「ここで米屋隊員、
「大金星だな」
風間は桜子の実況に合わせ、ただ一言称賛する。
その顔には、感心したような笑みが浮かんでいた。
「香取がスパイダーをセットしていた事にも驚かされたが、その活用法にも驚いたな。使って間もないだろうに、良くあそこまで使いこなせるものだ」
「スパイダーは罠として使う、っていう固定観念を完全に打ち破りましたからねえ」
風間も佐鳥も、そう言ってしきりに香取を称賛している。
実際、香取の立ち回りは見事なものだった。
メテオラ起爆による橋の崩落を目晦ましとして接近し、スパイダーを用いて最小限の動きで米屋に接近。
続く妨害さえ凌ぎ切り、米屋を仕留めてみせた。
その手腕は、確かなセンスを感じさせるものであった。
「元々、香取には戦闘員としての高い素養はあった。今まではそれを持て余して腐らせていたが、どうやら今期の那須隊相手の試合で目が覚めたらしい。予想以上の上達ぶりだな」
「そうっすねー。これだから天才ってのは怖いなあ」
そういえば、と佐鳥は呟く。
「意外と言えば、当真さんがアシストの狙撃をした事も意外だったっすね。あの人、割と自分の手で相手を仕留める事に拘ってたみたいですし」
「そうでもない。口では色々言っているが、当真が自分で点を取る事に拘っているのは、それしか勝ち筋がないからだ」
第一、と風間は続ける。
「普段の冬島隊は、
「そっすね。ま、それでA級二位になってるあたり大したもんですけど」
「ああ、あいつ等には幾度となく辛酸を嘗めさせられた。初見の相手には、かなりきつい相手だろうな」
まあ、それはそれとしてそのうち順位を覆してみせるが、と風間は不敵に笑う。
風間が隊長を務める風間隊は、A級三位。
冬島隊の、一つ下の順位にあたる。
A級ランク戦では、何度も鎬を削り合った仲だ。
当然、それなりに対抗心も持っているだろう。
風間はクールな外見と言動をしているが、割と負けず嫌いな所がある。
表にはあまり出さないが、これでも相応に熱い闘志は持っているのだから。
「冬島隊がこの特殊な構成でやって来れたのは、当真の狙撃技術もあるがスイッチボックスによるワープの影響も大きい。一度狙撃を行った後でも、瞬時に位置を変えられるんだ。この転移がなければ、点取り屋が狙撃手だけなんていう尖り過ぎたチームで勝ち続けるのは難しいだろう」
「ま、位置バレ気にしなくていいってのは大きいですからね」
「ああ、狙撃手の弱点をほぼ打ち消せるのは強い。だからこそ、スイッチボックスはランク戦では罠としての機能を使う事は殆どないんだ」
まず、と前置きして風間は説明する。
「スイッチボックスは、罠と転移を同時に使う事は出来ない。無論切り替える事は出来るが、それなりにタイムラグがある。自然、どちらかをメインに使う事になるが」
「確かに、ランク戦でスイッチボックスを罠として使うのはあんまし見ないですね」
「ああ、転移が出来ない状態は狙撃手の当真にとっては逃げ足がないのも同然だからな。迂闊に罠に切り替えれば、唯一のポイントゲッターを危険に晒す事になるというワケだ」
だが、と風間は続ける。
「今回は、当真以外に
「ま、なんだかんだ言いつつクレバーっすからね当真さんは。
そりゃ厄介だなー、と佐鳥は呟く。
当真の唯一の弱点と言えるのは、
彼が撃つのは、確実に相手に弾を叩き込めると確信した時のみ。
奈良坂のように、チームの援護として牽制の弾を撃つのは狙撃手としては邪道だと、常々公言していた。
けれど、今回はその縛りが幾らか緩和されている。
必ずしも自分の手で仕留めずとも点を取れる状況であるとなれば、先ほどのように急所ではなく部位狙いをやって来る。
これは、相手にとって相当にキツイ筈だ。
「これで、香取隊は5Pt。対する那須隊は、2Ptだ。もしこのまま香取を橋から逃がせば、自発的な緊急脱出で試合は終了。生存点を含めても、4:5で香取隊の勝ちになる」
つまり、と風間は告げる。
「此処が、正念場だ。橋から香取を逃がさず、その上で当真か冬島さんを何がなんでも仕留める。これが出来なければ、詰みだ」
『葉子、東側に戻って。そうすれば、こっちの勝ちよ』
「そう簡単に行けばいいんだけどね……っ!」
香取は米屋を撃破した事を確認すると、即座に踵を返して撤退に移る。
確かに七海を直接倒してやりたいのは山々だが、それはそれとしてチームとしての勝利は欲しい。
既にポイントは、5Pt獲得した。
初戦としては、まずまずの出来。
最底辺に近い位置からの脱却には、一先ず目途が立ったと言って良いだろう。
確かに、この試合で経験は積んでおきたかった。
だが、それはチームとしての勝利を放棄して良い事とイコールにはならない。
現在、香取は東側に残る三輪を放置する形で此処にやって来ている。
時間をかければ、三輪と七海の挟み撃ちという悪夢のような状況が発生する。
流石に、三輪と七海の二人相手に勝てると思うほど、香取は己惚れてはいなかった。
故に、此処は逃げの一手。
この崩壊した鉄橋からの脱出を、第一とする。
スイッチボックスが設置されているのは、橋の入口近くの家屋の裏手。
流石に、対岸から丸見えの鉄橋にはスイッチボックスは仕込んでいない。
そして当然、西側にスイッチボックスは存在しない。
香取の勝利条件は、スイッチボックスの設置場所まで辿り着く事。
そうすれば、自発的緊急脱出の条件である相手チームの隊員が60メートル以内に存在しない位置へと転移出来る。
香取さえ自発的に緊急脱出出来れば、自動的に当真と冬島も緊急脱出扱いとなる。
それで、詰みだ。
但し。
「────」
「ち……っ!」
────────それを見逃す程、
七海は崩落した橋の瓦礫を足場として、香取に接近。
追撃を予想していた香取は、七海のブレードを腕から生やしたスコーピオンで受け止める。
鈍い音と共に、交差する刃。
それを皮切りに、二人はスコーピオンによる斬り合いを開始した。
「────」
「……!」
香取は残った左腕からスコーピオンを生やし、七海に斬りかかる。
七海はそれを、肘から生やしたスコーピオンで防御。
それと同時に、滑るような動きで香取の横を抜けようとする。
「させるか……っ!」
「……!」
七海の動きを見越していた香取は、その場に極小のキューブ────────スパイダーを放り投げる。
それを見た七海は、即座にバックステップで後退。
その直後、スパイダーが展開しワイヤーが七海のいた場所に突き出し空を切る。
もし回避が遅れていれば、このワイヤーで七海は瓦礫に縛り付けられていただろう。
スパイダーは、確かにワイヤーそのものにダメージ判定はない。
だが、ワイヤーを展開する際────────先端の鏃をトリオン体に突き刺す場合、極小ではあるがダメージ判定が発生する。
無論、大したものではない。
たとえるなら皮が切れた程度のものだが、
掠り傷だろうが、致命傷だろうが、七海のサイドエフェクトはそれらを一律に察知する。
それは牽制と本命の見分けが付かないという影浦のサイドエフェクトには無い弱点と言えるが、逆に言えば極小のダメージであろうと七海のサイドエフェクトはそれを察知出来る。
だからこそ、七海本人を直接狙ったワイヤーを察知する事が出来たのだ。
「ち……っ!」
半ば、それを予想していたのだろう。
舌打ちしつつも、香取は七海と睨み合う。
彼女は最初から、今ので七海を拘束出来るとは思っていなかった。
重要なのは、七海に東側に回り込まれない事だ。
今は七海の身体が盾となって西側の土手にいる熊谷や奥に控えている奈良坂等の介入を躊躇わせる事が出来ているが、七海に進行方向側に回られてしまえばその縛りも消失する。
だからこその、この一手。
何がなんでも、この位置取りは死守する。
そう即断したが故の、スパイダーの使用であった。
可能ならば逃走を続けたいものの、下手に七海から距離を取れば狙撃が飛んでくる危険がある。
故に、今は七海と距離を離さないまま隙を見て離脱するしか────────。
(────────待ちなさい。こいつ、もしかして……っ!)
────────ない、と考えていた香取は、脳裏に浮かんだとある
その直後、七海が首を軽く捻った。
瞬間、七海の向こう側から一筋の弾丸が飛来。
直前まで香取のいた場所に、閃光が着弾した。
(今の速度、ライトニングね……っ! って事は、日浦か……っ!)
たった今弾丸が放たれた場所は、先ほど奈良坂が撃った場所とは微妙にズレている。
先程撃ってきた場所は鉄橋から見て左側の位置だったが、今の弾丸は鉄橋の右側から放たれている。
目算すれば、ライトニングが届くギリギリの距離。
今の正確無比な狙撃は、以前香取にヘッドショットを撃ち込んだあの少女に違いあるまい。
(それに今のは、やっぱりこいつを射線に巻き込む形で撃ってきた……っ! こいつは自分に来る狙撃が分かるから、ギリギリで避ければ弾丸を隠したままこっちに狙撃を叩き込める……っ! ったく、なんて面倒な真似してくれてんのよ……っ!)
そして、香取の
七海のサイドエフェクト、感知痛覚体質は自分を対象としたダメージの発生を感知出来る。
今回はそれを悪用し、自分を敢えて射線に巻き込ませる形で狙撃を実行させ、直前で身体を捻る事でギリギリまで弾丸を隠してみせた。
チームメイトへの信頼、そして自身の回避力への自負がなければ出来ない芸当だろう。
直前で気付いていなければ、今の一発でやられていたに違いあるまい。
これならば、七海と近付いても離れていても大差はない。
いや、弾丸がいつでも見えるようにしておく為には、むしろ離れた方が良いだろう。
勿論大人しく逃がしはしないだろうが、今やられたように弾丸を隠されて不意打ちをされるよりはマシだ。
どうせ狙撃されるのなら、視界は空けておいた方が良い。
そう判断した香取は、七海と距離を取った。
「ハウンド……ッ!」
だが無論、それにも相応のリスクはある。
七海から距離を取ったという事は、待機していた熊谷が遠慮なく香取を狙えるという事でもある。
西側の土手でこちらを見ていた熊谷が、香取を狙ってハウンドを放つ。
熊谷は、七海と比べれば機動力に優れているとは言い難い。
彼のように、瓦礫の上を跳び回りながら香取と互角に斬り合う事は不可能だ。
故に、この場は射程持ちとしての役割に徹する。
適材適所。
それが出来るからこそ、
今度は、誘導設定を弱めに設定しているのだろう。
上空から曲射軌道を描き、香取を包み込むような弾道で
無論、これだけで香取を仕留められるとは思っていない。
このハウンドは、あくまで陽動。
目的は、香取に足を止めさせる事だ。
この数のハウンドを捌くには、シールドを広げる必要がある。
そうなれば当然、シールドを使う為に
片腕が塞がれば、あと一つしか同時にはトリガーは使えない。
相打ち覚悟で攻撃トリガーを使うか、それとも逃げる為にグラスホッパーを使うか。
そのどちらであっても、隙は出来る。
あとは、その隙を叩けば良い。
熊谷は、そう考えていた。
「────」
「……!」
だが、香取はその思惑を食い破る。
香取が選んだのは、相打ち覚悟の特攻でも、逃走でもない。
敢えて七海と距離を詰め、強制的に七海をハウンドの効果圏内へ入らせたのだ。
となれば当然、七海もまた防御の為にシールドを張らざるを得ない。
これで、条件は
少なくとも、一方的に攻め落とされる事はなくなった。
「────メテオラ」
「……は……?」
──────────されど、七海もまたこの程度で攻め手を緩める程甘くはない。
七海が取った行動は、自分の直上へのメテオラの展開。
分割なし、まるごと一つの巨大なトリオンキューブを生成した。
「────」
「……っ!!??」
出現したメテオラのキューブに、ハウンドが着弾。
メテオラが起爆し、周囲は轟音と共に爆発に呑み込まれた。
スイッチボックスは原作のガロプラ編で小南が「罠通じなさそうだからワープに変えて貰っとけばいいんじゃね?」みたいな事を言ってたので、罠と転移はどちらか片方の切り替え式なのかと考察しました。
少なくとも、変更にはなんらかの作業が必要であり、一手間がかかると考えればいいんじゃないかな、と。
文字通りブラックボックスが多いトリガーなので、あくまで予想ではありますが。