痛みを識るもの   作:デスイーター

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合同戦闘訓練/STAGE2
第二試験、開始


 

11月16日、土曜日。

 

 合同戦闘訓練兼、A級昇格試験第二試験当日。

 

 七海達は、那須隊の隊室で試験開始前最後のミーティングを行っていた。

 

「────────作戦は以上だ。第一プランが駄目なら第二プランに移行するが、状況によって適宜指示を出す。何か意見があれば言ってくれ」

「特にないわ。作戦に関しては、玲一と小夜ちゃんの方針を優先する。それでいいでしょう?」

「ええ、それで構わないわ」

「私も仕事をこなすだけですしねー」

 

 那須を皮切りに、那須隊の面々は七海の意思に同意する姿勢を見せる。

 

 作戦の詳細は既に那須邸で詰めている為、意見が出ない事も想定済みではある。

 

 これはあくまで、最終確認。

 

 土壇場での閃きや、追加情報がないかという意思統一の場。

 

 基本的に那須邸で行ったミーティングの再確認的な意味合いが強いが、那須隊では毎回こういう形式を取っている。

 

 傍から見れば二度手間かもしれないが、この直前のミーティングでの土壇場の閃きに助けられた事も多い故にこれを止めるつもりは今のところはない。

 

 戦場における閃きは、何が切っ掛けになるかは分かったものではない。

 

 だからこそ、こうやって話し合う機会を重ねる事でそれが起きる可能性をより高くする。

 

 小さな積み重ねこそが、着実な勝利への欠片(ピース)となる。

 

 多少の手間で僅かでも勝率が上がるのであれば、やらない理由は無い。

 

 戦いは、努力を怠った者だから脱落していくのが必定なのだから。

 

「じゃあ、予定通り今回の試合では────────」

 

 

 

 

「今回の試合では、シンドバット達は恐らく太刀川さんを()()()()ように動く筈だ。それが、最も勝率が高いからね」

 

 王子隊作戦室で、王子は開口一番そう告げた。

 

 太刀川隊はこの場にはいないが、通信越しに話は聞いている。

 

 それを承知の上で、王子は話を続ける。

 

「言うまでもなく、太刀川さんは今回の試合で最強の駒だ。1対1なら基本的に誰にも負けないし、一騎で戦況を一変させる力を持っている。これを正面から相対するっていうのは、出来ればしたくない筈だ」

「だから、那須隊は太刀川さんを浮かせる────────いや、()()()()()()()()()()って事か?」

「ああ、ぼくはそう見ている。常識的に考えれば、那須隊にとって太刀川さんを相手にするのは損以外の何物でもないからね」

 

 太刀川は、ボーダーNO1攻撃手である。

 

 当然その地位に相応しい実力を持っているし、1対1で負けた事など数少ない例外(好敵手である迅)を除けば殆どない。

 

 ランク戦でも、1対多の状況から相手を全滅させた事すらある。

 

 太刀川というのは、それだけの事が出来る規格外の駒なのだ。

 

 伊達に、他の全てのリソースを戦闘に注ぎ込んではいない。

 

 太刀川は勉強は出来ないが、戦闘に限れば頭は回る。

 

 超級の戦闘能力と、クレバーな判断能力。

 

 シンプルにそれを極めたのが太刀川であり、単純故に付け入る隙が殆どない。

 

 香取のような機動戦特化型ではなく、()()()()()()()

 

 ただ単純に高い実力を持っているからこそ、対処法が限られる。

 

 太刀川のようなタイプを相手にする場合は、大勢で囲んで潰すか、捨て駒前提で特化戦力(エース)が抑えの回るかのどちらかだ。

 

「だから、那須(ナース)あたりに抑えに回らせるんじゃないかな。熊谷(ベアトリス)だと太刀川さんの相手は少し厳しいだろうし、シンドバットは遊撃に回った方が活きる駒だ」

 

 だから、と王子は続ける。

 

「恐らく、高確率でナースが太刀川さんを抑えに来る。だから僕らは、イズイズと連携して抑えに出て来た彼女を仕留めれば良い」

 

 

 

 

「なーんて、考えてるんでしょうね。所感だと、そのくらいは頭を回してる気はします」

 

 小夜子はややジト目になりながらそう告げ、那須の方を見据えた。

 

「那須先輩、仮に王子隊三人と出水先輩に囲まれた場合、生存確率はどれほどですか?」

「地形に依るとしか言えないけど、少なくとも出水くんが来るのは厳しいわね。あの人は────────」

「────────ええ、那須さんと同じく、変化弾(バイパー)をリアルタイム弾道制御出来る天才(へんたい)ですからね」

 

 那須の十八番である彼女唯()の技能、バイパーのリアルタイム弾道制御。

 

 圧倒的な環境俯瞰能力と視野の広さによって成立するそれは、那須固有の技能ではない。

 

 出水もまた、この技能の保有者なのである。

 

 故に出水は那須並────────否、彼女以上にバイパーを自由自在に使いこなす。

 

 つまり、那須の得意とする複雑な地形は、イコール出水の狩場であるという事だ。

 

 建造物を盾にしようが、出水の弾丸は那須同様あらゆる障害を迂回出来る。

 

 故に、那須がこれまで他の隊員に大して優位に立つ事の出来た最大の要因である()()()()()()()()()()()()()()()()は今回に限り彼女の専売特許ではない。

 

 出水にもまた、同様の事をやられる可能性があるのだ。

 

 無論、機動力という点で那須は出水に大してアドバンテージがある。

 

 だが、純粋な射手としての練度は、彼の方が上だ。

 

 1対1ならば機動力で攪乱出来るかもしれないが、そこに王子隊の援護が加わると流石に厳しい。

 

 那須は自身の見立てとして、正直にそう感じていた。

 

「分かりました。では、出水先輩をフリーにした場合、どれほどの被害が出ると予想されますか?」

「────────間違いなく、致命的な損害を被る。確実にな」

 

 小夜子の質問に、七海はそう即答した。

 

 迷いのない断言に、小夜子は目尻に皺を寄せる。

 

()()()()ですか?」

「ああ、出水さんはチームサポートのエキスパートだ。あの人をフリーにするって事は、一番されたくないタイミングで横槍を入れられる可能性に常に晒される事を意味する。そうなれば、まともに戦えなくなるのは目に見えている」

 

 なにせ、と七海は難しい顔で、告げる。

 

「今回は、太刀川さんがいるからな」

「…………そういう事ですか」

 

 七海の言葉に、小夜子は得心する。

 

 現在の太刀川隊は攻撃手の太刀川、射手の出水、銃手の唯我の三人チームだが、唯我がまともな戦力として換算出来ない以上攻撃手と射手の二人チームという事になる。

 

 そんな状態で、彼等はA級一位の座に留まり続けているのだ。

 

 その理由としては太刀川の実力もそうだが、出水のサポート能力に依るところも大きい。

 

 確かに太刀川はNO1攻撃手に相応しい実力を有しているが、個人の実力だけで勝てるほどランク戦は甘くはない。

 

 彼等が頂点に君臨し続けていられるのは、太刀川と出水の二人がチームとしての練度が高過ぎるからだ。

 

 1対1どころか多対1でも大抵の相手に押し勝てる太刀川というエースを、出水が完璧なサポートで盛り立てる。

 

 互いが互いの隙を埋め、チームとして連動し、その圧倒的な地力で相手部隊を押し潰す。

 

 それが、太刀川隊。

 

 ボーダートップに君臨する、NO1チームである。

 

 七海は、その二人の弟子である。

 

 当然二人の強さは骨身に染みて学んでいるし、二人が組んだ時の恐ろしさも直に体感している。

 

 その七海の経験と直感が、告げていた。

 

 出水と太刀川、この二人のいずれかを自由(フリー)にした時点で、こちらは負けると。

 

 その言葉の重さを噛み締めて、小夜子は息を呑む。

 

「分かってはいましたが、矢張りそれほどの相手ですか。流石はA級一位部隊、と言うべきでしょうね」

「間違っても、舐めてかかれる相手じゃない。太刀川隊の地力は、間違いなく俺達より上だ。ごり押しは通じない。力じゃ押し負ける。そういう相手だ」

 

 でしょうね、と小夜子は溜め息を吐く。

 

 これは、あくまで確認だ。

 

 今日に至るまで、小夜子は太刀川隊の戦闘ログをかなりの数調べ尽くしている。

 

 その結果至った見解と、七海の答えは概ね一致する。

 

「では、()()()()()()()()()()()()()。転送位置によって微調整しますので、その場合は追加の指示に従って下さい」

 

 想定よりも更に最悪な相手だった事だけが誤算だが、それでも小夜子の意思は揺るがない。

 

 相手の地力が自分達より上である事など、承知の上。

 

 小夜子は、自分達の力を見誤らない。

 

 今の那須隊の地力は、おおよそB級上位レベルであり、A級には僅かに届いていない。

 

 少なくとも、B級ランク戦の時のように地力で圧倒出来る部隊は、A級には存在しない。

 

 それがA級一位ともなれば、尚の事だ。

 

 A級という地位の重みは、決して低くはないのだ。

 

 第一試験で当真を落とせたのは、巧く状況が噛み合っただけに過ぎない。

 

 少なくとも、何も考えずに勝てるほど、A級部隊は甘くはない。

 

 だからこそ、小夜子は一切の手を抜かない。

 

 情報は徹底的に収集し、少しでも有利になる条件を考察し、現場で動く七海の意見を聞いて実行段階まで練り上げる。

 

 それが、チームのブレインとしての一面も併せ持つ自分の役割だと、小夜子は自負している。

 

 その上で、オペレーターととしても羽矢と国近(友達二人)に負けたくはない。

 

 だから、全霊を尽くす。

 

 己の持てる手札を繰り尽くし、如何なる状況でも思考を止めない。

 

 それが、全力でぶつかってくれる友への礼節。

 

 己のオペレート技術の師である国近への、最大の恩返し。

 

 七海は、影浦()を超えた。

 

 ならば今度は自分の番だと、小夜子は気を引き締めた。

 

「勝ちましょう。A級一位の看板に、盛大に牙を突き立ててやろうじゃありませんか」

 

 

 

 

「さあ、A級昇格試験、『合同戦闘訓練』第二試合がやってきたぜ」

 

 第二試験、会場。

 

 そこには、多くの隊員が集まっていた。

 

 B級ランク戦と違ってC級隊員はいないが、B級は勿論A級隊員も多くが詰めかけている。

 

 それだけ、今回の試合の注目度は高い。

 

 何せ、今シーズンで二宮隊を打ち破り、B級一位の座に新たに君臨した那須隊の試合である。

 

 第一試験での確かな戦果も合わせて、相応の注目が集まるのは当然であった。

 

「実況はアタシ、仁礼光と、解説の烏丸、二宮さんでお送りするぜっ!」

「「よろしく頼む」」

 

 光のアナウンスにより、鉄面皮の男二人が淡々と挨拶をこなす。

 

 その様子に、会場ではどよめきが起こっていた。

 

 片や、その整った容姿でボーダー内でも女子人気が高くファンも多い烏丸(イケメン)

 

 片や、知らぬ者などいない射手の王であり、整った顔ながらもその容赦のなさと割とズレた感覚から色々と距離を置かれている二宮(てんねん)

 

 顔面偏差値の高さは言うに及ばず。

 

 寡黙なイメージのあるこの二人に果たして解説が務まるのか、という大変失礼(真っ当)な疑念もあって会場は密かな盛り上がりを見せていた。

 

 ちなみに、この二人の組み合わせは実況するオペレーターにとっては地雷そのものだ。

 

 鳥丸ファンの女性隊員が実況となれば緊張で巧く喋れない事請け合いであり、そもそも二宮の圧倒的威圧感(A.Tフィールド)を突破出来る者もそう多くはない。

 

 ぶっちゃけ、実況に仁礼が選ばれたのも特に鳥丸に異性としての興味がなく、二宮相手にも物怖じしない強心臓の持ち主だから、という理由が大きい。

 

 伊達に強面の影浦と四六時中つるんでたりはしない、という事だ。

 

 色んな意味で彼女が今回の実況を務めてくれた事に感謝するオペレーターは、多い。

 

 同時に、鳥丸と一緒に実況するなんて羨ましい、という想いを抱く者もいるにはいる。

 

 まあ当然、この場に放り込まれたいか(二宮と実況したいか)、と言われて頷く者は殆どおらず、結果的に異を唱える者はいなかったのであるが。

 

 そんな駆け引きがあったとは露知らず、あくまでマイペースに光は実況を進める。

 

「今回は事前の通達通り、旗持ち(フラッグ)ルールっつう特殊なルールを採用してるぜ。簡単に言やあ、旗持ちになった奴が落とされたら試合終了、追加点が入るってルールだな」

 

 どう思う? と光は隣の二宮に躊躇なく尋ねる。

 

 二宮は光の問いかけに若干眉を潜めたが、それでも責務はこなすつもりのようで大人しく口を開いた。

 

「誰を旗持ちにするかが重要なのは言うまでもないだろう。それをどう使うかも、チームの方針次第だ。今此処でうだうだ言う事じゃない」

「ほー、じゃあ二宮さんはどういう風にこのルールを利用して来ると思ってんだ?」

 

 光の質問に、二宮は簡単な話だ、と続ける。

 

「旗持ちを()()()()()()()、だ。見ていれば分かる。すぐにでもな」

「…………そうっすね。そろそろ、試合時間ですし」

 

 烏丸はぼそりとそう告げ、光に時刻の確認を促した。

 

 自分の時計を見て現在時刻を確認した光は「それもそーだな」とぼやき、マイクを握った。

 

「おっし、そろそろ時間だ。全部隊、転送開始っ!」

 

 光の号令と共に、四部隊が戦場へと送り込まれる。

 

 A級昇格試験、第二試合。

 

 その舞台が、幕を開けた。

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