痛みを識るもの   作:デスイーター

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質疑応答、協議

 

「では、早速だがお前達の今回の試合での方針を聞かせて貰おうか」

 

 開口一番、風間はそう告げた。

 

 此処は風間隊の隊室。

 

 第二試験で風間隊と組む事になった七海達那須隊の面々は、打ち合わせを行うべく彼等の隊室を訪れたのだ。

 

 そこで風間は挨拶もそこそこに、いきなり本題に斬り込んで来たワケである。

 

 即断即決、実直な風間らしいとも言えるのだが。

 

「まだ詳細を詰めてはいませんが、それでもよろしいでしょうか?」

「構わん。俺達は今回、お前達の指揮下に入る。そして、敢えて言うがこの時点でどの程度の考えを持てているかも、評価内容に含まれる。その事も踏まえて意見を言ってみろ」

 

 言っておくが、俺は採点を甘くする気はないからな、と風間は告げる。

 

 その厳しい物言いに熊谷は若干冷や汗を流しているが、風間と付き合いの長い七海は慣れたものだ。

 

 風間は言葉こそ厳しいが、常に相手の為を考えて立ち回る思慮深さを持つ大人の男性だ。

 

 見た目はどうあれ、多くの人望を集める人格者である事に間違いは無い。

 

 今の厳しい物言いも、本人からしてみれば発破のつもりなのだろう。

 

 無論それで折れる程度の相手を風間が評価する事はないが、期待に応えれば相応の評価はしてくれる。

 

 そんな風間の思惑を察した七海は、予め決めておいた作戦方針を話し始めた。

 

「まず、基本的に風間さん達には隠密に徹して貰って、状況を見て戦闘に介入して貰おうと思います。カメレオンとバッグワームの切り替えの判断は、そちらにお任せします」

「ほう、お前たちが指示するのではないのか?」

 

 風間は試すような視線をこちらに向けるが、七海は毅然とした態度で返答する。

 

「これに関しては、風間さん達の方が専門です。なら、いちいち指示するよりそちらに任せた方が効率的です。よろしいでしょうか?」

「フ、構わん。指揮下に入ると言った以上、指示には十全に従おう。それがお前達の選択ならばな」

 

 回りくどい言い方をしているものの、このやり取りは風間が満足する結果であった。

 

 此処でもしも「カメレオンとバッグワームの切り替えの判断はこちらで指示します」などと言っていれば、評価を下げていたところである。

 

 理由は七海の言う通り、()()()()()()()()()()()()だ。

 

 割と当たり前の事なのだが、部下を指揮する事と何もかも口出しする事は、全く違う。

 

 任せるべきところは任せ、その能力を最大限に引き出せるように采配するのが指揮官の器というものだ。

 

 当然ながら、指揮官とそれ以外の行うべき役割は異なる。

 

 そして、個々人によって得意分野に差がある事も当たり前の事だ。

 

 故に、指揮官は戦場で各々に適材適所の役割を割り振り、能力の無駄遣いを廃し効率的に戦闘を進める義務がある。

 

 適材を適所に配置し、適切な仕事を()()()

 

 それが、有能な指揮官の条件の一つである。

 

 過小評価も、過大評価もしてはならない。

 

 持ち得る駒の能力は適切に評価し、その能力に見合った役割を割り振る。

 

 それこそが、指揮官の仕事なのだから。

 

 そういう意味で、七海の返答は合格だ。

 

 言うまでもなく風間隊はカメレオンによる隠密(ステルス)戦闘を得意とする、一種のプロフェッショナル部隊だ。

 

 当然カメレオンとバッグワームの切り替えに関しては他の部隊よりも抜きんでて優れており、切り時を間違える事はないだろう。

 

 カメレオンに対する理解の浅い七海達があれこれ指示するよりも、突入のタイミングだけを指示して判断自体は風間隊に任せる方が、彼等の能力を十全に活かせる。

 

 その考えは、何も間違ってはいない。

 

 風間隊(みかた)の能力を正確に把握した上で、余計な口出しはせずに適切な配置を行い仕事を任せる。

 

 風間の問いに対する答えとしては、ベストのものと言えるだろう。

 

「それから、今回はメテオラに関しては使用をなるだけ控えるようにする。何故なら────────」

 

 

 

 

「────────メテオラを使えば、風間さん達の位置がバレる危険がある。だから今回、シンドバット達はメテオラの使用を控えると見ていいだろう」

 

 王子は隊室に集まった面々に対し、そう告げた。

 

 この王子隊の隊室には、普段の王子隊の面々の他に、太刀川隊の面子も集まっている。

 

 最初は王子達が太刀川隊の隊室に赴くつもりだったのだが、先んじて出水が太刀川と国近を連れて来た為此処で打ち合わせをする事になったのだ。

 

 尚、その理由が太刀川隊の隊室の散らかりぶり(さんじょう)にある事は言うまでもない。

 

 太刀川隊の面子は悉くが整理整頓が苦手な為、月に一度、ボーダー隊員による大掃除が行われるまで散らかり放題となっている。

 

 まあ、太刀川(戦闘狂)出水(弾バカ)国近(ゲーム廃人)唯我(お坊ちゃま)の組み合わせでは、片付けが出来る筈もない。

 

 以前は烏丸が片付けをしていたのだが、彼が抜けてからはこの有り様だ。

 

 隊は自然と隊長の色に染まるというが、太刀川の日常生活での駄目っぷりが隊全体に広まっている気がしてならない。

 

 なので彼等の隊室が悲惨な事になっているのは周知の事実なのだが、一応の見栄がある出水としてはその惨状を他者に直接見られる事は避けたかった為、わざわざ足を運んだのだ。

 

 太刀川も国近も共に面倒くさがりな為、連れて来る際には骨が折れたのだがそれは別のお話である。

 

「王子先輩っ、確かにメテオラは広範囲を巻き込む射撃トリガーですが、それならそれで風間さん達がいない場所に撃てば良いだけなのではっ!?」

()()()()()、だよ。カシオ、風間さん達が得意とする戦術はなんだい?」

「はいっ、カメレオンによる隠密戦術ですっ! 隊員全員がカメレオンを装備し、姿を隠しての奇襲が本領だと聞いていますっ!」

 

 そうだね、と王子は樫尾の答えを肯定し、頷く。

 

「じゃあ、考えてみようか。そんな風間さん達を相手する時、一番やられたくない事は何かな?」

「えっと、乱戦の中で奇襲される事、ですか……?」

「正解。それが一番厄介だね」

 

 なら、と王子は指を立てて説明する。

 

「カメレオンは、他のトリガーと併用出来ない。だから必然的に使う時はバッグワームを解除しなきゃいけないんだけど、そうなるとレーダーに映るよね。だからギリギリまでバッグワームは解除せず、接近の時だけに絞ってカメレオンを使うワケだけど」

 

 それなら、と王子は続ける。

 

「その時に那須隊がメテオラを撃った場合、()()()()()()()()()()()()()()()()()って事になるよね?」

「あ……っ!」

 

 そう、それが王子の指摘したメテオラの使用を控えるだろうという推測の根拠。

 

 当然ながら、味方を巻き込むような軌道でメテオラを使うワケがない。

 

 そして、那須はともかく七海のメテオラの威力はトリオン能力相応に高い。

 

 つまり、七海が派手にメテオラを撃てば、その場所には風間隊はいない事が確定する。

 

 一発ならともかく、何発も撃ってしまえばそれだけ風間隊の()()()()()が知られてしまう。

 

 そうなると、地形によっては風間隊が近くにいるかいないか、察知されてしまう危険があるのだ。

 

 風間隊の得意戦術は、バッグワームからカメレオンに切り替えての奇襲攻撃。

 

 故に下手にメテオラを使えば、風間隊の位置を喧伝してしまう結果になりかねない。

 

 だからこそ、王子は()()()()()()()()()()とあたりをつけたワケだ。

 

「勿論、絶対に撃って来ないってワケじゃないだろうけど、それでも多用はして来ない筈だ。だから今回、メテオラによる炙り出しを恐れる必要はない。地形にもよるだろうけど、チャンスが来るまでは()()の姿勢で良いと思うよ」

「成る程、分かりましたっ!」

 

 樫尾の素直な返事に王子は出来の良い生徒を見る教師のように笑みを浮かべ、蔵内の方を向いた。

 

「でも、こっちはメテオラ使用を躊躇う理由はないからね。風間隊の位置を炙り出す為にも、どんどん使っていこう────────」

 

 

 

 

「────────なんて真似は、恐らくして来ないだろう。王子先輩は、そこまで短絡的じゃない」

 

 七海はそう断言し、それにすかさず風間が反応した。

 

「何故そう言い切れる? 実際、カメレオンを使う俺達を炙り出すにはメテオラやハウンドは有効な手だろう?」

「そんな事、風間さん達が対策をしていないワケがないでしょう? 分かり易い弱点だからこそ、そういう手合いに対する解答は用意している。違いますか?」

「フン、確かにな」

 

 風間は七海の問いを、笑みを以て肯定した。

 

 確かに、カメレオンに対する対策としてはメテオラやハウンドを使うのが手っ取り早い。

 

 だが、そんな事は風間隊とて熟知している。

 

 これまで幾らでも取られて来た手だからこそ、逆に()()()()

 

 そんな安易な手だけで落ちるほど、A級三位の看板は甘くはないのだから。

 

「だから、要所要所では使って来るでしょうけど、乱発はして来ないと思います。ですが射手を残しておくのも厄介なので、射手の位置が判明し次第俺か風間さん達が急行して仕留める方針で行きたいと思います」

 

 それはそれとして、メテオラやハウンドを気軽に使われては風間隊が動き難くなる事は確かなのもまた事実。

 

 故にその排除に動く事は当然であり、七海や風間に狙われれば大抵の射手は防ぎ切れない。

 

「ですが────────」

 

 

 

 

「────────こっちには、最高クラスの射手のイズイズ(出水)と、NO1攻撃手(太刀川さん)がいる。射手を囮にしても、素直に釣れてくれる可能性は低いだろうね」

 

 だが、出水は断じて()()()なんて言葉で収まるようなレベルの射手ではない。

 

 射手の王(二宮)ほどの個人戦闘力はないが、それでも高いトリオンと精密なコントロール、狡猾な立ち回りを兼ね備えた戦闘巧者である。

 

 彼を落とす事は一筋縄ではいかず、下手に手を出せば彼の策に絡め取られる。

 

 出水の弟子である七海は、彼の脅威を十全に理解している。

 

 そして、言うまでもなく太刀川はボーダートップの戦闘員。

 

 彼のカバー出来る位置に迂闊に踏み込むのは、自殺行為だ。

 

 だからこそ軽々な襲撃には来ないだろうと、王子は判断したのだ。

 

「蔵内、君は基本的に僕達と行動を共にして貰う。少なくとも、単独行動は絶対に避ける事。その代わり、イズイズと太刀川さんには積極的に攻め込んで行って欲しいんです」

「へー、つまり俺達を主戦力にするってワケか?」

「ええ、そうでもしないと、勝ち筋がありませんから」

 

 王子は淡々とした表情で、薄く笑みを浮かべる。

 

「認めるのは少々癪ではありますが、僕たちの部隊は地力という点で那須隊に負けています。正面から僕等と那須隊がぶつかれば、確実に那須隊が勝利するでしょう。これは、純然たる事実です」

 

 そう、そこが王子隊の泣き所。

 

 王子隊の面子は総じて優秀ではあるが、突出したエースの域にいるというワケではない。

 

 対して、那須隊には七海と那須というエースの二枚看板がある。

 

 更に、射程持ちの熊谷は攻撃手ながらハウンドを持ち、全員がハウンドを持つ王子隊とも射撃戦を行える。

 

 茜の持つ精密射撃能力と転移による奇襲狙撃の脅威は、言わずもがな。

 

 手札の質と量で、王子隊は今の那須隊に負けているのだ。

 

 だからこそ前回は正面対決を徹底して避け、弱い所を狙うように動いたが、今回はその手は使えない。

 

 ただでさえ地力で負けている那須隊に、A級の風間隊まで加わるのだ。

 

 これで正面対決を強硬しようとするほど、王子は馬鹿ではない。

 

「そんな僕らが彼等に勝つには、太刀川隊(あなたたち)の力を最大限に活用する他ありません。なので主戦力を太刀川隊に絞り、僕達は援護と妨害に徹します。よろしいでしょうか?」

「おう、構わん構わん。そっちの方が面白そうだしなー」

 

 王子の要請に、太刀川は笑ってそう答える。

 

 これで王子隊が自分達で強引に点を取るとでも言いだせば落胆していたが、これなら判断としては上々だ。

 

 現実問題として、王子隊は那須隊に正面からは勝てない。

 

 他の部隊を叩こうにも、那須隊と組んでいるのはA級の風間隊。

 

 王子隊にとって、厳しい相手である事に変わりはない。

 

 だからこその、逆転の発想。

 

 正面から戦うのが厳しいならば、戦わなければ良い。

 

 適材適所。

 

 太刀川隊を主戦力に据え、王子隊はいやがらせと援護に終始する。

 

 王子隊(かれら)の役目は、あくまで露払い。

 

 A級一位部隊という極大戦力を、思う存分暴れさせる為の噴射剤。

 

 王子は、それで良いと断言した。

 

 プライドもあるだろう、見栄もあっただろう。

 

 しかし王子は、勝利の為にそれら全てを投げ捨てた。

 

 自分達の力量不足を認め、素直に上位者の力を借りると宣言した。

 

 その決意は、減点を覚悟して指揮を預けた香取隊のそれに勝るとも劣らない。

 

 太刀川は、その意気を汲んだ。

 

 こと戦闘に関して、太刀川は真摯だ。

 

 王子がそこまでの決意を固めているというのなら、それを汲むのが上位者たる自分達の役目。

 

 彼等の駒となるに不足はないと、A級一位は宣言した。

 

 太刀川の返答を聞き、王子は不敵な笑みを浮かべる。

 

「そして、今回の旗持ち(フラッグ)ルールにおける旗持ちに関してだけど────」

 

 にぃ、と王子は笑みを浮かべ、告げる。

 

「────────僕が、旗持ちをやろう。盛大に、喧伝するようにね」

 

 己が戦略の、要を。

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