痛みを識るもの   作:デスイーター

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二宮隊⑮

「いよいよですか」

 

 小夜子は手元の映像を見ながら、一人呟く。

 

 隣にいる熊谷もまた、固唾を飲んで見守っている。

 

 この時、この局面こそ最終ROUNDにおける大一番。

 

 この作戦の成否に、試合の趨勢が懸かっていると言っても過言ではないだろう。

 

 二宮を落とせるか、否か。

 

 それが、全てである。

 

 二宮が生きている限り、真の意味でこの試合の主導権は握れない。

 

 彼は、単騎で状況を覆す事が出来るジョーカーだ。

 

 いわば、一種のMAP兵器。

 

 放置すれば、どれだけの被害を生むか知れない。

 

 だからこそ、対策を立て、彼を倒す為の作戦を構築した。

 

 それが、『二宮落とし』。

 

 無論、そう簡単なものではない。

 

 様々な条件が噛み合い、各々が自らのポテンシャルを最大限に発揮する必要がある。

 

(ですが、既に条件はクリアされました。あとは、実行あるのみです)

 

 小夜子は心の中で好きなアニメの台詞を引用しながら、鋭い視線で画面を見据える。

 

 第一の条件である作戦実行者のほぼ無傷での生存、は達せされている。

 

 それに加えて、必要な人員の居場所の隠蔽も成功している。

 

 ある種の不確定要素も絡む作戦である為そこが懸念要素ではあったが、事態はそれなり以上に理想的な形で推移している。

 

 犬飼が思った以上の動きを見せた時には焦ったが、見事それを討ち果たした熊谷は大したものだ。

 

 落ちはしたが、自分の仕事はきっちりやり遂げたのだから。

 

(失敗は、出来ませんね)

 

 小夜子の心臓が、高鳴る。

 

 作戦実行者たる七海達は勿論のこと、それをオペレートする小夜子にも失敗は許されない。

 

 少しの綻びが、全てを台無しにする。

 

 そういう事も、得てしてあるのだから。

 

 ────オペレートする時は、リアルな戦略ゲーをやってると思えばいいよー。あんまり気負い過ぎてもダメだしね────

 

 不意に、脳裏にゲーム仲間にしてオペレートの師匠筋でもある国近の言葉が蘇る。

 

 あれは、七海の入隊に関する一件の後にオペレーターとして部隊に貢献しなければ、と意気込んで国近に指導を願った時の事だったか。

 

 自分の為に心を砕いてくれた七海に報いる為にも頑張らなければ、と自分が知る中でも有数のオペレート能力を持つ国近に技術向上の為の指導を頼んだのだ。

 

 国近は最初こそ渋っていたものの、事情を話すと一転して「いいよー」と笑顔で承諾してくれた。

 

 今の言葉は、その時に開口一番彼女が言った台詞である。

 

 どうやら国近は小夜子が必要以上に気負っているのを察していたらしく、自然体でオペレートする為のアドバイスをしてくれたのだ。

 

 確かに、ゲームに慣れ親しんだ小夜子にとって最も分かりやすい形の助言と言える。

 

 手駒を配置し、随時指示を与えながら戦場をコントロールする。

 

 そう考えれば、ランク戦は戦略ゲームと通じる部分がある。

 

 違いがあるとすれば、その内実。

 

 駒は生きた人間であり、これは遊びではないという事だ。

 

(これはゲームであっても遊びではない、か)

 

 ふと、とあるアニメの台詞を思い出す。

 

 状況はともかく、言葉だけなら今の状況に相応しい。

 

 仮想空間で戦うランク戦は、本質的には失うものがないゲームと同じだ。

 

 無論、やるからには勝ちたいし、ランク戦に臨む者達の想いも分かっている。

 

 だが、ランク戦は極論結果を出せればその過程は問われない。

 

 どんな心境で臨もうと、それは個々人の自由であるのだから。

 

 必要以上に気負わない為に、ある種の割り切りや見立ては有効な手段である。

 

 だからこそ、小夜子は手を抜かない。

 

 如何なる時でも、全力で仲間をサポートする。

 

 それが、自分の役割。

 

 仲間の為、そして恋の為に奮起した、志岐小夜子の生き様なのだから。

 

「さあ、やってやりましょう。射手の王、必ず落としてみせますよ」

 

 

 

 

『まずは一発、お願いします』

「了解した」

 

 七海は小夜子の指示を受け、即座に跳躍。

 

 上空にて、メテオラのトリオンキューブを生成。

 

 二宮に向け、9つに分割したそれを撃ち放った。

 

「馬鹿の一つ覚えか。いや────」

 

 9つ程度であれば、二宮の射撃で充分撃ち落とせる。

 

 そもそも、七海のトリオンは二宮ほどではないがボーダーの中でもかなり多い部類に入る。

 

 当然、射撃トリガーのトリオンキューブもそれに応じた大きさとなる。

 

 細かく分割したのであればともかく、9つ程度の分割であればそれを狙い撃ちする事はあまりにも容易い。

 

「チッ」

 

 ()()()()()、二宮はそれを射撃トリガーで迎撃しなかった。

 

 そんな当たり前の事を、七海が分かっていない筈がない。

 

 二宮は、七海の事を高く評価している。

 

 ROUND3の時であればいざ知らず、今の七海は────────否、那須隊は、東さえ仕留めてみせた相手だ。

 

 油断も慢心も、決して出来る相手ではない。

 

 故に、直感したのだ。

 

 この七海の行動には、何らかの意味があると。

 

 今、攻撃にトリオンを割くべきではない。

 

 そう判断した二宮は、両防御(フルガード)を選択。

 

 七海のメテオラを、シールドで受けた。

 

 

 

 

「成る程、そう来ますか」

 

 画面の中で炸裂するメテオラの爆発を見据えながら、小夜子は微笑む。

 

 迎撃してくれれば話は早かったが、どうやら二宮は想像以上に七海を、そして自分達を高く評価してくれているらしい。

 

 そうでなければ、あそこで両防御(フルガード)という選択は選ばないだろう。

 

「けど、それならそれで構いません。那須さん、行っちゃって下さい」

『了解したわ』

 

 

 

 

「あれは……っ!?」

 

 辻は影浦と斬り合いながら、それを見た。

 

 二宮が七海と戦っている戦場の、ほど近く。

 

 ビルの隙間から、無数の弾幕の雨が上空に撃ち上がる光景を。

 

 今、生き残っている射手は、あれだけの数の弾を撃てる者は、二宮の他にただ一人。

 

「二宮さん、那須さんの射撃です……っ!」

 

 那須玲。

 

 魔弾の射手が、遂にその牙を見せた瞬間だった。

 

 

 

 

「那須か」

 

 二宮はメテオラで整地された瓦礫の上で、辻の報告を聴いて得心していた。

 

 恐らく、二宮に射撃トリガーを使わせた隙に変化貫通弾(コブラ)を撃ち込む算段だったのだろうが、二宮が両防御(フルガード)を選んだ事でその目論見が崩れたのだろう。

 

 いや、作戦を切り替えたと言うべきか。

 

 今のメテオラは恐らく、()()()が目的だった筈だ。

 

 即ち、那須のいる場所────────弾丸の発射地点を、二宮から隠す為に。

 

 位置が知られてしまえば、最早那須は合成弾を使えない。

 

 合成弾を使った以上レーダーには映っているだろうが、目視出来なければその()()は分からない。

 

 レーダーは確かに便利ではあるが、高低差までは映らないという欠点があるのだから。

 

 そして、那須は持ち前の機動力で幾らでも高さを調整出来る。

 

 ビルに潜んでいる事が分かったとしても、一階にいるのか上層にいるのか分からなければ、狙いを定められない。

 

 だからこそ、七海はメテオラを用いて二宮の視界を塞いだのだ。

 

 二宮がメテオラを迎撃し、防御の隙を見せれば必殺のコブラで仕留め────。

 

 ────二宮が防御を選択すれば、()()()の猶予を持った状態で那須の合成弾を使用出来る。

 

 これはそういった、二段構えの策。

 

 どう転んでも那須隊に有利な、不自由な二択を強制する作戦である。

 

 そも、コブラは防御も回避も難しい性質を持つ。

 

 アステロイドの性質を帯びたバイパーであるコブラは、通常弾(アステロイド)には有効である集中シールドだけでは防御し切れず、かといって変化弾(バイパー)に対する有効手段であるシールドを広げるという方法では、容易く貫通されてしまう。

 

 だからこそ、両防御(フルガード)を使うしか凌ぐ選択肢は無いと言っても過言ではない。

 

 しかしそうなれば両腕が塞がってしまい、反撃の選択肢が失われる。

 

 トマホークと違ってきちんと狙いを定める必要はあるが、標的にされれば厄介極まりない合成弾。

 

 それが、変化貫通弾(コブラ)なのだ。

 

 那須の弾丸は、十中八九これであると断言出来る。

 

 否、初撃でそれ以外を選択する意味がない。

 

 那須のいる場所から二宮が直接見えているかは不明だが、そのチームメイトの七海がこの場にいる以上、その観測情報から狙いを定める事は充分に可能だ。

 

 事実、ROUND5では部隊の観測情報を用いて地下街をマッピングし、地下街の広範囲を射程範囲に収めるという荒業まで披露している。

 

 照準は、既に定められていると考えた方が良いだろう。

 

 両防御(フルガード)であれば、コブラ自体は防ぎ切れる。

 

 だが、その後が続かない。

 

 ユズルも恐らく、那須ではなく二宮を狙う事を優先するだろう。

 

 位置が割れていない以上、二度目のコブラを使って来る事は充分有り得る。

 

 流石に何度もコブラを撃ち込まれてしまえば、二宮のシールドとて割れかねない。

 

 更に言えば、そんな隙をユズルが逃す筈もない。

 

 他への対処で手一杯だと知られれば、ユズルは容赦なくアイビスを撃ち込んで来る筈だ。

 

 二宮はユズルに絶え間ない射撃を撃ち込み、追い立てているように見せていたが、あれはブラフ。

 

 あくまで那須を釣り出す為の陽動であり、全力で仕留めようとしているワケではなかった。

 

 その事にユズルが気付いてしまえば、恐らく彼は一転して攻勢に出る筈だ。

 

 此処で両防御(フルガード)を維持して攻撃を停止すれば、ユズルは嫌でもその事に気付く。

 

 或いは、既に気付いている可能性もある。

 

 どちらにせよ、ユズルへの攻撃を止めれば一気に押し込まれてしまう事は間違いない。

 

 故に。

 

 二宮は、()()()()()()()()

 

 そして、シールドを片手で貼り直す。

 

 ただしそれは、普通のシールドではない。

 

 クリスタルを思わせる、特殊な形状のシールド。

 

 その場への固定と引き換えに、強固な防御力を得る特殊なシールドの展開法。

 

 固定シールド。

 

 二宮はそれを展開し、変化貫通弾(コブラ)の雨をガードした。

 

「────」

 

 着弾した光弾は、コブラは確かに強力な貫通力を備えた弾丸だ。

 

 だが、その貫通力はあくまでアステロイドと同程度。

 

 ただでさえ固い二宮のシールドを、しかもそれを更に強固にした固定シールドを貫ける筈もない。

 

 必殺の毒蛇は、二宮の防御の前に沈黙した。

 

 

 

 

「今だ」

 

 ────しかし、その瞬間を待ち望んでいた者がいた。

 

 崩れた家屋の中に潜んでいた少年は、弧月を腰だめに構え、振るう。

 

「旋空孤月ッ!」

 

 少年の刃が、旋空が、固定シールドを使ったが為に身動きの出来ない二宮へと放たれた。

 

 

 

 

「────」

 

 されど、二宮はそれすら予測していた。

 

 固定シールドは、確かに使用中はその場から身動きが取れなくなる。

 

 だが、()()が崩れた場合は別だ。

 

 二宮は固定シールドを展開したまま、メテオラを生成し即座に地面に────────否、瓦礫の山に向けて射出。

 

 足場となっていた瓦礫が吹き飛び、二宮の身体は固定シールドに包まれたまま落下。

 

 旋空は、寸での所で二宮の頭上を掠めていった。

 

 恐らく、二宮が固定シールドの解除が間に合った場合に備えて高めの場所に旋空を撃ったのだろう。

 

 今回は、それが仇となった。

 

 そのままであれば二宮の首を刈り取っていた筈の旋空は、虚しく空を切る。

 

「そこか」

 

 二宮はすぐさま、旋空の発射元へ向けメテオラを発射。

 

 一つの家屋に狙いを定めたメテオラは、着弾と同時に爆破。

 

 家屋の中から、シールドに包まれた南沢の姿が曝け出される結果となった。

 

「が……っ!?」

 

 無論、それを見逃す二宮ではない。

 

 メテオラを防ぐ為に広げたシールドを貫き、二宮のアステロイドが南沢の身体を穿つ。

 

『戦闘体活動限界。緊急脱出(ベイルアウト)

 

 機械音声が南沢の脱落を告げ、戦闘体が光の柱となって消え失せた。

 

 元より、片足を失っていた南沢に回避など叶う筈もない。

 

 頼みの旋空も凌がれ、その奮闘は無為に終わる。

 

 

 

 

「充分や。よくやったで海」

 

 ────だが、此処に否を唱える者がいる。

 

 彼は、生駒は仲間の犠牲を無駄にはしない。

 

 南沢の役割は、二宮を()()出来た段階で終わっている。

 

 その奮闘は、その犠牲は、全てこの一撃に託す為。

 

 腰が沈む。

 

 弧月に、手がかけられた。

 

 伝家の宝刀が今、抜かれる。

 

旋空弧月

 

 旋空が、否────────生駒旋空が、放たれた。

 

 

 

 

()()()()()()

 

 ────────しかし、その一閃すら、二宮には届かなかった。

 

 二宮は即座にその場から跳躍し、生駒旋空の斬線を回避。

 

 生駒の秘奥は、南沢と同じく空を切る。

 

 そも、南沢が最初に旋空を使ってきた時点で、二宮はこの展開を予測していた。

 

 南沢の旋空は、あくまでこの本命を通す為のフェイク。

 

 あの旋空を回避する為に二宮が跳んでいれば、空中で回避の出来ない二宮を生駒旋空で狙い撃ちにするハラだったのだろう。

 

 だが結果として二宮は跳躍を用いずに南沢の旋空を回避し、予測していた生駒旋空もこうして回避する事に成功した。

 

 生駒旋空は、凄まじい剣速と常識外の射程を誇るが、その代償として()()が出来ない。

 

 通常の旋空であれば連射も可能ではあるが、この生駒旋空は起動時間を極限まで短縮した代わりに射程を伸ばした代物である。

 

 故に、一撃の射程や速度は圧倒的であるものの、連射は不可能という性質を持っているのだ。

 

 今の生駒旋空を見る限り、生駒のいる位置は此処から30メートル程。

 

 通常の旋空の、射程外である。

 

 故に、通常の旋空に切り替えての連射も不可能。

 

 今この瞬間において、生駒の追撃は有り得ない。

 

 故に。

 

「那須か」

 

 此処で追撃が来るのであれば、那須以外に有り得ない。

 

 二宮は上空より飛来する無数の弾丸を見据え、全方位にシールドを展開。

 

 発射時間を考えれば、合成弾は有り得ない。

 

 如何に那須が優秀な射手とはいえ、合成弾の生成には相応の時間がかかる。

 

 数秒もあれば合成出来るだろうが、戦場での数秒はあまりにも長過ぎるのだ。

 

 故に、このタイミングでの射撃であればコブラではない。

 

 恐らく、彼女の十八番であるバイパーだろう。

 

 ならば、シールドを広げれば事足りる。

 

 そう考え、二宮はシールドを展開した。

 

 

 

 

「そこだ」

 

 ────────それを、見逃さぬ者がいた。

 

 二宮は現在空中にいて、回避行動は取れない。

 

 故に、今の二宮は攻撃に対し防御以外の選択肢を取れないのだ。

 

 彼は、ユズルは、その隙を逃さない。

 

 スコープで照準を定め、引き金に手をかける。

 

 アイビスが、致命の一撃が、放たれた。




 更新が二日も滞ってしまい不覚。

 皆、健康管理はしっかりしようね。

 VS二宮、次で決着だよ。
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