| 部隊 | 順位 | 得点 |
| 二宮隊 | 1位 | 26Pt |
| 那須隊 | 2位 | 25Pt |
| 影浦隊 | 3位 | 21Pt |
| 香取隊 | 4位 | 16Pt |
| 弓場隊 | 5位 | 15Pt |
| 生駒隊 | 6位 | 12Pt |
| 王子隊 | 7位 | 11Pt |
「僅かだけど、二宮隊の上は取れなかったか……」
七海は表示されたポイント表を見て、軽く溜め息を吐いた。
結局部屋にやって来た那須とそのまま添い寝をした七海は、今朝方携帯端末に通達されていた昨日の試験結果を反映させた各隊の順位を確認していた。
結果として、二宮隊には僅か1ポイント及ばなかった。
今回那須隊は11ポイントという大量得点を獲得していたが、二宮隊も同等の大量点を得ている。
流石は、元A級部隊と言えるだろう。
困難な筈のA級隊員撃破も、難なくこなしている。
このまま、僅差であっても二宮隊のポイントを上回れないままではマズイ。
試験の説明では「順位だけで全てが決まるワケではない」との事だったが、各隊の順位が結果に大きく繋がっているであろう事は明白だ。
思うに、風間がそう告げたのは「ただ強いだけでA級になれるワケではない」という事を伝えたかったのだろう。
A級隊員は、B級隊員とは一線を画する存在だ。
トリガーの改造を本格的に行う事が出来たり、B級と比較して組織の中での立ち位置も大分変わって来る。
組織からの信頼度の大きさ、それが違う。
たとえば、C級隊員は普通の職場で言えばアルバイト、どころか研修生、もしくは見学のような扱いだ。
組織の機密に触れる機会などまず無いし、大きな仕事を任される事もない。
B級は、いわば正職員だ。
本格的にボーダーの業務に関わる事が許され、いち戦闘員としての扱いを受ける。
トリガーの制限も解除され、ボーダー隊員としての職務を全う出来るようになるのだ。
そして、A級隊員は幹部、もしくは経験を積んだ上席職員といったところだろう。
場合によっては組織の機密に触れる事もあり、重要な役割を任される事もある。
更に、出張────────即ち近界への遠征が行えるようになるのも、A級隊員からだ。
遠征の選抜がA級隊員のみからというのは遠征艇の大きさの問題もあるが、何よりボーダーの庇護の届かない近界という異世界に向かうにあたり、相当の実力と信頼性が必要となるからだ。
力の足りない者を遠征に連れて行くのは自殺行為そのものだし、その者だけではなく他の人員も危険に晒す。
更に、人間的に信頼がおける人物かどうかというのも重要だ。
この場合、必要なのは作戦行動の徹底と職業倫理の順守である。
基本的に、遠征は何らかの目的があって行われる。
それは近界に拉致された人員の救助であったり、未知のトリガーを鹵獲・解析する事であったりする。
その作戦目標の為に行動するのは当然だし、作戦外の行動は危急を要する場合を除き行うべきではない。
遠征先で好き勝手に動いて余計な危険を呼び込むなど、当然論外だ。
また、遠征はあくまで近界へ向かい何らかの利益を取得する為に行うものであり、まかり間違っても近界の惑星国家に喧嘩を売る為ではない。
その為、近界民への憎悪を制御出来ていない者は、当然選考から外される。
独断専行をしかねない危険因子を、遠征に連れて行くワケにはいかないからだ。
これは公式見解ではないが、恐らく事実であろう。
他ならぬ風間が、遠征に関する話題でそう口にしていたからだ。
そして今回、その風間は試験官の一人である。
少なくとも、実力だけではなく人間性も鑑みて結果を出すであろう事は言うまでもない。
これは七海の私見だが、遠征選抜は個人的な目的を持って参加しようとする者ほど、選考から漏れ易いのではないかと考えている。
個人的な目的があるという事は、
故に、明確に救出したい人員が要る等の目的を持った人物ほど、遠征から弾かれる可能性が高いのではないかと考える。
遠征目的とその個人の目的が合致している場合でもない限り、そういった人物が遠征に参加する事は難しいのではないか。
そういう意味で、二宮が今回の試験を通るか否かは微妙なところだ。
二宮は、個人的な目的を持ってA級に復帰しようとしているらしいからだ。
以前二宮は、七海に対して直接自分の隊への引き抜きを打診した。
それも隊長である那須を通さず、七海をいきなり呼び出して、である。
今にして思えば、少々どころではなく非常識だ。
故にそれだけ、二宮はA級へ戻る事を熱望しているという事になる。
そこまでしてA級に戻ろうとする理由など、遠征以外に考えられない。
確かな証拠────────いや、
あの勧誘の時、二宮は言っていた。
「自分には、遠征を目指す理由がある」と。
つまり、いるのだろう。
近界から連れ戻したい、
それが誰か、そしてどんな事情を抱えているかは、七海には知る由もない。
もしかすると犬飼あたりに聞けば以前の件の迷惑料代わりに教えてくれるかもしれないが、そもそも七海にそこまで踏み込む理由はない。
影浦等と違って、二宮個人とはそう親しくはないし、プライベートに干渉するような間柄でもないからだ。
七海個人の手に抱えられるものには、限りがある。
だからこそ不用意に他人の事情に手を出そうとは思わないし、自分が動いただけで全てがどうにかなると思うほど己惚れてもいない。
人間一人で出来る事など、たかが知れている。
荷物の取捨選択は、生きていく上で必須なのだ。
ともあれ、二宮がA級に戻りたがっている事情は、恐らく上層部も把握している。
もしかすると上層部に近い風間なども知っているかもしれないが、ともあれ二宮に危うい面がある事を彼等は知っているワケだ。
故に二宮隊がどんなにポイントを稼ごうと、A級入りの座を奪われる心配はない────────とは、決して言えない。
何故ならば、とうの二宮が言っていたからだ。
「試験をパスすれば、条件付きでA級に戻る事が出来る」と。
あの時の文脈から、忍田本部長と何らかの取引があった事は窺い知れる。
そして試験さえ通ればA級に戻れると断言している以上、二宮隊を軽視する事は明確な悪手だ。
A級を目指すにあたっての最大のライバルとして、警戒しなければいけないだろう。
「出来れば次は、点数的には四人部隊と当たりたいな。此処で二宮隊の上を取るには、それが一番手っ取り早い」
試験を行うにあたって、相手の人数が多ければ多いほど当然取得可能な得点は多くなる。
このA級昇格試験に参加しているB級部隊の中で、四人部隊は那須隊を除けば二チームのみ。
生駒隊と、弓場隊である。
無論、人数が多ければその分取れる戦略も多様になり、苦戦は必至だ。
しかし、状況はそんな事を言っている場合ではない。
このままいけば、二宮隊は次の試合でも大量得点を取りかねない。
二宮隊は、ただでさえ二宮という歩くMAP兵器がいるのだ。
つまるところ、二宮隊の最も強力な戦術は、足場を整えた上で二宮を自由に暴れさせる事である。
ただでさえ、二宮隊には犬飼という反則的なサポート能力を誇る人物がいるのだ。
そこにA級部隊の補助が加わり、二宮が十全なパフォーマンスを発揮出来るようになれば。
大量得点など、容易く取れても不思議ではない。
個人総合二位の実力は、伊達ではないのだ。
だからこそ、次の試合でも一点でも多く点を取る必要がある。
その為には、相対する相手は四人チームの方が都合が良い。
多少のリスクを引き換えにしてでも、一点でも多く得点を稼ぐ。
そのくらいの心意気がなければ、二宮隊には勝てないだろう。
「今回は、ルールがルールだしな」
七海は一人呟くと、手元の端末に表示された第三試合の
『ビッグトリオンルール』
①試合開始前に参加するB級部隊員の中から一人を選び、試合中その隊員のトリオン量を評価値14相当に設定する。
②この方法で選んだ隊員が落とされた場合、落としたチームは追加点一点を得る。
③試合中一度のみ、この方法で選んだ隊員が同じ部隊の隊員の半径5メートル以内で緊急脱出した場合、その隊員のトリオン量を評価値14相当に設定する。
④③の方法でトリオン評価値14相当になった隊員が緊急脱出した場合、落としたチームは一点の追加点を獲得し、その時点で試合終了となる。
「また、癖のあるルールになったな」
改めて表示されたルールを見て、七海は溜め息を吐いた。
隊員を一人選択し、評価値14相当────────即ち、あの二宮級のトリオンとする。
つまり、自部隊の中から一人、トリオン強者を作り出すルールである。
言うまでもなく、ランク戦においてトリオン量というものは重要だ。
ブレードトリガーメインの攻撃手となるとそうでもないが、射手や銃手等はトリオン量が多ければ多い程有利なのは言うまでもない。
何せ、トリオンが多ければ弾丸の威力が上がり、強力な弾幕を張る事が出来る。
また、狙撃手トリガー等は明確にトリオン量によって性能が向上する。
ライトニングはまさに閃光そのものの一撃と化し、アイビスは防御不能の攻撃同然となる。
そしてなにより、トリオン切れでの緊急脱出の危険もトリオン量が多ければさほど心配する必要はなくなる。
トリオン量さえ多ければ勝てるというものではないが、少なくとも多ければ多い程優位に立てるのは事実である。
二宮の場合はその恵まれたトリオン量と本人の高い技量が両立した、一番厄介なタイプだ。
ただの力押しではなく、その技術も一流で策を用いる事すらある。
持って生まれた力に頼るだけではなく、自己研鑽を欠かさなかった傑物である。
ともあれ、その二宮級のトリオンが得られるというのは、大きなメリットだ。
第三試合では、誰にその恩恵を与えるかが勝負の分かれ目になりそうである。
(順当に考えれば、玲のトリオン量を上げるのが一番手っ取り早い。玲は射手だから、上がったトリオンを充分以上に有効活用出来るだろう。だけど、逆に言えばそれは相手からも推測が容易という事になる)
那須隊の中でトリオン量を上げて明確に強さが増すのは、言うまでもなく那須である。
射手である那須はトリオン量が明確に実力に直結する為、ある意味一番分かり易く強くなるのだ。
つまり、それだけ相手からしても
このルールは、実際に戦闘を見るまで誰がトリオン量を上げたか判別が出来ない。
故に本来トリオン量が少ない隊員のトリオンを上げての不意打ちは有効な奇襲と成り得るが、那須の場合は
分かり易く強くなるからこそ、一番の警戒対象に成り得る。
そういうデメリットを、那須は抱えているのだ。
(けど、このルールを玲に適用出来ないのは惜しいといえば惜しい。選択肢からの排除は早計か。そのあたりも含めて、後で志岐と相談するか)
とはいえ、那須のトリオンが増えれば有利なのは言うまでもない。
奇襲性は薄れるかもしれないが、有効な手段である事は間違い無い。
那須のトリオン評価値は、『7』。
それが倍になるとなれば、相当な強化になる。
弾丸の威力も上がるし、残弾を気にする必要もなくなる。
現時点では、選択肢から外すべきではないだろう。
後で、
「ん………」
寝ぼけ眼で身体を起こした那須は、目をこすりながらぼーっと七海を見詰めた。
「……おはよう、玲一」
「ああ、おはよう。良く眠れたか?」
「うん。安心して眠れたよ」
那須はそう言って、にこりと笑みを浮かべた。
無防備な、相手を信頼しきった笑み。
この世界で七海だけが堪能出来る、彼女の極上の笑顔である。
そんな顔を見せられて、自然と七海の頬が綻ぶ。
無痛症の為情動が薄れた彼だが、相手を想う心はきちんと残っている。
笑顔を向けた那須に笑い返し、七海は肩の力を抜いた。
今はただ、この一時を大切にする為に。
翌日。
七海達の端末に、次なる試合の組み合わせが表示された。
────────A級昇格試験、第三試合────────
────────那須隊・嵐山隊VS弓場隊・風間隊────────
────────上記の組み合わせにより、第三試験を執り行う────────