痛みを識るもの   作:デスイーター

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香取隊・冬島隊⑪

 爆発が、鉄橋の残骸の上を席捲する。

 

 高いトリオンを保持した七海の、分割なしのメテオラの起爆である。

 

 当然その威力と範囲は、凄まじいものになる。

 

 とはいえ、メテオラの性質である範囲は広いがシールドの突破力は低いという性質自体は変わらない。

 

 シールドを広げさえすれば、防げる。

 

 回避する隙がなかった以上、対処は防御一択。

 

 七海と香取は、それぞれシールドを張ってメテオラの爆風へのシェルターとする。

 

 全身を覆う形でシールドを展開している為、お互いに攻撃は出来ないしそもそも爆風で相手の姿は視認出来ない。

 

 

 

 

「そこだ」

 

 だが、相手の大まかな位置は理解できる。

 

 そして、互いに攻撃は出来ずとも、第三者がそこに介入する事は出来る。

 

 だからこそ彼は、奈良坂は、迷いなく引き金を引いた。

 

 

 

 

 飛来する、一発の弾丸。

 

 その軌道は、明確に香取を狙っている。

 

 感知痛覚体質(サイドエフェクト)により、既に七海はその弾丸の存在を察知している。

 

 さり気なく身体を捻り、奈良坂の射線を確保する。

 

 自分ごと撃たせても良いが、香取が回避する可能性を考えれば余計なダメージは負わない方が良い。

 

 今の香取を評価しているが故の、その判断。

 

「……な……っ!?」

 

 ────────だがそれが、裏目に出る事になる。

 

 奈良坂の放った弾丸が、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()事によって。

 

 

 

 

「おっし、当たった当たった。ユズルに練習に付き合わせた甲斐があったってモンだ」

 

 その光景を見ていた狙撃手は、当真は不敵な笑みを浮かべる。

 

 ()()()()()()()()などという離れ業を披露した男は、ニヤリとスコープの先に映る奈良坂を見据える。

 

「前に東さんがやってんの見て、面白そうだと思ったからよ。NO1狙撃手として、これくらいは出来ねーとな」

 

 さて、と当真は再装填(リロード)を終えた狙撃銃を握り締める。

 

「お返しだ」

 

 そして彼は、スイッチボックスを起動し転移を実行。

 

 ワープ完了と同時に、イーグレットの引き金を引いた。

 

 

 

 

 その弾丸は、奈良坂の額目掛けて正確な軌道を描いていた。

 

 既にスイッチボックスによって移動している為、奈良坂は恐らく弾丸の発射元を感知出来てはいない。

 

 転移を利用した、必殺の一射。

 

 回避も防御も許さない、渾身の一撃。

 

「甘いな」

 

 ────────だがその狙撃は、空を切る。

 

 その場から、奈良坂が()()()()()姿()()()()()事によって。

 

 

 

 

「な……っ!? おいおい、まさか今のは……っ!」

 

 その光景は、スコープ越しで当真も目撃していた。

 

 一瞬にして掻き消え、当真の放った弾丸は空を切る。

 

 当たらない弾を撃ってしまった、という衝撃はある。

 

 だが。

 

 だが。

 

 今の光景は、一体何だ。

 

 否。

 

 この光景を、自分は以前にも目にしている。

 

 使()()()は奈良坂ではなかったものの、こんな芸当が出来るトリガーは一つしかない。

 

 スイッチボックスと違い制限が多いが、その代わりに事前準備なしで発動出来る特殊なオプショントリガー。

 

「テレポーターか……っ!」

 

 オプショントリガー、テレポーター。

 

 奈良坂の弟子(日浦茜)が得意とする、()()のトリガーである。

 

 

 

 

弟子()に出来て、俺に出来ないなんてのは格好がつかないからな。茜ほどの適性はなかったが、それでもある程度は使いこなせている」

 

 奈良坂はスコープ越しにNO1狙撃手(当真勇)の驚愕の表情を見て留飲を下げながら、彼に向けて照準を定める。

 

「今度は、こっちの番だ。そろそろ、終わりにしよう」

 

 薄く笑みを浮かべ、奈良坂は当真に向けて反撃の一射を撃ち放った。

 

 

 

 

「ちぃ……っ!」

 

 当真は今起きた出来事の正体を看破すると、奈良坂の狙撃を確認する前に即座にワープを決断した。

 

 今の一撃で、既に自分の居場所は把握されている。

 

 そして、転移を実行した奈良坂の居場所は現在不明。

 

 この状況なら、間違いなく奈良坂は撃って来る。

 

 彼に、当真のような必中の縛り(こだわり)は存在しない。

 

 牽制でも、それがチームとして有効な手ならば間違いなく撃って来る。

 

 狙撃手の最大の脅威である、何処から来るか分からない狙撃。

 

 それが、自分を狙っている。

 

 距離はある。

 

 対応自体は、出来るだろう。

 

 だが、狙撃手にとって位置を知られている事こそが最大のリスク。

 

 位置バレした以上、そこに留まるのは愚策でしかない。

 

 少なくとも、現在仲間の援護を期待出来ない当真にとっては。

 

 この狙撃を防ぐ事が出来たとしても、次の一手が来ればそれで終わりだ。

 

 今出来る最善は、一刻も早くこの場から離れる事。

 

 それ以外に、存在しない。

 

 故に、当真は即決した。

 

 スイッチボックス(転移)を用いて、この場から移動する事を。

 

 この手でスイッチボックスの仕込んだ地面に触れれば、それでワープは発動する。

 

 再び姿を晦ませば、こちらのものだ。

 

 幸い、テレポーターには転移距離に応じたタイムラグがある。

 

 スイッチボックスのような下準備が必要ない分、制約は多いのだ。

 

 ならば、今度はワープした先で、改めて奈良坂に狙撃を叩き込めば良い。

 

 今度は、躱させない。

 

 そう決意して、当真はその手を振り下ろす。

 

 

 

 

「成る程、確かにそうする他ない」

 

 だが、と奈良坂はスコープ越しに当真の行動を見据えながら告げる。

 

 その顔には、不敵な笑みが浮かんでいた。

 

「俺がテレポーターを持っていた()()。それを、考えるべきだったな」

 

 

 

 

「な……?」

 

 当真は茫然と、胸部に空いた穴を見下ろす。

 

 何が起きたのか、理解出来ない。

 

 そう思ったのは、一瞬。

 

 当真は転移を実行する為、スイッチボックスに触れようとした。

 

 だがその瞬間、地面に触れようとした左手と胸部に、同時に弾丸が叩き込まれたのだ。

 

 結果として、転移は失敗。

 

 トリオン供給機関をピンポイントで貫かれ、当真は致命傷を負った。

 

 奈良坂の弾丸では、ない。

 

 今の弾丸は、明らかに()()()()()()()()いた。

 

 そして、今の弾速はライトニングでしか有り得ない。

 

「おいおい、まさか……」

 

 先程の、奈良坂がいた場所以外から放たれた狙撃。

 

 弾速からライトニングと断定し、自分達はそれを茜の狙撃であると判断していた。

 

 だが。

 

 だが。

 

 奈良坂がテレポーター(転移トリガー)を持っていた事で、その前提はひっくり返る。

 

 何故ならば、あの時ライトニングが撃たれた場所は奈良坂のいた場所から数十メートルの圏内────────即ち、()()()()()()()()()()()()なのである。

 

 つまり、あの狙撃を行ったのは茜ではない。

 

 奈良坂がテレポーターを用いて転移し、狙撃を実行したのだ。

 

 そこに、茜がいるのだと誤認させる為に。

 

 とうの茜本人は、何らかの手段で東側(こちら)に渡って来ていたのである。

 

 他ならぬ当真(自分)を、仕留める為に。

 

「あーあ、ったく。俺もヤキが回ったかね。日浦の嬢ちゃんに、やられちまうとはなあ」

 

 ま、と当真は不敵な笑みを浮かべる。

 

 そしてスコープ越しに水に濡れたバッグワームを纏う茜を見据えながら、溜め息を吐いた。

 

「次がありゃあ負けねぇからよ。覚悟しとけ」

『トリオン供給機関破損。緊急脱出(ベイルアウト)

 

 機械音声が、当真の敗北を告げる。

 

 当真の身体は奈良坂の弾丸が着弾する前に光の柱となり、戦場から消え去った。

 

 

 

 

「ちっ、やられてんじゃないのよ……っ!?」

 

 当真脱落の報は、すぐさま香取にも伝わった。

 

 しかも、仕留めたのは茜だという。

 

 B級隊員である茜がA級隊員である当真を落とした事により、那須隊には2Ptが加算される。

 

 つまり、現在那須隊の獲得点は4Pt。

 

 此処で香取が逃げ切って緊急脱出(ベイルアウト)を選んでも、生存点と合わせれば那須隊は6Ptの獲得。

 

 僅差ではあるが、自分達の負けとなる。

 

 完全に、予定が狂った。

 

 この試合では、冬島は当然として当真も落とされない前提で戦っていた。

 

 自分達が落とされる可能性があるとしたらスイッチボックスを仕込めていない序盤で見つかった時だけ、と豪語していたのでそれを信じていたのだが、どうやらそんな彼らの想定を那須隊は上回ったらしい。

 

 情けない、とは思わない。

 

 他ならぬ自分も、あの少女()には以前してやられたのだから。

 

 以前の自分ならここで悪態をついて隙を晒していたが、そんな事をしている場合ではないのは分かっている。

 

 こうなった以上、最早撤退などという悠長な事は言っていられない。

 

 たとえ自分が落ちても、一点でも多く点を取る。

 

 それしか、自分達が勝つ芽はない。

 

 七海は、勿論狙わない。

 

 自分の心情としては叩き潰しておきたいが、現状を把握出来ないほど香取は馬鹿ではない。

 

 此処で七海を狙えば、間違いなく時間を稼がれて袋叩きにされて終わりだ。

 

 ならば、狙う相手は決まっている。

 

 熊谷友子。

 

 西側の土手でこちらを見上げる彼女を、此処で仕留める。

 

 そしてあわよくば、西側に残る狙撃手(奈良坂)を落とす。

 

 少なくとも、熊谷さえ落とせば生存点を合わせても6:6で那須隊と並ぶ。

 

 自分が落とされれば6:7で負けだが、とにかく今は一点でも多く点が欲しい。

 

 そもそも、撤退の判断自体それで那須隊に勝てるなら、という妥協の下で納得していたのだ。

 

 その前提が崩れた今、自分の意地を優先しない理由は香取にはない。

 

 加えて、今東側には茜が潜んでいる。

 

 向こうに撤退して緊急脱出しようとしたら茜に狙撃されて落とされる、という可能性も0ではない。

 

 それならば、今は点を取る可能性に懸ける方がマシだ。

 

 即断即決で香取は自らの行動を決め、グラスホッパーを起動。

 

 それを踏み込み、西側の土手に立つ熊谷に向けて突貫する。

 

「……!」

 

 自分に迫る香取を視認した熊谷は、反撃の為ハウンドを放つ。

 

 だが、その程度で香取の攻撃は止まらない。

 

 前面に広げたシールドを展開し、それを盾に突き進む。

 

 旋空を使う暇は、与えない。

 

 このまま肉薄し、至近距離でスコーピオンを叩き込む。

 

 今ならばギリギリ、七海が追いつく前にカタがつく。

 

 追い付かれて落とされるかもしれないが、その前に自分の刃は熊谷に届く。

 

 それでも構わない。

 

 やられた分は、やり返す。

 

 それが出来たならば、少しでも留飲は下がるのだから。

 

(獲った……っ!)

 

 香取は、勝利を確信する。

 

 彼女の直感が、告げていた。

 

 このまま行けば、熊谷は確実に落とせる。

 

 七海は、ギリギリ間に合わない。

 

 奈良坂も、今は再装填(リロード)の最中だろう。

 

 熊谷の反撃は、問題なくいなせる。

 

 ならばもう、迷いはない。

 

 ただ、この刃を届かせる。

 

 その想いのまま、進む。

 

 そして、香取は────────。

 

「え……?」

 

 ────────その足に重石を撃ち込まれ、失速した。

 

 一瞬の忘我。

 

 何が起きたのか、理解出来ない。

 

 否、理解したくない。

 

 そんな想いが、彼女の心を支配する。

 

「────────そこまでだ。これ以上、好きにはさせん」

 

 その声で、彼女は現実を理解する。

 

 東側の土手。

 

 そこに、こちらに向けて拳銃を構えた三輪がいた。

 

 香取は、三輪を東側に放置する形でこの橋へとやって来た。

 

 すぐには辿り着けない距離だからと、そう判断して。

 

 だが、三輪の機動力は香取の想像を上回っていた。

 

 否、それだけではない。

 

 恐らく、彼の部隊のオペレーターの功績だろう。

 

 三輪が最短でこの場に辿り着けるルートを計測し、彼はそのデータを信じて此処まで来た。

 

 侮っていたつもりはなかった。

 

 ただ、想定の上を行かれた。

 

 これがA級。

 

 自分達が目指す、高みの頂。

 

 自分は、また届かないのか。

 

 そんな想いが、香取の胸に去来する。

 

「まだ……っ!」

 

 否と、香取はそんな弱気(自分の本音)を否定した。

 

 香取は左腿から生やしたスコーピオンで、鉛弾が撃ち込まれた右足を切断。

 

 そのまま熊谷を狙う────────筈がない。

 

 今の失速で、熊谷へと辿り着く前に七海が追いつく事は確定した。

 

 ならば、クロスカウンター狙いで彼を迎撃する他ない。

 

 どう足掻いてもその後には落とされるが、相打ち覚悟なら一矢報いる事は出来る。

 

 この時ばかりは、七海の機動力(はやさ)に感謝した。

 

 彼の機動力ならば、他の面々の介入より先に自分の下へと辿り着く。

 

 ならば、その時に捨て身で一撃を叩き込んでやれば良い。

 

 一秒後に自分が落ちようが、その前に致命打を与えればそれで勝ちだ。

 

 そう考えて、香取は背後に迫る七海へと、身体を翻した。

 

 頭上から迫る、七海とその手に持つスコーピオン。

 

 七海は、香取に向けてスコーピオンを投擲した。

 

「……!」

 

 香取は、その投擲に即座に反応。

 

 投げられたブレードを防御する為、香取はその軌道上に集中シールドを展開する。

 

 スコーピオンの投擲は中距離の攻撃手段の選択肢としては悪くはないが、一度使用者の手から離れた時点で変形機能は失われる。

 

 そしてブレードの投擲は、集中シールドを使えば一度限りは止められる。

 

 恐らく、この一撃は牽制。

 

 本命は、この後に来る。

 

 大方、側面からマンティスを用いて奇襲をかけるつもりだろう。

 

 故に、注意すべきは二撃目の軌道。

 

 変幻自在のマンティスの刃は、確かに脅威だ。

 

 だが、マンティスを使うには両攻撃(フルアタック)の状態になる必要がある。

 

 つまり、その瞬間だけは七海はシールドを展開出来ない。

 

 故に、そこを狙う。

 

 たとえ致命打を受けようが、捨て身で一撃を叩き込めればなんとかなる。

 

 だからこそ、香取は左右への警戒は怠らなかった。

 

 マンティスこそが、この局面での最大の脅威だろうと考えて。

 

「が……っ!?」

 

 ────────だからこそ、気付かなかった。

 

 最初に投擲したスコーピオンこそ、本命の一撃であるという事に。

 

 七海は、マンティスを使わなかった。

 

 使ったのは、()()()()()()()

 

 彼はジャンプ台トリガーで自分の足を跳ね飛ばし、シールドに突き立ったスコーピオンを蹴り出した。

 

 七海の蹴撃によって加速を得たスコーピオンは、香取のシールドを突破。

 

 そのまま、香取の胸へと突き立った。

 

「ちく、しょう……っ!」

 

 香取は、舌打ちする。

 

 今の七海の位置は、スコーピオンの射程外。

 

 マンティスを使えない香取では、届かない位置。

 

 これでは、捨て身の反撃すら許されない。

 

 負けた。

 

 これだけやったのに、負けた。

 

 今度こそは、と思ったのに。

 

 今回も、駄目だった。

 

 そんな想いが、香取の心を支配する。

 

「次も負けない」

「……!」

 

 不意に、七海が呟くようにそう口にした。

 

 その言葉に、香取は目を見開いた。

 

 「よくやった」でも「頑張ったな」でもない。

 

 ただ、「負けない」と、自分の強さを認めてくれた上で、対抗心を露わにされた。

 

 恐らく、七海は無意識だろう。

 

 だがこれこそが、香取が欲しかった言葉でもあった。

 

()()()()、次は負けないから」

「ああ、楽しみにしている」

 

 七海の返答を聞き、香取は微笑む。

 

 それは不敵な笑みでもありながら、何処か晴れやかな笑みでもあった。

 

 憑き物が落ちたような、という言葉こそ相応しい。

 

 香取の顔を見ていた七海は、そう思った。

 

「フン、待ってなさいよ。次は、吠え面かかせてやるんだから」

『トリオン供給機関破損。緊急脱出(ベイルアウト)

 

 香取のトリオン体が崩壊し、光となって消え失せる。

 

 同時に、それが引き金となって東側の一角から同じ光が立ち上る。

 

 試合終了。

 

 第一試験は、那須隊の勝利で幕を閉じた。




 茜ちゃんが東側に辿り着いたカラクリの解説は次回で。

 まあ、一応ヒントは仕込んでありますが。
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