「おーっと、此処で大きく動いたっ! 生駒旋空と連動しての隠岐隊員の狙撃により、北添隊員が緊急脱出……っ! 更にその隠岐隊員を、絵馬隊員の狙撃が撃ち抜いた……っ!」
B級ランク戦、最終ROUND。
その最初の脱落所が決まり、会場が沸き上がる。
生駒と隠岐の連携も、隠岐をカウンター狙撃したユズルの手並みも、どちらも見応えのあるものであった。
この盛り上がりは、むしろ自然な反応だろう。
「どちらも流石だね。特別な事をやったワケじゃないけど、その場その場での最適解ではある」
「そうだな。特に、北添を狙った所がなんだかんだ堅実な生駒さんらしい」
そうだね、と王子は蔵内の言葉に同意する。
「あの場で自由にしたら一番面倒なのは誰か、ってなるとやっぱりゾエさんになるからね。それでいて、あの場で一番倒し易い駒でもあった。狙わない理由がないよね」
「ふむ、一番面倒で狙い易い、ですか」
「ああ、強さと言うよりも、その性質がね」
王子はそう告げると指をピン、と立てて説明した。
「まず、ゾエさんがフリーになっちゃうとまたあの適当メテオラが襲ってくるワケだ。あれをやられると誰かがゾエさんを抑えるまでまともに行動出来なくなるし、折角バッグワームで隠れていても炙り出される危険がある」
「無差別攻撃に見えて、自分の隊には被害が及ばないのもポイントだな。レーダーを見て絵馬がいる所は避ければ良いし、影浦はサイドエフェクトで攻撃を察知できるから多少巻き込んでも問題はない。むしろ、混乱に付け込んで乱戦に持ち込めるから願ったり叶ったりだろう」
そう、北添の適当メテオラの厄介な点は、彼が所属する影浦隊との相性の良さだ。
適当メテオラはその名の通り適当に撃っているように見えるが、その実レーダーを見て何処に爆撃を落とすかを判断して放っている。
ユズルを巻き込みそうな爆撃は放っていないし、影浦はそもそも
蔵内の言う通り、乱戦に持ち込み易くなる為好都合でもあるのだ。
つまり、無差別に見えて無差別ではない。
指向性のある援護爆撃、と言うべきだろう。
後は爆撃で炙り出された相手に影浦が突貫したり、チャンスがあれば絵馬の狙撃で仕留めても良い。
伊達に影浦隊の戦術の中核にはなっていない、という事だ。
「そして、ゾエさんの唯一の欠点は足が遅い────────つまり、機動力に難がある事だ。更に言えば、あの時位置的にゾエさんは生駒旋空を回避する為に引き倒されて身動きが取れない状況下にあった。もう、狙わない理由を探す方が難しいね」
そして、北添は生駒旋空から逃れる為に影浦が引き倒した事で回避が出来ない状態にあった。
取り逃がすと厄介な相手が、隙を晒している。
そうなると確かに、狙わない方がおかしい。
あの場で北添が狙われたのは、順当と言える。
「それから、狙撃を成功させたおっきーを正確に狙い打った
いや、と王子は自分の発言を思い返し訂正する。
「考えてみれば、合理的なやり方ではあったワケだ。この市街地Aの性質を考えればね」
「そうだな」
王子の言葉を、レイジがそう言って肯定した。
「市街地Aは特徴のない住宅密集地が多く、狙撃手が布陣するに最適な高所は数える程しかない。そして当然、そういった場所は狙撃手にとっては一目瞭然だ。絵馬も恐らくそのいずれかに狙撃手がいると、当たりを付けていただろう」
そう、この市街地AというMAPは他の市街地MAPよりも圧倒的に住宅地の面積が多く、病院やマンションのような高い建物はそう多くはない。
基本的に、狙撃手は高所を取った方が有利になる。
高所を抑えられれば戦場全体を俯瞰して見る事が出来るし、相手がバッグワームを着ていても直接視認する事で捉える事が出来る。
狙撃手にとって素早く高所を抑える事は、試合における最重要項目と言っても良い。
しかし逆に言えば、狙撃に適した高所が少ないMAPであれば、狙撃手が陣取っていそうな場所にある程度
ユズルは当然狙撃に適したポイントをチェック済であった筈であり、あそこまで迅速に隠岐を狙えたのはその為でもあるのだろう。
「隠岐はグラスホッパーを装備した変わり種の狙撃手だ。その為か他の狙撃手と比べると自分の位置が知られる事を恐れない傾向があり、だからこそ迷いなく高所を抑えたんだろう。見つかっても、グラスホッパーがあれば逃げられると踏んでな」
「周辺で一番高い建物ではなく、中程度の建物の屋上を選んだのは相手チームの狙撃の斜線を限定させる為でしょうか?」
「十中八九、そうだと見てる」
レイジはそう言うと、狙撃にも精通した完璧万能手として説明を始める。
「この試合には、隠岐を含め三人の狙撃手がいる。当然隠岐もカウンター狙撃は警戒していただろうし、だからこそ敢えて中程度の高さの建物の屋上に陣取る事で、狙撃が来る方向を限定していた」
この市街地Aには、狙撃に適した高所は少ない。
故に狙撃手である隠岐は当然そうした場所はチェックしている筈であり、敢えて一番高い場所ではなく中程度の高さの場所に陣取る事で狙撃が来る方向を限定する策を取っていた。
狙撃は数か所の高所のうちいずれかから来ると分かっていれば、狙撃されても集中シールドで防げるからだ。
「バッグワームを着たままでもイーグレットは片枠のシールドを集中させれば防げるし、アイビスはそもそも三つの狙撃銃の中で最も弾速が遅いから場合によっては回避が間に合う。ライトニングに至っては広げたシールドで難なく弾けるから、いずれも来る方向さえ分かっていれば問題なく防げただろう」
だが、とレイジは続ける。
「絵馬は、その意識を逆手に取った。狙撃が来るなら高所から、という隠岐の思い込みを利用する形で低所に陣取り、壁抜き狙撃ならぬ天井抜き狙撃で隠岐を仕留めた。まさか隠岐も、ほぼ真下から狙い撃たれるとは思ってなかっただろうからな」
そう、ユズルは狙撃手の思考を読み、その意識の陥穽を突く形で隠岐を仕留めたのだ。
隠岐の目論見としては、敢えて中程度の位置の建物の上に陣取る事で狙撃手の斜線を限定し、いざとなれば狙撃は集中シールドで対処するかグラスホッパーで回避するつもりでいた。
しかしユズルはその目論見を利用し、低所の住宅街────────しかもその家屋の中に陣取る事で、隠岐の隙を突いた。
高所からの狙撃や、同程度の高さの建物からの狙撃であれば隠岐は難なく凌いだだろう。
だが、低所の家屋の内部に狙撃手が潜んでいるとは、流石の隠岐も読めなかったという事だ。
ユズルらしい、機転を利かせた上手い点の取り方だったと言える。
「ともあれ、これで二人が落ちて流れが変わった。生駒の動き次第だが、此処から荒れるぞ」
『やったなユズル! 一点ゲットだっ!』
「喜んでばかりもいられないよ。逃げなくちゃ」
ユズルは隠岐を仕留めた事を確認すると、すぐさま撤収準備に入っていた。
隠岐を、他のチームの狙撃手を落とせた事は大きいが、今のでユズルの位置は知られた。
モタモタしていれば、距離を詰められて終わりだろう。
ユズルは狙撃手として天賦の才を持っているが、流石に距離を詰められてはどうしようもない。
特殊なMAPであればいざ知らず、今回のMAPはベーシックな市街地MAP。
肉薄された時点で、基本的にユズルの負けだ。
ユズルには隠岐のようなグラスホッパーを用いた機動力も、茜のようなテレポーターを用いた咄嗟の緊急回避能力もない。
特殊な戦術は用いず、あくまで技量一本で勝負する、スタンダードな狙撃手だ。
距離を詰められる可能性は、極力排除するに越した事はない。
「…………まあ、あまり心配はしてないけどね。少なくとも今の時点では、おれは狙われないだろうし」
「…………何あれ? なんで位置がバレた狙撃手がいるのに、誰も追おうとしないワケ?」
上層部観覧席で、太刀川を逃がさない為入口に陣取っていた菊地原がぼそりと呟く。
試合映像に映し出されたMAPには場所を移動するユズルの反応があり、周囲にはそれを追おうとする反応はない。
狙撃手の位置が割れたというのに、それを追おうとする者が誰もいない。
ユズルのチームメイトである影浦の居場所が割れている以上待ち伏せを警戒する必要は無い筈なので、その行動は菊地原にとって奇異に映ったのだ。
「そりゃ、今の状況でユズルに脱落されちゃ困るからさ。生駒隊にとっても、那須隊にとってもな」
「なにそれ?」
「二宮への牽制の為だろうな」
当真の発言に疑問符を浮かべた菊地原に、風間がそう答える。
菊地原の視線が風間に向き、次の言葉を待った。
「二宮は今でこそ七海一人であの場に抑えられているが、それは二宮が狙撃手を警戒して
今、七海が二宮の相手が曲がりなりにも出来ているのは、二宮が両攻撃を使って来ないから、という要因が最も大きい。
流石に七海といえど、両攻撃を使う二宮相手に時間稼ぎをするのは厳しいものがある。
その為に、二宮の両攻撃を制限させられる狙撃手に落ちて貰っては困るワケだ。
「生駒隊としても、二宮さんがフリーになるのは避けてぇ筈だかんな。今の状況で、二宮さんの抑止力になるユズルが落ちて貰っちゃ困るワケだ。狙撃手なら、まだ日浦ちゃんがいるが────」
「────日浦の主武装は、ライトニングだ。確かに相手の隙を突く技術は突出しているが、二宮は良くも悪くも今の那須隊を評価している。迂闊に落とされる隙を晒すとも思えん」
風間の言う通り、二宮が那須隊をノーマークの状態であったならば、茜がライトニングを差し込む隙もあっただろう。
だが、二宮は今の那須隊の戦力を適正に評価している。
つまり、警戒しているのだ。
そんな相手に、ライトニングしか攻撃手段のない茜一人では抑止力として不安が残る。
だからこそ、ユズルが此処で落ちて貰っては困るワケだ。
「しかしマジで今回、二宮隊マンマークって感じだな。全部隊が、二宮隊に狙いを定めてるしよ」
「順当な結果ではある。今回の試合で最大の脅威は、言うまでもなく二宮隊だ。それを抑えようとするのは、むしろ自然な流れだろう」
太刀川の言に、風間がそう答える。
そんな風間の言葉に、太刀川がでもよ、と食い下がる。
「二宮隊が一番厄介ってのは、今までも周知の事実だったろ? けど、これまでこんな感じでマンマークされる事はなかっただろ?」
「これまでは、二宮を単独で抑えられる奴がいなかったからな。今までの試合で二宮を仕留めた事がある影浦や東さんも、奇襲、不意打ちが基本だ。二宮相手に
だが、と風間は続ける。
「今回は、違う。七海は派手に立ち回って二宮の相手を引き受ける事で、この流れを作り出した。あれを見て、全員が思った筈だ。
「…………そういう事か」
そう、全ては七海のあの行動が引き金なのだ。
七海は敢えて派手に立ち回り、二宮の相手が出来る事をアピールした。
あの瞬間、生駒隊や影浦隊の者達は感じただろう。
今なら、二宮隊を抑え込めると。
あの難攻不落のトップチームを、押し込めると。
そんなチャンスを、曲者揃いの上位陣が逃す筈もない。
二宮隊がA級に上がる為の最大の壁である事は、周知の事実だ。
だが、これまではその圧倒的な強さを前に、膝を屈する事が多かった。
B級上位陣といえど、二宮を落とすのはそう簡単ではないからだ。
今までの香取隊のようにエースだけが強いチームならば付け入る隙もあったが、二宮隊は全員がマスタークラスという高いレベルで安定したチームだ。
副官の犬飼の立ち回りの巧さもあって、付け入る隙など初めから皆無だった。
どれだけ上手く立ち回ったとしても、二宮の暴威を押しのけるのはそう簡単な事ではないからである。
しかし今回、その二宮が七海一人で抑え込む事に成功している。
そんな僥倖を逃す程、B級上位陣は甘くはない。
あの時点で、この試合の流れは決まったと言っても過言ではない。
即ち、全部隊で二宮隊を囲んで叩く。
それが、那須隊の仕込んだ本当の筋書き。
一番危険な二宮の相手を自ら引き受ける事で、全ての部隊の標的を二宮隊に絞らせた。
それが今回の作戦の、最大の肝である。
「二宮隊は、強い。だが、だからこそ狙われた。この流れを作った時点で、那須隊の作戦はほぼ成功していると言っても良い」
だが、と風間は続ける。
「────────二宮隊は、不利に追い込んだ程度で崩れる程甘くはない。作戦が成功したからと言って、必ず勝てるというワケでもない。この流れをどう活かすか。肝心なのは、そこだろうな」
風間はそう告げ、試合映像に目を向ける。
そこには、距離を取って対峙する二宮と七海の姿が映し出されていた。
夜勤プラス寝落ちで二日間も更新が滞ってしまった。不覚。
今回はあんまし状況は動いてないけど、説明は必須だと思ったので一応こんな形に。
次回もお楽しみに。