痛みを識るもの   作:デスイーター

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弓場隊・風間隊③

 

「爆撃を敢行する七海隊員を、帯島隊員が急襲……っ! 最上階にて、1対1の戦闘が開始されました……っ!」

「まあ、そうするしかねーわな」

 

 諏訪はふぅ、と息を吐きつつ頷いた。

 

「あのまま七海の好きにさせてりゃあ、折角の屋内戦の利点がなくなっちまう。たとえ失敗すると分かっていても、近くにいる隊員を向かわせるしかなかったろ」

「そうですね。神田さんが迎撃に向かうという手もありましたが、足を止めれば熊谷さん達に追いつかれる可能性があります。七海のフォローが届く位置でビッグトリオンの相手と戦り合うのは、避けたいところでしょう」

 

 確かに村上の言う通り、神田はあそこから直接七海の迎撃に出る事は出来た。

 

 しかしその場合、必然的に足を止めざるを得ない。

 

 そうなると、上を目指している熊谷や時枝に追いつかれ、挟撃の形を取られてしまう危険がある。

 

 七海の想定通り神田がビッグトリオンだったとしても、同じビッグトリオンを持つ熊谷とフォローの達人の時枝、更にエースの七海に挟まれれば分が悪い。

 

 見たところ、神田はこの試合ではエスクードを用いたサポーターとして動く心づもりのようだ。

 

 銃撃の威力も上がってはいるが、その主な役割はエスクードによる妨害と攪乱だろう。

 

 故に、連携の取れない状態で複数の相手に囲まれる事は避けようとする筈だ。

 

 そして三階にいた弓場は、単純に射程が足りなかった。

 

 弓場のリボルバーは、装弾数と射程を切り詰めて威力と弾速を向上させている。

 

 つまり、普通の銃手には届く距離が、弓場にとっては()()()にあたるのだ。

 

 だからこそ、あの場に向かえるのは最上階付近にいた帯島しかいなかった。

 

 無論、攻撃が防がれるのは承知の上で、である。

 

 諏訪の言う通り、あのまま七海に爆撃を続けられればモール内は穴だらけになり、エスクードの活用が難しくなる。

 

 それだけではなく、閉所での戦闘が真骨頂である弓場の強みも、失われてしまう。

 

 故に、あそこで誰かが七海を止めなければならなかった。

 

 奇襲も不意打ちも、効かないという前提の上で。

 

 帯島は確かに筋は良いが、その真骨頂はチームメイトとの連携にある。

 

 単騎でも動ける駒ではあるが、どちらかといえば帯島はサポーター向きの性能(スペック)をしている。

 

 その彼女が、七海と1対1で対峙させられているのだ。

 

 正直、厳しいと言わざるを得ないだろう。

 

 七海はトップ攻撃手(アタッカー)の面々と比べれば確かにタイマン性能は一歩譲るが、他から見れば充分な力量を持っている。

 

 サポーター型の帯島が援護なしでタイマンを張るのは、難しい筈だ。

 

「風間隊の連中は、そもそも此処で切るには勿体ねー手札だしな。消去法で、帯島くらいしか七海の相手が務まる奴がいなかったってこった」

 

 転送位置も関係してただろーがな、と諏訪は続ける。

 

 諏訪の言う通り、帯島が七海に挑んだのは彼女しかあの場面で切って良い手札がなかった為だろう。

 

 転送運ばかりはどうしようもない為、そこは割り切った筈だ。

 

 神田を無理に迎撃に出させるリスクと、帯島が七海に落とされるリスク。

 

 それを考慮して、前者の方がより重いと判断したのだろう。

 

 二人のうち落とされた後の影響が高いのは、神田の方だ。

 

 七海の想定通りビッグトリオンだとしたら落とされた場合追加点を与えてしまうし、何よりトリオン14という戦力を失うのは痛過ぎる。

 

 帯島も優秀なサポーターではあるが、流石にトリオン14のベテラン銃手を失うリスクとは天秤にかけられない。

 

 故に落とされる危険を承知で帯島を出したのだろう、と諏訪は考えていた。

 

 そちらの方が、リスクは小さいのだから。

 

「いえ、そうとも限りませんよ」

 

 だが、それに村上が待ったをかけた。

 

 諏訪が彼の意外な言葉に目を向け、視線を受けた村上は笑みを浮かべた。

 

「帯島さんは、確かに個人としての能力はそこまで高くはありません。粗削りなところもあって、隙があるのも事実です」

 

 ですが、と村上は告げる。

 

「自分の役割は、しっかりと弁えています。ただ落とされるという事は、ないと思いますよ」

 

 

 

 

「旋空弧月ッ!」

 

 帯島は旋空を起動し、七海に向かって振るう。

 

 防御不能の斬撃。

 

 しかし、ならば避ければ良いだけの事。

 

 七海は床面を蹴って跳躍し、旋空の一撃を回避する。

 

「……!」

 

 そこへ叩き込まれる、帯島のハウンド。

 

 旋空が避けられる事を見越して、待機させていた弾丸の群れ。

 

 それが、一斉に七海に向かって襲い掛かる。

 

「────」

 

 だが、そんなものは七海にとっては奇襲ですらない。

 

 既に識っていた攻撃を、当然のように回避する。

 

 グラスホッパーを踏み、回避と共に帯島へと肉薄。

 

 右手に握った短刀型のスコーピオンで、斬りかかる。

 

「く……!」

 

 帯島はそれを弧月で防御し、即座にバックステップ。

 

 距離を取り、牽制の為に再びハウンドを撃ち出した。

 

 スコーピオン使い相手に、迂闊に距離を詰め過ぎるのは愚策。

 

 確かに、弧月とスコーピオンでは耐久力に差がある。

 

 まともに打ち合えば、スコーピオンは数合で砕け散る。

 

 しかし相当勢いが突いていなければ一合で折れる事はまずないし、何よりスコーピオンには身体の()()()()()()生やせるという特性がある。

 

 相手の斬撃を片方のスコーピオンで止め、もう片枠のスコーピオンを生やして不意を打つ、といった真似も出来るのだ。

 

 加えて、七海と帯島では体格が────────手足の長さが、まず違う。

 

 男女の性差もあるが、帯島は同年代と比べても割と小柄な方だ。

 

 七海との身長差は、およそ20㎝ほど。

 

 当然、手足の長さ(リーチ)も相応に異なる。

 

 スコーピオンが身体の何処からでも生やせる以上、手足が長ければ長いほど射程は大きくなる。

 

 前のめりに戦う攻撃手(アタッカー)ならば勢いで押し勝つ事も出来るだろうが、帯島の戦闘スタイルはどちらかといえば防御的。

 

 結果として体格差がある以上、帯島が七海の懐に飛び込むのはリスクが高過ぎるのだ。

 

「────」

 

 実力差がある以上、1対1で勝つには不意を打つ他ないが、今回の場合は相手が悪い。

 

 七海にはサイドエフェクト、感知痛覚体質がある。

 

 攻撃を感知出来る以上、七海にとって奇襲や不意打ちは()()()()()でしかない。

 

 彼に攻撃を当てるには、来ると分かっていても防げない攻撃をするか、何らかの方法でサイドエフェクトの感知を潜り抜けるしかない。

 

 どちらの方法も難易度が高く、帯島一人では困難だ。

 

 たった今撃ち放ったハウンドも、七海に難なく避けられている。

 

 これで防御を選択するようであれば通常弾(アステロイド)で突破する方法もあるのだが、七海は決して足を止めない。

 

 七海は、帯島がアステロイドをセットしている事など承知の上だ。

 

 下手に防御を選んでハウンドとアステロイドの二択を迫られるよりは、単純に回避した方がリスクが少なく効果的だ。

 

 トリオンが多くシールドが硬いからと、そこに胡坐をかいて愚策を選ぶほど七海は甘くはない。

 

 帯島の基本トリガーセットは、メイントリガーがアステロイド・ハウンド・シールド・バッグワーム。

 

 サブトリガーが、弧月・旋空・シールド。

 

 射撃トリガーは、片方にしかセットされていない。

 

 故に、射撃トリガーの両攻撃(フルアタック)は来ない。

 

 ────────などという幻想は、抱いていない。

 

 確率としては低いが、七海対策の為に両腕に射撃トリガーをセットしている可能性はある。

 

 帯島のサブトリガーは、枠が一つ空いている。

 

 多少無理をすれば、そこに新たなトリガーを入れる事は不可能ではない筈だ。

 

 そして、七海の直感は────。

 

「……!」

 

 ────────見事、正解を引き当てた。

 

 帯島の()()に出現する、二つのトリオンキューブ。

 

 それが一瞬で分割され、七海に向かって殺到した。

 

 どうやら誘導設定も各々変えているようであり、回避だけで凌ぎ切るのは難しい。

 

 故に七海は、グラスホッパーを展開。

 

 加速を得て、ハウンドの射程外へと跳躍した。

 

「まだ……っ!」

 

 帯島は再び、ハウンドの両攻撃(フルアタック)を選択。

 

 数多くの弾丸が、再び七海を追い立てる。

 

 帯島(じぶん)一人で七海に勝てない事など、承知の上。

 

 未熟を事実として受け止める強さが、帯島にはある。

 

 ならば、此処で自分がするべき事は七海を無理して落とそうとする事ではない。

 

 即ち、徹底した時間稼ぎ。

 

 倒せなくとも良い。

 

 攻撃を当てられなくても良い。

 

 ただ、時間を稼げ。

 

 それが、帯島がこの局面で自らに課した役割(タスク)

 

 サポーターである帯島がエースの七海の足止めを出来た時点で、十分な戦果となる。

 

 故に、多少トリオンを派手に消費したとしても七海を此処に縫い留める。

 

 彼を自由にすれば、たちまち戦場は滅茶苦茶になる。

 

 広い市街地ならばいざ知らず、このモールは閉じられた戦場。

 

 七海の火力を以てすれば、地形を変える事など造作もない。

 

 だからこそ、待ちの姿勢でいては駄目だ。

 

 守りに入った瞬間、七海はそれを隙と見做しこちらの防御を食い破る。

 

 そもそも、此処で帯島との戦いに拘泥する理由が、七海には無いのだ。

 

 確かに貴重な一点ではあるし、相手の戦力を削る事は悪い事ではない。

 

 しかし、最優先で落とすべき神田と比べれば、どちらを取るかは瞭然だ。

 

 帯島が逃げに入ってしまえば、七海は他の戦闘へ介入してしまう。

 

 それだけは、避けなければならない。

 

 七海は那須隊のエース攻撃手(アタッカー)であるが、同時にサポート能力もかなり高い。

 

 通常目の前の相手を倒す事に注力しがちな攻撃手でいながら、七海は視野がかなり広い。

 

 そして、一回一回の戦闘結果には拘泥しない。

 

 最終的にチームが勝利出来るのなら、彼は手段を択ばない。

 

 闘争も、逃走も、七海の中では等価の選択肢。

 

 彼が一騎打ちに応じたのは、それが必要であった場合か、勝つ為の算段が整っていた場合のみ。

 

 最終ラウンドにおける影浦との戦いでさえ、もしも味方が生き残っていたら躊躇なく連携して来たであろう。

 

 拘りよりも、勝利を。

 

 それが、七海の基本となる行動方針である。

 

 今回も、それは変わらない。

 

 落とせるチャンスがあれば帯島を落としにかかるだろうが、無理をしてまで実行に移す事はない。

 

 帯島を狙うよりも他の場所に向かう方が有益であると判断すれば、彼は躊躇いなくそちらを選ぶ。

 

 故に。

 

 帯島に、此処で攻撃を止める選択肢は存在しない。

 

 彼女が少しでも、攻め手を緩めれば。

 

 もしくは、少しでも引き気味に────────保身を優先させて、戦えば。

 

 七海は、この場からの離脱を選ぶ。

 

 だからこそ、この局面での彼女の選択は()()以外有り得ない。

 

 たとえ勝てずとも。

 

 たとえ自身が消耗するだけだとしても。

 

 此処で彼を足止めする事こそが、自身の役割だと自覚しているのだから。

 

 両攻撃の、連続行使。

 

 それは不意打ちや狙撃に対して無防備になる選択だが、此処で狙撃手を釣り出す事が出来れば自分一人が犠牲になっても益がある、と彼女は判断している。

 

 屋内戦がメインであるこのMAPでは、狙撃手は一度撃てば離脱は難しい。

 

 故に、基本的に狙撃手は、狙撃を敢行した時点で落ちる覚悟をしなければならない。

 

 そんな環境でサポーター1人の犠牲で厄介な狙撃手を釣り出せれば安いもの、と帯島は見ている。

 

 無論むざむざとやられるつもりはないが、相手の狙撃手はいずれも手練れ。

 

 こちらも相応の備えはしてあるが、想定を超えて来る可能性は常に存在する。

 

 最悪の事態を想定するのは、むしろ当然と言えるだろう。

 

「────」

 

 七海は、そんな帯島の目論見を、正しく理解していた。

 

 故に。

 

「……!」

 

 選んだのは、強引な突破。

 

 帯島の放った弾幕の中を、グラスホッパーを足場に駆け抜ける。

 

 弾幕は七海目掛けて襲い掛かるが、彼はサイドエフェクトによりその弾丸の軌道を察知出来る。

 

 だからこそ、最短最速で被弾の少ないルートを選出する事など造作もない。

 

 無論、両攻撃のハウンドの弾幕を全て回避し切る事は難しいが、自分に当たりそうな弾丸だけ瞬間的にシールドを張り防御すれば問題はない。

 

「く……!」

 

 帯島はハウンドに紛れ、アステロイドを撃ち放つ。

 

 ハウンドを防御する為にシールドを広げれば、アステロイドがそれを穿つ。

 

 陽動のハウンドに、本命のアステロイド。

 

 二宮も用いていた、効果的な二択。

 

「え……?」

 

 だがそれは。

 

 二宮級のトリオンがなければ、絶対の必殺とは成り得ない。

 

 七海は帯島がアステロイドを撃って来た事を弾丸の軌道から見抜き、グラスホッパーを用いて横方向に跳躍。

 

 迫り来るハウンドをシールドで凌ぎながら、アステロイドの射程外へと退避した。

 

「────」

 

 七海は再び、グラスホッパーを踏み込む。

 

 そして、最短最速で帯島へと肉薄する。

 

 射撃トリガーは、撃ち出すまでにタイムラグがある。

 

 この距離では、ハウンドやアステロイドの再射出は間に合わない。

 

 懐に飛び込まれた時点で、ほぼ()()だ。

 

「……っ!」

 

 その、(エスクード)が出現するまでは。

 

 七海と帯島の間に出現した、数枚のエスクード。

 

 それを確認した瞬間、七海はグラスホッパーを展開。

 

 即座に、()()へと跳躍した。

 

「ち……っ!」

 

 次の瞬間。

 

 七海の眼前にあったエスクードが自ら消滅し、その向こうから二丁拳銃を構えた弓場が現れた。

 

 早撃ち、12連。

 

 伝家の宝刀が炸裂し、七海に向かって砲火が放たれる。

 

「……!」

 

 間一髪、七海はその弾丸を回避する。

 

 あと一歩。

 

 あと一歩でも前に踏み込んでいたら、間に合わなかったであろう。

 

 目の前に出現したエスクードと、弓場のいた場所と此処までの距離。

 

 それらを総合的に考えた結果、弓場隊の作戦に気付く事が出来たのだ。

 

「おし、良く保ったな。こっから詰めてくぞ、帯島ァ」

「はいっ!」

 

 消えたエスクードの向こう側で、弓場と帯島が隣り合うように並び立つ。

 

 帯島の目的は、弓場との合流は、今此処に果たされた。





 アニメのぱいせんのニヤリとした笑み可愛い。
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