痛みを識るもの   作:デスイーター

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総評、最終戦

部隊得点生存点合計
那須隊527
二宮隊3 3
影浦隊3 3
生駒隊2 2

 

「け、決着……っ!! 決着です……っ! 七海隊員が、影浦隊長を撃破……っ! ここで試合終了……っ! B級ランク戦ROUND8、上位・夜の部は────────那須隊の、勝利です……っ!」

 

 モニターに得点が表示され、桜子の勝利宣言と共に歓声が沸き上がる。

 

 B級ランク戦、今シーズンの最終ROUND。

 

 長かった激戦が、遂に決着した。

 

 その瞬間を見守っていた者達の、反応は様々だ。

 

 ライバルの勝利に、称賛と自分の至らなさを噛み締めながら拳を握り締める攻撃手達(村上と荒船)

 

 弟子の結末に、燻ぶらせていた戦意を燃え上がらせるA級一位(太刀川)と七海の成功に満足気に笑みを浮かべる天才射手(出水)

 

 可愛い弟子の活躍をかぶりつきで見ていたが故にあからさまにテンションがおかしくなり、チームメイトに胡乱な目を向けられていた美形狙撃手(奈良坂)

 

 一足先に試合を終えて作戦室で那須隊勝利の報を聞き、盛大にもぎゃった停滞を止めた少女(香取)

 

 素直な称賛と共に拍手を送る、解説の二人(王子と蔵内)

 

 その横で黙って頷く、寡黙な完璧万能手(レイジ)

 

 支部で大歓声をあげて喜びを露わにする、玉狛の面々(小南たち)

 

 ぴょんぴょん跳ねながら大袈裟に喜ぶ少女狙撃手()と、それを見守り苦笑を浮かべる苦労人(熊谷)

 

 そして、勝利の瞬間を目に焼き付けた結果感極まって涙を流す恋する少女達(那須と小夜子)

 

 誰もが、七海の、そして那須隊の勝利を称えていた。

 

 それは、戦っていた者達も例外ではない。

 

 生駒隊も、二宮隊も。

 

 そして、最後に負けた影浦隊でさえ、この勝利を称賛しない者はいない。

 

 安定して高い地力を誇る生駒隊だけではなく、B級上位の最大の壁である、影浦隊と二宮隊を正面から打ち破ったのだ。

 

 これを称賛するなと言う方が、おかしな話である。

 

「まさしく激戦に次ぐ激戦……っ! 試合開始直後から怒涛の展開が続き、最終ROUNDに相応しい試合であったと言えるでしょう……っ!」

「色々、驚かされた事も多いしね。折角だから、最初から試合を振り返ってみたいな」

「では、さっそく振り返ってみましょう!」

 

 王子のパスを桜子が即座に受け取り、試合の復習を開始する。

 

 この激戦を語り合いたいのは、桜子とて同じなのだ。

 

 むしろ、受け取らない理由がないのである。

 

「まずは試合開始直後、北添隊員の適当メテオラが各所に炸裂しましたね」

「開けたMAPなら、やらない理由はないからね。けど、それを囮にカゲさんが待ち構えていた、ってのは予想外だったんじゃないかな」

 

 試合開始直後の適当メテオラの乱発自体は、北添が参加するランク戦では見慣れたものである。

 

 ただ一点。

 

 影浦が、北添を囮にして釣り出した辻を待ち構えていた事を除いては。

 

「今期の影浦隊はROUND4以降戦術的な行動がそれなりに見られていたけど、適当メテオラが活かし難いMAPばっかりだったからね。これには流石に辻ちゃんも面食らったんじゃないかな」

「影浦隊としては誰が釣れても良かったんだろうが、考え得る限りで最適な相手を引き込んだと見るべきだな」

「ええ、此処で辻隊員が影浦隊に釘付けにされた事で、二宮隊の合流が阻まれた形になりますからね」

 

 そう、この試合、二宮隊の三人はそれぞれが割と離れた位置に転送されていた。

 

 そして、適当メテオラが始まった以上、それを放置するという選択肢は有り得ない。

 

 必然的に、一番近い位置にいた辻を向かわせざるを得ず、辻の孤立という事態を招いてしまったワケだ。

 

「勿論、二宮隊が采配を誤った、とまでは言えない。結局のところ、二宮隊は一人でも二宮さんと合流出来れば勝率が跳ね上がるからね。辻ちゃんが合流出来なくても、澄晴くんさえ合流出来れば良い。きっと、そういう判断だったんだと思うよ」

「だがそこで、那須隊の策が発動したワケだ」

 

 そうですね、と王子はレイジの言葉に同意する。

 

「適当メテオラの混乱の直後、澄晴くんとベアトリスがエンカウントした。当然だけど、両者共に相手を見逃す理由はない。当然戦闘に突入したワケだけど」

「そこに、七海が割り込んだ。流石に犬飼といえど、七海と熊谷の二人がかりは厳しい。だからこそ」

「二宮隊長が介入した、というワケですね」

 

 そう、たとえ犬飼といえど一人では流石に回避と機動力に特化した七海を含む二人がかりでは、明らかに不利だ。

 

 故に、二宮がその場に介入した。

 

 犬飼を援護し、あわよくばそのまま合流に繋げる為に。

 

「だが、恐らくこれも那須隊の想定通りだったんだろうな。七海は二宮が仕掛けて来るや否や、即座に二宮を抑えに回った。犬飼相手に2対1の状況を演出したのは、二宮の位置を知る為だったワケだ」

「まあ、二宮さんは基本的に位置が知られてもそこまで不利にはならないからね。1対1になった時点でほぼ負けないし、トリオン量の関係で射程もかなり長いからそもそも近付けない。けど」

「ええ、七海隊員はグラスホッパーを用いて一気に肉薄し、二宮隊長に挑みました。個人的に、そう来るか、と驚きましたね」

 

 まず、と前置きして蔵内は続ける。

 

「大前提として、ランク戦において二宮さんは基本的に()()()()()として扱う事が多いです。二宮隊が参加する試合では二宮さんに捕捉される前に一点でも多く点を取る、というのがポピュラーな戦術です」

「だが、今回那須隊は明確に二宮を落とすつもりで作戦を立てていた。そもそもの前提条件が違ったワケだ」

 

 二宮は、ランク戦ではその理不尽なまでの暴威を撒き散らす、一種のMAP兵器のような扱いだ。

 

 射程は長く、弾の密度も尋常ではない。

 

 それでいて戦術も高いレベルのものを保有しており、犬飼が傍に控えれば隙も殆ど生まれない。

 

 基本的に、獲れない前提で他の点を狙いに行く、というのが彼が参加する試合での常套手段であった。

 

 けれど、那須隊はその手段を択ばなかった。

 

 最初から、二宮落としを敢行するつもりでいたが故に。

 

「その時点で、他の部隊も那須隊の狙いを察した筈だ。だからこそ、生駒隊の二人が熊谷に合流する形で犬飼を孤立させにかかったワケだ。これで全部隊による、二宮隊包囲網が形成された。那須隊の、思惑通りにな」

 

 那須隊は、七海は、最初からこの構図を実現する為に動いていた。

 

 影浦隊が既に辻を抑えていた事も、那須隊にとっては嬉しい誤算であった事だろう。

 

 基本的に、二宮隊は一人でもフリーの状態になればその脅威度が跳ね上がる。

 

 無論合流すれば強いのは事実ではあるが、二宮隊はその全員がマスタークラス。

 

 当然、単騎運用に堪えるだけの実力は備えている。

 

 それに一人抑える事が成功したとしても、自由に動ける駒がいれば合流して盤面を調整し直される。

 

 時間さえ稼いでしまえば、二宮が合流してチェックメイト。

 

 だが、辻が動けず、二宮も七海によって抑えられている状態であるならば。

 

 孤立した犬飼に戦力を向ける事に、躊躇いなどある筈もないだろう。

 

「これまでの七海の戦績があったからこそ、成立した策とも言える。七海はこれまで、村上や生駒、弓場といった強敵を正面から撃破している。そんな七海だからこそ、他の部隊も信じる事が出来たのだろう。()()()、二宮を抑えられると」

 

 七海はこれまで、仲間の援護があったとはいえ村上を始めとした錚々たるメンバーを下している。

 

 そして、その戦いぶりはこの戦いに参加した全員が知っている。

 

 だからこそ、信じる事が出来たのだ。

 

 彼なら、仕事をやり遂げられるだろうと。

 

 そういう考えがあったからこそ、生駒隊は犬飼を抑える為に二人も戦力を送り込んだ。

 

 七海の力を、信じていたが故に。

 

 ある意味、これまでの積み重ねがあったからこそ、成立した策と言える。

 

「その後の二宮を落とした攻防も、その信頼があったからこそ成し得たものと言える。あそこで生駒隊や絵馬が動かなければ、二宮は落とせなかっただろうからな」

「他の部隊との、疑似的な共闘。相手への信頼を前提とした策、か。いやはや、参ったね。これは流石に予想していなかったよ」

 

 王子はやられた、とばかりに両手を上げてみせる。

 

 ランク戦における、他の部隊との疑似的な共闘。

 

 それ自体は、王子とて経験はある。

 

 だが、今回那須隊が取った策は、相手への信頼が前提にある。

 

 対戦相手に、背中を預ける。

 

 目的意識を共有し、一つの到達点に向け突き進む。

 

 それを実行に移した大胆さも然る事ながら、見事手綱を掴んでみせたその手腕も驚嘆に値する。

 

 戦術家として、大いに学ぶところがある策であったと王子は認めていた。

 

「流石だね、セレナーデ。そして、イコさんもナイスアシストだったよ」

 

 

 

 

「褒められてもなんや嬉しくないのはなんでやろな。俺、良い様に利用されたって言われてへん?」

「ま、そういう意味じゃ俺等全員利用されたんやろなあ」

 

 生駒隊、作戦室。

 

 そこでは生駒と水上が、早速王子の発言に突っ込みを入れていた。

 

 そうやな、と水上は続ける。

 

「まあ、そういうの承知の上で那須隊の策に乗ったんやけどな。ただ、その途中で受けた被害が大き過ぎた、ってのも覚えとかなアカンやろなあ」

「完全に、美味しいトコだけ掻っ攫われましたしねえ」

 

 この試合、確かに生駒隊は那須隊の策に乗り、二宮隊の包囲網完成に一役買った。

 

 それ自体は良い。

 

 だが、その過程で発生した隊の被害に比べ、得られたリターンが少な過ぎた。

 

 ある意味、それが今回の敗因だったとも言える。

 

 王子の発言はある意味、それを含めた皮肉とも言える。

 

「でもでもっ、二宮隊に一泡吹かせられた、って考えれば悪くなくないじゃないですかっ! あんだけ強い二宮さんを倒す手伝いが出来たんだから、これはこれで良い経験ですってっ!」

「…………そやな。その通りや」

 

 南沢の言葉に、水上は毒気を抜かれたように頷く。

 

「確かに、これで二宮さんもやりようによっては倒せる事が証明されたとも取れるんやから、ある意味普通の勝ちよりも意味あるで。二宮さんを倒す、っていう選択肢が挙げられるようになるんは、どう考えてもプラスやしな」

 

 二宮は強いが、無敵ではない。

 

 その事実を証明する一助となれたのなら、この敗北にも意味はある。

 

 水上はそう思い直し、隊のメンバーも頷いた。

 

 ランク戦は、今回が最後ではないのだ。

 

 格上の相手を被害を覚悟で倒す経験は、必ず糧になる。

 

 倒すという選択肢が、最初から存在するかどうかはそれだけで大分違うのだから。

 

「せやんな。俺も七海とまたタイマン出来たし、特に思い残す事はあらへんで」

「いや、思い残さなきゃ駄目やろ。次に繋げるいう話やったんやから」

 

 真織は呆れたように溜め息を吐き、生駒隊の面々に笑みが浮かぶ。

 

 負けはしたが、有意義な戦いだった。

 

 それを実感し、生駒隊の意思は統一された。

 

 その直後、雑談からの漫才じみたやり取りへ発展したのは、ご愛敬である。

 

 

 

 

「それからはもう、怒涛の展開だったね。ヒューラーとエマールの狙撃手対決に、辻ちゃん、カゲさん、ナースの三つ巴。誰一人として無駄な動きがないんだから、大したものだよ」

 

 王子の言う通り、あの盤面で誰もが無駄な動きをしなかった。

 

 茜とユズルは狙撃手同士の一騎打ちに専念し、勝利した茜が味方の援護に向かった。

 

 辻は、自らを囮とする策で那須を釣り出し、影浦を無傷で生かしながら那須を落とさせる事に成功した。

 

 誰もが全力を尽くし、全霊を懸けた。

 

 最終ROUNDに相応しい、レベルの高い攻防だったと言える。

 

「その後の七海隊員と生駒隊長の一騎打ちは、日浦隊員の援護が光りましたね。絵馬隊員を仕留めた時に見せた転移によるゼロ距離を敢行したかと思えば、それさえ囮で自分ごとメテオラを斬らせての起爆。最後まで自分の仕事をやり切った、見事な立ち回りと言えるでしょう」

「あの機転は流石だったね。これまで以上に、ヒューラーの評価を高める必要がありそうだ」

 

 そして、と王子は顔を上げる。

 

「最後のシンドバットとカゲさんの戦いは、言葉を尽くす方が無粋だよね。一騎打ちで、シンドバットがカゲさんに勝った。それだけの事なんだから」

「お互いに、特別な事をしたワケではないですからね。自分の持つ技術をぶつけ合って、その結果として勝利した。それで良いと思います」

 

 

 

 

「だってよ、カゲ。まあ、言う必要もなさそうだけど」

「うっせ」

 

 影浦隊、作戦室。

 

 影浦はソファーに座りながら、ふぅ、と息を吐いた。

 

 口調こそ普段通りの荒いものだが、その顔には隠し切れない笑みが浮かんでいる。

 

 未だ、七海との戦いの余韻を噛み締めているのがまるわかりだ。

 

 だからこそ、チームメイトの面々もまた、遠慮せずに絡んでいるのだが。

 

「ユズル」

「なに?」

 

 不意に、影浦がユズルに声をかける。

 

 ユズルは席を立ち、影浦に近付いた。

 

「悔しいか?」

「うん。でも、次は勝つよ。必ずね」

「そうか。やってやれ」

「……うん……っ!」

 

 影浦はくしゃりとユズルの頭を撫で、ユズルはそれに身を任せる。

 

 そのまま影浦は顔を上げ、再び溜め息を吐いた。

 

「強くなりやがったな、どいつもこいつも」

 

 それと、と影浦は笑みを浮かべる。

 

「楽しかったぜ、七海」

 

 

 

 

「さて、これで今期ランク戦の全試合が終了致しました……っ! 最終的な順位は、こちらになりますっ!」

 

部隊得点順位
那須隊 52pt1位 
二宮隊 50pt2位 
影浦隊 46pt3位 
生駒隊 37pt4位 
弓場隊 33pt5位 
香取隊 32pt6位 
王子隊 30pt7位 

 

東隊30pt8位
鈴鳴第一30pt9位
柿崎隊26pt10位
荒船隊24pt11位
諏訪隊22pt12位
漆間隊16pt13位
早川隊12pt14位

 

 桜子の宣言と共に、画面に順位の一覧が表示される。

 

 その結果を改めて見て、多くの者から感嘆の声が漏れる。

 

 B級一位。

 

 今まで二宮隊が君臨し続けていたその地位を、那須隊が取って代わったのだから。

 

「合同戦闘訓練については、後程ご説明があるとの事ですっ! こちらについても実況解説出来るよう調整中ですので、どうぞご期待下さいっ!」

 

 さりげなく今後の予定を確定事項のように公言しながら、桜子は満面の笑みを浮かべ、告げる。

 

「これにて今期のB級ランク戦、その全行程を終了しますっ! 皆さん、お疲れ様でしたっ!」

 

 桜子の宣言と共に、B級ランク戦の閉会が告げられる。

 

 激戦に続く激戦を潜り抜け、その果てに得た結果。

 

 それを誰もが噛み締めながら、ランク戦は閉幕した。

 

 だが、これで終わりではない。

 

 まだ、先がある。

 

 合同戦闘訓練という、A級部隊と共に切磋琢磨する舞台が。

 

 気を抜くのは、まだ早い。

 

 本番はまだ、始まってすらいないのだから。




 B級ランク戦編、これにて終了~! まあ後日談めいたものはありますが、そこはそれ。それが終わり次第、合同戦闘訓練編へ続くのじゃ。まあ、ランク戦編ほど長くはならない予定ではある。

 表形式は初めて導入してみましたが、これはこれで良いですね。見栄えが良い。

 ちなみに、昨日のワートリ二次創作者の朝5:00の一斉更新は狙ってやりました。中々に圧巻の光景でしたね。
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