痛みを識るもの   作:デスイーター

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ゲーマーズレディ

 

「ってな感じで、ウチの子達はやる気満々よ。勿論作戦とかは教えないけど、打倒・那須隊って感じで燃え上がってるわ」

「そうだねー。私から見ても、すっごいはりきってたよ~」

 

 ゲームをする為に集まった小夜子の部屋で、羽矢と国近は口々にそう言って王子隊の奮起ぶりを話している。

 

 流石に作戦内容に繋がる事まで口を滑らせはしていないが、それでも彼らが並々ならぬ熱意を以て次の試合に臨んでいる事は分かった。

 

 小夜子としては、その事実が分かっただけでも価値はある。

 

(勝つ気でやるって事は、前のようにセコセコ取れる点だけを取って離脱、なんて方針じゃありませんね。となると、考えられるのは────)

 

 純然たる事実として、地力では那須隊の方が王子隊よりも上だ。

 

 前期ではその力関係は逆であったが、今期七海が加入してから────────否、正確にはラウンド3で隊の膿を消し去ってから、那須隊の力は飛躍的に成長した。

 

 それこそ、二宮隊を打ち倒し、その玉座を奪取するまでに。

 

 だからこそ、小夜子はこうして二人を集めた。

 

 ゲームをする為という目的も、勿論ある。

 

 だが、それ以上に────────二人から少しでも情報を引き出せないか、という狙いもあった。

 

 三人はゲーム仲間であり親しい友人と呼んで差し支えない間柄ではあるが、試験に置いては敵同士。

 

 友好を確かめながら、相手の内実を探る。

 

 それは裏切りでも冒涜でも、なんでもない。

 

 ただの、戦場(いくさ)作法(ならい)だ。

 

 試験と言う形式上競い合うようにはなっているが、それぞれの隊は本質的には敵ではない。

 

 有事の際には、手を取り合って街を守る友軍なのだ。

 

 故に、試験(もぎせん)でぶつかり合ったとしてもそれは敵意故のものではなく、ただ互いを高め合う為のもの。

 

 情報収集という番外戦略もまた、その為の手段の一つに過ぎない。

 

 そもそも、戦う相手である以上、ハメられる方が悪いのだ。

 

 真剣勝負の場では、手加減こそが最もしてはならない冒涜となる。

 

 ルールの決められた試合であっても、真正面から戦わなければいけないという通りはない。

 

 相手の裏をかき、弱点を探し、隙を突く。

 

 それは、戦いにおいて当たり前に行われる駆け引きだ。

 

 戦場は、ただ力の強さだけで勝敗が決まるワケではない。

 

 力だけが強くとも、戦略次第で幾らでも実力差はひっくり返る。

 

 それが、本物の戦場というものだ。

 

 格上殺し(ジャイアントキリング)は困難ではあるが、不可能ではないのだ。

 

 それは、二宮を打ち倒した那須隊が証明している。

 

 故に、探り合い、腹の読み合い、大いに結構。

 

 そう言える程度には、この三人の少女達は戦場の作法を知っていた。

 

 友達だからと言って、手加減する理由も、弱みを探らない理由にはならない。

 

 その程度で壊れる程、安い友情ではないのだから。

 

 腹の中で色々と黒い事を考えていようが、彼女達が友人同士である事に変わりはない。

 

 好敵手と友人という概念は、共存出来る。

 

 それを知るからこそ、彼女達はこうして共に楽しみながら競い合うという、スポーツ選手のような関係を築く事が出来たのだ。

 

(思えば、最初はこうして集まって遊ぶ、なんて事が出来る関係になるとは思いませんでしたね。昔の私は、那須先輩の事が言えないくらい関係が閉じていましたし)

 

 小夜子は笑いながら腹の探り合いをする羽矢と国近を見て、思う。

 

 何もこの二人とは、最初からこういう関係だったワケではない。

 

 小夜子は、男性恐怖症だ。

 

 それ故に外出もままならず、友人関係も酷く狭い。

 

 学校のクラスだけならば実は香取と同級生に当たるのだが、引き籠っている小夜子に彼女と関わる機会などあろう筈もない。

 

 小夜子の人間関係は、那須隊に誘ってくれた熊谷と、那須隊の面々。

 

 そして保護者のような立ち位置にいる加古と、那須を通じて知り合った小南。

 

 精々がこの程度であり、国近とも羽矢とも、同じオペレーターとはいえそこまで親しいワケではなかった。

 

 切っ掛けとなったのは、国近だ。

 

 とあるオンラインゲームで偶然国近とアバターを通して交流する機会があり、小夜子の腕前に興味を持った彼女がオフ会を提案したのだ。

 

 小夜子は最初断ろうとしたのだが、彼女がボーダーのオペレーターであると勘づいた国近が押し切ったのだ。

 

 無論男性恐怖症(小夜子の事情)を知った国近は彼女を連れ出すような真似はせず、最初はボイスチャットから始めようと声をかけたのだ。

 

 代わりに、オペレートの事で聞きたい事があるならなんでも答える、と条件を提示して。

 

 隊の皆の為にも腕前を磨きたい、と考えていた小夜子にとってその誘いはひどく魅力的に映り、それなら、と国近の提案に同意したのだ。

 

 そこから先は、あっという間だった。

 

 小夜子は国近の指導でオペレート能力が高まり、更にモチベーションが高まる出来事(七海への恋慕の自覚)があったが為に、彼女の成長は留まる所を知らなかった。

 

 その間に国近との距離はぐっと縮まり、家に呼んで一緒にゲームをやるようになるまで、そう時間はかからなかった。

 

 暫くしてから国近に紹介された羽矢もその輪の中に入り、隠れオタクであった羽矢は自分の趣味をオープンにして付き合える友人が出来た事を大層喜び、小夜子もまた羽矢の心情は共感出来た為、快く受け入れた。

 

 ある意味オタクに関する世間の風聞に苦しめられた小夜子だからこそ、その趣味を隠していた羽矢の苦悩は理解出来る。

 

 羽矢は、美人という形容が似合うスマートな少女だ。

 

 加古のような派手さはないが、その整った容姿から異性には大層モテたであろう事が推測出来る。

 

 まあ、彼女自身は二次元にしか興味がない為、多くの男が玉砕する結果となったのであるが。

 

 ぶっちゃけると、羽矢は現実世界(三次元)に大して希望を抱いていない。

 

 自分の容姿目当てに寄って来る男は鬱陶しいし、そんな自分をやっかむ同姓も煩わしかった。

 

 独りで趣味に没頭出来ればそれで満足な羽矢にとって、現実の男も女も興味の対象とは成り得なかったのだ。

 

 ボーダーに入ったのも、そのあたりに理由がある。

 

 ある程度誤差はあるが、ボーダーの正隊員の面々は、総じて人格が出来ているものばかりだ。

 

 過度に言い寄って来る男もいなければ、妙なやっかみを向けて来る女もいない。

 

 王子隊のオペレーターになったのも、王子達が自分にさして女としての興味を持たないタイプだったからである。

 

 割とイケメンの部類である王子だが、彼自身の浮いた話は聞いた事がない。

 

 異性に興味がないワケではないのだろうが、羽矢が思うに優先順位が低いのだろう。

 

 女性と二人きりで過ごすよりも、友達とワイワイ騒いだ方が楽しい。

 

 王子は、恐らくそのタイプだ。

 

 羽矢は、自分の容姿が異性に好まれる事を実体験として知っている。

 

 だが、王子からその手の視線を向けられた事は一度もない。

 

 故に、羽矢は王子が女性の趣味が特殊か、交際願望の薄いタイプだと推察している。

 

 面と向かって尋ねた事はないが、ほぼ間違いない筈だ。

 

 だからこそ羽矢としても付き合い易く、一緒に過ごしてもストレスを感じないのだ。

 

 樫尾は典型的な真面目人間であり女性への興味を持つくらいなら勉強に時間を費やすというタイプであり、蔵内は大人の視点で一歩引いた立ち位置を確立しているので、過度な干渉を心配する必要はない。

 

 そういった意味でも、王子隊は羽矢の居場所なのだ。

 

 隊の全員が和気藹々とした友人同士である那須隊とは雰囲気が違うものの、一種の真面目な運動部めいた独特の空気感があり、羽矢はそれが嫌いではなかった。

 

 ちなみに、王子のネーミングセンスに関しては羽矢は特におかしいとは思っていない。

 

 初対面からあだ名呼びはどうかと思う事はあるが、そのネーミングに関しては別にいいんじゃないかと思っている。

 

 多少変わった風な名前でも、あだ名というのは呼び易さが全てだ。

 

 なら一風変わった呼び名でも良いじゃないかというのが、羽矢の所感であった。

 

 ……………………まあ、当初はネーミングそれ自体に違和感を持てず、他者の反応でようやく王子の変人っぷりを自覚したのであるが。

 

「…………そういえば、小夜子ちゃんの事はセレナーデ、って呼んでたわね。小夜子だから小夜曲(セレナーデ)って、王子くんらしいといえばらしいというか……」

「ああ、王子隊長のあだ名ですか。相変わらずセンスがカッとんでるというか、何で七海先輩がシンドバットになるんだか」

 

 意味不明ですよ、とぼやく小夜子を見て、羽矢は溜め息を吐きつつ答える。

 

「七つの海をかける、って事でシンドバットらしいわ。王子くん曰く」

「なんでそう繋げるのか理解不能ですねえ」

 

 まったくね、と羽矢は小夜子に同意する。

 

 王子のネーミングは分かり易い時と分かり難い時があり、七海に付けたあだ名であるシンドバットは理解不能な部類に入る。

 

 割とズレている感性を持っている羽矢でも、最初に聞いた時は内心ポカンとしたものだ。

 

 …………まあ、その後なんだかんだでノリノリで那須隊全員のアイコンを作成したあたり、どっちもどっちだが。

 

「そういえば、ウチについての対策とか考えてる? それとも、二回ものしたから楽勝とか?」

「馬鹿な事言わないで下さいよ。これまで安定して上位にいた王子隊を、舐めてかかれるワケじゃないじゃないですか」

 

 羽矢の探りに、小夜子はジト目でそう返す。

 

 何を当たり前の事を言っているんだ、と言わんばかりだが、羽矢とてそれは承知している。

 

 ただ、小夜子の反応から王子隊に対する警戒度の段階を探ろうとしただけだ。

 

 それを承知の上で、小夜子は答える。

 

「確かにラウンド4では圧倒出来ましたし、ラウンド7でも被害は最小限に抑えられましたけど、あれはどちらも好条件が揃ったから、っていう理由があった事は事実ですからね。油断していい相手とは思ってませんよ」

「あら、割と正直に答えるのね」

「そうですね。このくらいは、話しても支障はないと判断しました」

 

 まず、と前置きして小夜子は続ける。

 

「七海先輩達の話を聞く限り、腹芸では王子先輩の方が上手です。これまでは地力で圧倒出来ただけで、駒の強さの有利がなくなれば読み合いでは分が悪いと、私は考えています」

 

 ですので、と小夜子はちらりと隣の国近に目を向ける。

 

「太刀川隊がそちらと組んだ今、条件的には同等(イーブン)────────いえ、私たちが不利だと、そう見ています」

 

 そう、小夜子の言う通り、王子隊に今まで優位に立ち回れたのは、エース二枚看板をメインとした地力の強さで圧倒出来たという理由が大きい。

 

 だが今回は、A級一位の太刀川隊が王子隊と組んでいる。

 

 一騎で戦況を一変させかねない実力を持つ太刀川が敵に回った今、地力でのごり押しは却って不利になる。

 

 だからこそ侮る事はしないと、小夜子は告げた。

 

「それに、王子隊は安定感があって、決して無理をしない部隊です。その堅実さは、地味ながら厄介です。太刀川隊は、言わずもがなですね」

「えへん、もっと褒めていいのだよ~」

 

 説明を聞いてにへらと笑う国近を見て、小夜子は溜め息を吐いた。

 

 何処かとぼけた雰囲気を醸し出しているが、国近は小夜子のオペレートの実質的な師匠筋に当たる。

 

 今の小夜子の技術は、元々国近から指導を受けて上達したものだ。

 

 つまり、単純なオペレート技術であれば国近は小夜子の上位互換にあたる。

 

 決して敵わないとまでは思わないが、厳しい戦いになる事は確かだろう。

 

「ですが、今回は色々と特殊な条件ですからね。楽に勝てるなんて口が裂けても言えませんが、勝てないとも思ってはいませんよ」

「お、言うね~。やっぱり、恋する乙女は無敵とかそんな感じ~?」

「ええ、そうですね」

 

 からかうつもりで軽口を叩いた国近だが、即答で返されて目を見開く。

 

 あまりに堂々とした振る舞いに、三次元の恋愛など未経験な羽矢も目を丸くした。

 

「私は七海先輩を愛しています。だからこそ、此処まで頑張って来れたんです。たとえ報われぬ恋路であっても、あの人の為ならば私はなんでもやれる。そう開き直っていますから」

「…………相変わらず、何度聞いても凄まじい覚悟ね。結ばれないと思ってるなら、普通諦めるものじゃないの?」

 

 その凄絶な覚悟に、羽矢はたじろきながらもそう尋ねる。

 

 そんな友人に苦笑しながら、小夜子は続ける。

 

「私が七海先輩と結ばれるかどうかと、私が彼の為に頑張るか否かは、関係ありません。私は先輩の幸せこそが至上ですし、同じくらい那須先輩にも幸せになって欲しいと思っています」

 

 だから、と小夜子は笑みを浮かべ、告げる。

 

「────────あの二人に誇れる、私でいたい。だから、私は頑張れるんです。それが私の幸せだって、信じていますから」

 

 その言葉に、覚悟に、二人はただ、黙る他なかった。

 

 羽矢も、国近も、彼女の覚悟に異を唱える資格はない。

 

 彼女と違い、恋を知らない自分達が、その決意にどうこう言うのは間違っている。

 

「…………そう。でも、手は抜かないわ。全力で潰すつもりで行くから、覚悟してね」

「そうだね~。私も、久々に本気でやろうかな~。楽しみにしててね」

 

 だから、せめてもの発破として、宣戦布告する。

 

 彼女は、既に意思を固めている。

 

 ならば、友人として、好敵手として、全霊でその相手を務める。

 

 それが、叶う事のない恋に全てを捧げた掛け替えのない友人への、せめてもの手向け。

 

 これで勝てたら一言物申してやろうという、友人としての配慮(お節介)であった。

 

「ええ、望むところです。七海先輩への恋慕に懸けて、絶対に勝ってみせますよ」

 

 そんな二人に、小夜子はそう言って不敵な笑みを浮かべる。

 

 自分の決意に思うところがあるのは、分かっている。

 

 だが、こればかりは断じて譲るつもりはない。

 

 七海への恋慕も、試合の勝利も、一切妥協しない。

 

 この大切な友人達のチームと競い合い、勝利する。

 

 それが、自分達なりの友愛の示し方なのだから。

 

「「「負けないから」」」

 

 三人の声が、重なる。

 

 少女三人は、互いの決意を示し、試合に臨む。

 

 ゲームを通じて知り合った少女三人が雌雄を決する舞台は、間もなく。

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