痛みを識るもの   作:デスイーター

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旗持ち

 

 

部隊順位得点
二宮隊 1位16Pt 
那須隊 2位14Pt 
影浦隊 3位13Pt 
弓場隊 4位7Pt 
香取隊 5位7Pt 
生駒隊 6位6Pt 
王子隊 7位5Pt 

 

「予想は出来てた事だけど、もう抜かれちゃったか……」

 

 熊谷は画面に表示された現在の順位の一覧を見て、溜め息を吐いた。

 

 分かってはいた事だ。

 

 ランク戦では四位以下に相応のポイント差を付けていた那須隊だが、B級ランク戦が終了した事でポイントの優位は一度リセットされている。

 

 初期ポイントで優遇こそされているが、決して覆り得ない数字ではない。

 

 事実上A級部隊と同格である二宮隊と影浦隊に関しては、1、2点程度の点差など容易く覆るだろうと考えていた。

 

 だからこそなるべく香取を最後の方まで生き残らせて点を取りに行ったのだが、此処に来て相手の部隊との人数差が裏目に出た形になる。

 

 二宮隊は四人部隊の生駒隊を全滅させ、更にA級隊員も二人撃破した事であれだけの得点を獲得したらしい。

 

 対して、こちらは対戦相手の人数は5人。

 

 合理性を取った結果冬島を倒す事は諦めざるを得なかったとはいえ、得られる得点が少なかったのはどうしようもない。

 

 そういう意味では、初戦は運がなかったと言える。

 

「今回は仕方ない。それよりも、これからどう得点を稼ぐかが重要だ」

「そうね。香取隊にも予想より点を取られてしまったし、次もなるべく多くポイントを取りたいわ。もう、冬島隊の相手は勘弁願いたいけどね」

 

 流石に、二度続けて同じ部隊と当たる事はないでしょうけど、と那須は物憂げに口にした。

 

 冬島隊の厄介さは、この一戦でしみじみと痛感した那須である。

 

 作戦の為だったとはいえ、自分が捨て駒にならざるを得なかった事に何も感じていないワケではない。

 

 冬島隊は人数が少ない為得点を重ねるには不向きな相手であり、尚且つ当真の狙撃と冬島のスイッチボックスのコンボが死ぬほど厄介だ。

 

 更に冬島は基本的に雲隠れし続け、当真もスイッチボックスの準備が完了すれば忙しなく位置を変える為、仕留める事は容易ではない。

 

 あちらは着々と得点を重ねるのに、こちらは相手の姿を捉える事すらままならない。

 

 この厄介な性質が、A級二位という地位を得るにあたって有利に働いている事は言うまでもない。

 

 東隊といい、狙撃手メインのチームが如何に面倒な相手かが分かるというものである。

 

「そういえば、今回昇格試験を受けるのは七部隊ですけど、二部隊ずつぶつかるとしても一部隊余りますよね? 残った1チームはどうなるんですか?」

「説明によれば、残ったチームはA級部隊と1対1で戦うらしい。ハンデとして最初から2ポイントを得た状態で始まるらしいが、厳しい試合である事は言うまでもないだろうな」

 

 七海は茜の疑問にそう返答し、画面に表示された順位表の一部分に目を向ける。

 

 今回、この残った1チームというのは弓場隊だ。

 

 弓場隊の今回の得点は、4Pt。

 

 説明通り2点が最初から獲得出来ていたという事であれば、彼等が獲得したポイントは実質2Pt。

 

 そして、第一試合で誰とも組んでいないA級部隊は────────A級一位、太刀川隊である。

 

 故に、弓場隊はあの太刀川隊の隊員を一人倒した事になる。

 

 A級部隊である太刀川隊に親のコネで入った唯我は本人の実力がB級下位レベルなので試験官としては不適切として試合には参加していない為、太刀川か出水のどちらかを倒す事に成功したという事だ。

 

 NO1攻撃手である太刀川慶と、合成弾の開発者である天才射手出水公平。

 

 そのいずれかを、弓場隊は下した。

 

 恐らく、この事実は見た目の得点よりもずっと重い。

 

 A級部隊の助力なしでA級部隊(格上)を相手にしなければならない形式のこの試合は一見外れくじに見えるが、場合によっては千載一遇のチャンスと成り得る。

 

 三輪は言っていた。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と。

 

 この試験は、得点だけで合否が決まるという事はない。

 

 獲得ポイントでの競い合いが実技試験ならば、その後の各隊長から下される評価は面接試験のようなものだ。

 

 A級に至るに相応しいという評価を下されなければ、たとえ一位通過しても合格とはならない。

 

 そういう意味で、A級部隊とタイマンで戦い勝ち取った得点は、実数以上の重みがある。

 

 故に、対戦組み合わせで余った部隊は必ずしも不利であるとは言い切れない。

 

 リスクの分、リターンも相応に大きいのだから。

 

(ポイントでは弓場隊は大きく突き放す事は出来ているが、油断は出来ないな。いや、それは何処も同じだな。香取隊にも、ひやりとさせられたしな)

 

 七海は第一試験での香取の戦いを思い出し、薄く笑みを浮かべた。

 

 二宮隊を追い抜かなければならないのは勿論だが、他の部隊も決して侮って良い相手ではない。

 

 影浦隊もまたポイントは僅差であり、そもそも得点力の高い部隊だ。

 

 油断していると、すぐにでも順位を逆転されるだろう。

 

 弓場隊も第一試験での『内申点』は大きいだろうし、香取隊とはまた違った爆発力のあるチームだ。

 

 香取隊と違い突破力と安定した連携力を兼ね備えており、バランスの良い実力者チームだ。

 

 生駒隊は第一試験では二宮隊に惨敗したようだが、それでもあの地力の高さは脅威だ。

 

 得点力も低くはないし、すぐに巻き返してきても不思議ではない。

 

 香取隊は今回の試合で予想以上の成長を見せつけられたし、王子隊もA級部隊と組む事によって()()()()()()()()()()()()()()()()が補強されればどうなるか分からない。

 

 総じて、舐めてかかれる相手など一人もいないのだから。

 

「けど、次の試験も中々厄介みたいだね」

「ええ、まさかこんな特別なルールが組み込まれるなんてね」

 

 熊谷と那須がそう言って目を向けるのは、手元の通信端末だ。

 

 そこには、次に行われる試験────────その試合で適応される、()()()()()についての説明が記されていた。

 

 『旗持ち(フラッグ)ルール』

 

 ①両チームのB級隊員の中から一名ずつを選び、旗持ち(フラッグ)とする。

 

 ②旗持ちが落とされた場合、通常の獲得ポイントとは別に落としたチームには2Ptが加算され、その時点で試合終了となる。

 

 ③誰が旗持ちなのかは、その隊員を視認した時点で自動的に視界情報に表示される。

 

 ④旗持ちは、試合開始後変更する事は出来ない。

 

 以上が、今回の試験における特殊ルール────────旗持ち(フラッグ)ルールである。

 

「これ、誰を旗持ちにするかも重要になりそうですね」

「ああ、落とされたら相手チームに二点、しかもその時点で試合終了だ。慎重に選ぶ必要があるだろうな」

 

 何故なら、と七海は続ける。

 

「旗持ちは、視認されれば正体が露見する。つまり攻撃手が旗持ちになった場合、誰がそうなのかを隠すのはほぼ不可能だ」

「近接しない攻撃手、なんてのはまずいないからね。旋空にしても、射程距離は最大でも20メートルちょい。あの生駒旋空でもない限り、視認を避けられる距離じゃあないわね」

 

 そう、このルールでは、可能な限り『旗持ち』が誰なのかを隠した方が有利となる。

 

 旗持ちを落とせば通常の得点と合計して三得点が入り、その時点で試合終了となる。

 

 更に言えば、この試合終了ではB級部隊全滅時のA級部隊強制緊急脱出によるものと異なり、戦場の人員は変化しない。

 

 つまり、このルールでは、()()()()()()()()()()のだ。

 

 相手チームと組んだA級部隊を先に全滅させ、旗持ちを最後の一人として落とせば生存点も手に入るものの、流石にそれは現実的ではない。

 

 いわば、旗持ちを落とした時の得点が生存点の代わりと言える。

 

 その時の得点が2点というのも、生存点と同じポイントだ。

 

 明らかに、試験内容を決めた側にはそういう意図があるのが分かる。

 

 そう考えれば、この高く見える配点にも理解が出来るというものだ。

 

 故に、旗持ちが特定されれば相手は()()()()()()()()()()()()()のだ。

 

 場合によっては、失点覚悟で旗持ちを狙って逃げ切る、という戦略も採れるだろう。

 

 また、得点を稼ぐ前に旗持ちを倒してしまう、という事態を防ぐ事にも繋がる。

 

 だからこそ、旗持ちが誰なのかはなるべく早く知っておいて損はなく、また自陣の旗持ちの特定を避けるに越した事はないのだ。

 

 その点において、攻撃手を旗持ちにするのは少々リスキーだ。

 

 攻撃手が仕事をするには、必然相手に近付く必要がある。

 

 そうなると当然ながら相手に視認される事になり、旗持ちである事が露見する。

 

 旗持ちの所在を隠しておいた方が良いこのルールでは、あまり得策とは言えないだろう。

 

「じゃあ、私がやるのがいいかしら? それとも、茜ちゃんにする?」

「いや、まだ決めるのは早計だろう。対戦の組み合わせ次第で、戦略を考え直す必要もあるだろうからな。月曜の発表を待って、それから決めれば良い」

 

 那須の提案を、七海はそう言って押し留めた。

 

 相手がどのチームになるかも分からない現状、旗持ちを安易に決めてしまうのは得策ではない。

 

 相手に合わせて戦術を変えるのは、当然の思考だ。

 

 ()()()()()などという思考停止に陥った者の末路は、言うまでもない。

 

 どんなに優れた戦術であろうと絶対はなく、どれだけ完璧に見えても崩し方は必ずある。

 

 だからこそ、一つの戦術に拘るようでは上へは進めない。

 

 得意戦術があったとしてもそれだけに拘らず、相手に合わせて対応を変える。

 

 最低限これが出来なければ、勝ち続けるなど不可能だ。

 

 戦場は、生き物だ。

 

 想定外(イレギュラー)が起きる事が当たり前の場所で思考を固定する事がどれだけ愚かしいかは、言うまでもない。

 

 それを理解出来ていたからこそ、那須隊は此処までやって来れた。

 

 たとえば、七海がメテオラ殺法を使う事に拘っていたら。

 

 たとえば、那須が七海と組む事に拘っていたら。

 

 たとえば、熊谷が仲間の援護をする事にだけ拘っていたら。

 

 たとえば、茜がライトニングを使う事にだけ拘っていたら。

 

 那須隊は、B級一位の座を奪う事は出来なかっただろう。

 

 相手に応じて対応を変え、綻びを見つけて突き崩す。

 

 それを徹底して来たからこそ、今の那須隊がある。

 

 全員が思考を縛らず、柔軟に対応出来て来たからこそ、此処まで勝ち残る事が出来たのだ。

 

 故に、判断を下すにはまだ早い。

 

 情報が出揃ってからで十分だと、七海は思考した。

 

「そうね。それからでも遅くはないわね」

「まあ、少なくともあたしは止めといた方が良さそうね。役柄的にも合わないし」

「いや、選択肢は狭めるべきじゃない。場合によっては熊谷にやって貰う事も有り得る、そう考えておいてくれ」

 

 七海は自嘲気味に嘯く熊谷に、努めて冷静にそう返した。

 

 ()()()()()

 

 そう思わせた時点で勝ち、という場面は幾らでもある。

 

 選択肢を、自分から狭めるべきではない。

 

 七海の言葉を受け、熊谷は苦笑した。

 

「そっか。それならそれで構わないわ。やれって言うならやるし、そうでなくても自分の仕事は全うするわ。どちらにせよ、あたしはやれる事をやるだけよ」

「ああ、そうしてくれ。俺と小夜子で色々と考えてみるから、今は身体を休めてくれ。我武者羅に鍛えるだけが、鍛錬じゃないからな」

「…………むぅ…………」

 

 熊谷と七海のやり取りを聞いて、那須は気付かれないようにひっそりと頬を膨らませた。

 

 那須隊の隊長は言うまでもなく那須であるが、作戦立案に関しては小夜子と七海がメインとなって行っている。

 

 残念ながら那須は現場指揮はある程度こなせるものの、作戦立案能力に関してはこの二人には及ばない。

 

 というより、二人の作戦立案能力が高過ぎるのだ。

 

 小夜子がオペレーターとして俯瞰的な視点から作戦をシミュレートし、七海が戦闘員としての視点で現場で起こり得る状況を想定し修正をかけていく。

 

 そういう意味で、小夜子と七海の二人は抜群の相性であると言えるのだ。

 

 ……………………それが少々、那須には面白くない。

 

 とうの七海に他意など無い事は分かっているが、那須は小夜子の秘めたる想いを知っている。

 

 七海と小夜子が一緒に作業する事に何も感じないかと言われれば、嘘になる。

 

 だがこれは必要な事である事は理解しているので、文句を言う事も出来ない。

 

 そんな葛藤(ジレンマ)が、那須の中で渦巻いていた。

 

「あ、それなら射手としての視点も欲しいですね。那須先輩の意見も聞きたいです」

「そうだな。頼めるか、玲」

「え……? あ、うん。分かったわ」

 

 ────────だが、そんな那須の内心は、小夜子にはお見通しである。

 

 小夜子とて、自分が原因で那須のモチベーションが下がるのは望むところではない。

 

 乙女心的に惜しい面はあるが、それよりも那須への気遣いの方が優先事項であると小夜子の理性(ほんのう)は判断した。

 

 なんだかんだ、小夜子は滅私奉公の女なのである。

 

 損な性分である事は分かっているが、今更これを曲げるつもりもない。

 

 恋する人(七海)尊敬する先輩(那須)も、仲間達(那須隊)も、その全てが大事なのだ。

 

 欲張りな性分だと、小夜子は思う。

 

 けれど、これで良い。

 

 小夜子は那須のあからさまに華やいだ笑顔を見て、改めてそう思った。

 

「中々厄介なルールだが、やりようは幾らでもある。誰が相手でも、勝ち筋は必ず見つけて見せる。これまでと、同じようにな」

 

 七海の言葉に、その場の全員が頷く。

 

 厄介なルールの開帳に、不安はある。

 

 けれど、それでも勝つ。

 

 それが、那須隊の総意である事に、間違いはないのだから。





 第二試験のルール開帳です。

 思いついたので導入してみました。最初に「基本的なルールは~」って言ったからね。

 「基本的な」って事は「それ以外」もあるって事だよ。

 詳細は作中で言及した通りですが、このルールの使い方については本番でお見せ出来るかと思います。

 最近疲れ諸々で更新出来ない日も多いですが、これ以上ペースを落とすつもりも更新を止めるつもりもないのでご心配なく。

 更新速度が武器の一つですしね、私の場合は。
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