痛みを識るもの   作:デスイーター

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影浦隊⑦

 

『防がれました。上がって来ますよ』

「わかってるっ!」

 

 小夜子の声よりも先に、茜は駆け出していた。

 

 上階に転移しての狙撃は、シールドによって凌がれた。

 

 ライトニングは、茜が最も信頼する武器だ。

 

 だが、このトリガーには威力の欠如という致命的な欠点がある。

 

 トリオン体の強度がどんな相手だろうが変わらない以上、急所を狙えばライトニングでも相手を落とす事は可能だ。

 

 しかし、ライトニングは狙撃銃の中でも最も威力が低い。

 

 狙撃銃の中で連射が出来るという特徴はあるが、その連射性能は銃手トリガーと比べれば雲泥の差だ。

 

 シールドを広げられた時点で、ライトニングは確実に防がれる。

 

 茜は、その欠点を立ち回りによって潰してきた。

 

 シールドによって防がれるのならば、それを張る隙を与えなければ良い。

 

 たとえば、相手が両攻撃(フルアタック)を実行した時。

 

 たとえば、バッグワームを着た狙撃手が狙撃を行った時。

 

 そういった隙を狙い、茜は相手に弾丸を叩き込んで来た。

 

 けれど、それにも限度はある。

 

 茜は手を変え品を変え、ライトニングを最大限に活用した戦術で戦果を挙げて来た。

 

 即ちそれは、対戦相手にそれだけ手の内を知られている事を意味している。

 

 手の内を知れば、対策される。

 

 それはランク戦では当然の事であり、対策された()の事こそが肝要だ。

 

 別の手段を用意するか。

 

 それとも、対策の対策を行うか、である。

 

 茜は、その両方を行った。

 

 ライトニングの狙撃を警戒されているのなら、そもそも相手を狙わなければ良い。

 

 狙撃する対象は、何も相手のトリオン体に限らない。

 

 チームメイトが設置した、置きメテオラのトリオンキューブ。

 

 それを狙撃して起爆する事で、茜は戦況の突破口を作り出していた。

 

 置きメテオラは、文字通りキューブの状態のメテオラを設置して罠として活用する手法の事だ。

 

 その場に置いた時点で遠隔のコントロールは出来なくなるが、代わりに枠を埋める事もない。

 

 無論、ただ置くだけでは意味がない。

 

 置きメテオラは、何らかの衝撃を与える事で起爆する。

 

 ブレードで突き刺しても、弾丸を叩き込んでも良い。

 

 とにかくキューブに衝撃(ダメージ)を与えさえすれば、置きメテオラは爆弾としての役割を全うする。

 

 その方法として、茜のライトニングは適役だった。

 

 その速射性故に相手の意表を突く事が出来、何よりキューブを狙うだけなのだからシールドに邪魔される恐れもない。

 

 キューブの位置がバレてしまえば流石に警戒されるが、そのあたりはチームメイトが配慮してくれていた。

 

 主に戦場に置きメテオラを設置するのは七海の役目であったが、彼はとにかくキューブを隠すのが上手い。

 

 ある時は自分の身体の影に、ある時は瓦礫の隙間へと。

 

 様々な手法で相手の眼を欺き、爆弾を戦場に設置して行った。

 

 爆弾の起爆など、普通の狙撃手の役割からは些か外れてはいるものの、別段茜は勝つ為であれば狙撃手としての立ち回りに拘るつもりはなかった。

 

 大事なのはチームを勝利に導く事であり、茜が得点を重ねる事ではない。

 

 そのあたりの割り切りは、茜の得意とするところだった。

 

 そも、前期まではぱっとしない戦績しか挙げられていなかった茜である。

 

 今期ギリギリまで修練を重ね、ライトニング一本に絞って鍛錬する事で今の戦闘スタイルを確立したが、そうなる前は自分は狙撃手の中でもうだつの上がらない方であると考えていた。

 

 狙撃手のトップに君臨する当真のような()()()()()()弾を撃てるワケでもなく、東のような戦術眼があるワケでもない。

 

 奈良坂のような高水準で纏まった能力はなく、かといって佐鳥のような独自性もない。

 

 そんな、特に誇るべき箇所のない狙撃手。

 

 それが自分だと、茜は考えていた。

 

 ────それは違う。日浦は、日浦にしかない強みがあるじゃないか────

 

 そんな茜が変わる切っ掛けとなったのは、とある日の七海の言葉だった。

 

 七海は中々上達しない茜が思い悩む姿を見て、開口一番そう告げたのだ。

 

 ────俺には、狙撃手の事は分からない。けれど、透さんから精密射撃の腕は随一だって聞いている。なら、そこを伸ばせばいいんじゃないか?────

 

 どうやら七海は奈良坂からも茜に関する相談を受け、事情を聴いていたらしい。

 

 奈良坂はその時、茜の指導方針について葛藤していたそうだ。

 

 茜はアイビスやイーグレットを扱う適性は高いとは言えないが、ライトニングに関しては図抜けた適性を持っている。

 

 故に、そこを重点的に伸ばせば成長する見込みはあると、そう考えていた。

 

 しかし、狙撃手にとってライトニングはあくまで()()()のトリガーである。

 

 アイビスやイーグレットと違い、ライトニングにシールドを貫通するだけの威力はない。

 

 確かにその速射性は驚異的だが、よほど上手いタイミングで撃たなければまずシールドで防がれる。

 

 そんなトリガーに絞って訓練して、本当に茜の為になるのか。

 

 奈良坂は、そう思い悩んでいた。

 

 だからこそ、奈良坂は七海経由で茜の意思を確認しようとしたのだ。

 

 師匠である奈良坂が促せば、茜はまず断らない。

 

 それは最早指導ではなく強制だと、奈良坂は考えていた。

 

 故に彼は七海に茜の意思を確認する事で、茜自身がどう判断するかを見極めたかったのだ。

 

 結果として、茜は自分自身でライトニングに絞って鍛錬する事を選び、更にはテレポーターを習得する事で、独自の立ち回りを行う狙撃手となった。

 

 七海の助言が奈良坂の気遣いがあったからこそ、茜はこうしてB級上位でも通用する狙撃手として成長出来た。

 

 以前のように、狙撃銃を無理やり三種全て使いこなそうとしていたのならば、その成長は有り得なかっただろう。

 

 隠し玉のイーグレットをこの最終ROUNDまで使わなかったのは、なんの事はない。

 

 ただ、形になったのがつい前日であっただけである。

 

 無論の事、茜はライトニングしか使わない、と印象付ける目的もあったが、それはあくまで後付けの理由だ。

 

 茜がイーグレットを扱う腕を使い物になるまで鍛錬するまで、相応の時間が必要だった。

 

 そも、イーグレットも扱えるよう鍛錬を始めたのは、ROUND3以降である。

 

 あの戦いでチームとして惨敗を喫した事を茜は重く受け止め、ライトニングだけでは足りないと、強く考えるようになった。

 

 確かに、茜のライトニングの腕前は最上級(ハイエンド)の域に達している。

 

 並み居る狙撃手の中でも、ライトニングの扱いに限れば早々負けはしない。

 

 その程度の自負は、茜にもあった。

 

 だが、ライトニングが威力不足という致命的な欠点を抱えている事実は変わらない。

 

 それを補う為の最も手っ取り早い手段として、茜はイーグレットの修練に着手した。

 

 アイビスという選択肢は、最初からない。

 

 確かに威力不足という問題を解決するには最上の武器ではあるが、汎用性という事を考えればイーグレットが最も的確だ。

 

 そも、茜にはそれまでのランク戦で対戦相手に叩き込んだライトニングによる不意打ちの脅威がある。

 

 故に相手は茜を警戒する時はシールドを広げる筈であり、広げたシールド1枚を割るならイーグレットで事足りる。

 

 広げたシールドと集中シールドの二枚重ねで防御される可能性はあるものの、その時点で相手の両手は塞がっている。

 

 そこまで追い込めれば、後はチームメイトがカタを付けてくれるだろう。

 

 ランク戦は、何も自分一人で点を取る必要はないのだから。

 

 そういった経緯で、茜はイーグレットの修練を重ね、最終ROUNDで遂にその隠し玉を披露した。

 

 結果は、最上。

 

 最大の脅威であった二宮は、茜の銃弾で沈んだ。

 

 入念な準備を重ねた末の、渾身の一射。

 

 流石に、通って貰わなければ困る。

 

 茜は、そうしてこの試合最大の難所を乗り越えた。

 

 だが、戦いはまだ終わっていない。

 

 彼女が雌雄を決するべき相手は、他にいる。

 

 絵馬ユズル。

 

 ROUND3ではどさくさ紛れに仕留めた、天才中学生狙撃手。

 

 歳は茜の一つ下だが、その高い技量と優れた機転は噂として耳にしていた。

 

 そもそも、所属部隊が所属部隊だ。

 

 ユズルが在籍しているのは、B級二位の影浦隊。

 

 かつてはA級部隊として君臨していた、掛け値なしのトップチームである。

 

 影浦の隊務規定違反で降格の憂き目に遭ったものの、その実力自体に変化はない。

 

 二宮隊共々、A級への登竜門として君臨するチームの片割れだ。

 

 そのチームで、狙撃手を任されているのだ。

 

 実力の高さは、疑いようがない。

 

 実際、あのROUND3で彼を仕留められたのは運の要素も多分に絡んでいた。

 

 あの時とは違い、茜のテレポーターについても最大限の警戒が敷かれている筈だ。

 

 同じたたらを、ユズルが踏む筈もない。

 

 それに、彼ならば気付いている筈だ。

 

 茜が用いた、隠し玉。

 

 イーグレットの、()に。

 

 

 

 

(…………多分、日浦さんが転移直後の狙撃に使えるのはライトニングだけ。イーグレットは、転移とは併用出来ない)

 

 ユズルは階段を駆け上がりながら、心中でそう断定した。

 

 そもそも、先ほどの狙撃でユズルを確実に仕留める為には、イーグレットが的確なのだ。

 

 確かに、ライトニングの弾速は脅威だ。

 

 だが、来ると分かっているのならば、シールドを広げればどうとでもなる。

 

 その事を、茜が承知していないとは思えない。

 

 なのに、イーグレットではなくライトニングを用いたのは何故なのか。

 

 答えは一つ。

 

 茜はあの時、イーグレットを使わなかったのではない。

 

 使()()()()()()のである。

 

 そも、転移直後の狙撃は相当な難易度を誇る。

 

 当然だ。

 

 狙撃とは、スコープ越しに標的を見据え、弾道を規定し、相手の動きを考慮に入れて引き金を引く。

 

 そういった、複数の工程(プロセス)から成り立っている。

 

 そして、転移直後の狙撃は、その工程を一瞬で組み上げなければならない。

 

 そうなると、最早頭で理解しているだけではどうにもならない。

 

 繰り返し使用し手に馴染んだ愛銃を携え、考えるよりも先に引き金を引く。

 

 そのくらいの芸当が出来なければ、転移直後のタイムラグなしの狙撃など不可能だ。

 

 茜は、それが出来る。

 

 射線がない場所であろうと、転移を用いた移動により即座に射線を確保し、ライトニングの速射性を活用して正確無比な狙撃を一瞬の内に敢行する。

 

 それが、茜の最大の強み。

 

 何処から来るか分からない、閃光の一撃。

 

 それこそが、茜の最大の武器。

 

 だからこそ、彼女は唯一無二の脅威を持つ狙撃手としての立ち位置を確保しているのだ。

 

 しかしそれは、あくまでライトニングを用いた狙撃という前提を元としたもの。

 

 イーグレットは、そんな彼女にとって()()に近い。

 

 いや、正確に言うならば、まだ彼女に馴染み切っていないと言うべきか。

 

 転移直後の狙撃には、慣れ親しんだ武器が必要不可欠。

 

 そして茜にとってイーグレットは、()()()()()()()()とはまだ言えない。

 

 故に、茜が転移を実行した場合は、ライトニングだけを警戒すれば事足りる。

 

 ユズルの頭脳は、そう判断を下していた。

 

(なら、バッグワーム(これ)は邪魔だな)

 

 決断を下した後の、判断は速い。

 

 ユズルはバッグワームを脱ぎ捨て、いつでもシールドを張れるように身構えながら先へと進む。

 

 どうせ、レーダーには高低差は表示されない。

 

 ならば、大まかな位置がバレてしまっている現在、バッグワームを使い続ける意味などない。

 

 レーダーに映っていない様子を見るに茜はどうやらバッグワームを脱いではいないようだが、彼女とユズルでは前提条件が違う。

 

 ユズルの主武装は、アイビス。

 

 たとえ集中シールドを張ったところで、アイビスの矛は容易くその守りを打ち砕く。

 

 集中シールドを二枚重ねにすれば防げない事はないが、そこまでするのであれば茜の場合、テレポーターを使った方が手っ取り早い。

 

 そも、茜は素の機動力こそ難はあるが、咄嗟の回避行動はそこまで悪いものではない。

 

 シールドを張るよりは、回避した方が手っ取り早いとでも思ったのかもしれない。

 

 どちらにせよ、やる事は変わらない。

 

 相手の裏をかき、その脳天に弾丸を叩き込む。

 

 狙撃手同士の1対1(タイマン)など初めての経験だが、問題はない。

 

(勝つのは、オレだ。今度こそ、仕留める)

 

 拳を握り締め、ユズルはそう硬く誓った。

 

 あの時の雪辱は、必ず晴らす。

 

 その為に、これまで牙を研いで来たのだ。

 

 二度、同じ轍は踏まない。

 

 ユズルの培った経験と、戦闘センス。

 

 その全てを用いて、日浦茜を打ち倒す。

 

 それが、ユズルの意思。

 

 一度敗北を喫したが故の、再戦を望む渇望である。

 

 ユズルが初めて訴えた、我が儘(男の意地)である。





 昨日は異能バトル杯書いてて更新できませんでしたが、今日は更新したぜ。なにせ昨日は2万字も書いたからのう。

 明日は夜勤なんで更新は出来ませぬ。明後日を待て。
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