痛みを識るもの   作:デスイーター

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弓場隊・風間隊⑥

 

「那須隊が波状攻撃で風間隊長を追い込みましたが、弓場隊のサポートにより離脱に成功……っ! 再びカメレオンで姿を隠しました……っ!」

「流石ですね。風間さんも、弓場隊も」

 

 村上は感嘆の息を吐き、頷いた。

 

 今の那須隊の攻撃は、悪くはなかった。

 

 一度は見失った風間の動きを予測し、木虎がカバー。

 

 そのままスパイダー銃で風間を拘束し、波状攻撃で畳みかける。

 

 戦術としては、この上なく理想的だ。

 

 しかし。

 

 風間の対応の速さと弓場の機転が、那須隊の想定を上回った。

 

 結果、風間は無傷で離脱に成功し、カメレオンで姿を消す事に成功した。

 

 一連の攻防は、弓場隊の側に軍配が上がったと言って良いだろう。

 

「今のでノーダメージは痛ぇな。木虎のスパイダー銃も、流石に二度目は警戒されるだろーしよ」

「ええ、一度使った手は風間さんには早々効かないでしょう。逆に言えばスパイダーを警戒させて動きを縛る、という手はありますが……」

「風間にゃ通用しねーだろーな」

 

 そして何より痛いのは、今の奇襲に使った木虎のスパイダーという手を風間に一度見せてしまった事。

 

 今の攻防で見せたように迎撃からの拘束戦法は、既に風間にとっては既知の戦術に過ぎない。

 

 熟練の戦士たる風間に対し、一度()()()()()()()どうかというのはかなり大きい。

 

 同じ手を使っても、課す事の出来る動きの縛りは微々たるものであるだろう。

 

 風間は鍛錬も、経験も、人一倍積んでいる。

 

 百戦錬磨、と言っても差し支えがない戦歴。

 

 経験(それ)は、何にも替え難い強みと成り得る。

 

 その極端な例が、村上だ。

 

 村上はサイドエフェクトにより、得た経験を即座にフィードバックする事が出来る。

 

 成長速度、という点で彼に追随する者はそうはいないだろう。

 

 しかし、風間にはサイドエフェクトなどなくとも、近界遠征を含む数多の戦闘経験がある。

 

 A級として積み重ねた戦歴は、確実の彼の糧となっている。

 

 個人戦闘の戦歴は太刀川に一歩譲るものの、それは風間が太刀川に劣るという事を意味しない。

 

 風間が最も強みを発揮するのは、チーム戦。

 

 部隊を率い、戦術を以て任務を遂行する時なのだ。

 

 今回は試験である為風間が全ての指揮を担当しているワケではないが、要所要所の判断力や機転が群を抜いているのは既に証明されている。

 

 隠密戦闘の名手にして、確かな実績を持った指揮官。

 

 それが、風間蒼也という青年なのだから。

 

「けど、あれだけ(バト)っといてどいつもこいつもまだ目立ったダメージがねぇってのも凄ぇな」

「どの部隊も、それだけ機転も判断力も優れていますし己の役割も分かっています。いずれの隊員も、無理をして負傷すれば不利になる事は理解しているでしょうからね」

 

 ですが、と村上は続ける。

 

「逆に言えば、一人でも落ちればそこから一気に形勢は傾きます。何処でどうリスクを冒すか、それが鍵ですね」

 

 

 

 

「熊谷」

「了解」

 

 風間が姿を消した後、七海は即座に熊谷に指示を出す。

 

 それを受けた熊谷は、すぐさまハウンドを生成。

 

 トリオン探知で、風間が消えた上階に向かって射出する。

 

「……!」

 

 だが、それを見越していたかのように上階の通路にエスクードが無数に出現。

 

 ハウンドの行く手を阻む(バリケード)として、立ちはだかる。

 

「────」

 

 しかし、その程度は想定済み。

 

 時枝はアサルトライフルの弾丸をメテオラに切り替え、銃撃。

 

 エスクードの出現した上階の床を、爆撃した。

 

 高い硬度を誇るエスクードは、メテオラでは破壊出来ない。

 

 弾丸で破壊するならば、高威力のアステロイドを連続で叩き込まなければまず無理だ。

 

 されど、その()()は別だ。

 

 エスクードは、展開するには相応の面積を持った足場が要る。

 

 そして当然、足場となる場所にはエスクードほどの強度はない。

 

 だからといって、地面そのものを破壊するのは相当に骨だ。

 

 そこに労力を使うくらいならば、エスクードを迂回して攻撃した方が手っ取り早い。

 

 だが。

 

 此処は、屋内。

 

 しかも、吹き抜け側の通路の床はそこまでの強度を持たず、破壊も容易。

 

 ならば、床そのものを吹き飛ばしてしまえば、エスクードは足場ごと落下せざるを得ない。

 

 その事に瞬時に気付き、時枝は熊谷のアシストとしてメテオラの爆撃を敢行したのだ。

 

「失敗か」

 

 されど。

 

 その行動は、失敗に終わる。

 

 時枝の爆撃は、上階に到達してはいなかった。

 

 その直前。

 

 遠隔で張られたシールドに、阻まれた事によって。

 

「────」

 

 シールドを張ったのは、帯島。

 

 時枝の行動を見抜き、咄嗟に遠隔シールドを展開したのだ。

 

 建造物の破壊には向いていても、シールドの突破力はそう高くないのがメテオラの特徴である。

 

 結果として時枝のメテオラは防ぎ切られ、熊谷のハウンドもまた、エスクードに阻まれた。

 

 

 

 

「OKOK、流石とっきー」

 

 だがそれは、帯島が自分の防御を放棄している事を意味している。

 

 その事実を見逃さず、引き金に手をかける少年が一人。

 

 少年は、佐鳥は、迷う事なく引き金を引いた。

 

 

 

 

「が……っ!?」

「帯島ァ……ッ!」

 

 帯島は狙撃に気付き、なんとかシールドを貼り直す事に成功した。

 

 頭部と胸部を守るように、展開した集中シールド。

 

 されど。

 

 されど。

 

 急所を守る事など、佐鳥は読み切っていた。

 

 トリオン体の急所は、トリオン供給脳がある頭部と、トリオン供給期間が存在する胸部。

 

 此処を破壊されれば、トリオン体を維持する事は出来ず崩壊する。

 

 当たれば終わりな、文字通りの弱点部位(ウィークポイント)

 

 イーグレットが集中シールドでなければ防ぎ切れない以上、そこを守るのはなんらおかしな事では無い。

 

 故に。

 

 佐鳥はその思考の裏をかき、帯島の右肩と脇腹を撃ち抜いた。

 

 狙撃手は、一度見つかれば高確率で逃げ切れずに落とされる。

 

 だからこそ、一度の狙撃で相手を仕留めようとする事が多い。

 

 だが。

 

 そればかりに拘って、仕事が果たせないようでは本末転倒だ。

 

 佐鳥は、それをきちんと理解している。

 

 狙撃手は、チームの後方()()役だ。

 

 そして、隊に貢献するならば、何も自分の手で標的を仕留める必要は無い。

 

 部隊に明確な()()を提供出来るのであれば、たとえ致命傷を狙えずとも構わない。

 

 佐鳥はその言動から目立ちたがり屋に見えるが、その実かなりのクレバーさを持っている。

 

 伊達に、狙撃手というポジションが出来て間もなくの黎明期からその役割を担ってはいない。

 

 チャンスは逃さず、取れる戦果をもぎ取り出来る仕事を遂行する。

 

 だからこそ、佐鳥は帯島がシールドの再展開を完了する可能性すら見越して、狙撃を敢行したのだ。

 

 佐鳥の得意とする────────否、彼しかやらない独自技術、ツイン狙撃(スナイプ)

 

 バッグワームを解除しなければならないという狙撃手として致命的な欠陥があるその派手な同時狙撃は、同時に彼の変態じみた技術の証明でもある。

 

 何せ、狙撃銃を両腕で撃つという事は────────スコープを見ずに、感覚だけで標的を狙う事と同義なのだから。

 

 まず間違っても、常人に出来る所業ではない。

 

 というか、まずやらない。

 

 バッグワームを解除するという都合上、狙撃の直前で気付かれてしまう可能性が付き纏う。

 

 そうなれば、防御や回避が間に合ってしまう事も充分に考えられる。

 

 どう考えても、実戦には向かない曲芸。

 

 しかし佐鳥は、それを己の技術力と機転で実際に運用可能なレベルにまで引き上げている。

 

 気付かれるのであれば、気付かれても防げない弾を撃てば良い。

 

 狙撃を読まれるのであれば、それを前提に行動すれば良い。

 

 失敗しても、機転を利かせて次の機会を待てば良い。

 

 そう割り切り、佐鳥はツイン狙撃を己の技として昇華させているのだ。

 

 そして、そのツイン狙撃は、この試合初めての痛打をもぎ取った。

 

 形勢が、傾く。

 

 佐鳥の狙撃が、戦況を変えた。

 

 

 

 

「ここですね」

 

 小夜子は画面に向かい、冷淡に呟く。

 

 薄く笑みを浮かべ、彼女は告げる。

 

「お願いします。嵐山さん」

『了解』

 

 

 

 

 帯島は、油断をしていたつもりはなかった。

 

 そういう事も、狙撃が来る事もあるだろうと、警戒はしていた。

 

 だが。

 

 だが。

 

 そんな彼女の目論見は、佐鳥の狙撃でぶち破られた。

 

 急所を守ればどうにかなる。

 

 その思考自体は、間違ってはいない。

 

 狙撃を警戒するならば誰もが考える、最善(ベター)な選択。

 

 されど。

 

 最善であるが故、その思考を読み切られた。

 

 これが、A級。

 

 これが、先達の強さ。

 

 レベルが違う。

 

 視点が違う。

 

 何より、経験(キャリア)が違う。

 

 後悔は遅い。

 

 帯島の右腕は肩を撃ち抜かれた事で吹き飛ばされ、脇腹にも大きな傷を負った。

 

 致命傷とまではいかないが、このままではトリオン漏出で緊急脱出するのもそう遠くはない。

 

 既に、脱落までのカウントダウンは始まってしまった。

 

 時間制限。

 

 此処に来て、その足枷(ハンデ)はあまりにも重い。

 

 この状態で役立てる事は、そう多くはないだろう。

 

 故に。

 

『右から来るよ』

「了解……っ!」

 

 その通信を受けた帯島の判断は、迅速だった。

 

 帯島はハウンドを生成し、右側に向かって射出。

 

 すると、その射線の先。

 

 そこには、アサルトライフルを構えた嵐山がその姿を晒していた。

 

 攻撃前にハウンドを向けられた嵐山の表情は────────驚愕、してはいない。

 

 分かっていたのだ。

 

 この奇襲は、()()()()いると。

 

 現在、主戦場はこの5階である。

 

 相手チームの主力も、その全員がこの場にいる。

 

 故に。

 

 奇襲を警戒するならば、菊地原をこの近辺に配置しておくのは至極当然の帰結である。

 

 というよりも、そうする他無い。

 

 菊地原という生きたソナーを有効活用する為には、戦場の傍に置くのが最善だ。

 

 生存ばかりを考えて戦場から遠ざけていたのでは、そもそも仕事が出来ない。

 

 故に、嵐山は────────那須隊側は、この近くに菊地原が潜んでいるとあたりを付けていた。

 

 ()()()()()、此処で嵐山を投入したのだ。

 

 菊地原がこの近辺にいるという、()()を得る為に。

 

「「メテオラ」」

 

 嵐山の姿が補足された、その直後。

 

 七海と熊谷は、同時にメテオラを生成していた。

 

 そして、そのキューブを四分割。

 

 最低限の分割に留め、爆撃を敢行した。

 

「……!」

 

 轟音が、周囲に響き渡った。

 

 壁や床に着弾したメテオラは、使用者の膨大なトリオン相応の破壊をモール内に齎した。

 

 無差別爆撃。

 

 テロか何かと見紛うその光景は、那須隊の攻撃開始の合図だった。

 

 これまで本格的な爆撃を控えていたのは、偏に菊地原の居場所が不明であったからだ。

 

 爆撃は、相応の隙を晒す。

 

 人ではなく建物を狙う以上、その最中を狙われてしまうリスクは常に存在する。

 

 爆撃で視界が塞がれる以上、不意打ちの危険度も相応に上がるのだから。

 

 だが。

 

 こと此処に至れば、そのリスクは充分に冒す価値あるものとなる。

 

 元より、菊地原がいる限りこちらの奇襲は通用しない。

 

 ならば。

 

 聴こえていようが関係ない力押しで、彼を炙り出してしまえば良い。

 

 嵐山は元より、その為に投入した駒だ。

 

 彼の奇襲が成功すればそれはそれで構わない。

 

 されど、その奇襲が失敗したという事は、菊地原の位置が半ば判明した事を意味している。

 

 ビッグトリオンルールによりトリオン14となった熊谷と、元より10ものトリオンを持っていた七海の爆撃。

 

 その暴威は、生半可な策ごと食い破る。

 

 このまま爆撃を続ければ、菊地原だけではなくカメレオンで姿を隠した風間すらも姿を現さざるを得なくなる。

 

 カメレオンは、使用したままではシールドすら張れないのだから。

 

「旋空弧月」

 

 故に。

 

 彼が出て来るのは、必然であった。

 

 弓場と帯島は、時枝と嵐山が銃撃で牽制している。

 

 風間は、安易に姿を現すのはリスクが高い。

 

 だからこそ、彼が、神田が出て来た。

 

 その手に持つは、弧月。

 

 拡張斬撃、旋空弧月を以て爆撃を続ける二人を止めんが為剣を振るう。

 

「「……!」」

 

 如何に強大なトリオンがあっても、旋空弧月の前にシールドは無意味。

 

 必然として二人は爆撃を中断し、その場から跳躍。

 

 旋空弧月の斬撃を、回避した。

 

 しかしそれは、逃げ場のない空中で躍り出た事と同義。

 

 そして、七海はともかくとして、熊谷には移動用のトリガーはない。

 

 此処までの戦闘で、既に熊谷の今回のトリガーセットはほぼ明かされている。

 

 メイントリガー、弧月・旋空・シールド・メテオラ。

 

 サブトリガー、ハウンド、シールド、バッグワーム。

 

 上記の中でサブトリガーの残り一枠が不明だが、大方アステロイドだろうと予想される。

 

 14ものトリオンを活かすには、それを入れない手はないからだ。

 

 確かに、トリオン14のハウンドは脅威だ。

 

 しかし、ハウンドでは相手を固める事は出来ても、シールドを突破するには時間がかかる。

 

 一ヵ所に弾丸を集中させれば可能ではあるが、そうなると弾幕の範囲を狭めてしまう。

 

 だからこそ、相手を固めた後のトドメを担うアステロイドが有効なのだ。

 

 実際に、二宮などはそれが必勝パターンとなっている。

 

 故に。

 

「────」

 

 カメレオンを解除した歌川が、空中にいる熊谷を、ハウンドを以て狙い撃つ。

 

 同時に、弓場も銃口を熊谷へと向ける。

 

 二人の攻撃が、熊谷へと放たれた。

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