痛みを識るもの   作:デスイーター

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二宮隊⑧

 

『イコさんすいません、やられました』

「しゃーないわ。前と違って一人は落としたし、許したる」

『まあ、あれは仕方ないよね』

 

 生駒は隠岐からの通信を受け、溜め息を吐く。

 

 正直、此処で隠岐が落ちたのはかなり痛い。

 

 先ほど正確に影浦達のいた場所を生駒旋空で狙えたのは、隠岐の観測情報あっての事だ。

 

 狙撃銃のスコープで戦場を俯瞰出来る隠岐の存在は、生駒隊にとってかなり大きい。

 

 生駒旋空の射程を最大限に活かすには、隠岐には生きていて貰わなければ困るのだ。

 

 だが、真織の言う通り隠岐を責めるのも酷だろう。

 

 隠岐は北添を仕留めるという自分の仕事をこなした上で、まさかの天井抜き狙撃で落とされた。

 

 ユズルの並々ならぬ技量の事は知っていたつもりだったが、家屋の中から天井抜きで隠岐を落とすなど誰が思おう。

 

 あの時、ユズルには隠岐の姿は見えていなかった筈である。

 

 チームメイトは辻と戦闘中であった為、観測情報を頼りにしたワケでもない。

 

 ただ、北添を落とした狙撃の弾道を解析し、隠岐の位置を計測して撃ち抜いたのだ。

 

 オペレーターの高い解析能力と、ユズルの技量。

 

 その二つが合わさって初めて可能となる、高難度狙撃。

 

 外れる可能性も充分ある懸けのような狙撃ではあったが、ユズルはきっちり当ててみせた。

 

 その技量と胆力には、舌を巻く他ない。

 

「それより、こっからはもっかい隠れる、でええんやな?」

『そや。辻は影浦に任せればええ。それよかイコさんには遊撃に回って貰った方が得やからな』

「遊撃に回る。了解」

 

 生駒は再びバッグワームを纏い、路地を駆け出した。

 

 家屋の中に飛び込み、中を通って別の路地に抜ける。

 

 それを幾度も繰り返し、身を隠しながら疾駆する。

 

「そんで、そっちは大丈夫なん? 実質3人がかりで苦戦しとるらしいやんか」

『大丈夫ってワケやないけど、踏ん張るしかないやろ。イコさんは予定通り、よろしゅうな』

「予定通り。了解」

 

 生駒は水上との通信を終え、路地を駆ける。

 

 ユズルのいるであろう方向に注意を向けながら、生駒は住宅街を疾駆していった。

 

 

 

 

(…………生駒さんは来ないか。バッグワームで隠れてもう一度奇襲を狙うつもりかな)

 

 辻は警戒していた二度目の生駒旋空が来ない事を確認し、視界の先に立つ影浦を見据えた。

 

 チームメイトを落とされた影浦であったが、その闘志に陰りはない。

 

 北添を落とした隠岐は、即座にユズルによって撃ち抜かれた。

 

 流石は、攻撃特化のチーム。

 

 油断すれば、一気に食い破られる。

 

 獣は、追い込んでからの方が怖い。

 

 まさに、それを体現するチームと言えた。

 

「あっちは来ねぇみてぇだし、こっちはこっちでやるとしようや。言っとくが、ゾエがいなくなったからって舐めんじゃねぇぞ」

「そんな余裕、ありませんよ。俺はただ、自分の仕事を全うするだけです」

「ハッ、スカしてんな。てか舐めてんな。確かにテメェらは強ぇがよ、俺らだって負けちゃいねぇよ」

 

 影浦は獰猛な笑みと共にそう告げると、右腕を振り上げた。

 

「手始めに、まずはテメェをぶった斬る……っ! ユズルがきちっと決めたんだ。俺も、気合い入れねぇとなぁ……っ!」

「……っ!」

 

 咆哮一閃。

 

 影浦の右腕が振り下ろされると同時に、鞭のようにしなる刃────────マンティスが、処刑鎌の如く振り下ろされる。

 

 辻は即座に対応し、バックステップでマンティスの射程外に退避。

 

 マンティスの刃が辻のスーツを浅く斬り裂くが、本体へのダメージはない。

 

「おらおらおらぁっ!」

「……っ!」

 

 だが、影浦の攻撃は止まらない。

 

 続けざまのマンティスの猛攻が、辻へと襲い掛かった。

 

 

 

 

「北添隊員を落とされた影浦隊長、そのまま辻隊員との戦闘を続行……っ! 一方、生駒隊長は再びバッグワームを使用し姿を隠す……っ! 再度の奇襲が狙いか……っ!?」

「ふむ、成る程ね」

 

 王子は試合映像を見ながら、得心したように頷いた。

 

「生駒さんは恐らく、おっきーの代わりの疑似的な狙撃手のような立ち回りをするつもりだろうね。生駒旋空は、狙撃ほどの射程はないけどそれでも40メートルの射程を持つ旋空はかなりの脅威だ。どうやらこちらも、徹底して二宮隊の動きを封鎖する狙いのようだね」

「そうだろうな。生駒の旋空は狙撃ほどの射程はないが、シールドでは防御出来ない。生駒が姿を隠している限り、他の隊は常にその動向に気を配る必要があるだろう」

 

 二人の言うように、生駒旋空はその射程と速度から疑似的な狙撃のような効果を持っている。

 

 無論射程では狙撃手に遠く及ばないが、それでも40メートルという射程は破格だ。

 

 しかも狙撃と違い、シールドでの防御が出来ないという点は見逃せない。

 

 基本的に、旋空は()()()()()()()()()()()攻撃である。

 

 シールドだろうとエスクードだろうと斬り裂き、遠くまで斬撃を飛ばす旋空は、ノーマルトリガーの中でも屈指の威力を持つ防御不可攻撃だ。

 

 通常の旋空の射程は踏み込みを加えても20メートル程度である為基本的に視認出来る距離の相手からしか飛んで来ないが、生駒旋空は別だ。

 

 その40メートルという射程は、攻撃手どころか銃手すらその射程内に収められる。

 

 そして何より、その剣速は異様に速い。

 

 居合抜きの技術を応用した技である生駒旋空は、起動時間を極端に短くする事で射程と剣速を上昇させた代物である。

 

 見てからの回避では、間に合わないと思った方が良い。

 

 そんな旋空の使い手が、バッグワームを用いて潜伏している。

 

 これほど、やり難い状況はないだろう。

 

「隠岐が脱落した事で生駒旋空の精度そのものは下がったが、それでもやりようは幾らでもある。生駒がこの先どう動くかで、試合の流れも決まって来るだろうな」

 

 

 

 

『生駒さんがバッグワームで隠れました。もしかしたらそっち行くかもしれません』

「了解了解っと。厄介な事になったねえ」

 

 犬飼は辻からの通信を受け、突撃銃で熊谷達の動きを牽制する。

 

 左足を削った南沢は水上の指示なのか障害物の影に隠れ、何かを待っているように見える。

 

 恐らく、機動力が死んだ南沢を状況に応じて旋空の砲台にするつもりだろう。

 

 南沢にはグラスホッパーがあるが、片足の状態ではグラスホッパーの補助があっても機動力はたかが知れている。

 

 迂闊に踏み込めば、先ほどのように返り討ちに遭うだけだろう。

 

 それが分かっているからこそ、水上は南沢を後ろに下げたのだ。

 

 これが熊谷のようにハウンドでも装備していれば話は別だっただろうが、南沢の攻撃手段は弧月オンリーだ。

 

 機動力が死んだ以上、あとは旋空を撃つくらいしか選択肢はない。

 

 少なくとも、犬飼相手に無謀な突貫が通用するとは思えない。

 

 彼我の状況を理解した、的確な采配と言えた。

 

(さて、どうするかな。モタモタしてると、此処に生駒旋空が撃ち込まれかねない。生駒隊の狙撃手は死んだみたいだけど、此処には生駒隊が二人もいる。観測情報を頼りにすれば、容易に撃ち込める筈だ)

 

 現状は、実のところ犬飼に不利である。

 

 此処の三人だけであれば何とか時間稼ぎを続ける事も可能だろうが、そもそも時間稼ぎに意味があるかは疑問が残る。

 

 何せ、此処には生駒隊が二人もいるのだ。

 

 先ほど北添を仕留めた時のように、隊員同士で連携して生駒旋空を撃ち込んで来る展開は充分有り得る。

 

 そして、足が削れた犬飼では生駒旋空を回避する事は難しい。

 

 他の部隊が二宮隊(じぶんたち)に狙いを定めている事くらい、既に承知している。

 

 那須隊には見事にしてやられた形となるが、過ぎた事を言っても始まらない。

 

(生駒さんには辻ちゃんの方に行って貰えた方が楽だったけど、それはそれで上手くないか。辻ちゃん一人でカゲの相手は中々にきついだろうし、俺も他人の心配をしてる場合じゃない。こんな時、鳩原ちゃんがいればな…………っと、何考えてんだか)

 

 犬飼はふともういない狙撃手の少女の顔を思い浮かべて、即座にその思考を中断する。

 

 それは、やってはいけない、考えてはいけない事だ。

 

 今は、戦闘に集中する時。

 

 余計な感傷に浸っている暇は、ないのだから。

 

(此処で時間を浪費するのは上手くない。かと言って、何も出来ずに落とされたんじゃ大損だ。少なくとも、一人か二人は道連れにしておきたい。流石に、此処から俺が生き残る芽はなさそうだしね)

 

 犬飼は現在、右腕と右足が削られている。

 

 南沢と違って銃手である為なんとか応戦出来ているが、機動力が死んでいるのはあまりにも痛い。

 

 今はなんとか障害物を盾にする形で牽制し、生き永らえているが、それも長くは続くまい。

 

 先ほどから水上と熊谷の両名から誘導弾(ハウンド)が撃ち込まれており、いい加減家屋を盾にゲリラ戦をするのも限界が近付いて来ている。

 

「────メテオラ」

「……っ!」

 

 犬飼が隠れている家屋に向かって、分割なしのメテオラがまるごと一発撃ち込まれる。

 

 それを察知した犬飼は即座にシールドを展開し、その家屋から脱出する。

 

「「ハウンドッ!」」

 

 無論、それを逃す水上達ではない。

 

 水上と熊谷が同時にハウンドを射出し、二重のハウンドが犬飼に迫る。

 

 此処でシールドを用いてガードをすれば、一先ずは防ぎ切れるだろう。

 

 だが、その()が続かない。

 

 近くに南沢を控えさせている水上は、遠慮なく両攻撃(フルアタック)を行使出来る。

 

 熊谷も、その本職は攻撃手だ。

 

 隙を見せた瞬間、旋空を叩き込んでくるだろう。

 

 即ち、ハウンドを防御してしまった時点で()()なのだ。

 

 その攻撃理論は、二宮のそれと同じだ。

 

 誘導弾(ハウンド)で固め、通常弾(アステロイド)でトドメを刺す。

 

 それを彼等は、複数人で行っている。

 

 犬飼が万全の状態であれば、その機動力で回避に徹する事が出来ただろう。

 

 だが、今の犬飼は片足が削れている。

 

 普段のような、機敏な立ち回りは望めない。

 

 二宮も依然として逃げ回る七海を仕留め切れず、即時の合流など叶いそうにない。

 

 打つ手なし。

 

 有り体に言って、そう断言して然るべき状況であった。

 

(崩せる)

 

 熊谷が、確信する。

 

 この時この場で、犬飼を仕留められると。

 

(行けるっ!)

 

 南沢が、意気込む。

 

 このまま、犬飼を追い込めると。

 

(終わりや)

 

 水上が、詰め(チェック)をかける。

 

 目の前の強敵。

 

 二宮隊銃手、犬飼澄晴を仕留める為に。

 

 三者三様、しかし意図は同じ。

 

 二宮隊を崩す為に必要不可欠な要素、犬飼落とし。

 

 それが、此処に結実する。

 

 誰もが、そう考えた。

 

 熊谷も。

 

 南沢も。

 

 水上も。

 

 同様に、犬飼を此処で落とせると確信した。

 

 だが。

 

 だが。

 

 忘れては、いないだろうか。

 

 犬飼は。

 

 犬飼澄晴という男は。

 

 こんな所で大人しくやられる程、素直な人間ではない事を。

 

「────あは」

 

 犬飼が、笑った。

 

 その笑みは、決して。

 

 勝負を諦めた者の、する顔ではない。

 

 逆だ。

 

 犬飼は自分がそのまま落とされるなどと、これっぽっちも考えてはいなかったのだから。

 

「……っ!?」

 

 故の、油断。

 

 片足を失い、既に碌に動けないと踏んでいた犬飼が────────動く。

 

 それまでの、這う這うの体で逃げ回るような挙動ではない。

 

 逆だ。

 

 普段通りの機敏な動きで、家屋の壁を駆け上がる。

 

 その動きに仰天したのは、その場の全員。

 

 まさか。

 

 まさか、片足が削れた状態で。

 

 そんな機敏な動きが出来るなど、誰が思おう。

 

「く……っ!」

 

 水上は慌てて、待機させていたアステロイドを発射する。

 

 だが、先ほどまでの犬飼であればいざ知らず。

 

 ()()()()()()今の犬飼に、単発の射撃など通じるものか。

 

 犬飼は素早くサイドステップを踏み、アステロイドを回避。

 

 そしてそのまま、突撃銃の引き金を引く。

 

 放たれる、アステロイドの弾丸。

 

 それが、水上に向かって降り注ぐ。

 

「危なっ!」

 

 それを見ていた南沢が、シールドを展開。

 

 遠隔シールドが、犬飼の弾丸を受け止める。

 

 威力特化の弾丸(アステロイド)とはいえ、集中シールドであれば一度は凌ぎ切れる。

 

 そもそも、犬飼の突撃銃は弓場のそれとは違い威力に特化させた構造ではない。

 

 あくまでも、本分は味方のサポート。

 

 単独での決定力は、弓場に大きく劣る。

 

 だが。

 

 だが。

 

 犬飼には、まだ切るべき手札があった。

 

 アステロイドを防がれた犬飼は、即座にサイドステップで水上の側面に回り込む。

 

 南沢は水上の身体が邪魔となり、旋空を放てない。

 

「アステロイドッ!」

 

 このままではやられる。

 

 そう悟った水上は、両攻撃アステロイドを展開。

 

 弾数に任せ、犬飼を押し返そうと狙う。

 

「甘いね」

 

 しかし、それこそ好機。

 

 犬飼は即座に路地に飛び込み、アステロイドを回避。

 

 そのまま壁を駆け上がり、水上の背後に出現。

 

 そしてそのまま、()()()()()()()()

 

「が……っ!?」

 

 水上の銅が、犬飼の刃によって両断される。

 

 刃の名は、スコーピオン。

 

 犬飼が失った右足の代替物として装着した、脚部のスコーピオン。

 

「足スコーピオンか……っ!」

 

 俗称、足スコーピオン。

 

 七海が使用した事で知られるその技を、犬飼は披露していた。

 

 それこそが、犬飼があの機動力を出せたカラクリ。

 

 犬飼は足スコーピオンを使用する事で失われた機動力を復活させ、今の奇襲を成功させたのだ。

 

「時間はかかったけどね、なんとか習得出来たんだ。お手本を見せてくれた七海くんには、感謝しなくちゃね」

 

 犬飼が、笑う。

 

『戦闘体活動限界。緊急脱出(ベイルアウト)

 

 同時に、機械音声が水上の脱落を告げる。

 

 犬飼の刃で裂かれた水上は、光の柱となって戦場から消え去った。





 犬飼は射手トリガーのハウンド装備してたりスコピ装備してたりで、新しい事には貪欲にチャレンジしてくみたいなので、原作と違ってランク戦で七海が堂々と披露した技術なら、習得しようとすると思い実行しました。

 割と高等技術だと思うので、最終ROUNDまでかかったワケですが。
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