の下に辿り着いた、のではない。
那須がグラスホッパーを利用して、茜を七海の下へ
茜は、奈良坂との鍛錬でグラスホッパーを習得しようと試みた事がある。
その時の結果は、惨憺たるものであった。
着地に失敗するのは、まだマシな方。
見当違いの方向に飛んだり、障害物に激突したりした事もあった。
その有り様を見て奈良坂は、「茜がグラスホッパーを使うのは無理だ」と結論付けた。
茜も同意見であり、だからこそテレポーターを使うようになったという経緯がある。
色々と運動神経があれな茜では、グラスホッパーを使いこなす事は出来なかったのだ。
だが今回行ったのは、あくまで茜を砲弾に見立て、目的地へ向かって後先を考えず送り込む手法。
つまり、那須が弾道計算を行った上でグラスホッパーを展開し、ジャンプ台に茜を叩き込んで七海の下へと発射したのだ。
そうして充分な飛距離を稼いだ後に、最後にテレポーターを用いて狙撃位置に付いた。
これが、茜があの場に間に合ったカラクリである。
「幸い、あの時既に弓場隊長以外の対戦相手は全員落ちていました。着地に失敗して隙を晒してもそれを狙う相手がいない以上、リスクはなかったも同然でしょう。もしも外岡隊員が生きていれば、まず取れなかった手でしょうね」
「こういう状況も見越して、トノを落としておいたんか。相変わらず、抜け目ないんやな」
「相手の狙撃手がいなくなった事で、格段に動き易くなったのは確かでしょうね」
この試合に参加していた狙撃手は、茜と外岡の二人。
狙撃手がいる限り、対戦相手は常にその存在を意識しながら立ち回らざるを得ない。
狙撃手が生き残っている、という事実自体が一種のアドバンテージに成り得るのだ。
そういう意味では、外岡が落とされたのは弓場隊にとってこの上ない痛手であった。
彼が生き残ってさえいれば、また違った結果になったかもしれない。
イフの話をしても仕方ないが、外岡の生死が明暗を分けたと言っても過言ではないだろう。
「しかし、攻撃手キラーの弓場ちゃんを日浦ちゃんの援護があったとはいえ、ブレードで正面から倒すとは恐れ入ったわ。何気に快挙とちゃう? あれ」
「そうですね。弓場隊長は正面から攻撃手と相対した場合、かなりの勝率を誇っていました。それを打ち破ったのですから、称賛されるべき偉業である事は間違いないでしょう」
七海は様々な手を駆使し、攻撃手に対して圧倒的に有利な
至近距離での弓場の早撃ちは、防御も回避も不可能な代物だ。
事実、至近まで接近した七海は成す術なく右足を吹き飛ばされている。
だが、七海はその吹き飛ばされた右足すら利用し、勝利を収めた。
その執念は、驚嘆する他ない。
「ROUND5の時も思うとったけど、七海の執念マジヤバやな。千切れた腕を武器にするとか、何処の修羅やねん」
ま、ああいうのも俺好きやけど、と生駒は漏らす。
七海の今回のフィニッシュブローは絵面こそえぐいものがあるが、その姿から垣間見える勝利への執念は生駒からしても好ましいものだった。
なり振りかまわず勝利を目指す、それの何が悪いというのか。
少なくとも、生駒はそんな七海を心から称賛している。
そしてそれは、この試合を見ていた実力者の面々も同様であったであろう。
勝負は、極論結果こそが全て。
勝利の為にあらゆる方策を尽くすのは、むしろ当然。
故に、勝利者には相応の称賛が与えられて然るべき。
それが、ボーダー上位陣の共通認識であった。
「さて、そろそろ総評をお願いします。よろしいですか?」
「ああ、構わないよ」
「構へんよ」
解説がひと段落したと判断した結束は、総評の開始を打診する。
それを受けた二人が頷き、総評へ入った。
「まずは、王子隊ですね。王子隊は特殊なMAPと天候を活かし、地形戦を仕掛けていました。その作戦自体は、悪くなかったと言えるでしょう」
「結果として点は取れてたし、いつもの王子隊いう感じやったな」
「ええ、獲得した2点は決して小さくありません。試合には負けた形ではありましたが、得るものがなかったというワケではないでしょう」
ですが、と嵐山は続ける。
「強いて言えば、少々安全策に寄り過ぎていたように思えますね。確かにリスクヘッジも大事ですが、時としてリスクを前提とした行動を取らなければならない場合もあります。欲を言えば、あと一点くらいは欲しかったところですね」
王子隊は、作戦自体はそう間違ったものではなかった。
地形で相手の動きを制限し、自分達は獲れる点を取りに行く。
その方針自体は、悪いものではない。
だが、最善の動きだったかと言われれば少々の疑問が残る。
王子隊は今回、徹底的にリスクを排除する方針を取った。
前回の敗北が色濃く記憶に残る王子隊は、七海や弓場といったエース級とかち合う事を意識的に避けていた。
だが、その危険を避けるあまり動きが鈍っていた面がある事は、どうしても否定出来なかった。
「たとえばの話になりますが、王子隊が三人全員で熊谷隊員と弓場隊のいる戦場に向かった場合、展開によっては三人全員を落とす事が出来た可能性もあったでしょう」
勿論那須隊長の介入がなければの話ですので、推測の域を出ませんが、と嵐山は続ける。
それは確かに
リスクヘッジは重要であるが、今回の王子隊はそれに囚われ過ぎていた面があった事は事実である。
「事前情報ばかりを重視するのではなく、相手の成長の可能性まで考慮に入れられるようになれば、王子隊はもっと上を目指せると思います。戦場は、数値化出来る事柄が全てじゃありませんからね」
「全く以てその通りだ。ぐうの音も出ないね」
王子隊の作戦室で、普段着に戻った王子がふぅ、と息を吐いた。
全て、嵐山の言う通りである。
自分達はROUND4での敗戦の記憶を引きずるあまり、過度に慎重になり過ぎていた。
虎穴に入らずんば虎子を得ず、という言葉通り、危険を恐れていては欲しいものは手に入らない。
もしかすると、一度中位に落ちて焦りがあったのかもしれない。
その焦りが、彼等の行動や思考を鈍らせた。
そういう面があった事は、否定しきれなかった。
「成長の可能性、か。確かに、僕は今までそれを軽視していたかもしれない。人は、成長するものだ。特に、戦場という特異な環境下ではね。上を目指して頑張っていたいたつもりが、とんだ視野狭窄に陥っていたワケだ」
「王子……」
「王子先輩……」
らしくもなく弱気な発言をする王子を、蔵内と樫尾は心配そうに見詰める。
だが王子は、そんな二人の視線を受けてにこやかに笑みを浮かべてみせた。
「大丈夫。課題は見えたんだ。なら、後は足りない所を補っていくだけさ。協力してくれるよね? カシオ、クラウチ」
「はいっ!」
「ああ、勿論だ」
力強い返答に、王子は穏やかな笑みを漏らす。
今回は至らなかったが、指針はこれで定まった。
一度や二度の失敗で挫ける程、やわな精神は持ち合わせていない。
最後には、必ず勝つ。
そう意気込んで、王子隊は上を見上げるのだった。
「次は弓場隊ですね。弓場隊はMAPと天候で動きを制限されながら、上手く立ち回っていたと言えます」
「そやな。ま、最初の弓場ちゃん仁王立ちはびっくらこいたけどなあ」
王子隊への総評が終わり、二人の解説は弓場隊へ移る。
まず口にしたのは、弓場隊長の思いも依らぬ初動であった。
「自分自身を囮にして相手を釣り出すあの戦法は、あの場面では最適解の一つだったと思われます。もしもあそこで隠れる事を選んでいた場合、王子隊に試合をコントロールされていた可能性は否定出来ません」
「七海を一人で抑えてたんも、ポイント高いで。あいつを自由にしたら、何するか分からんしな」
あの釣り出しを行わなければ、王子隊は悠々と標的を探し、七海がゲリラ戦に徹して各個撃破されていた可能性は否定出来ない。
一番最悪なのは、那須と七海が合流して連携して暴れ回る展開だ。
それを許せばどうなるかは、ROUND1の諏訪隊と鈴鳴第一が証明している。
故に、狙撃手が生存しており那須が迂闊に動けなかった段階で七海を誘い出し抑え込めた戦果は、決して小さいものではない。
そういう意味で、弓場の選択は間違ってなかったと言える。
「その後の対応も、特に問題があったようには感じませんでした。強いて指摘するとすれば、那須隊長に介入された後の対処でしょうか」
「帯島ちゃんと神田が囮になってトノが仕留めに行った、あれかいな」
「ええ、それですね」
嵐山はもしもの話ですが、と前置きして続けた。
「あの場面で全員がバッグワームで隠れて奇襲を狙っていれば、もしかすると那須隊長か日浦隊員のどちらかは落とせていた可能性はあった。これもたらればの話ですが、上手くいけば外岡隊員を温存した上で優位に立てていた可能性はありました」
「そうなったら、弓場ちゃんの独壇場やな。それもちょびっと見たかった気がすんで」
今回、外岡の生死は非常に重要な立ち位置にあった。
場合によっては彼を温存していた方が、有利な展開になった可能性はある。
所詮はたらればの話ではあるが、可能性がある以上切り捨てるべきではない。
そういう意味では、弓場隊は試行錯誤の余地があったと言える。
「とはいえ、弓場隊の選択が完全な間違いだったとも言い切れません。もしも那須隊長に奇襲されれば、一網打尽にされていた可能性はあるのですから」
「そやな。那須さん怖いし」
「弓場隊は、色々と惜しかった、と言えるでしょう。今回の結果を受け入れ、今後も精進して頂ければ幸いです」
「…………ふぅ」
髪を下した弓場が、深く溜め息を吐いた。
戦闘体とはガラリと雰囲気が変わった姿ではあるが、身に纏う威圧感は些かの陰りもない。
隠し切れない
「悪ィな、負けちまった。だが、次は負けねえ。最終戦、気張ってこうや」
「「「はいっ!」」」
弓場の言葉に、隊員の皆が勢いよく返答する。
それで充分。
多くの言葉は要らない。
そんなものなどなくとも、隊の心は一つ。
たとえ離別がすぐ近くに待っていたとしても。
隊の絆は、不滅なのだから。
「最後は那須隊ですね。那須隊は不利な条件の中、限られた勝ち筋を的確に見つけていきました。全面的な作戦勝ち、と言えるでしょうね」
そして総評は、那須隊に移る。
嵐山はにこやかな笑みを浮かべ、続ける。
「一番のターニングポイントは、熊谷隊員が神田・帯島両隊員に自ら仕掛けた所でしょうね。あれで、試合の流れが明確に変わりました。その結果として、王子隊の作戦に亀裂を入れ、試合の主導権を握りました」
「そやな。大胆な作戦やけど、成果は大きかったで」
二人の言う通り、あそこで熊谷が自ら姿を晒して戦場に躍り出た影響は大きい。
あれがなければ試合の主導権は王子隊が握ったままであった可能性があり、那須隊の勝ち筋は細く頼りないものになっていただろう。
熊谷が残した戦果も踏まえて、あの選択は重要なものであった事は間違いない。
「結果として熊谷隊員はきっちり成果を持ち帰り、那須隊が試合の流れを掴む切っ掛けを得ました。全ての隊員が、任された仕事をきっちりこなしきった印象です」
「那須隊の怖い所は、それよな。自分の仕事がどんなものであれ、全力でやりきるんやから。覚悟決まり過ぎと違うか」
今回の勝利は、那須隊の誰もが欠けては得られなかったものである。
全員が全員、自分の仕事をこなしたからこその勝利。
喜びも達成感も、ひとしおだろう。
総評が終わった事を感じ取り、結束が二人に確認を取る。
嵐山と生駒はこくりと頷き、結束は纏めに入った。
「総評、ありがとうございました。さて、今回の結果により、暫定順位が変更されます」
結束はそう告げると機器を操作し、暫定順位の一覧を表示した。
1位:【二宮隊】41Pt→47Pt
2位:【那須隊】39Pt→45Pt
3位:【影浦隊】38Pt→43Pt
4位:【生駒隊】32Pt→35Pt
5位:【弓場隊】27Pt→29Pt
6位:【香取隊】25Pt→28Pt
7位:【王子隊】25Pt→27Pt
「香取隊が上位に復帰し、東隊が中位落ちとなりました。王子隊は辛くも上位残留という結果になりましたね」
そして、と結束は続ける。
「只今、次の対戦組み合わせが発表されました。最終ROUNDの組み合わせは、二宮隊、影浦隊、生駒隊、那須隊の四つ巴となります」
お、と結束が告げた組み合わせに、生駒の眉が吊り上がる。
実力者揃いの、四つ巴。
しかも、B級上位に君臨し続けていたTOP2チームを含む組み合わせ。
最終ROUNDに相応しい、激戦が予想されるマッチングであった。
「それではこれにてB級ランク戦、ROUND7を終了致します。皆さん、お疲れさまでした」
結束が、ROUND7の終了宣告を告げる。
それで、幕。
ROUND7は、滞りなく終了した。
波乱の予感を、残して。
ROUND7もこれで終了。最終ROUND前の幕間をちょこちょこやっていきます。
神田の件も含め難産でしたが、なんとかやり遂げました。