痛みを識るもの   作:デスイーター

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それぞれの闘志

 

 ────合同戦闘訓練、第二試合の組み合わせを発表します。

 

 ────那須隊・風間隊VS王子隊・太刀川隊。

 

 ────以上の組み合わせを以て、11/16日の昇格試験を執り行うものとする。

 

「太刀川隊と、か……」

 

 七海は携帯端末に表示された文面を見て、ふぅ、と息を吐く。

 

 表示された対戦相手は、太刀川隊。

 

 そして、今回組む事となるチームは、風間隊。

 

 どちらも、七海と深い縁のある部隊である。

 

 太刀川は言うまでもなく七海の師匠の一人であり、出水も同じく師匠筋にあたる。

 

 風間は正式な師匠でこそないが、連携と戦術の基礎を実戦形式で叩き込んでくれたのは彼だ。

 

 七海の中では、太刀川と並ぶ師匠筋の人間である事に変わりはない。

 

 風間はあくまで「自分の隊の練習に付き合って貰っただけだ」と言い張るが、なんだかんだで面倒見の良い彼の真意を測れない程今の七海は鈍くはない。

 

 どちらにせよ、今回は敵味方双方に縁故ある相手が揃っている。

 

 唯一王子隊とだけは繋がりが薄いが、侮って良い相手ではない事に変わりはない。

 

 過去二回の対戦では勝利を収めているが、そのどちらも良い条件が揃っていた事を忘れてはならない。

 

 ラウンド4では、未熟だった香取隊を思い通りに動かせたからこそ、王子隊に不利な状況を終始作り続ける事が出来た。

 

 ラウンド7では、王子隊が那須隊を警戒するあまり最悪を()()()()()()が故に、被害を最小限に抑えられた。

 

 だが、王子隊の作戦立案能力と、隊長の王子が持つ観察眼と戦術眼はかなり厄介だ。

 

 これまでは地力で押し潰す事で王子隊の弱みである()()()()()()()()()()()という点を突く事が出来たからこそ、さしたる損害もなく勝利出来た。

 

 けれど、今回は違う。

 

 今回王子隊が組むのは、太刀川隊。

 

 あのNO1攻撃手、太刀川慶が率いる部隊だ。

 

 太刀川相手には、七海といえど勝てるかどうかは分からない。

 

 いや、負ける可能性の方が大きいだろう。

 

 A級一位という看板は、NO1攻撃手という称号は、伊達ではないのだから。

 

 そんな彼を、確かな戦術眼を持つ王子が運用して来る。

 

 これほど、厄介な事はないだろう。

 

 この試験の形式上出水や太刀川が指揮を執るという最悪の事態は避けられるだろうが、それでもあの二人が敵に回るという点が大き過ぎる。

 

 太刀川は文字通り、一騎当千の実力を持った駒だ。

 

 正直、彼一人にこちらが全滅させられてもなんら不思議ではない。

 

 そんな彼に、出水という屈指の天才サポーターが付くのだ。

 

 これが、悪夢と言わずなんと言おう。

 

「けど、避けては通れない道だ。太刀川さん、胸を借りる────────とは、言いません。必ず、勝ってみせます」

 

 七海は顔を上げ、不敵な笑みを浮かべる。

 

「それが、俺から貴方に出来る。最上の恩返しでしょうから」

 

 

 

 

「なーんて、今頃気合い入れてるんじゃないですかね。七海の奴は」

「あー、確かにありそうだなあ」

 

 もぐもぐと、煎餅を齧りながら太刀川は出水の言葉にそう返した。

 

 太刀川隊の隊室のソファーで横になりながらお菓子を頬張る様は、ザ・駄目人間の典型といったところ。

 

 戦闘に特化し過ぎた所為で戦闘以外は能無し(バカ)な、太刀川らしい姿であった。

 

「あいつ、変なところで真面目だからなあ。俺はただ、面白そうだから相手してやっただけだってのにな」

「まあ、俺もなんだかんだであいつに教えるのは楽しかったですしね。物覚えは割と良かったし、本気で慕われて悪い気はしなかったっすよ」

 

 からからと、出水は笑う。

 

 戦闘脳の太刀川と違い、出水は色々と気配り上手なサポーターらしい性格をしている。

 

 つまるところ、面倒見が良いのだ。

 

 彼にとって、七海は大切な弟子の一人だ。

 

 愛着もあるし、彼の活躍を見る度に胸が躍る。

 

「────ま、()()()()()()()()()()()()()()()。師匠の意地っての、見せてやるよ」

「ああ、迅の予知とはまた違う機会みたいだが────────それでも、()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 だが、それとこれとは別の話。

 

 否。

 

 大切な弟子相手だからこそ、手抜きはしない。

 

 太刀川もまた、強者との戦いで手を抜けるほど器用ではない。

 

 故に。

 

「指揮は王子がやるだろうし、俺は戦闘員としての役割に専念するかね。サポーターの恐ろしさ、もっかい叩き込んでやるか」

「ああ、王子なら変な指揮はしないだろうし、こっちは戦闘に専念するか。全力で、叩き潰してやろーぜ」

 

 強者として、全力で七海(弟子)を叩き潰す。

 

 出水は、師匠の意地とプライドで。

 

 太刀川は、ただ戦闘欲を満たす為に。

 

 A級一位、太刀川隊の二人は。

 

 早くも、心躍る戦いに期待を膨らませていた。

 

 

 

 

「七海達と組む、か。想定はしていたが、案外早かったな」

 

 風間隊、隊室。

 

 第二試験の組み合わせ発表を見て、風間は一人溜め息を漏らした。

 

 特に動揺も昂揚も見られないが、その心音が高鳴っている事を菊地原は己のサイドエフェクトで察知していた。

 

(風間さん、七海の事気に入ってるからなあ。もう)

 

 菊地原は、心の中で一人愚痴った。

 

 風間は言動に棘が多く、オブラートにも包まない為厳しい人物に見られがちだが、実際はかなり面倒見の良い人間だ。

 

 厳しい言葉は相手の為を想うからこそ出るものであり、年長だけあって気遣いも巧い。

 

 口では「弟子ではない」と言いつつも、七海にそれなりの愛着を持っている事は菊地原からしてみれば一目瞭然ならぬ一聴瞭然であった。

 

 ……………………まあ、その菊地原も七海相手には(本人に自覚はないが)かなり甘々な態度である為、人の事を言えたものではないのだが。

 

「しかし、相手は太刀川か。丁度良い。この前のランク戦の借りを返す、良い機会だ。日頃の鬱憤晴らしも兼ねて、全力で叩き潰す」

 

 そして今度こそ課題はきちんとやって貰う、と風間はぼそりと呟いた。

 

 勿論菊地原には丸聞こえだった為、風間の心中を察した彼から同情の視線が寄せられた。

 

(風間さん、この間も太刀川さんの課題に付き合って徹夜したって言うからなあ。うん、100パー太刀川さんが悪いよね。潰す時は僕も協力しよっかな)

 

 菊地原からしてみても、太刀川の戦闘面以外での駄目っぷりは目に余る。

 

 ただし、持ち前の面倒見の良さで文句を言いながらも太刀川を見捨てられない風間に対し、菊地原は面倒なら見捨てていいんじゃないかなあ、と思っている。

 

 基本、七海を始めとした例外を除けば菊地原の優先順位は風間が最優先であり、その他は有象無象に過ぎない。

 

 その風間に心労をかける太刀川の事はぶっちゃけ良く思ってはいないし、個人的にも戦闘以外駄目駄目なNO1攻撃手はどうかと思う。

 

 戦闘力は隔絶しているが、人間的には何一つ尊敬出来ない二十歳の男。

 

 それが、菊地原の太刀川に対する評価である。

 

 ちなみにこれは彼一人のものではなく、太刀川の実態を知る者からの認識は大体こんな感じだ。

 

 課題はサボる、勉強は出来ない、ランク戦に入り浸り過ぎて単位がヤバイ。

 

 その他諸々。ダメ人間の要素をこれでもかと凝縮させたのが、太刀川慶という男なのだ。

 

 伊達に、月見の性癖(駄目男好き)に合致してはいない。

 

 何処に出しても恥ずかしい駄目人間、それが太刀川なのである。

 

 苦言の一つや二つ、出て当然と言えるだろう。

 

「けど、なんだかんだ七海と組むのは久々ですね。練習相手なら幾らでもしましたけど、七海と僕たちの1対多が殆どでしたし」

「そうだな。あいつはチームの連携を試すには丁度良い相手だったから、自然とそうなっていた面はある」

 

 だが、と風間は続ける。

 

「一度、あいつの指揮で動くのも面白そうではある。七海が俺達をどう動かすのか、興味はないか?」

「別に。ただ、あいつなら変な指揮はしないと思いますけどね」

「そうだな。それは俺も同意見だ」

 

 予想通りの返答に内心苦笑しつつ、風間はそう言って菊地原の意見を肯定する。

 

 今の那須隊の司令塔を七海と小夜子の二人が担っている事は、既に察している。

 

 別に、珍しい事ではない。

 

 隊長といえども必ずしも指揮を執る必要はなく、適材適所の人間が司令塔を務めれば問題は無い。

 

 たとえば生駒隊などは隊長の生駒を完全にエースとしてのみ運用し、指揮そのものは主に水上が行っている。

 

 同じように、今の那須隊は那須の役割をサポーター兼任のエースとして割り振り、要所要所の現場指揮を七海が、全体の俯瞰を小夜子が担っている。

 

 場合によっては那須が号令をかける事があるが、チーム全体の意思決定は小夜子と七海が連携して行っている。

 

 故に、七海の指揮で動く、という言葉は決して誇張ではない。

 

 試験の形式上風間が指揮を執るといった事が無い以上、彼等を動かすのは七海と小夜子だ。

 

 そして、七海の指揮に関して風間も菊地原も一定の信頼を置いている。

 

 実際にその指揮下で戦った事はないが、これまでの試合を見ればその内実は知れるというもの。

 

 無機質な詰将棋のようでいてところどころ()()の余地を設けたその指揮は、風間達から見ても相応のレベルに達している。

 

 故に、彼の指揮で動く事に不満はない。

 

 それだけの信頼は、しているつもりなのだから。

 

「だが、王子の指揮で動く太刀川も見ものではある。あいつも、中々に曲者だからな」

 

 

 

 

「僕らはどうやら運が良いらしい。最善とまでは行かないが、最高クラスのカードを引き当てたんだからね」

 

 王子隊、作戦室。

 

 そこで対戦組み合わせを見た王子は、開口一番そう告げた。

 

 変わらぬハニーフェイスでそう口にした王子に対し、樫尾が早速疑問をぶつける。

 

「それは、太刀川隊と組めた事が、でしょうか?」

「そうだ。彼等と戦うにあたり、太刀川隊はベストに近いパートナーだ。実力的にも、()()()にもね」

「人数、ですか……?」

 

 そうだよ、と王子は樫尾の問いを肯定する。

 

「今回、那須隊は大量点が欲しい筈だ。前回の試合で、ポイントを二宮隊に上回られたからね。その遅れを取り戻す為にも、此処で得点を重ねていきたい筈だからね」

 

 けど、と王子は続ける。

 

「今回の試合では、僕等と太刀川隊の合計人数は5名のみ。僕らが全滅した上で太刀川隊の二人が那須隊のメンバーに落とされれば7点が奪われる事になるけど────────」

「────────太刀川さんと出水が、早々やられる筈もない、か。確かに、そう考えると最適な相手だな」

 

 そう、蔵内の言う通り、那須隊は今回の試合でより多くの得点が欲しい。

 

 二宮隊の大量得点があれで止まる保証がない以上、こちらはこちらでより多くの得点を重ねる以外に対抗手段はない。

 

 だが、一試合目がそうだったように、対戦相手の人数が少なければ、それだけ得られる得点は少なくなる。

 

 そして、今回組む相手の出水と太刀川の実力はボーダー内でもトップクラスのそれである。

 

 文字通り一騎当千の実力を持つ太刀川と、神業的なサポート能力を持つ出水。

 

 この二人を味方に付けられたのは、この上ない幸運と言える。

 

 王子は、そう言っているのだ。

 

(それに、これで()()()()()()()()()()()という僕らの弱点を補う事が出来る)

 

 更に言えば、これまで悩みの種であった王子隊には突出したエースがいない、という点を太刀川の参戦によってカバーする事が出来る。

 

 そういう意味でも、この一戦は千載一遇の好機である。

 

 王子の気合いも、入るというものだろう。

 

「太刀川さんは単独でシンドバットとナース、そのどちらでも抑える事が出来る貴重な駒だ。今回の試合、太刀川さんをどう使うかで勝敗が決まると言っても過言じゃない」

 

 だから、と王子は笑みを浮かべる。

 

「今度こそ、勝つのは僕等だ。この好機を無駄にせず、確実に勝ちに行こうじゃないか」

 

 

 

 

(気合い入ってるわねえ。まあ、無理もないけれど)

 

 そんな王子の姿を見ながら、羽矢は人知れず溜め息を吐いた。

 

 顔を見なくても、分かる。

 

 今の王子は、戦意で爛々と瞳を輝かせている筈だ。

 

 一般女子に人気のありそうなハニーフェイスの癖に、勝負ごとが大好きで好戦的な王子の事だ。

 

 今の彼の脳内は、次の試合の事で一杯だろう。

 

 王子はかなりクレバーな人間ではあるが、負けて悔しい、と思う事がないワケではない。

 

 むしろ、かなり負けず嫌いな性格と言えるだろう。

 

 そしてそれは、羽矢とて人の事を言えた立場ではない。

 

(今回は国近さんと組んで、小夜子ちゃんのチームと当たるのか。これまた、数奇な組み合わせになったもんだわ)

 

 羽矢は一人、こういう事もあるのね、とぼやく。

 

 国近と小夜子は、羽矢の大事なゲーム仲間だ。

 

 あの二人と違ってオタク趣味を隠している羽矢にとって、趣味と仕事を共有出来る相手は貴重だ。

 

 同じボーダー隊員のオペレーター同士で仲が良く、共にボーダーに属しているから価値観の相違で戸惑う事もない。

 

 小夜子の男性恐怖症の影響で色々不便を感じる事もあるが、友達の為になると思えば些細な事だ。

 

(けど、だからこそ手は抜かないわ。今度こそ、小夜子ちゃんに土を付けてやるんだから)

 

 羽矢は普段の彼女が見せないような戦意に溢れた瞳を輝かせ、ニヤリと笑みを浮かべる。

 

 戦いの昂揚は、何も戦闘員だけのものではない。

 

 オペレーターもまた、戦場の空気に燃え上がる事もあるのだ。

 

 これが、三度目のリベンジマッチになるのだから尚の事。

 

 必ず、勝つ。

 

 その想いは、誰しもが同じなのだから。

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