痛みを識るもの   作:デスイーター

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二宮隊①

 

『全部隊、転送完了』

 

 アナウンスと共に、各隊員が戦場となる仮想空間に出現する。

 

『────MAP、『市街地A』』

 

 目の前に広がるは、閑静な住宅街。

 

 一見争いとは無縁に見えるその街こそ、最終戦の舞台であった。

 

「行くぞ」

『ええ』

『うん』

『はいっ!』

 

 住宅地の真ん中に転送された七海はすぐさまバッグワームを着込み、仲間に通信で声をかける。

 

 そして、戦いに赴くべく駆け出した。

 

 

 

 

「さあ始まりましたB級ランク戦最終ROUND……ッ! 各隊員はランダムに転送され、各々動き出していますっ!」

 

 実況席で桜子が実況を始め、観客席の面々は期待に満ちた眼差しで試合映像を見据えている。

 

 まだ始まったばかりだが、それでも注目する要素が満載の試合だ。

 

 観客の期待感も、相応に高い。

 

「割と皆、バラけて転送されたね。強いて言えば、影浦隊と生駒隊が少し固まり気味な感じかな」

 

 王子がMAPの位置表示を見ながらそう呟き、蔵内もそれに同意した。

 

「そうだな。だが……」

「ああ、そうだろうな」

 

 蔵内とレイジがそう言って頷くと、王子も笑みを浮かべて同様に頷いた。

 

「開けたMAPで、影浦隊が参戦している以上────────ゾエさんのあれが、火を噴かない筈がないからね」

 

 

 

 

「おー、来た来た……っ!」

 

 近くの建物に爆撃が着弾し、家屋が吹き飛ばされる。

 

 それも、一つや二つではない。

 

 続けざまに襲い掛かる爆撃が、周囲を瞬く間に更地にしていく。

 

 北添の代名詞、『適当メテオラ』。

 

 広範囲に爆撃を無差別に振りまくその戦術が、火を噴いた瞬間だった。

 

 しかし、至近距離で爆撃を目にしながらも犬飼に慌てた様子はない。

 

 爆撃を軽快なステップで避けながら、仲間との通信を開く。

 

「辻ちゃーん、そっちよろしくー」

『了解しました』

 

 

 

 

『おい全然当たってねーぞ。もっとちゃんと狙えー』

「えー、レーダー頼りの適当撃ちじゃこんなもんでしょ。いつも通りいつも通り」

 

 建物の屋上に陣取り、各所に爆撃をばら撒く北添は光と普段通りのやり取りをしながら、次々に次弾を撃ち出していく。

 

 爆撃を用いて場を攪乱し、乱戦に持ち込むいつもの戦法。

 

 だが。

 

「それで光ちゃん、()()()?」

『おー、来てる来てる。建物の真下だっ!』

「了解っ!」

 

 北添は光からの報告を聞くと、グレネードランチャーの片方を突撃銃に変更。

 

 屋上から地面に向かって、アステロイドを撃ち出した。

 

「……っ!」

 

 その銃撃を回避し、向かいの建物の屋上に飛び上がる影がある。

 

 スーツの裾を翻し、屋上へ降り立った細身の少年。

 

 二宮隊攻撃手、辻新之助が弧月を構えこちらを見据えていた。

 

「辻くんか。そういや前もそうだったよねー」

「はい。爆撃は止めさせて貰います」

 

 辻は弧月を手にかけ、旋空起動の構えを取る。

 

 一撃で仕留められるとは思わないが、とにかく北添に爆撃を止めさせる事が肝要。

 

 そう考え、斬撃を繰り出そうとして────。

 

「────────ハッ、甘ぇんだよ」

「……っ!?」

 

 ────────背後からの奇襲に気付き、咄嗟にその場を飛び退いた。

 

 振り返れば、そこに立つのは北添と同じミリタリージャケット風の隊服を纏った長身の少年。

 

 影浦隊隊長、影浦雅人がスコーピオンをその手に構え彼を睨みつけていた。

 

「影浦先輩か……」

「よう────遊ぼうぜえ。辻」

 

 その眼光、餓狼の如し。

 

 二宮隊と双璧を成すB級上位部隊TOP2のエースが、戦意を剥き出しにして刃を取っている。

 

 後は、言うまでもない。

 

 影浦は凶悪な笑みを浮かべ、スコーピオンを手に辻へ斬りかかった。

 

 

 

 

「おおっとぉ……っ!? 北添隊員の恒例の適当メテオラを潰しに来た辻隊員が、近くに潜んでいた影浦隊長と接敵……っ! まさかの伏兵に、足止めされた形か……っ!?」

「…………これは、驚いたね。まさか、カゲさんがゾエさんを囮にした待ち伏せ戦法を使うなんてね」

 

 王子は試合映像を見ながら、感嘆の声をあげる。

 

 北添が適当メテオラでわざと目立ち、それを止めに来た相手を影浦が迎撃する。

 

 言葉にすればそれだけだが、あの影浦隊がそれを成したというのがまず驚きである。

 

 これまでの影浦隊は、北添が場を荒らして捨て駒になっている間に影浦とユズルが各々好き勝手に動いて点を取る、というスタイルだった。

 

 場合によっては北添のフォローに入る事はあるものの、影浦が自分から獲物を探しに行かずに待ち伏せる、という行動はこれまでになかったものだ。

 

 ROUND3以降影浦とユズルが連携して相手を追い込むなど、戦術的行動を取るようになってきた影浦隊であったが、この囮戦法は初お披露目である。

 

 王子が驚くのも、無理はないだろう。

 

「…………影浦隊は、そもそもの隊員個々人のスペックが非常に高い隊だ。だからこそ今まで好き勝手に動いていたにも関わらず、B級二位を維持出来ていたワケだ」

 

 だが、とレイジは続ける。

 

「だからと言って、無理に色々考えて動けば影浦の最大の強みである遊撃性が薄れてしまう。綿密な戦略よりも、大雑把に指針を立ててある程度の自由度を持たせた作戦の方が、影浦隊には()()()()()だろう」

「成る程、生駒隊と似たような感じですか」

「そうなるな」

 

 レイジの言うように、影浦隊はこれまでは確かに隊員が個々人好き勝手に動いていたが、それでも「北添がメテオラで攪乱して乱戦に持ち込む」といういわば()()()()()()のようなものは存在していた。

 

 攪乱して、乱戦に持ち込む。

 

 これも立派な、一つの戦術である。

 

 現に七海の場合も攪乱しつつ乱戦に持ち込む術に長けており、戦術としては決して悪い方針ではない。

 

 重要なのは、影浦隊に()()()()()が出来た事だ。

 

 一つの戦術に捉われず、柔軟な発想で臨機応変に立ち回る。

 

 影浦隊の得意としているのは、まさにこれだ。

 

 そこに普段とは違った『戦術パターン』を組み込む事でより自由度が上がり、対応力が増している。

 

 無理のない、最適解とも言える成長であろう。

 

「ともかく、これで影浦と北添は辻相手に二対一で仕掛ける事に成功したワケだ。だが────」

 

 うん、と王子が頷く。

 

「────爆撃が止んだ事に、変わりはない。動くよ、状況が」

 

 

 

 

「なんとか爆撃が止んだか……」

 

 熊谷はふぅ、と溜め息を吐いた。

 

 何とか避けていたとはいえ、至近距離で爆撃が炸裂するのは中々に心臓に悪い。

 

 爆撃が止んだ所を見ると、他の隊の誰かが北添の所に行ったのだろう。

 

 となると、爆撃から隠れていた面々が動き出す筈だ。

 

 もしも見つかっていなければ、このままバッグワームを着て潜伏するところではあるが────。

 

「熊谷さん、見ーっけ」

 

 ────その希望は、儚く崩れ去る。

 

 奇妙な既視感(デジャヴ)

 

 この光景は、前にもあった。

 

 他ならぬ、あのROUND3で。

 

「……っ! 犬飼先輩か……」

「そ。また会うなんて、奇遇だねえ」

 

 二宮隊銃手、犬飼澄晴。

 

 その少年の笑みと共に、かつての苦い敗戦の記憶が、熊谷の脳裏に蘇った。

 

 

 

 

「此処で熊谷隊員、犬飼隊員とエンカウント……ッ! 爆撃の混乱による、思わぬ遭遇戦ですっ!」

「これは……」

 

 その光景に、会場にいる多くの面々がROUND3の記憶を想起する。

 

 あの時もまた、今と同じように爆撃後の混乱時に熊谷と犬飼が接敵し、その結果として熊谷は落とされた。

 

 那須隊にとって、熊谷にとって苦い記憶を想起せざるを得ない盤面であろう。

 

「ベアトリスも運がないね。また、澄晴(スミ)くんと出会っちゃうなんて」

「こればかりは仕方ないだろう。転送運が悪かった、と思うしかない」

「いや、まだ決めつけるのは早いぞ」

 

 熊谷に同情する王子達に対し、レイジはそう言って反論する。

 

 蔵内は疑問符を、王子は興味津々といった感情を浮かべ、レイジを見た。

 

 レイジは、いつもの無表情のまま努めて淡々と説明する。

 

「あの時と今とじゃ、状況が全く違う。二宮は犬飼から遠く離れた位置にいるし、熊谷はメテオラじゃなくハウンドを習得している。屋外での射撃戦にも充分対応出来る以上、以前のように防戦一方にはならない筈だ」

 

 ROUND3の時は、熊谷は中距離の攻撃手段を使い勝手の悪いメテオラしか持っておらず、屋内に誘い込んで仕留めるつもりが逆にやられてしまった。

 

 だが、今は違う。

 

 熊谷はメテオラをより扱い易いハウンドに切り替え、中距離戦の手札を確立させた。

 

 それに、以前は那須の精神上の問題で出来なかった捨て身戦法も、今では解禁されている。

 

 犬飼と二宮がタッグで現れたならばともかく、犬飼単独なら前のような一方的な展開にはならない筈である。

 

「確かに、ベアトリスは強くなった。澄晴くん相手にも、充分善戦出来るだろう」

 

 けど、と王子は続ける。

 

「────善戦()()じゃ、足りないんだ。澄晴くんは、そんなに甘くはないよ」

 

 

 

 

「ハウンドッ!」

 

 先手必勝とばかりに、熊谷はハウンドを放つ。

 

 誘導性能を弱めにして散らした弾丸が、犬飼へと襲い掛かる。

 

「喰らうワケにはいかないね、っと」

 

 だが、犬飼は広げたシールドで冷静にハウンドを対処。

 

 同時に銃身の部分だけに穴を空けたシールドの隙間から覗く突撃銃が、熊谷に向かって火を噴いた。

 

「……っ!」

 

 熊谷は咄嗟にシールドで銃撃をガードするが、連射性能に特化した犬飼の突撃銃は尚も銃弾を吐き出し続ける。

 

 度重なる銃撃に、熊谷のシールドが罅割れていく。

 

 元々、熊谷のトリオンはそう多くない。

 

 射撃トリガーにリソースを割いている分、持久力自体は以前より低下している事は否めない。

 

 このままでは、割れる。

 

 熊谷はそう直感し、両防御(フルガード)で防御するかある程度の被弾を覚悟して反撃するかの二択を迫られた。

 

 両防御であれば、弾丸自体は防ぎきれる。

 

 だが、一旦守りに入ってしまえば犬飼は即座にこちらを固めて来るだろう。

 

 迂闊な防御行動は、自分の首を絞める事になる。

 

 しかし、かといって捨て身の行動が正解かと言われると疑問が残る。

 

 捨て身になった結果犬飼を落とせるなら別だが、此処で反撃しても精々が牽制止まり。

 

 ダメージを受ける前提での行動にしては、()()が殆どないのだ。

 

 確かに、熊谷はハウンドを習得し中距離戦に対応出来るようになった。

 

 しかし、あくまでそれは対応であり、()()しているワケではない。

 

 言わば、発展途上。

 

 中距離戦を覚えたばかりの熊谷では、百戦錬磨の実力者を相手にするのは厳しいものがある。

 

 特に、犬飼のような戦上手が相手では。

 

 犬飼はランク戦に置いて、最も厄介な部類の駒と言える。

 

 戦況を瞬時に把握し、その場その場で適切な対応を速やかに実行する。

 

 思考のタイムラグが殆どなく、単騎でも十分立ち回る事が出来、補助に回った時の手際も際立っている。

 

 どんな状況にも対応出来る、オールマイティ。

 

 それが、犬飼の最大の強みである。

 

 二宮がいるのでそう目立つ事はないが、二宮隊の影の功労者は間違いなく彼であろう。

 

 そんな犬飼の相手は、熊谷では少々荷が重い。

 

 前回のROUNDでは神田と帯島相手に大立ち回りを演じた熊谷であったが、あの時と違って突っ込んでくる攻撃手がいない為、斬り合う攻撃手を盾にする戦法は使えない。

 

 それに、技術面で言えば犬飼は神田の上を行く。

 

 神田はどちらかと言えば指揮官向きのサポーターであり、単騎での制圧力はそう高くはないが、犬飼は攻撃も補助もどちらもそつなくこなせてしまう。

 

 更に、犬飼は相手の思考を読み、的確に隙を突く手管が抜群に上手い。

 

 相手の嫌がる事、やって欲しくない事を即座に察して実行する。

 

 味方へのフォロー力とは真逆の、しかし同系統の技術による妨害能力。

 

 それが、犬飼のもう一つの強みである。

 

 先ほどから弾丸を適度に散らして集中シールドだけで防ぐ、という手を封殺しており、その立ち回りの巧さは一級品だ。

 

「くっ、背に腹は代えられないか……っ!」

 

 シールドは、既に割れる寸前。

 

 熊谷は仕方なく、両防御(フルガード)へ切り替えた。

 

「────両防御、したね。なら、後は追い込むだけだ」

「……っ!」

 

 犬飼は熊谷が両防御に切り替えたのを見届けると、銃撃の勢いを引き上げた。

 

 弾は適度に散らし、一点集中での防御は許さない。

 

 かと思えば、銃撃を一点に収束させシールドを割らんとする。

 

 なんとか対応していた熊谷だったが、シールドが割れるのは最早時間の問題。

 

 このままでは、やられる。

 

 誇張なしに、熊谷はそう覚悟した。

 

「────メテオラ」

 

 ────────だが、その窮地を救った者がいた。

 

 降り注ぐのは、四つに分割された炸裂弾(メテオラ)

 

 メテオラは地面に着弾すると、同時に爆発。

 

 爆発の光と風圧が、その場を席捲した。

 

 犬飼は攻撃を中断しシールドを広げ、その爆発から身を守る。

 

 銃撃が途切れた隙を狙い、熊谷は家屋の影に後退した。

 

「へえ、君が来るんだ」

 

 犬飼は爆煙向こう、家屋の上に立つ人影を見て笑みを深める。

 

 そして煙が晴れ、その人物の姿が露になる。

 

「ええ、前回は間に合いませんでしたが────────今回は、やらせはしません」

 

 那須隊攻撃手、七海玲一。

 

 前回の雪辱を晴らすべく、隊のエースが戦地に降り立った瞬間であった。





 始まりました最終ROUND。

 マッチアップは色々考えましたが、まずはこれで。
 
 カゲさんは変に頭使うより、大雑把に方針決めて動いて貰った方が単純に強い気がする。

 原作だとユズルの事を気にして少し硬くなっちゃってたっぽいしねー。これくらいで丁度良いのかも。
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