痛みを識るもの   作:デスイーター

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第二試験、総評

 

部隊得点旗持ち点生存点合計
那須隊72211
王子隊6 6

 

 

「決着ぅ……っ!! 七海が太刀川を撃破して、王子もトリオン切れで緊急脱出……っ! 11:6で那須隊の勝利だぁ……っ!」

 

 画面に結果が表示され、光のアナウンスと共に会場が沸き上がった。

 

 王子の奮闘も然ることながら、最後の勝負を決めた太刀川との戦闘は見事としか言いようがなかった。

 

 何より、影浦の時のように1対1ではなかったとはいえ弟子である七海が師匠である太刀川を下したのだ。

 

 これで何も感じないほど、此処に来ている者達は冷めてはいない。

 

 会場のそこかしこから、健闘を称える声があがっていた。

 

「フン……」

 

 二宮はその様子を、いつも通りの仏頂面で眺めていた。

 

 総合一位である太刀川が負けた事に思うところはあるが、それを成し遂げたのが自分達を打ち破った那須隊である、という事に関してある程度納得している部分もあるのだ。

 

 二宮は、自分を破った那須隊を認めている。

 

 しかしそれを素直に言うほど、二宮の捻くれ具合は軽くはなかったというだけである。

 

「最後は三人の連携でどうにか仕留めましたけれど、あの戦術についてはどう思いますか? 二宮さん」

「恐らく、最初から本命は七海だったんだろうな。そうでなくては説明がつかない」

 

 烏丸に解説を振られ、二宮はそう言って切り出した。

 

「太刀川は基本的に、戦闘において隙らしい隙は一切見せない。あいつはああ見えて戦闘中の視野は広いし、攻め一辺倒というワケでもない。二刀流を使っているから派手に見えるが、戦い方そのものは堅実だ」

「そっすね。基本に忠実な事をとんでもなく高いレベルでやってるから、あの人は強いんですし」

 

 二人の言うように、太刀川の強さはその安定した地力と危なげない試合運びにある。

 

 旋空弧月二刀流というゲテモノにも程があるスタイルではあるが、この試合で見せたように彼は常に二刀流で戦うワケではない。

 

 場面場面で必要な選択を瞬時に行い、常に最適解を導き出して戦うのが太刀川の戦闘スタイルだ。

 

 生駒旋空のような一芸こそないが、戦闘方法に拘りがないオールラウンダーだからこそ、相性の有利不利に関係なくその地力を押し付ける事が出来る。

 

 だからこその、総合一位。

 

 隙らしい隙など、まず見せるワケがないのだ。

 

「だから、太刀川を仕留めるにはあいつの処理能力を限界まで使わせた上で、予想外の一手を打つ必要がある。ごり押しだけでは、まず勝てない相手だ」

「ええ、ただのごり押しなら、太刀川さんが負ける通りはありません」

「同様に、付け焼刃の浅知恵も意味を為さない。戦闘中のあいつは、普段とは頭の出来が違うからな」

 

 ごり押しも、ただの小細工も通じない。

 

 それはA級時代に鎬を削り合った二宮はよく理解しているし、太刀川隊として共に戦った烏丸も同様だ。

 

 ごり押しだけなら、太刀川の地力で押し返せる。

 

 小細工だけでも、すぐに看破されて返り討ちにされる。

 

 故に。

 

 太刀川に勝つには、文字通り()()を賭す必要があったワケだ。

 

「七海は最初、風間さんがカメレオンを使う隙を作る事に全力を注いでいた。あれは、風間さんが()()()であると相手に印象付ける為だろうな」

「実際、風間さんに姿を消されちゃ射撃トリガーなしじゃきついっすからね。カメレオンの切り替え速度と隠密技能が半端じゃないっすから」

「ああ、そういう意味では出水を先んじて仕留めた判断は正解だったな。あいつが生き残っていたら、そもそも作戦が成り立たなかった筈だ」

 

 カメレオンは、射撃トリガー────────特に、ハウンドで対策が出来る。

 

 無論、その程度風間にとっては慣れた事だが、相手が太刀川となると射撃トリガーの対応に割くリソースの差が致命的になる恐れがある。

 

 そして、出水はサポートのエキスパート。

 

 彼が太刀川の援護に回っていたなら、結果は全く違うものになっていただろう。

 

「それから、那須さんが日浦さんを身を挺して守った理由も分かりましたね。あの状況なら、射撃より狙撃の方が援護になる」

「そうだな。那須の射撃で援護すれば、弾丸の軌道からカメレオンを使用した隊員の位置が割れてしまいかねない。那須の腕が、逆に命取りになるワケだからな」

 

 那須の技術ならば、正確に七海と風間を避けて弾丸を撃ち込む事は出来る。

 

 だがそれをすれば、弾丸の通らない空白地帯を解析すれば、カメレオンを使用した者の居場所がバレてしまう可能性があった。

 

 少なくとも、国近なら出来る。

 

 その程度の解析は、あの少女は当たり前のようにこなすのだから。

 

「もしかして、那須さんは最初からあの場面で落ちるつもりでいたんですかね? だから、わざわざ両防御(フルガード)を日浦さんに使ったとか」

「可能性はあるだろな。生き残ったなら、那須が七海達を援護しないのは不自然だ。自然な形で落ちる事が出来るように、わざと隙を見せたとしても不思議じゃない」

 

 だが、と二宮は続ける。

 

「それ以上に、日浦に落ちて貰うワケにはいかなかったんだろうな。最後の連携に、アイビスを使える日浦は必要不可欠だった」

 

 そう、あの場面では、茜のアイビスでの援護は必須だった。

 

 アイビスは、ノーマルトリガーでは最強クラスの威力を誇るトリガーだ。

 

 両防御の集中シールドでなければ防げないその弾丸は、人間相手に使うには些か過剰火力ではある。

 

 だが、だからこそ、太刀川の意識をそちらに向けさせる事が出来た。

 

 これがライトニングならば広げたシールドで難なく対処していただろうし、イーグレットも集中シールド一つで防げる。

 

 両防御でなければ防げない狙撃を行ったが故に、アイビスとアステロイド、その両方の対処に集中させる事が出来た。

 

 大威力のアイビスだからこそ、太刀川の処理能力に負担をかける事が出来たのだ。

 

 あの場面では、単発で、尚且つ高い威力を持つアイビスこそが最適解だったというワケだ。

 

「この試合、那須隊は七海の切り札────────カメレオンの存在を隠す事に、全霊を費やしていた。あれが露見してしまえば、勝つ事は出来なかっただろうからな」

「太刀川さんの意表を突く、とっておきの()()()。まさしく、切り札と呼ぶに相応しいですね」

 

 風間さん、鼻高々だろうなあ、と烏丸はふと心の内で呟いた。

 

 七海がぶっつけ本番でカメレオンを使った────────などとは、烏丸は考えていない。

 

 風間は、七海の師匠筋なのだ。

 

 訓練の中で、自分が得意とするカメレオンの扱い方を教えていたとしても、なんら不思議ではない。

 

 自らの得意分野を用いて七海が太刀川を下した事に、風間はまんざらでもない感情を抱いている筈だ。

 

「七海は恐らく、シールドの片方を抜いてカメレオンをセットしていたのだろう。熊谷の那須の援護に向かわなかったのも、両防御が使えない事を隠す為だったんだろうな」

「七海さんという駒を温存する事を、何よりも徹底していたワケですね。両防御を捨てた七海さんといい、今回は中々大胆な手を使いましたね」

那須隊(あいつら)が大胆な手を使うのは今に始まった事じゃない。勝つための工夫は、幾らあっても足りないんだからな」

 

 そっすね、と烏丸は二宮の言葉に同意する。

 

 那須隊は、これまで様々な戦術を用いて勝ち上がって来た。

 

 相手チームを研究し、自分達の強みを押し付け、的確に相手の意表を突く。

 

 だからこそ、格上殺しを成し遂げる事が出来たのだ。

 

 那須隊は個々人の戦力は、そこまで突出しているワケではない。

 

 高い機動力を持つ七海と那須のエース二人は個人戦でもそれなりに優秀ではあるが、太刀川などのトップメンバーと比べれば見劣りする。

 

 今回太刀川に勝てたのも、しっかりと作戦を練って複数人で仕掛けたからだ。

 

 決して、七海一人の実力というワケではないのだから。

 

「その工夫の一環として、七海が旗持ち(フラッグ)をしていたんだろう。最終局面まで温存しても、不自然でないようにな」

「そっすね。旗持ちなら、隠れててもなんら不思議じゃないですからね」

「ああ、そうでなければ、あの作戦が巧く行っていたとは考え難いからな」

 

 二宮はそう告げ、画面を見据える。

 

「太刀川を仕留めた作戦の肝は、七海のカメレオンだ。こいつが露見するかどうかで、作戦の成否は違って来る。だからこそ、七海という貴重な戦力を徹底して温存するという賭けに出たワケだ」

「シールドを片方削ってるのがバレたら、何か新しいトリガーをセットしてるってのが知られちゃいますからね。だから、射手が生き残っている間は隠密に徹してたんでしょう」

 

 そう、この試合で七海が姿を現したのは、王子に致命傷を負わせた時だ。

 

 それまでは蔵内を仕留める時にももぐら爪を使い、自身の姿を見せないように気を配っていた。

 

 幾ら七海でも、練度の高い射手相手に回避だけで全弾を凌ぎ切るのは流石に厳しい。

 

 いざという時両防御(フルガード)出来ないという状況は、どう考えても射手相手にはリスクが高い。

 

 だからこそ、七海は射手や射程持ち相手が片付くまで、戦闘への介入を控えていたのだ。

 

 全ては、カメレオンという切り札を隠し通す為に。

 

 七海が両防御出来ないと知られれば、太刀川ならその違和感から正答に辿り着きかねない。

 

 そうなれば、勝機はなくなる。

 

 その展開を防ぐ為に、ある程度の犠牲を容認して七海を温存したのだろう。

 

 太刀川を倒す。

 

 ただ、それだけの為に。

 

「どれだけ立派な講釈を垂れようが、具体的なプランがなければ無意味だ。あいつらは、それが分からない程馬鹿じゃない。勝つべくして勝った戦い、と言えるだろう」

「それでも、太刀川さんを落とせたのは凄いと思いますけどね。まあ、落とせなきゃ負けてたんですけど」

「お粗末な展開もあったが、それだけ王子隊が奮闘したという事だろう。もっとも、それが最初から出来ていれば結果は違ったかもしれんがな」

 

 王子隊は今回、那須隊の作戦に振り回されていた側面があった。

 

 隊長の王子の、事前情報を重要視し過ぎるという点を突かれ、動きを誘導された。

 

 後半は王子の奮闘で五分五分の所にまで持ち直す事が出来たものの、結果として王子隊・太刀川隊は全滅。

 

 11:6という大差で、敗北してしまう事になった。

 

 前半のやりようが違っていれば、また違った結果になったかもしれない。

 

 あくまで、もしも(if)の話ではあるのだが。

 

「ともあれ、これで改めて改善点が分かった筈ですから、これからですよ。少なくとも、出水先輩ならそう言う筈です」

 

 

 

 

『おうおう、俺の言いてえ事大体言ってくれたなー、京介。俺の出番がねえじゃねえか』

「イズイズ……」

 

 王子隊、作戦室。

 

 通信を繋いだその場所で、画面越しに出水はそう言って苦笑した。

 

 画面の向こうには太刀川や国近の姿もあり、その誰もが王子達の健闘を称えていた。

 

「おう、途中で気になったトコはいくつかあったけど、全く芽がねぇってワケじゃない。戦術レベルは、割とそれなりだしな」

「一つ言うとすりゃ、そーだな。相手の動きを()()()()んじゃなくて、予想外の一手に対する()()をしておいた方が役に立つぜ。100%動きを読み切るなんてのは無理ゲーに近いんだから、ある程度余裕を持って迎撃の準備をしといた方が無難だぜ」

 

 多分だけどさ、と前置きして出水は続ける。

 

「王子はさ、那須隊に一泡吹かせてやりたい、って想いが強過ぎたんじゃないか? 奇策にばっか意識が向いて、足元が少し覚束なかったしな」

「返す言葉もありませんね。仰る通りです」

 

 王子は出水の言葉を受け止め、頷く。

 

 確かに、今回の試合にそういった私情がなかったとは言い切れない。

 

 王子自身がどう考えていたとしても、傍目から見ればそう見えても不思議ではなかった。

 

 そこは、王子も認めるところである。

 

「ま、これで次の展望は出来たろ。立場上贔屓は出来ねーが、応援してるぜ」

「はい、ありがとうございました」

 

 王子は礼を言って、頭を下げた。

 

 その様子を出水達は暖かく見守り、蔵内達は決意を新たにする。

 

 負けはしたが、意味のある負けだった。

 

 王子隊は、まだまだこれからなのだから。

 

 

 

 

「那須隊は、風間隊の使い方が少し雑だったな。菊地原はある程度は仕方ないが、歌川は落とさなくても良い駒だっただろが」

「まあ、そこは仕方ない面もありますが」

 

 烏丸の言う通り、風間隊を使いこなせなかった要因の何割かは小夜子の事情にある。

 

 小夜子が風間隊に情報や指示を伝達する為の、幾分かのタイムラグ。

 

 これは、無視出来ない要素だったと言える。

 

「問題がハッキリしているなら、その対策を練るのも戦術の一環だ。事情があるから負けました、なんて言い訳は戦場では通じないからな」

 

 戦場では、言い訳は通用しない。

 

 勝つか負けるか。

 

 生き残るか、死ぬか。

 

 二つに一つだ。

 

 それを分かっているからこそ、二宮は厳しく告げる。

 

「欠点を改善出来ない理由があるのなら、その補填くらいはしっかりやれ。俺が言えるのはこれくらいだ」

「作戦事態は、見事なモンだったっすからね。最終的には勝てたし、結果論としちゃ悪くないでしょ」

「フン……」

 

 試合中何度か告げた「結果論」という言葉を引用した烏丸に対し二宮は目を細めるが、それだけだ。

 

 二宮も那須隊の活躍自体は認めている為、それ以上の言及はない。

 

 公の場では流石に空気を読んだ、とも言えるが。

 

「おっし、二人ともごくろー。良い総評だったぜ」

「────」

「ども」

 

 総評が終わりと見るや、最後の仕上げをやるべく光が口を出す。

 

 意気揚々とマイクを握り締め、光は高らかに声を張り上げた。

 

「そんじゃあ、A級昇格試験第二試合、昼の部はこれで終わりだっ! おつかれさんっ!」

 

 光の口から、試験の終了が告げられる。

 

 A級昇格試験、その二つ目の試合は、こうして幕を閉じた。

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