痛みを識るもの   作:デスイーター

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二宮隊⑭

 

「…………やっちゃったか」

 

 ユズルは飛来するハウンドの群れを見て、舌打ちしつつすぐさま反転。

 

 狙撃場所としていたアパートの一室を出て、直後ハウンドが到達。

 

 ユズルがいた部屋は、弾丸の雨によって穴だらけとなった。

 

(調子に乗ってたか、おれ。そりゃ大まかな発射位置が分かれば、回避もされるよな。二宮さん相手に、迂闊だった)

 

 アパートの廊下を駆け抜け、非常階段を駆け下りながらユズルは思案する。

 

 逃げずに抗戦の意思を示したのはともかくとして、あのまま撃ち続けるのではなく多少のタイムラグがあっても移動しながら撃つべきであった。

 

 そうすれば、さっきの一発のように容易な回避を許す事はなかっただろう。

 

 二宮のシールド相手ではイーグレットでは片手分でさえ貫通出来ない可能性が高い為、アイビスを使っていた事も仇となった。

 

 アイビスは、三種の狙撃銃の中では最も弾速が遅い。

 

 それでも狙撃銃には違いない為相当な速度は出るが、矢張りライトニングやイーグレットと比べるとその弾速はどうしても劣る。

 

 発射位置が割れていた現状では、むしろ対処されない方がおかしいのだ。

 

 にも関わらず、ユズルは発射の間隔を考慮して同じ場所で続けて撃ってしまった。

 

 これは、明確な失態と言える。

 

「く……っ!」

 

 そうしている間にも、ハウンドの攻撃は続く。

 

 向こう側から、無数の光弾の雨が再び降り注ぐ。

 

 そして、着弾。

 

 ハウンドの群れが、アパートを食い荒らすように瓦礫に変えていく。

 

 ユズルはその破壊に巻き込まれぬよう全速力で駆け抜けているが、地上までは未だ遠い。

 

 飛び降りても良いが、その最中を狙われれば命はない。

 

 しかしこのままでは、ジリ貧になるのは目に見えている。

 

 どうするべきか。

 

 再びユズルは、選択の時を迎えていた。

 

(くそ、このままじゃいいようにやられるだけだ。このアパートもいずれハウンドで────────待て)

 

 そこで、気付く。

 

 足は止めず、されど思考は加速する。

 

(なんで、()()()()()()()? メテオラじゃなく)

 

 そう、それが疑問だった。

 

 自分を炙り出して仕留めたいのであれば、ハウンドではなくメテオラでこのアパートを吹き飛ばせば良い。

 

 二宮のトリオン量ならば、こんなアパートなど一撃で瓦礫に代わるだろう。

 

 しかし、それがない。

 

 二宮は継続的に射撃を続けているが、ハウンドばかりで炸裂弾(メテオラ)を撃ってくる様子がない。

 

 効率の面から言っても、メテオラでまずアパートを吹き飛ばしてからハウンドで追い込んだ方が効率が良い筈だ。

 

 それに気付かない、二宮ではない筈だが……。

 

(考えろ。なんで、二宮さんは炸裂弾(メテオラ)を撃って来ない? おれを追い込むなら、メテオラで建物を吹き飛ばした方が効率が良い筈だ。なのにそれをしないって事は、多分────)

 

 二宮は、無駄な事はしない。

 

 ユズルにとって些か以上に気に食わない相手ではあるが、二宮の戦術能力の高さは勿論知っている。

 

 最も効率的に思えるメテオラでの炙り出しを行わない以上、そこには明確な理由がある筈だ。

 

 これまでの経緯。

 

 各部隊の動き。

 

 那須隊が取った戦略と、それに対する対応。

 

 足を止めずにそれらを脳内でシミュレートし直し、二宮の行動理由を分析する。

 

 正直、あまり得意な分野ではない。

 

 ユズルは天性のセンスと咄嗟の機転を武器とする狙撃手だが、自身の直感を何より優先する為に考えて行動する事はどちらかと言うと苦手だ。

 

 ────そりゃあ違うぜユズル。お前は考えてないんじゃなく、考えてる内容をいちいち口にしないだけだ。戦場を分析して動く能力に関しちゃ、俺より上かもしんねーぜ────

 

 …………ふと、いつか当真に言われた事を思い出す。

 

 当真が言うには、自分は単に思考を言語化していないだけで、戦場を把握して動く能力に関しては間違いなく備わっているのだと言う。

 

 言われてみれば確かに誰がどのように動くかを見極めて狙撃を敢行する事はあったし、後から考えればあれは戦場を分析して行動経路を予測していたのだろう。

 

 つまり、なんとなく行っていただけで戦況を見極める能力自体は既に備わっている筈なのだ。

 

 故に、ユズルは思考する。

 

 現状の、最適解を。

 

 この状況の、突破口を。

 

 現在、ユズルのいるアパートには二宮のハウンドが絶え間なく撃ち込まれ続けている。

 

 今も尚、ハウンドだけが。

 

 メテオラを使う様子は、一向に見られない。

 

 何故、メテオラではなくハウンドなのか。

 

 一見不可解な、その行動の意味。

 

「もしかして……っ!」

 

 ユズルは咄嗟に近くの壁をアイビスで殴って穴を空け、そこからスコープ越しに二宮のいる方角を見据えた。

 

 そのスコープの、先。

 

 そこに、答えがあった。

 

「やっぱりそうか……っ!」

 

 ユズルは、得心する。

 

 スコープで見えた、その向こう。

 

 そこには、()()()()()()()()()()()()()()()()二宮の姿があった。

 

 

 

 

「────ハウンド」

 

 二宮はキューブを菱形に分割し、射出。

 

 七海とユズル、その二者のいる方向に向けてそれぞれ撃ち放った。

 

「……っ!」

 

 両攻撃(フルアタック)にも見えるが、違う。

 

 二宮は、片手分のハウンドを二方向に向けて射出していた。

 

 メテオラを使わないのは、当然といえば当然である。

 

 直線軌道しか出来ないメテオラでは、七海への牽制には成り得ないからだ。

 

 両攻撃(フルアタック)を使わないのは、未だ位置が特定出来ていない那須や茜への警戒の為。

 

 二宮の狙いは、単純明快。

 

 時間を稼ぎ、那須や茜を釣り出す事だ。

 

 当然、その狙いには七海も気付いている。

 

 だからと言って、迂闊な事は出来ない。

 

 那須や茜の位置が特定されてしまえば、二宮にかかる制限は大分軽くなってしまう。

 

 かといって、七海一人では攻めあぐねている事も事実だ。

 

 繰り返すが、七海が二宮と抗戦出来ているのは、七海が攻めを捨てているからだ。

 

 あくまで回避を主体に立ち回り、決して深く踏み込みはしない。

 

 だからこそ、あの二宮相手に時間稼ぎが行えているワケだ。

 

 それを理解している為、二宮も七海を深追いしようとはしない。

 

 あくまで時間稼ぎに付き合う体で、七海との戦闘を行っている。

 

 この状況を変えるには第三者が介入するしかないワケだが、それをするには先ほどの二宮のフェイク両攻撃(フルアタック)がネックとなる。

 

 二宮は先ほどから時折両攻撃を行っているが、かといってその両攻撃がフェイクではない確証がない以上、迂闊に手は出せなかった。

 

 たった一度。

 

 たった一度のフェイク両攻撃で、二宮は七海達の動きを縛っていた。

 

 あのフェイク両攻撃の真の狙いは、ユズルを炙り出す事ではない。

 

 それを那須達に見せる事で、攻撃を躊躇させる為だ。

 

 そして、その目論見は見事に成功している。

 

 戦術の一つに、相手に()()()()()()()()()()と思わせるという手法がある。

 

 二宮がやったのは、まさにこれだ。

 

 一度、両攻撃に見せかけた両防御を披露した事で、()()()()()()()()()()()()()()と思わせる事に成功したワケだ。

 

 実際、二宮の行動の一部始終を見ていた那須隊は、迂闊に攻撃を仕掛けられずにいた。

 

 いっその事開き直って全員で集中攻撃する、という手がなくもないが、確実性が欠ける上にリスクが高い。

 

 少なくともまだ、条件は全て整ってはいないのだから。

 

(まだか。まだ、条件は整わないか。このままだと、下手をすれば二宮さんと辻さんが合流してしまう)

 

 更に、二宮は徐々にではあるが辻のいる方向へ足を向けている。

 

 茜の報告によれば、辻もまた戦場を少しずつこちらに近付けているらしい。

 

 迂闊に攻撃は出来ず、手をこまねき続ければ二宮隊の合流、という最悪の事態に発展する。

 

 此処まで優位な状況に立って尚、二宮隊の壁は厚い。

 

 幾ら有利な条件を用意しても、幾ら綿密に作戦を立てても。

 

 B級一位の牙城は、そう簡単には崩せない。

 

 二宮隊は、元々A級。

 

 それも、実力ではなく何らかのペナルティによって降格された部隊だ。

 

 その実力は、A級のまま。

 

 ならば、B級の自分達が勝てなくても仕方ない────────などというのは、甘えだ。

 

 そもそも、戦場において圧倒的に格上の敵と相見える事など幾らでもある。

 

 B級ランク戦に置いても、どの部隊も決して侮れる相手ではなかった。

 

 連携による近接火力に特化した諏訪隊は、各個撃破が出来なければ思わぬ奇襲で落とされる危険があった。

 

 狙撃手三人組という特殊な構成の荒船隊は、七海に対策を集中してくれなければ点取りゲームで負けていた可能性もあった。

 

 連携力に特化した柿崎隊は、当初から部隊を分けていれば思わぬ攪乱を受けていただろう。

 

 そして、東隊や二宮隊、影浦隊には一度、完膚なきまでに敗北した。

 

 香取隊や王子隊も、再戦では予想以上の成長を見せており、采配を間違えれば負けていた可能性もあった。

 

 二度戦った鈴鳴第一は、あそこで村上に勝てなければ、そのまま押し負けていた可能性が高かった。

 

 二度目の東隊との戦いは、最後の最後まで紙一重だった。

 

 もう一度同じ条件でやっても、まず勝てないだろうという確信が七海にはあった。

 

 東は、一度見せた戦術が通用するほど、甘い相手ではないのだから。

 

 弓場隊もまた、強敵だった。

 

 うまく地形条件を逆利用し、有利な条件に持ち込む事が出来なければ危なかっただろう。

 

 一度は下した生駒隊もまた、決して油断出来る相手ではない。

 

 生駒旋空の恐ろしさは、生駒隊の練度の高さは、身を以て思い知っているのだから。

 

 そして今再び挑む、影浦隊と二宮隊。

 

 これまで、B級TOP2を独占してきた紛うことなき最強クラスの2チーム。

 

 今回、自分たちはその最強達を撃破しなければならない。

 

 最初にしてある意味最大の難関であった『犬飼落とし』は、熊谷が見事成し遂げてくれた。

 

 正直、犬飼が生きているだけで作戦の成功確率は半分以下、それこそ限りなく0に近くなっていただろう。

 

 その戦果に報いる為にも、迂闊な行動は絶対に出来なかった。

 

 小夜子が提唱した作戦、『二宮落とし』には多くの条件を達成する必要がある。

 

 その一つ、『二宮を孤立させる』というファーストステップは既に成功している。

 

 そして二つ目、()()()()()()()()()()()()()()()()という段階も、ユズルの行動によって達成された。

 

 那須と茜は、既にその準備を終えている。

 

 後はユズルが二宮の()に気付けば、残る条件は一つのみ。

 

 それを達成する為の、この時間稼ぎだ。

 

 しかしそれも、長くは保たない。

 

 もしもこの場面で誰か一人でも落とされてしまえば、作戦は水泡に帰する。

 

 時間がない。

 

 されど、時間を稼がなければならない。

 

 その矛盾(アノニマス)の中で揺れる中、一つの通信が入る。

 

『七海先輩、今茜から報告がありました。()()()()()()です』

「そうか」

 

 その報告に、ただ一言、七海はそう返した。

 

 その言葉に、どれだけの想いが込められていただろう。

 

 遂に。

 

 遂に。

 

 あの二宮に、牙を突き立てる時が来たのだ。

 

 ROUND3での雪辱を。

 

 あの敗戦を、七海は、那須隊は忘れていない。

 

 東隊へのリベンジは、果たした。

 

 後は、あの時手も足も出なかった二宮隊を下し、今度こそ、影浦という最初にして最大の壁を乗り越える。

 

 今度こそ、胸を張って影浦と戦う。

 

 その為には、二宮を必ず倒さなければならない。

 

 此処で落とせなければ、試合は二宮の独壇場になる。

 

 それだけは、させない。

 

 その為に、試合開始直後から動き、二宮隊包囲網を作り上げたのだ。

 

 これ以上の好機は、後にも先にも有り得ない。

 

 二宮隊は、ただ対策をしただけで落とせるほど、甘い部隊ではない。

 

 隊員全員がマスタークラスという事は、全員が最高峰の技量を持っているという証明に他ならない。

 

 生駒隊以上に、隊の地力がとにかく高いのだ。

 

 事実、圧倒的不利な状況に追い込んだにも関わらず、犬飼を仕留めるには相当に時間がかかり、尚且つ水上と熊谷は落とされ、南沢も足を削られた。

 

 不利な状況に持ち込んでも、ただではやられないし場合によっては状況を覆してみせる。

 

 それが、二宮隊の怖さなのだ。

 

 だからこそ、万全を期して尚足りない。

 

 やれる事は全てやるが、それでも絶対倒せるとは言い切れないのが二宮という男なのだ。

 

 一つでも要素(パーツ)が抜け落ちれば、打倒などとても望めない。

 

 条件は整った。

 

 準備も、問題はない。

 

 作戦実行要員も、余計な負傷は見当たらない。

 

 あとは、作戦開始の引き金(トリガー)を引くだけだ。

 

 すぅ、と息を吸い込み、七海は告げる。

 

「行くぞ。準備は良いか、小夜子」

『はい……っ! 皆さん、条件はクリアされました。作戦名(オーダー)、『二宮落とし』────────開始ですっ!』

「『『了解』』」

 

 小夜子の号令と共に、七海が、那須が、茜が動き出す。

 

 今試合最大の難関、その大一番が始まった。





 ようやくここまで来ました。
 
 次回、打倒二宮戦です。
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