痛みを識るもの   作:デスイーター

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合同戦闘訓練/STAGE3
第三試験、開始


 

「じゃあ、打ち合わせを始めようか」

 

 11月23日、A級昇格試験第三試験当日。

 

 七海が音頭を取り、最終ミーティングが開始された。

 

 隊長は那須だが、こういった纏めを行うのは七海の方が適している。

 

 那須自身も彼の手腕は知っている為、敢えて前に出たりはしない。

 

 適材適所、というワケだ。

 

「まず、何においてもやらなきゃいけないのは菊地原を落とす事だ。あいつがいる限り、向こうに情報アドバンテージで上を行かれてしまう。その脅威がどれ程のものか、俺たちは前回の試合で体感した筈だ」

「そうね。あの感知力はかなり厄介だわ」

「同感。あれは真っ先に落としておきたいわ」

 

 那須や熊谷が同意したように、この試合である意味最大の脅威と言えるのが菊地原だ。

 

 本人の戦闘能力自体は一線級のエースと比べれば一歩譲るものの、そのサイドエフェクトを用いた感知能力は凶悪の一言だ。

 

 流石に戦場全域をカバーするまでは至らないだろうが、それでも菊地原の近辺の情報は全て抜かれてしまうと考えて差し支えない。

 

 つまり、彼が生きている限りこちらの位置や挙動は全てあちらの知るところとなり、奇襲も逃走も困難になる。

 

 最優先で撃破するべき相手なのは、まず間違いないだろう。

 

「けれど、菊地原が生きている限りアドバンテージを得られるなんて事は向こうも承知しているだろう。だから恐らく、菊地原はギリギリまで前線には出さず、サイドエフェクトを活かした情報収集に徹させる方針で来る可能性が高い」

「戦力としてではなく、生きたレーダーとしての運用か。確かに、それをやられるとキツいわね」

 

 だが無論、それは弓場隊側としても当然承知している筈だ。

 

 故に菊地原を戦力として扱うのではなく、レーダーとしての役割に徹させる。

 

 確かに、一刻も早く菊地原を排除したいこちら側としてはその方法を取られると苦しくなる。

 

「今回の試合では、菊地原の生死が勝敗に直結すると言っても過言じゃない。そういう方策を取る確率は、決して低くないだろう」

 

 

 

 

「────────と、そんな事を考えているだろうから、場合によっては自己判断で戦って貰って構いません。その方が、不意が突けますから」

 

 神田は弓場隊の隊室で、笑みを浮かべながらそう告げた。

 

 通信越しの風間が、微かに笑った気配がする。

 

『良いのか? 菊地原の生存が最優先だ、と言ったのはお前だろう?』

「確かに菊地原の能力は俺達に莫大なアドバンテージを齎しますが、そこに拘泥してチャンスを逃すようでは彼らには勝てません。安全策(逃げ)に走った相手を見過ごす程、甘い相手じゃありませんしね」

 

 王子達はそれで失敗しましたしね、と神田は続ける。

 

 第二試験、王子は那須隊の戦力を過大評価するあまり、動きを鈍らせてしまった。

 

 強引に攻めれば勝てたという話でもないが、戦場でそういった躊躇いは相手に付け入る隙を与える。

 

 慎重策を取るのは悪い事ではないが、時にはリスクを承知で思い切る事も必要だ。

 

 リスクを恐れていては、大きなリターンは望めないのだから。

 

「それに、こと奇襲に関しては風間隊(あなたがた)の方に一日の長があります。俺達がタイミングを計るより、そちらに任せた方が得策だと判断しました」

『成る程な。了解した。菊地原は基本的には隠密に徹させるが、場合によってはこちらの判断で戦線に投入する。無論、その時には一報を入れるがな』

「はい、構いません」

 

 そうか、と風間は笑みを堪えながら頷いた。

 

 その脳裏に浮かぶのは、前回の試合前のミーティング。

 

 七海は奇しくも、今の神田と同じく戦場でのある程度の判断を風間隊に委ねて来た。

 

 これは、悪くない選択だ。

 

 神田自身の言う通り、隠密(ステルス)戦闘を専門とする風間隊はいわば奇襲のエキスパートだ。

 

 奇襲のタイミングやリスクヘッジ、その後の撤退に至るまでその技術や観察眼は熟練の域にある。

 

 下手に弓場隊で指示を出すよりも、風間隊の判断で動いた方が戦果を獲得出来る確率が上がる。

 

 更にこれは、ルールに抵触しない範囲で風間隊の指揮能力を一時的に借り受ける事が出来る手段でもある。

 

 この試合は、あくまでも()()

 

 表立って献策を頼んだり指揮を預けるような真似をすれば、減点は避けられない。

 

 だがこれは、作戦の一環として風間隊にある程度の自由行動を認可する事で、その高い指揮能力、判断能力を運用()()()()事が出来るのだ。

 

 いわばルールの穴を突いた、グレーゾーンの行為。

 

 しかし表立って禁止されていない以上、風間がそれを咎める理由などある筈もない。

 

 法則(ルール)の抜け穴を探すのも、一つの才能なのだから。

 

「それから、条件が合致するMAPだった場合は以前お話した通りに()()()()()()を軸に作戦を開始します。オーソドックスな市街地MAPやROUND7のような開けたMAPであれば、第二プランで行きます」

『第一プランほど有利は取れないだろうが、こればかりはMAP次第だからな。次善の策を忘れないのは当然だな』

 

 この合同戦闘訓練では、MAPは毎試合ごとにランダムに決定される。

 

 通常のランク戦と異なり、どの部隊もMAPの決定権を持たず、試合が開始されて初めてどのMAPで戦うかが明かされる。

 

 故に、MAP選択権を行使した地形戦が行えない。

 

 少なくとも、ROUND5で鈴鳴がやったような特殊なMAPを前提とした作戦を取る事はまず不可能だ。

 

 故に神田は、複数の戦術(プラン)を用意した。

 

 前提条件に合致したMAPが選ばれれば第一プランを実行し、そうでなければ第二プランを採用する。

 

 最初から一つに絞った作戦を立てるのではなく、複数の戦術を予め用意しておきMAPに応じたものを採用する。

 

 それが、神田の方策。

 

 博打にも見えるが、それは違う。

 

 戦場では、元々戦う場所を指定出来る方が稀なのだ。

 

 ならば、どんな場所であろうと動く事の出来るよう万全の準備を行うべし。

 

 神田はただ、それを実行しているに過ぎない。

 

 確かに、試合開始までMAPが公開されないというルールは厄介だ。

 

 しかし、それは無策で臨んで良いという理由にはならない。

 

 どのMAPで戦うか分からないならば、どんな地形でも戦えるようしっかりと準備を整えておく。

 

 その程度の事が出来ずして、A級に上がる事など出来ない。

 

 多少不利な地形になった程度であっさり負けるようでは、()に上がる事など夢のまた夢なのだから。

 

「それから、基本的に転送されたら全員すぐにバッグワームを使ってくれ。相手に狙撃手が二人いるけれど、菊地原の位置を推測する材料を残したくはない。今回の試合は、菊地原の使い方次第で大きく転がり得るから隠蔽最優先だ」

 

 基本は隠れて、後は臨機応変にね、と神田は続ける。

 

 いざとなれば菊地原の戦線投入は躊躇わないが、それはそれとして基本は彼の位置を相手に知られる事は避けるべきだ。

 

 慎重過ぎるのも問題だが、考えなしに切って良いカードでないのは確かなのだから。

 

 そして、バッグワームを全員で使用する理由は簡単だ。

 

 バッグワームの使用の有無で、菊地原の位置を逆算される事を防ぐ為だ。

 

 試合では、全員が()()()()()を置いてランダムに転送される。

 

 そしてこの試合形式では最初から2チームしかいない為、空白地帯────────即ち自部隊の隊員から一定の距離にある場所には必ず対戦相手が転送されている事になる。

 

 そこで数人のみがバッグワームを纏わずに反応を示せば、残りの空白地帯の何れかに残りの対戦相手が転送されている、と推測出来るのだ。

 

 故に、狙撃の危険を承知の上で全員がバッグワームを纏うようにする、というワケである。

 

「後は、MAPと転送位置を見て随時俺が指示を出します。一応、それぞれのMAPに応じた大まかなプランは考えて来ましたので」

「おう、頼んだぜ」

「はい、頑張りましょうっ!」

 

 神田の言葉に弓場と帯島が追随し、外岡もこくりと頷いた。

 

 意気軒昂、気合充分。

 

 モチベーションは、この上なく高まっているようだ。

 

『例のトリガーの扱いは、問題ないな?』

「ええ、迅さんにみっちり鍛えて貰いましたから。なんとか、付け焼刃の状態は脱したつもりです」

『なら良い。それから、大事な事だが───────ビッグトリオンルールの適用者は、以前話した通りで大丈夫か?』

 

 風間の問いに、神田は笑い、答えた。

 

「ええ、予定通りで行きます。それが、俺達に出来る最善ですから」

 

 

 

 

「ビッグトリオンルールの適用者は、以前話した通りだ。作戦に変更はない」

 

 七海の言葉に、那須隊の面々はこくりと頷いた。

 

 既に、大まかな作戦内容は決まっている。

 

 今行っているのは、あくまで最終確認。

 

 此処に来て大幅な計画変更は、まず有り得ないと言って良い。

 

『本当にそれで良いんですか? 最初に出た案の方が、効力は高いと思いますが』

 

 故に、疑問を呈してきたのは木虎だ。

 

 七海の選んだビッグトリオンの適用者は、木虎の予想と外れていた。

 

 だからこそ、木虎としては気にせずにはいられない。

 

 何故、その選択をしたのかという理由にこそ、彼女は興味を示しているのだから。

 

「ああ、構わない。確かに目に見える効果は最初の案の方が上だろうけど、その程度向こうも充分警戒している筈だ。見た目ほどの戦果を挙げられるかは、正直賭けになる」

 

 けれど、と七海は続ける。

 

「この選択なら、色々と応用が利く上に相手に見透かされている可能性は低い。だから俺は、こっちの方が良いと判断した」

『そうか。君がそう思うなら構わない。これは、あくまで君達の試験だ。七海くん達が選択したのならば、俺達にそれを止める権利はない』

 

 嵐山は迷いなくそう断言し、それを横で聞いていた木虎が少々気落ちしながらも顔を上げる。

 

『…………そうですね。すみません、余計な時間を使わせました』

「いや、構わない。疑問に思うのも当然の事だし、試験官である以上質問する権利はあるからね」

 

 唐突な質問に思えたものの、今回の木虎は試験官の一人だ。

 

 いわばこれは面接の一環のようなものであり、聞くべき事を聞くのは当然の事でもある。

 

 まあ、今の質問は多少私情が混じっていたかもしれないが、そこはそれだ。

 

 特段不自然な質問というワケでもないので、問題があるという事でもないのだから。

 

 さて、と七海は顔を上げ、告げる。

 

「行こうか。そろそろ、時間だ」

 

 

 

 

「お待たせしました。A級昇格試験、第三試合。実況は私、橘高羽矢が務めさせて頂きます」

 

 昇格試験、会場。

 

 実況席でマイクを握るのは、王子隊のオペレーター、羽矢だ。

 

 クールな美貌を称えた彼女が、今回の実況担当である。

 

「そして、解説は諏訪隊長と村上隊員にお越し頂いております」

「おう、よろしくな」

「よろしくお願いします」

 

 その隣に座るのは、諏訪と村上。

 

 諏訪は快活な笑みで、村上は普段通りの無表情ながら何処か柔らかな雰囲気で、それぞれ声をあげた。

 

 解説に座るのはどちらも珍しい人物ではあるが、諏訪は弓場と繋がりがあるし、村上は七海の親友にして鎬を削り合うライバルだ。

 

 二人の戦いを間近で感じたいという思いを抱いていても、不思議ではない。

 

 加えて言えば、実況の羽矢も小夜子の友人である。

 

 あまり目立つ事が好きではない彼女が実況という大役を引き受けた背景には、そのあたりの事も絡んでいそうではある。

 

 見た目からは分かり難いが、中々に情に厚い女性なのだから。

 

「今回はビッグトリオンルールという特殊ルールが採用されていますが、これについてお二方はどう思われますか?」

「どっちのチームにも一人ずつ、二宮みてぇなトリオンの奴がいる事になんだろ? 派手な事になるんじゃねぇか?」

「どのポジションの隊員がビッグトリオンを得るかで、そのあたりは変わりそうですね。射手がそうなれば、二宮さんのような力押しも可能になりますし」

 

 今回のルールでは、双方のチームに一人ずつ、トリオン量を14相当に設定した隊員がいる事になっている。

 

 二宮クラスのトリオンというのは、当然ならば大きな戦力になる。

 

 射手であれば破壊力と弾速を兼ね備えた弾幕が放たれる上、シールドも相当に硬くなる。

 

 技術が追いつくかはともかく、理論上は二宮と同じ事が出来るようになるのだから、相当な脅威となる事は間違いない。

 

 この戦いでは、ビッグトリオン持ちの隊員をどう扱うかも、重要なファクターとなるだろう。

 

「ただ、当然それだけで勝てるほど甘くはありません。お互いの得意な戦略を、何処まで押し通せるか。そのあたりも、勝敗の分かれ目となって来るでしょう」

「ありがとうございます。では、時間も押していますのでそろそろ始めましょう」

 

 そして羽矢は顔を上げ、高らかに告げる。

 

「これより、A級昇格試験第三試合を開始します。全部隊、転送開始します」

 

 羽矢の宣言と共に、四部隊が仮想空間へ転送される。

 

 合同戦闘訓練、第三試験。

 

 その幕が、上がった。





 ワートリアニメ始まりましたね。

 狙ったワケじゃありませんが、こっちも第三試験開始です。

 こうご期待。
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