無数の光弾────
出水を相手に射撃を回避する訓練はこれまでに飽きる程やっているが、この弾丸の雨はその時よりも更に密度が高い。
当然だ。
今の出水は、トリガーセットどころかトリオン量すらも二宮と同じ設定にしてある。
そして、出水はその二宮の師でもあるのだ。
対二宮の仮想敵として、これ以上の配役はいないだろう。
「……っ!」
その弾丸の雨に対し、防御は────無論、しない。
一度でも弾丸の檻に囚われてしまった瞬間、敗北する。
これは、そういう戦いだ。
故に、取った手段は逃走。
グラスホッパーを展開し、それを踏み込む。
そして、ジャンプ台トリガーの加速によって一気に出水の射程圏内から抜ける。
「来たな」
だが、今戦っているのは出水だけではない。
七海が離脱した、その先の路地。
近くの家屋の屋根の上から、槍型の弧月を構えた米屋が飛び降りる。
「────メテオラ」
「うおっと……っ!」
奇襲して来た米屋に対し、七海はメテオラを射出。
無数に散らした炸裂弾が、米屋に襲い掛かる。
米屋のトリオン量は、戦闘員としては低い方に位置する。
故に、シールドの強度も左程高いワケではない。
無論、一発のメテオラで割れる事はないだろうが、叩き込み続ければ耐えられはしない。
今、米屋は空中。
シールドで防ぐ以外メテオラを回避する方法がない以上、七海にとっては格好の獲物だ。
まずは一人────。
「────と、思うじゃん?」
否。
米屋は、トリオン弱者ながらその技量と戦運びの巧みさでA級にまでのし上がった男。
単なる力押しなど、通用する筈もない。
米屋は落下途中に槍を家屋の壁に突き刺し、それを足場に跳躍。
メテオラは突き刺さったままの弧月に触れ、起爆。
その爆風を利用し、米屋は七海の側面に着地する。
「────旋空弧月」
そして、弧月を再構築しそのまま旋空を起動。
槍弧月の拡張斬撃が、七海へ襲い掛かる。
「────」
それに対し、七海は即座にグラスホッパーを展開。
ジャンプ台を蹴り飛ばし、斜め上へと跳ねるように退避する。
そのまま米屋へ突撃────は、しない。
何故ならば。
「そのまま抑えろ槍バカ」
「任せろ弾バカ」
────この場にはもう一人、光弾を従えた出水がいるのだから。
無数に降り注ぐ、弾丸の雨。
最初から、これが米屋の狙い。
出水が再び七海を射程内に捉える為の、時間稼ぎ。
それが、米屋の目的だった。
この雨に、打たれるワケにはいかない。
故に、七海は即座に離脱を選択する。
「行かせねえよ」
「……っ!」
それを、米屋が許す筈もないが。
米屋は弾丸の雨を気にする素振りすらなく、七海の下へ突っ込んでくる。
今七海は、米屋と出水の中間地点にいる。
そして、此処は住宅地の路地のど真ん中。
左右が家屋で囲まれている以上、横へ逃げる事は出来ない。
だが、前へ進めば米屋と打ち合う事になり。
後退すれば、出水の射程圏内へ深く入り込んでしまう。
八方塞がり。
逃げ場は、ない。
「────メテオラ」
否。
逃げ場がないなら、
七海へ弾丸の雨の斜線上に、分割なしのメテオラのトリオンキューブを展開。
トリオンキューブは弾丸と接触し、起爆。
「うお……っ!」
「……っ!」
大爆発が、周囲を席捲した。
七海は広げたシールドでその爆発から身を守り、即座に撤退を選択。
不意こそ突いたが、今のでダメージを貰う程出水や米屋は鈍くはない。
そして、七海のメテオラの起爆によって周囲の家屋は吹き飛び移動を制限するものはなくなった。
即座にグラスホッパーを展開し、この場から離れようとする。
「────」
「く……っ!」
しかし、七海の展開したグラスホッパーは即座に撃ち抜かれた。
出水、ではない。
直前に聞こえた
瓦礫となった家屋の、向こう。
そこに、突撃銃を構えた鳥丸の姿があった。
「……っ!」
七海の
それも、二方向。
タイミング的に、回避は不可能。
グラスホッパーを撃ち抜かれた時点で、この場から離れる事は不可能だ。
(なら……っ!)
一撃。
一撃さえ防げば、後は何とかなる。
再びメテオラを爆破して、隙を作れば良い。
固められる前に、撤退を。
そう覚悟して、七海はシールドを展開した。
「が……っ!?」
────だが、その選択は間違いだった。
否、最後に残されたその選択も、摘み取られた。
万全を期して
大抵の攻撃を防ぎきるその防御が、呆気なく打ち砕かれて七海に致命傷を与えていた。
それを放ったのは、出水。
彼が放った、その弾丸の名は────。
「悪りーな。
────『
アステロイド二つを合成した、
突破力であれば射撃トリガーの中でも最上級であるそれが七海の防御を打ち砕き、致命傷を与えたのだ。
『戦闘体活動現界。
そして、機械音声が七海の敗北を宣言し、七海の身体は戦場から離脱した。
「やっぱり一人で仮想・二宮隊を相手にするのは無理がありますね。最低限、犬飼先輩を────今回の場合は京介さんを引き離す事が第一ですね」
数回の訓練を重ねた後、七海はそう口にした。
今彼等がしていた訓練は、「一人で二宮隊に囲まれた」という考え得る限り最悪の想定の上で行われたものだ。
七海だけではなく熊谷や那須も個々で行っていたが、最も長く生き残れたのはガン逃げに徹した場合の七海で、那須は次点。
熊谷の場合は、二宮役の出水と接敵した時点で成す術なくやられていた。
「そうね。玲でさえ逃げ切れなかったんだもの。あたしなんて散々だったし」
「まー、熊谷さんの場合は単純に相性がな。一度二宮さんと出会っちまったら基本逃げるしかねーけど、それも七海や那須さん並みの機動力があって初めて実現する方法だからなあ」
米屋の言葉に出水もそーだな、と言って同意する。
「基本、1対1になっちまった時点で勝ち目がないってのが二宮さんの最大の強みだからな。ぶっちゃけ、逃げられる七海や那須さんがおかしいんであって、大抵の奴は見つかった時点で終わりだよ」
二宮は、ボーダーでも随一のトリオン量を誇り、火力も相応に高い。
射撃トリガーは、使用者のトリオンが多ければ多い程威力が増し、弾速や射程もトリオンに応じて向上する。
トリオンに優れた者程、射手になる傾向が多いのはその為だ。
高いトリオンを最も直接的に活かせるのが、射手というポジションなのだから。
トリオンが高いというのは、それだけで大きな武器となる。
射手は弾速や威力、射程に至るまでチューニングで逐次変更出来る強みがあるが、トリオンが多ければ威力を保ったまま射程や弾速を上げる事が出来るのだ。
つまり、高トリオン持ちの射撃は
高トリオンの射手は、そのトリオン量にまかせた強力な弾丸を撃ち続けるだけで大抵の相手を殲滅出来る。
二宮の一番の強さは、まさにこれだ。
防御する、という言葉そのものが間違い。
避けて逃げる以外、彼の攻撃をどうにかする方法は無いのだ。
だが、二宮の射程範囲は相当に広い。
二宮程のトリオンがない那須でさえ、チューニングを駆使すれば相当量の射程を維持出来るのだ。
高いトリオンを持つ二宮は、威力や弾速を維持したまま広い射程をカバー出来る。
故に、一度二宮とエンカウントしてしまった時点で大抵は
「だから二宮さんとランク戦で運悪く追っかけられちゃった場合は、ガン逃げで時間稼ぐか、相打ちを狙うか、死ぬ事前提で仕事するしかねー、ってのが大体の隊員の見解だ。実際、俺もそりゃあ間違っちゃいねーと思うしな」
実際、大抵の場合は出水の言う通りにするしか無いだろう。
二宮さんと正面から戦う事自体が、愚策。
それは七海も、充分に理解していた。
「そーだな。流石に俺も、正面からは二宮さんとはやり合いたくねーし。二宮さんと撃ち合いが出来るのなんて、この弾バカくらいだしな」
「そうだぜ。もっと崇めろ槍バカ」
「誰が崇めっかよ、弾バカ」
米屋と出水は、軽快な調子で言い合い笑い合う。
そんな様子を見て少し微笑まし気な気分になりながらも、七海は出水に話しかけた。
「しかし、あれが
「まーな。合成弾使える奴自体少ねーし、ギムレットの場合は大抵の場合ランク戦じゃ火力過多だからな」
まず、と出水は前置きして続ける。
「ギムレットは知っての通り、アステロイド二つを合成して貫通力を上げた弾丸だ。けど、シールドを破るだけならアステロイドを叩き込み続けた方が効率的だし、何より
「ぶっちゃけ、殆ど防御の堅いトリオン兵用の弾丸って言ってもいいくれーだもんな。ハウンドみてーな誘導性能も、メテオラみてーな派手な攻撃範囲もねーし」
「使いどころが中々ねー、ってのはその通りだな」
確かに、二人の言うように
シールドを突破するだけなら、アステロイドを叩き込み続ければどうにかなる。
遠隔地を爆撃したいのであれば、誘導性能のあるトマホークやサラマンダーの方が効率的だ。
広げさせたシールドを貫きたいのであれば、
総じて、威力特化のギムレットはリスクの割に汎用性が低いと言わざるを得ないのがランク戦でギムレットの使用者を見ない最大の理由でもある。
「けど、そういう手札があるってのは知っといて損はねーぜ。二宮さんもギムレットは使えるし、七海くれー硬いシールドを破る為に使ってくる可能性はあっからな」
「はい、ありがとうございます」
だが、使いどころが
トリオン量の多い七海のシールドは、相当な硬さを持っている。
回避能力ばかりが取り沙汰される七海だが、その防御力も相応に高い。
流石に旋空のような防御不可能の攻撃は避けるしかないが、アステロイドであれば何とか防御が可能なくらいには硬い。
もっとも、撃ち込まれ続ければ割れる事は変わりないし、二宮程の高トリオンのアステロイドとなれば防御が可能かどうかは少々怪しい。
その防御を確実に突破する為に、七海相手に
「けど、七海にゃサイドエフェクトがあっからな。さっきみてーな状況に追い込まれねー限り、ギムレットはそこまで脅威じゃねーと思うぜ」
「逆に言やあ、さっきみてーな状況に追い込まれたら詰み、ってこったな。チームメイトと連携した二宮さんは、基本相手にすんなってこった」
「ええ、やっぱりどうやって二宮隊を分断するか、もしくは合流させないかにかかっていますね」
米屋達の言うように、ギムレット単体ならそこまで脅威というワケではない。
直線状にしか飛ばない弾丸であれば、七海のサイドエフェクトによる感知で容易に避けられる。
だからこそ、チームメイトと連携してこちらを追い込んでくる二宮の相手は厄介極まりないのだ。
極論、二宮隊の面々は時間稼ぎをしていればそれで勝てるのだ。
特に犬飼は、そのあたりの立ち回りが抜群に上手い。
場合によっては、自分ごと相手を撃たせるなんて真似も躊躇なくやって来る筈だ。
連携された時点で、殆ど勝ち目はないと言っても過言ではないだろう。
「って事は、この訓練は二宮隊を分断する訓練ってトコか。けど、仮に分断出来たとしても二宮さんをどう落とす気なんだ? 連携しなくても、あの人はつえーぞ」
「勿論、ちゃんと策は考えてあります。でもその策を成功させる為にはただ分断するだけじゃなくて、二宮さん相手に一定時間生き残らなきゃならないんです。だから、その為の耐久訓練でもありますね」
「ほー、マジで作戦があんのか。けど、それ大分きちー条件だな」
そうですね、と七海は告げる。
実際、米屋の言う通りではある。
連携した二宮隊を崩す事は殆ど不可能に近いが、二宮は単独でも強い。
高トリオンの射手という存在は、それ程に厄介なのだ。
しかも二宮は、ただトリオン量の高さに任せただけの男ではない。
相応の技術と経験を持ち、戦術に関しては東の教導を受けている。
猪武者ならまだやりようがあるが、圧倒的な力を理性で統御し適切に行使する相手となると最早手が付けられない。
(でも、もしかすると……)
ふと、七海は東を倒したROUND5の直後、二宮に呼び出された際の会話を思い出す。
あの時の二宮は、普段の冷徹なイメージよりも、
────俺には、遠征を目指す理由がある。お前が隊に入れば、遠征部隊に選ばれる条件は充分揃う。だからこうして、お前の意思を聞いている────
こう告げた時の二宮の目には、抑えきれない情熱のような、感情の色がなかったか。
思い返してみれば、あの時の二宮は何処か焦っているようにも思えた。
彼が、遠征を目指す理由。
それがなんなのかは、分からない。
けれど。
けれどもし、それが七海の想いと同じく、譲れないものであるのならば。
それを元に、彼が行動しているのならば。
二宮は、七海が考えているよりもずっと感情的な人間なのかもしれない。
加古がたまに話す彼の人物像とも、七海の推測は一致する。
ならば。
(そこが、突破口になるかもしれない)
────
崩れないと思われた二宮隊の牙城を崩す、僅かな綻び。
それがもし七海の想像通りだとすれば、やりようはある。
二宮が理屈よりも感情を優先する人間であれば、取れる策の
「続けましょう。次は、三人でお願いします」
「おう、じゃあ再開すっか」
その為にも、この訓練で作戦の精度を上げるのは必須事項だ。
二宮隊相手に、生き残る事。
それこそが、この訓練の主眼であるのだから。
最終ROUNDまで、もう日数は殆ど残されていない。
だが、やる意味はある。
あらゆるパターンを想定し、本番に備える。
その基本を忘れなかったからこそ、那須隊は此処まで駆け上がって来れたのだから。
七海達は更なる訓練を行う為、再び仮想空間へと足を踏み入れた。
ワートリ最新話、素晴らしすぎて感動した。
犬飼の株、前々から高かったけどあんなん爆上がり待ったなしやん。
あいつあんな表情も出来たんだなあって。