痛みを識るもの   作:デスイーター

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王子隊・太刀川隊④

 

「おーっと、此処で出水と那須さんがエンカウント……ッ! 射手対決が始まったぜぇ……っ!」

 

 光の実況と共に、会場が沸き上がる。

 

 それもその筈。

 

 那須玲と、出水公平。

 

 この二人は、共にバイパーのリアルタイム弾道制御を可能とする天才。

 

 以前から、話題になってはいたのだ。

 

 那須と出水(弾バカ二名)がぶつかれば、どちらが勝つのか。

 

 今、その状況がこれ以上ないお膳立てと共に構築されている。

 

 これで盛り上がらなければ、嘘というものだろう。

 

「こりゃどう見る? やっぱ、動ける分那須さんが有利か?」

「フン、一騎打ちなら那須の方に適性があるが、生憎これは個人戦ではない。お互いの戦略と()()()()だろう」

 

 そもそも、と二宮は続ける。

 

「出水はあらかさまに自分を囮にしていたんだ。なら、自分を狙って来る相手を横から仕留める伏兵を仕込んでいない筈がない。その程度、簡単に分かるだろう」

「そうですね。それは俺も同感です」

 

 ただ、と烏丸は画面の中で笑みを浮かべる出水を見据え、笑う。

 

「出水先輩は、割と馬鹿な所もあるんですよね。色んな意味で」

 

 

 

 

「行って」

 

 口火を切ったのは、那須の方だった。

 

 那須は自らの周囲にキューブサークルを展開し、跳躍。

 

 空中に躍り出ながら、複雑な軌道を描く変化弾(バイパー)を射出する。

 

「おっと」

 

 だが、ただそれを見ている出水ではない。

 

 出水もまた、即座にトリオンキューブを展開。

 

 那須のそれと全く同じ個数にキューブを分割し、射出。

 

 そして、那須のバイパーに己のバイパーをぶち当て、その()()()()()()()()

 

「……!」

 

 その曲芸のような神業に、那須は目を見開く。

 

 複雑な軌道を描く那須のバイパーを、同じ個数のバイパーを以て撃ち落とす。

 

 それがどれ程の絶技かは、言うまでもない。

 

 那須のバイパーの軌道を計測し、予測し、その弾道に重なるように射線を引かなければならない。

 

 リアルタイム弾道制御という唯二の技能を成し得る空間把握能力があってこそ成立した、射手の妙技。

 

 A級一位部隊の格というものを正面から叩き付けたその手腕は、驚嘆に値する。

 

「今度は、こっちからだ」

 

 出水は今が好機と見たのか、トリオンキューブを展開。

 

 再び変化弾(バイパー)を構築し、空中の那須に向かって撃ち放った。

 

 四方八方から降り注ぐ、バイパーの檻。

 

 それは、那須の得意技である『鳥籠』と同種の技術。

 

 普段自らが頼りとする技が、今は彼女を襲う牙となって迫り来る。

 

 グラスホッパーでの離脱は、一歩遅い。

 

 空中故に、障害物は盾に出来ない。

 

 シールドを張れば防げるだろうが、二の手が続かない。

 

 対処を誤れば、その時点で()()

 

 これは、そういう類の一手だ。

 

「────」

 

 しかし、那須の顔に焦りはない。

 

 彼女は表情一つ変えず、怜悧な美貌を称えたまま。

 

 キューブサークルを、展開した。

 

 そして、射出。

 

 那須は、迫り来るバイパーを────────己のバイパーで、()()()()()()()()

 

 先程の意趣返しと言わんばかりの、絶技による迎撃。

 

 那須は、それをさも当たり前のように、実行した。

 

「一回、やってみたかったの。相手の弾を撃ち落とすの」

「やっぱ、考える事は一緒だな……っ!」

 

 出水はその光景を見て、特に驚くでもなく不敵な笑みを浮かべる。

 

 半ば、確信していた。

 

 彼女なら、やれるだろうと。

 

 何故なら、立場や性別の違いはあれど、同じ射撃狂い(弾バカ)

 

 思考や嗜好が、同じような場所に行き着くのはむしろ当然。

 

 二人がこの迎撃技術を習得していたのは、なんの事はない。

 

 ただ、()()()()()()()()()()()()()()()()()だ。

 

 単純な、興味本位。

 

 普通ならば机上の空論で終わるところを、有り余る才能がそれを成し遂げてしまった規格外。

 

 まさに、変態の所業と言うべきだろう。

 

 頬が、紅潮する。

 

 鼓動が、高鳴る。

 

 戦意が、とめどなく溢れていく。

 

 同時に、二人は笑みを浮かべた。

 

「「蜂の巣に、してあげる(やる)」」

 

 そして、二人の天才(へんたい)が、弾幕勝負を開始した(あそびはじめた)

 

 

 

 

「あいつ等、馬鹿なのか……?」

 

 観戦席で見ていた三輪は、思わずそう呟いた。

 

 画面の中では、お互いのバイパーを()()()()()()()という常軌を逸した戦闘が繰り広げられている。

 

 その常識外れの光景に、普段クールを装っている三輪も、思わず目を見開いて頭を抱えている。

 

「まあ、どっちも弾バカだしなー。出水は勿論、那須さんも同じ穴の狢だったって事だな」

「同じ技術を修めているからと言って、こんな所まで似なくても良いだろうに……」

 

 米屋の言葉に、はぁ、と三輪は溜め息を吐いた。

 

 ぶっちゃけ、二人のやっている事は無駄の極みだ。

 

 常道ならば、距離を取り、睨み合いながら出方を探るように撃ち合うのが通りだ。

 

 だが、あの二人はそんなセオリーなど無視して、真正面から撃ち合っている。

 

 その光景に、自信満々に「伏兵と戦略次第だ」と解説した二宮は呆気に取られたように固まっていた。

 

 なお、元同部隊出身の関係上出水のプライベートを良く知る烏丸は、「やっぱりこうなったか」と言わんばかりの苦笑(えみ)を浮かべている。

 

 師匠と弟子として公私を弁えて付き合っていたか、チームメイトとして駄弁っていたか。

 

 その経験の差と言えよう。

 

「けどまあ、考えなしに撃ち合ってるワケじゃないと思うぜ。あいつは、どうしようもない弾バカだけどよ」

 

 ニヤリ、と米屋は笑い、告げる。

 

「楽しみながら、策を巡らせる。その程度の事は、普通に出来る奴なんだからな」

 

 

 

 

「ナースが此処で出て来たか。そして、イズイズを抑えている。()()()()だね」

 

 王子は遠目で二人の撃ち合いを見ながら、笑みを浮かべる。

 

 あの二人の予想外の超絶技巧(へんたいぎじゅつ)には驚かされたが、展開自体は予想の範疇である。

 

 出水を抑えに来るならば、それに匹敵する技術を持つ射手である那須を使う。

 

 それ自体は、王子も出水も予見出来ていた。

 

 あの狙撃に見せかけた速度重視のチューニングを施した通常弾(アステロイド)には騙されかけたが、結果的に即座に那須が出て来た事で下手に手駒を動かさずに済んだのは行幸と言えるだろう。

 

 王子は戦況を把握し、チームメイトに通信を繋ぐ。

 

「蔵内、準備はいいかい?」

『ああ、いつでもいけるぞ』

 

 そうか、と王子は頷き、続けて出水に通信を繋ぐ。

 

「イズイズ、そっちはどうかな?」

『今のところ、あっちが動く様子はねぇな。どうする? そろそろ仕掛けるか?』

「そうだね。あまり時間を与え過ぎても、却って逆効果か」

 

 王子は顔を上げ、不敵な笑みを浮かべる。

 

 そして、告げた。

 

「始めよう。仕掛け時だ」

 

 

 

 

「さて、やるか」

 

 那須と弾の撃ち落とし合い(変態同士の遊戯)を継続していた出水は、笑みと共にトリオンキューブを生成。

 

 それを、分割もせずに自分と那須の中間地点に向かって叩き込んだ。

 

「……!」

 

 弾丸の挙動からその弾の正体を看破した那須は、屋根を蹴って距離を取る。

 

 その一瞬後、弾丸が────────メテオラが、着弾。

 

 周囲を、爆風が薙ぎ払った。

 

「……っ!」

 

 爆風が住宅地を席捲し、家屋が薙ぎ払われる。

 

 那須はシールドを張りながら油断なくその爆風の向こう側を見据え、気付く。

 

 無数の光弾が、こちらに向かって飛来して来た事に。

 

(また変化弾(バイパー)を撃ってきた……? いや、それならこのメテオラ(目隠し)の意味がない。十中八九、合成弾……っ!)

 

 今のメテオラは、明らかにこちらに対する視界封鎖が目的。

 

 ならば、稼いだ時間を用いて出水が何をするかは明白だ。

 

 即ち、合成弾の作成。

 

 合成弾の開発者でもある彼は、ボーダー内でも屈指の合成弾の生成速度を誇る。

 

 今の一瞬で合成を実行する事など、苦も無く行えるに違いない。

 

 ならば、この弾丸は間違いなく合成弾。

 

 変化炸裂弾(トマホーク)か、変化貫通弾(コブラ)のいずれかだ。

 

(どちらにせよ、撃ち落とすだけね)

 

 どちらの合成弾にせよ、厄介な事に変わりはないが、那須には対抗策があった。

 

 即ち、合成弾を全て撃ち落とす。

 

 合成弾は両攻撃(フルアタック)の弾丸を二つに混ぜる構成上、通常の両攻撃よりも弾丸の()()自体は少なくなる。

 

 更に言えば速度等の調整も難しくなり、挙動の違いから合成弾である事を看破される事も有り得る。

 

 無論、あの出水が制御をしくじるとは思っていない。

 

 だが、処理能力自体が圧迫されるのは確かなのだ。

 

 那須も合成弾を使うからこそ、分かる。

 

 合成弾(これ)は、天才であろうとも通常の弾丸よりも処理能力を用いざるを得ないと。

 

 とは言っても、その差は出水や那須であればコンマ数秒程度のものだろう。

 

 しかし、その数秒が、明暗を分ける事もある。

 

 故に、先ほどのようにバイパーを用いれば撃墜は可能。

 

 那須の頭脳(カン)は、そう判断を下した。

 

(────────いえ、待って。変化弾(バイパー)系統の弾丸にしては、()()()()()()()()いる?)

 

 されど、その瞬間違和感に気付く。

 

 降り注ぐ弾丸の軌道が、()()()()()いるのだ。

 

 バイパー(Viper)はその名の通り、蛇のように複雑な軌道を描く事が出来る。

 

 だからこそ、障害物をすり抜けるようにして標的を狙う事が可能なのだ。

 

 だが、あの空から迫る弾丸は、弾幕全体の挙動がある程度統一されている。

 

 それは、バイパーを使いこなす那須だからこそ気付いた差異。

 

 故に、違和感を持った。

 

 あれは本当に、()()()()()()()()()という事を。

 

「そういう事か……っ!」

 

 気付く。

 

 その違和感の、正体に。

 

 判断は、一瞬だった。

 

 那須は即座に、その場でトリオンキューブを展開。

 

 迫り来る弾丸と同数になるように分割し、射出した。

 

「……!」

 

 そして、その軌跡を追うように、横合いから()()()()()()()()()()が現れた。

 

 その弾丸、バイパーは那須の放った弾丸全てに着弾し、()()

 

 那須の弾丸────────メテオラが爆発し、その爆破に巻き込まれた合成弾が誘爆。

 

 誘導炸裂弾(サラマンダー)は、連鎖誘爆によってその全てが中空で爆発した。

 

 そう、那須を狙った合成弾を放ったのは、出水ではない。

 

 その近辺に姿を隠していた、蔵内だ。

 

 那須が出水の弾丸をこれまで通りに迎撃しようとしていれば、それを出水がバイパーで撃墜。

 

 遮るものがなくなったサラマンダーが着弾し、那須に致命打を与えるという作戦。

 

 那須が弾丸の正体に────────否、その作戦に気付かなければ、彼女は無防備なまま爆撃を受け落ちていただろう。

 

 出水と同じく変化弾(バイパー)を使いこなす彼女でなければ、その違和感に気付けず落ちていただろう。

 

「────────だよな。那須さんなら、気付くと思ってたぜ」

 

 ────────だが、その程度、出水が考えつかない筈がない。

 

 彼は、信頼していた。

 

 那須の、才覚を。

 

 彼女ならば、この()()()()気付けるだろうと。

 

 故に。

 

「────」

 

 ()()の一撃を、放つ事が出来た。

 

 那須の背後に現れたのは、弧月を構えた樫尾。

 

 隠れていたのは、蔵内だけではない。

 

 樫尾もまた、出水の近くでずっと息を潜めていたのだ。

 

 迎撃するには、近過ぎる。

 

 射手が攻撃を行うには、キューブを展開し、それを分割。

 

 各種調整(チューニング)を行い、発射するという手順(プロセス)がある。

 

 銃手と違い、引き金を引くだけで撃てるワケではない。

 

 つまり、攻撃までに数瞬のタイムラグが発生するのだ。

 

 この距離ならば、那須が攻撃するよりも樫尾の刃が届く方が早い。

 

 詰み。

 

 そう言える、状況だった。

 

「え……?」

 

 彼女、()()だったならば。

 

 樫尾の腕が降り抜かれる事は、なかった。

 

 右腕の肘から先が、その瞬間斬り落とされたのだから。

 

「バレバレなんだよね、隠れてたの。()()()()()し」

「……っ!」

 

 咄嗟に振り向くが、一歩遅い。

 

 樫尾は更なる斬撃によって左腕も両断され、腕の両方を失った。

 

 これでもう、彼は剣を振るえない。

 

 襲撃者の、菊地原の攻撃を受けきれない。

 

 そう、最初から、那須は一人で来ていたワケではなかった。

 

 菊地原を伏兵として潜ませ、隙を見せた相手の背中を刺す刃として用意していたのだ。

 

 強化聴覚のサイドエフェクトを持つ菊地原は、()で相手の位置や挙動を判断出来る。

 

 幾らバッグワームを纏いレーダーから隠れていようが、彼の聴覚からは逃れられない。

 

 結果、襲撃を察知された樫尾は、その無防備な背を菊地原に突かれたというワケである。

 

「バイバイ」

 

 抵抗手段を失った樫尾に、菊地原は追撃を放つ。

 

 捨て身での特攻が出来ないように両腕を奪ってからの、トドメの一撃。

 

 那須を仕留める為に跳躍し、空中に躍り出ていた樫尾にそれを回避する手段はない。

 

 逃げるには、菊地原との距離が近過ぎる。

 

 至近距離まで迫った菊地原から逃げる事は、最早不可能。

 

 ハウンドで迎撃しようにも、この距離では間に合わない。

 

 詰み。

 

 正真正銘、樫尾に此処から生き残る手段はない。

 

 

 

 

「そうだね」

 

 目的地に向かって駆けながら、笑う影がある。

 

 彼は、王子は、不敵な笑みを浮かべ、告げる。

 

「そう来ると、思ってたよ」

 

 

 

 

「え……?」

 

 菊地原の刃は、確かに樫尾を貫いた。

 

 樫尾が自身の胸の前に展開した、()()()()()()()()()()

 

 その光景に、一瞬菊地原は理解出来なかった。

 

 ハウンドのトリオンキューブを咄嗟に展開したところで、意味はない。

 

 分割し、射出する時間がないのだから出したところで間に合わない。

 

 故に。

 

 これは、()()()()()()()()()()()

 

「……っ!?」

 

 スコーピオンに貫かれたキューブが、()()

 

 その爆発に巻き込まれ、菊地原は樫尾諸共吹き飛ばされた。

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