「七海隊員と諏訪隊員の戦いに、村上隊員が乱入……っ! 戦況は三つ巴の様相を呈して来たぁ……っ!」
画面に映る七海、諏訪、村上を見ながら桜子がオーバーリアクションで実況する。
息もつかせぬ展開に、会場全体が沸いている。
七海と日浦の鮮やかな連携による堤撃破や、七海の派手なメテオラ殺法。
そして、そこに満を持してNO4
これで、盛り上がらない方がどうかしている。
「諏訪隊員を追い詰めた七海隊員でしたが、村上隊員の乱入によって取り逃がした形となります。これは七海隊員としては悩ましい展開か……っ!」
「まあ、ある意味では当然の展開ではあります。七海隊員の戦法の
「ふむ、それはどういう……?」
東の言葉に桜子が反応し、東は丁寧に解説する。
「メテオラ殺法と呼ばれる七海隊員の戦法は、メテオラを狭い範囲で乱打するのが特徴です。メテオラはただでさえ、爆発の時大きな音と光を発します」
つまり、と東は続けた。
「それを連続で使用しているのですから、天候が『濃霧』であっても音と光を頼りに七海隊員の場所に辿り着く事は容易です。いわば、大声で自分の居場所を喧伝しているようなものですからね」
確かに、東の言う通りメテオラは
それを連続で使っているのだから、居場所がバレるのもある意味当然だ。
「成る程、それで村上隊員はベストタイミングでの乱入に成功出来たワケですね。来馬隊長と別役隊員もすぐに合流出来る位置にいますし、メテオラ殺法の弱点がこんな形で響いて来るとは……」
桜子は感心するようにうんうんと頷き、実況に戻ろうとする。
だが、桜子の発言に気付いた東が待ったをかけた。
「いや、それは違うぞ」
「え……?」
キョトン、とする桜子に対し、東は苦笑いを浮かべながら告げる。
「俺は、七海の戦法の
「行くぞ」
「……っ!」
村上は左手にシールドモードの『レイガスト』を、右手に『弧月』を構え、七海に斬りかかる。
七海はそれに応じて村上と斬り合う────事はせず、即座にグラスホッパーを起動。
ジャンプ台トリガーを踏み込み、木上へ跳躍する。
「喰らいやがれ……っ!」
「当たれ……っ!」
上に跳んだ七海の姿を見た諏訪と、村上の背後から飛び出して来た来馬がそれぞれショットガンとアサルトライフルを構え、アステロイドの弾丸を放つ。
「────」
「は……っ!?」
「え……っ!?」
七海はひらりと空中で身を躍らせると、木々を足場に三次元機動を展開。
木の幹を蹴り、枝を掴んでくるりと回り、木から木へと曲芸じみた動きで移動。
弾丸の雨の中を恐れもせずに潜り抜け、来馬の側面に着地する。
間髪入れず、右手にスコーピオンを構えた七海が来馬に斬撃を見舞う。
「させるか」
「……っ!」
だが、それを見越して来馬に近付いていた村上がレイガストのシールドでスコーピオンを受け止める。
返し刀で村上が弧月を振るおうとして────その刃は、空を切る。
「何……っ!?」
七海はレイガストに接触したスコーピオンを、その場で手放し破棄。
大きく身を屈ませ、村上の斬撃を回避。
そのまま足からスコーピオンを出して蹴りを放ち、村上の脚部を狙う。
「舐めるな」
だが、村上は即座に対応。
振り抜いたばかりの弧月を逆手持ちに切り替え、足元の七海を突き刺さんとする。
「────勿論、舐めてはいませんよ」
「な……っ!?」
だが、またもや七海はスコーピオンを即座に破棄。
七海の足が蹴り飛ばしたのは村上の足ではなく、その手前に展開したグラスホッパー。
思い切りグラスホッパーを踏み込み、七海はその場から低空姿勢のまま離脱する。
「へっ、寄って来て貰えて助かるぜ……っ!」
その離脱先には、諏訪がショットガンを構えて待ち構えていた。
自分の所にわざわざ突っ込んできてくれた七海を蜂の巣にせんと、諏訪はショットガンの引き金を引き────。
「────メテオラ」
「うお……っ!?」
────引き金を引き切る前に、七海が展開したメテオラが爆発。
爆発の光に視界が塞がれ、七海の姿を見失う。
「こなくそ……っ!」
諏訪は、それでも攻撃を敢行。
ショットガンの引き金を引き絞り、アステロイドの散弾を発射する。
「……っ!」
…………だが、その弾丸を受け止めたのは村上のレイガストだった。
七海の姿は、何処にもない。
今のメテオラは、諏訪と村上の手前────つまり、二人の視界を塞ぐ位置で爆破された。
その一瞬で諏訪と村上は七海の姿を取り逃し、彼を狙った諏訪の散弾は敢え無く村上のレイガストへと吸い込まれたのだ。
諏訪のショットガンは、射程がそれ程長くない代わりに威力に特化したトリガーだ。
硬い事で知られるシールドモードのレイガストと言えども無傷では済まず、多少なりとも罅割れが出来ていた。
致命的な損傷ではないものの、二度三度と続けば分からない。
まんまと、七海にしてやられた形になる。
「────メテオラ」
だが、七海は止まらない。
木上から無数の分割されたメテオラのトリオンキューブが降り注ぎ、広範囲を爆発が埋め尽くす。
「どわあ……っ!」
「……っ!」
「うわあ……っ!」
諏訪と来馬はシールドを、村上はレイガストを盾にしつつ爆破範囲から後退。
その隙を突いて、爆発の隙間を縫うような動きで七海が駆け降りる。
来馬の背後に着地した七海は、スコーピオンを繰り出した。
村上のフォローは、間に合わない。
一瞬遅れて七海に背後を取られた事に気付いた来馬だが、一手遅い。
「先輩……っ!」
そこで、後方にいた太一が来馬のピンチにたまらず行動。
七海目掛けて、『イーグレット』で狙撃する。
「──────」
当然、七海はサイドエフェクトでその狙撃を感知。
ひらりと身を躱し、太一の狙撃を回避。
だが、太一にとってはそれで充分。
一瞬の時間を稼いだ事で、来馬はその場から飛び退き、村上が来馬の前に出る。
「────二点」
「……え……っ!?」
だが、それすら七海の手の内。
森の奥から飛来した『ライトニング』の弾丸が、太一の額を貫通。
────カウンタースナイプ。
狙撃手が最も警戒しなければならないそれを受けてしまった太一はトリオン伝達脳を破壊され、致命。
『トリオン供給機関破損。
脱落は、避け得ず。
無機質な機械音声と共に、『緊急脱出』の証である光の柱が立ち上った。
「またしても日浦隊員の狙撃が炸裂ぅ……っ! 隊長のカバーに入った別役隊員が、カウンタースナイプにより落とされたぁ……っ!」
桜子の実況と共に、会場に歓声が沸き上がる。
誰もが、目を見張っていた。
確かに、今の一撃は茜が成し得た得点である。
だが、その狙撃を成功させたのが七海の驚くべき乱戦での立ち回りにある事は最早言うまでもない。
会場の誰もが、乱戦を自分のものとしてコントロールし切った七海の動きに瞠目していた。
「七海隊員は
つまり、と東は告げる。
「あのメテオラ殺法は、敢えて自分の居場所を喧伝して多対1の乱戦へ誘導する目的もあったワケです。多くの相手を引き寄せるのは、むしろ七海としては願ったり叶ったりの筈です」
「そういう意味じゃ、ゾエさんの『適当メテオラ』にも似てるよね。ゾエさんと違ってスピードがずば抜けてるから、場をしっちゃかめっちゃかにしながら好きに移動出来るし」
東の言葉に、緑川も賛同する。
確かに、説明されてみると七海の動きはその全てが乱戦へ誘う為のものである事が分かる。
「最初に堤隊員を落としたのは、同方向からの弾幕の
「『鈴鳴第一』は、来馬先輩が危なくなると絶対フォローに入るからね。七海先輩は村上先輩とも仲が良いし、そういうのも知ってた筈だよ」
「成る程、中々に強かですね……」
七海の取った戦術を解説され、桜子は再び感心して頷いた。
そして、不意に何かを思い出したようにポンと手を叩いた。
「今の日浦隊員のカウンタースナイプは、オペレーターが弾道解析して別役隊員の位置を割り出したんですね?」
「ああ、その通りだ」
同じオペレーター故に今の狙撃の絡繰りに気付いた桜子の意見を、東が肯定する。
「太一は、この霧の中でも狙撃を可能とする為に七海達からそう離れていない場所に隠れていた。そのお陰で来馬のフォローが可能だったワケだが、逆に言えば七海が太一を
「現場での自分の隊の隊員の観測結果があれば、位置解析の精度は段違いに上がりますからね。まあ、それを差し引いても優秀なオペレートだと思いますが」
桜子はそう零し、あまり話した事のない引き籠りの『那須隊』オペレーターの事を思い出す。
男性恐怖症の引き籠りながらオペレート能力は割と優秀であるという噂は耳にしていたが、その噂が事実であった事を思い知る。
同じオペレーターだからこそ、分かる。
小夜子のオペレート能力は、B級オペレーターの中でも群を抜いている。
以前計測した小夜子のデータは、もうあまり信用しない方が良いのかもしれない。
それだけ、小夜子のオペレート能力は目に見えて上がっていた。
その理由までは定かではないが、事実は事実として受け止めるべきだ。
人知れず感嘆の息を吐く桜子を横目で見ながら、東はコホン、とわざとらしく咳払いをする。
その咳払いで我に返った桜子は、
「さあ、乱戦が続く限り七海隊員が有利か……っ!? 選んだ地形と七海隊員という新たな戦力を最大限に活用して戦場を荒らし回る『那須隊』に、他の隊はどう対応する……っ!?」
「おーおー、七海の奴暴れ回ってるなあ。ま、散々鍛えた甲斐があるってもんだな」
観戦席で、試合を見ていた出水が嬉しそうにそう零す。
同じく七海の暴れっぷりを見ていた太刀川も、そんな出水に同意した。
「俺とお前で徹底的に鍛えてやったんだ。どうやら風間さんも一枚噛んでたようだし、このくらい出来るのはむしろ当然だろ」
「というより、太刀川さんが風間さんを紹介したようなモンでしょ? 太刀川さんって、割と弟子には甘い人だったんすね」
「馬鹿言え。俺は単に風間さんとの世間話でぽろっとあいつの事を漏らしただけだ。七海に興味を持ったのは、あくまで風間さんだ」
だが、と太刀川は続けた。
「至近距離での乱戦の訓練には、風間隊は絶好の相手だったのは事実だ。あのレベルを捌けるなら、大抵なんとかなるだろう」
「俺も、出来れば七海とは乱戦ではやり合いたくないっすからね。七海は
「鋼が良い様にやられてるのも、それが理由だろうしな」
太刀川は試合画面を見上げ、ぼそりと零す。
「鋼は個人戦では結構七海とやり合ってただろうが、
それに、と太刀川は続ける。
「チームとして戦う村上にとって、来馬を狙われるのはかなりやり難い筈だ。あいつが条件反射で来馬を守る事が分かっている以上、七海がそこを突かない手はない」
「実際、徹底して来馬先輩を狙ってますもんね。ああいう七海のクレバーなトコ、俺好きですよ」
「ま、那須が関わらなけりゃあいつの判断能力は大したもんだからな。この試合も、多分ありゃ鋼とまともにやり合う気はないな。あくまで戦術で、試合を有利に運ぶつもりだ」
確かに、七海はこれまで村上とまともに打ち合おうとはしなかった。
乱戦で立ち回る為に打ち合う事より移動と『メテオラ』による攪乱に徹底していたという理由もあるのだろうが、七海が普段から村上と個人戦で戦っている以上まともにやり合えばどちらが有利なのかは分かり切っている。
だからこそ、七海は正面から村上と打ち合う事はしなかった。
個人技ではなく戦術で、彼を倒して点を取る為に。
七海は、個人の拘りを捨ててチームでの勝利を目指している。
あれは、そういう動きだった。
「今の攻防で、日浦の援護を受けた七海の
そこまで言うとニィ、と太刀川は盛大に口元を歪めた。
「────あいつ等は、大事な事を忘れてるぞ。七海の
太刀川の、視線の先。
そこにあったのは、MAPの全体像。
各隊員の位置を記した、俯瞰図だった。
ななみん大暴れ。初陣なので無双中です。
明日は更新出来ませんが明後日は更新しまーす。