痛みを識るもの   作:デスイーター

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パーティ②

 

 じゅぅ、とお好み焼きが焼ける音が店のあちこちから響く。

 

 貸し切りである事もあって閑散としていた店内は、あっという間に賑わいで満ちた。

 

 影浦はこの打ち上げをするにあたって、那須隊の面々が選んだ部隊を呼び寄せた。

 

 正確には、「来るなら勝手にしろ」と号令をかけただけだが。

 

 鈴鳴と荒船隊は、それぞれ村上と荒船が連れて来た。

 

 生駒隊、弓場隊は以前の縁もあり、七海が呼び寄せた。

 

 太刀川隊は、出水が七海に交渉し、影浦を怖がる唯我を抜いた三人でやって来た。

 

 柿崎隊は熊谷が柿崎とスポーツ仲間という縁もあって、隊ごとやって来た。

 

 諏訪隊は堤と加古を通じた繋がりがあり、その縁もあって来たのである。

 

 七海としては加古も呼びたかったのだが、どうやら外せない用事があるらしく此処にはいない。

 

 その事に若干名、安堵の息を漏らした者がいたのは内緒である。

 

 流石にお好み焼きで加古炒飯の悲劇が再現されるとは考え難いが、そもそも加古と料理の組み合わせがまずアウトである。

 

 加古といえば、加古炒飯。

 

 これは、彼女を良く知るボーダー隊員の大半が抱いているイメージである。

 

 ちなみに、七海は味覚が殆ど死んでいる為加古炒飯の威力を知らない。

 

 それ故、加古炒飯の脅威についての理解があるとは言い難い。

 

 加古は料理の腕そのものは悪くないが、興味本位でどうしてそうなったと言わんばかりの謎具材をぶち込む悪癖がある。

 

 食材には、食い合わせというものがある。

 

 幾ら美味しい食材とはいえ、甘いものと辛い物を一緒にすればどうなるかは明々白々。

 

 だが、加古はその常識を無視(スルー)する。

 

 いくらと鮭だけの組み合わせなら、まだ分かる。

 

 しかし加古は、そこに生クリームやらカスタードやらを投入してしまうのだ。

 

 魚介類と、お菓子類。

 

 普通に考えて最悪な組み合わせを、彼女は遠慮なく行ってしまうのだ。

 

 結果、一口食べるだけで抱腹絶倒確実な致死性炒飯が出来上がるのだ。

 

 無論、毎回ではない。

 

 その()()()炒飯に当たる確率は、二割。

 

 10回中8回は、普通の極旨炒飯を食べられる。

 

 だが。

 

 だが。

 

 これは、あくまで()()である。

 

 中には、10回中10回はずれ炒飯を引く超絶アンラッキーな者もいる。

 

 まあ、その者の名は堤と言うのだが。

 

 ともあれ、繰り返し加古炒飯を味わって来た堤は加古がこの場にいない事を密かに安堵していた。

 

 もっとも。

 

 後日、「七海くんの勝利祝いにいっぱい炒飯作ってみたの♪」とうきうきな加古に連行される堤の姿があったという。

 

 閑話休題(それはさておき)

 

 合計36名。

 

 そんな人数が、このお好み焼き屋『かげうら』に集結していた。

 

 影浦は注文を取る為忙しなく駆け回り、暫くは戻って来そうにない。

 

 となると当然、今回のメインである七海達の下へ人が集まって来るのは必然であった。

 

「おう七海、二宮に勝つたぁやるじゃねぇか」

「ええ、最後の影浦との一騎打ちも見応えがありましたしね」

「凄かったです。俺も負けてられないですね」

「ありがとうございます。それも、皆のお陰ですよ」

 

 最初に来たのは、諏訪隊だった。

 

 諏訪と堤、笹森は口々に七海を称賛する。

 

 七海はそれを受け、軽く返礼した。

 

 この試合のMVPは、間違いなく七海だろう。

 

 あれだけの時間、二宮を抑え続けた手腕は称賛されて然るべきものだ。

 

 その後の生駒や影浦の一騎打ちを制した事もあり、彼が最大の功労者である事を疑う者はいないだろう。

 

「驚いたぞ。あれにはな」

「そうっすね。凄かったっす」

「えへへ、ありがとうございます」

 

 そして、もう一人の功労者もまた、荒船隊の二人から称賛の言葉をかけられていた。

 

 七海が表の功労者なら、茜は影の功労者だ。

 

 二宮を仕留めてみせた、イーグレットの狙撃は言うに及ばず。

 

 その後のユズルとの狙撃手同士の一騎打ちでの勝利や、生駒戦での好アシスト。

 

 どれを取っても、那須隊の勝利には欠かせなかった人物だ。

 

 茜は狙撃手の二人からの称賛を、素直に笑顔で受け入れた。

 

 何処かできのこ頭の美形が「茜に悪い虫が……?」と妙な電波を受け取っていたようだが、そこはそれ。

 

 用事があって来れなかった残念な美形(奈良坂)の殺気を感じ、狙撃手二人が寒気を覚えたのは内緒である。

 

「見てたぞ。頑張ったな、熊谷」

「ええ、感動しました」

「凄かったですっ!」

「あはは、ありがとうね」

 

 そして、熊谷は柿崎隊の面々から労いの言葉をかけられていた。

 

 熊谷はプライベートで、柿崎達とは共にスポーツに興じる仲だ。

 

 元来身体を動かす事が好きな熊谷は、趣味が合う仲間として柿崎達と休みの日にバスケなどを行っていた。

 

 どちらかというと、個人ランク戦を重ねるよりもそちらの方が熊谷の好みではある。

 

 個人ランク戦も嫌いではないが、太刀川のようにのめり込んでいるかと言われれば疑問が残る。

 

 無論鍛錬は欠かさないが、それでも本当の意味でリフレッシュ出来るのは休日にスポーツをやっている時である。

 

 こればかりは残念ながら、隊の仲間とするワケにはいかない。

 

 生身での運動などまず無理な那須と、生身ではそもそも日常生活に支障が出る七海。

 

 そして引きこもりの小夜子に、運動音痴の茜。

 

 このように見事にスポーツ適性のない者達ばかりが揃っている為、休日の日中は那須隊の面々といるよりも柿崎達といる時間の方が多い傾向にある熊谷である。

 

 この機会に那須隊のメンバーとも親交を深めさせたいと考えて連れて来た為、丁度良いタイミングで紹介しよう、と思案していた熊谷であった。

 

「今日は誘ってくれてありがとうね。七海くん」

「いえ、いつもお世話になっていますし」

「太一、絶対に余計な事しちゃ駄目だからね」

 

 鈴鳴の面々は、七海に話しかけながらも太一(真の悪)の動向に注意していた。

 

 悪意の欠片もなく、善意で様々なハプニングを引き起こす事で評判の太一である。

 

 祝いの席を台無しにされたくない村上達、特に今は注意深く太一の様子を観察していた。

 

「大丈夫ですって……っ! 俺、折角だから焼くのやってみま────」

「やめておこうか」

「うん。俺がやろう」

「やめなさい……っ!」

「…………なんでぇ……?」

 

 自分のとんでもないうっかり具合をいまいち自覚していない太一が凶行に走ろうとする前に、それを止める鈴鳴第一。

 

 太一が善意で動けば、何が起こるか。

 

 それを把握しているが故の、全力制止であった。

 

 全員から止められ、しょぼんとする太一。

 

 しかし今までの前科を考えれば、自業自得としか言えない有り様ではあった。

 

「おう七海ィ、やったじゃねぇか。俺もブルっちまったぜェ」

「ありがとうございます。弓場さん」

 

 そんな鈴鳴の面々の横で、労いの言葉をかける弓場とそれに返礼する七海の姿があった。

 

 弓場は髪を下ろした私服姿で、普段の凄み(ドス)は若干抑えられている。

 

 真面目なインテリ大学生。

 

 それが、今の弓場から受ける正直な印象だった。

 

「凄かったっす……っ! 感動したっす……っ!」

「ああ、やったな。まさか、一位の座をもぎ取るなんてな」

「真面目に凄いと思う。いやホント」

「おう、やるなあお前ら……っ!」

 

 そして弓場隊の面々は、素直な称賛を口にしていた。

 

 七海は一人一人に丁寧に返礼し、神田や藤丸からばしばし肩を叩かれていた。

 

 完全に体育会系の部活のノリだが、こうした雰囲気も嫌いではない。

 

 攻撃手の面々との交流を通じて、こういう空気にも慣れているからだ。

 

 それに、今の七海には昔と違って余裕がある。

 

 那須と掛け違えていたボタンをかけ直した今の七海は、張り詰めていた空気が薄れている。

 

 前より取っ付き易くなったと、口々に噂される程度には。

 

 七海は無痛症の影響で、どうしても反応が淡泊になってしまう。

 

 情動が削られている為致し方ない事だが、外から見ると何処か浮世離れしていて、近付き難い雰囲気があったのも確かなのだ。

 

 今は、それがない。

 

 確かに反応が淡泊なのは変わらないが、それでも地に足が付いているイメージがある。

 

 少なくとも、今は雰囲気だけで敬遠される事はない。

 

 それは良い変化だと、七海の周りの者達は思っていた。

 

 七海が、他人を受け入れる余裕が出来た、という事なのだから。

 

「今回はやられたで、七海。次は負けへんからな」

「ええ、こちらこそ。次も、負けませんから」

 

 そんな七海の下へ、生駒がチームメイトを引き連れやって来た。

 

 軽く挨拶を交わすと、生駒は部隊の面々を手招きで呼び寄せた。

 

「おーい、お前らもなんか言うんやで」

「ほな、漫才でもしよか」

「それ、ウチら見てるだけになりまへん?」

「俺、漫才やってみたいですっ! えーと」

「やらんでいいわ阿呆……っ!」

 

 正式に七海に紹介しようと思って呼んだ生駒と、別に自分達がでしゃばらなくていいんじゃ、と遠慮していた生駒隊の面々。

 

 その認識の差は如何ともし難く、即座に普段通りの漫才(さわぎ)に発展。

 

 結局、その様子を茫然と眺める羽目になった七海であった。

 

「…………日浦さん」

「うん。なにかな?」

「次は、負けないから。オレも、頑張るよ」

「うんっ! 私も、負けないからねっ!」

 

 その近くでは、ユズルが茜相手に、微笑ましい宣戦布告を行っていた。

 

 どちらも、互いの実力を認め合った好敵手。

 

 これからも、共に研鑽を重ね更に高みに登って行く事だろう。

 

 狙撃手界の将来は、明るそうである。

 

「はふはふっ、ほふほふ」

「太刀川さん、ひたすら食べてますね……」

「まー、それ目当てで来たみたいだしねー。あ、私にもそれちょーだい」

 

 そんな者達を尻目に、ひたすら餅入りのお好み焼きを食べ続ける者がいる。

 

 戦闘馬鹿(太刀川慶)

 

 彼は周りの事情など知った事かとばかりに、一心不乱にお好み焼きを食べ続けていた。

 

 太刀川は、餅が大好物である。

 

 また、お好み焼きも割と好きだ。

 

 その二つが、同時に味わえるのだ。

 

 餅入りのお好み焼きはどちらかというと変わり種のメニューではあるが、太刀川にとってはベストヒットなメニューであった。

 

 食べる。

 

 ひたすらに食べる。

 

 この集まりが何の為のものかも忘れて、ひたすら食べる。

 

 そんな食い意地の張りまくった師匠の姿を、溜め息と共にスルーする七海であった。

 

「しかし、まさかホントに二宮さんを倒しちまうとはな。もうさ、免許皆伝みたいな扱いでいいんじゃねーか?」

 

 そう告げるのは、もう太刀川の行動は無視する事に決めた出水である。

 

 出水は七海を穏やかな顔で見据え、冗談半分でそう口にした。

 

 本音を言えば、師匠を降りる気など欠片もない。

 

 まだ教えられる事はあると考えている事もあるが、なんだかんだで出水は世話焼きなのだ。

 

 愛着が湧いた弟子を、今さら手放す筈もない。

 

 直接対決で負けたのならば、少しは考えるかもしれないが。

 

「いえ、出来ればこれからもご指導頂ければ。俺はまだ、強くなれると思いますから」

「言うねー。けど、特に断る理由もないかな。おし、今度また色々小技を教えてやる。覚悟してろよー?」

「はいっ!」

 

 気前の良い七海の返事に、こりゃあまだまだ師弟関係は終わらねーな、と出水は苦笑した。

 

 元より、意欲的にこちらの技術を吸収しようとする七海の姿勢は、教える側である出水にとって好ましいものである。

 

 かつての弟子である二宮を現在の弟子である七海が超えたという事実は中々に感慨深いものはあるが、それはそれとして七海はもっと面白いものを見せてくれるんじゃないか、という期待もあった。

 

 丁度、それを見るに丁度良い舞台が近いうちにあるのだ。

 

 合同戦闘訓練という、事実上のA級昇格試験が。

 

 その詳細は、まだ知らされてはいない。

 

 これは、試験官となるA級部隊が懇意にしているチームに情報を横流し出来ないようにする為の処置である。

 

 そんな真似をするチームがいるとは思ってはいないが、こればかりは規則なので仕方がない。

 

 それに今回は、不測の事態(イレギュラー)に対応する為の能力も見ておきたい、という理由もある。

 

 想定されている第二次大規模侵攻は、相当大きな戦いになると予想される。

 

 その戦いへの備えは、あるだけあって損はない。

 

 この合同戦闘訓練は、格上と戦う為の訓練の一環という意味合いもある。

 

 普段出て来るバムスターやモールモッドのような雑魚なら、数がいても処理自体は出来るだろう。

 

 だが、出て来るだろうと予想される人型近界民────────近界の人間は、近界製の高性能(ワンオフ)トリガーを使って来る。

 

 そんな相手に対抗するには、格上との戦いの経験は必須だ。

 

 その経験を積む為の、A級B級が入り混じった合同戦闘訓練である。

 

 A級との連携を想定しての訓練という題目も嘘ではないが、そういう意味合いもあるというだけの話だ。

 

「む、なくなったか。おーい、餅玉三つ頼む」

「ったく、一体どれだけ食やあ気が済むんだよお前はよ」

 

 焼き上がった餅入りのお好み焼きを全て平らげた太刀川は、懲りずに追加を注文する。

 

 既にかなりの数の餅入りお好み焼きを食べているにも関わらず、一向にその食欲が止まる様子はない。

 

 影浦は注文を受けて渋々、厨房へと消えていった。

 

「うーむ、手持無沙汰だな。七海、ちょいとそっちも食わせてくれ」

「え、あ……っ!」

 

 七海が答える間もなく、太刀川は七海の皿からお好み焼きを一切れ掴み、ぱくりと口に放り込んだ。

 

 そう、()()()()()()()()()()をである。

 

「ん……?」

 

 一息に噛み砕き、呑み込んでから気付く。

 

 口の中に沸き上がる、凄まじい辛味に。

 

 否、辛味だけではない。

 

 このお好み焼きは、影浦が微量の味覚しか感じ取れない七海の為にバランス度外視で味付けした特注品である。

 

 ハッキリ言って、普通の味覚の人間が食べる事は一切想定されていない。

 

 辛味を付ける為に使用した、タバスコに唐辛子。

 

 更に、紅しょうがの代わりに使用されている鷹の爪。

 

 それに加え、これでもかとたれを染み込ませた肉に、有りっ丈の調味料で濃い味付けをしたキャベツ。

 

 それらの味が、一気に太刀川の口内を支配する。

 

dさk、djfsけdxx!!??

 

 ────────太刀川、絶叫。

 

 声にならない悲鳴をあげ、大の男がのたうち回る。

 

 それは、食い意地の張った者の末路。

 

 戦闘以外能無し(ろくでなし)に相応しい、オチの付き方であった。





 連想ゲームで太刀川がこうなるシーンが浮かんだのでやった。悔いはない。
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