「おっと、此処で外岡隊員、テレポーターを用いて他の隊員と合流……っ! 迎撃の構えを取った……っ!」
「思い切りましたね。これは」
「だな」
村上と諏訪は、そう言って神妙に頷いた。
何故、外岡が合流を選んだか。
その意図を、すぐに察したが故に。
「あのまま逃げ続けていても、いずれ那須隊長に補足され落とされる。他からの援護が期待出来ない状況では、これは確定事項だったと言って良いでしょう」
「風間達は七海とバトってるし、弓場と神田は嵐山隊を振り切れなかったしな」
二人の言う通り、あのままでは外岡が落ちるのは時間の問題だった。
エスクードがあるとはいえ、文字通りの時間稼ぎにしかなっておらず、狙撃手の外岡では幾らビッグトリオンの権利を持っていても逃げながらの迎撃は無理がある。
同じくビッグトリオンの権利を持っている那須の弾幕相手では、攻撃手段が狙撃しかない外岡とでは
狙撃は、狙撃手の位置を知られていない状態でこそ最大の効果を発揮出来る。
ビッグトリオンを得た外岡の狙撃は確かに脅威ではあるが、彼自身の位置が割れている状態であれば対処法は幾らでもある。
強化されたアイビスやイーグレットの狙撃はまともに受ける事は難しいが、幾ら威力が強化されようと
回避能力に優れた那須であれば、ただ避ければ良いだけの攻撃だ。
ライトニングはビッグトリオンで強化された速射は防ぎ難いものがあるが、こちらは威力はそこまで上がってはいない。
そして、幾ら連射可能と言っても一度に一発ずつしか撃てない事に変わりはない。
那須の弾幕相手では、文字通り弾数が足りないワケだ。
奥の手であったテレポーターを見せる前であれば一度限りの奇襲が通じた可能性もあるが、その手札は最初に逃走の為に切ってしまっている。
どの道外岡
「外岡隊員は弓場隊長や神田隊員と合流する事で、ようやく狙撃を行うだけの時間を埋める
「今の外岡にゃあエスクードがあっからな。サポート能力は申し分ねぇし、チームとの連携のお手のモンだろ」
二人の言う通り、弓場と神田と合流した今であれば状況は変わって来る。
外岡一人で攻撃を捌く必要がなくなった以上、その強化された狙撃能力が活きて来る。
これまでは弾幕で圧倒して反撃の隙を与えなかった那須であるが、前衛が出来た以上先ほどまでのようにはいかないだろう。
「けど、代わりに弓場隊は今の那須と正面から戦り合わなきゃいけなくなったけどな。幾ら数が揃っても、あれの相手はかなりきちぃぞ」
しかし、今の那須の戦力が驚異的である事に変わりはない。
一方的な殲滅ではなくなっただけで、那須の弾幕は現実の脅威としてそこにある。
あの弾幕の圧を、正面から浴びる事になる。
これは、並大抵のプレッシャーでは無い筈だ。
「加えて、嵐山隊の二人も健在ですからね。那須隊長と連携して来れば、厳しい展開になるでしょうね」
そして、嵐山と時枝も未だ無傷で生き残っている。
前衛を得る事が出来たのは、何も外岡の側だけでは無い。
嵐山隊の二人に前衛を任せ、那須が距離を取って弾幕を張るだけで、かなりの脅威となるだろう。
「ですが、先ほどと違って
それに、と村上は画面に映る那須に目を向ける。
(那須隊長が、果たして嵐山さん達ときちんとした
村上は、これまでの那須隊の試合ログは一通り目を通している。
そして、七海の事は良く知っている、という自負もある。
だからこそ、この状況に置ける懸念事項が浮かび上がるのだ。
(那須さんは確かに身内との連携の精度はとんでもなく高いけど、逆に言えば身内以外の連携には慣れていない。それに、連携する相手の性質も今回は違う)
そう、それが現在の状況に置ける陥穽と成り得る点だ。
那須は、那須隊の面々との連携は慣れたものだし、その精度もぴか一だ。
しかし、逆に言えば身内以外との連携がしっかり出来るか、という疑問がある。
これまでの二試合でも、那須が主に連携したのは同じ那須隊の相手。
組んだA級部隊とは、そこまで連携する機会がなかった。
加えて、那須が普段連携する相手と嵐山隊の二人では少々性質が異なる。
まず、七海は言うまでもなく、
七海はそのサイドエフェクトにより、たとえ弾幕の中にあっても被弾しないルートを自動的に導き出せる。
故に、七海が前衛にいる時は、巻き添えを気にする必要が全く無いのだ。
打ち合わせをしなくとも、こちらの弾道を自動的に察知して避けてくれるのだから、後衛としてこれ以上やり易い前衛はいない。
故に、七海が前衛にいる時は何の憂いもなく弾幕をばら撒ける、という利点があるのだ。
当然、これは七海だからこそ通じる論法だ。
もしも別の相手に七海が前衛の時と同じように弾幕をばら撒けば、巻き添えの危険は当然跳ね上がる。
最も連携する機会の多い七海と組む時と同じ調子でやれば、確実に失敗する。
更に、熊谷の場合はそもそも大きく動く事が少ない攻撃手である。
最低限彼女の立ち位置に気を配っていれば、巻き添えにする心配はない。
茜に関してはそもそも狙撃手なので、前に出る事自体が有り得ない。
故に、懸念事項は一つ。
果たして、嵐山隊の二人を巻き添えにせずに後衛に徹する事が出来るか。
この一点である。
基本的には、問題ないだろう。
那須は、優れた射手だ。
味方を巻き込まないように弾道を調整する程度、どうとでもなる。
しかし、此処で問題となるのは嵐山隊の二人が持つ鬼札、テレポーターである。
テレポーターを使用すれば、一瞬にして別の位置へと転移出来る。
そして当然、その移動先は本人にしか分からない。
視線の向く先に注視していれば、確かに転移先を予測する事は可能だ。
転移先を予測し、そこに攻撃を置く事で対処する事は出来る。
しかし、味方からすれば、いきなり前衛が別の場所に移動するのだ。
その移動先に、那須が張った弾幕があればどうなるか。
そんなものは、自明の理である。
無論、移動先を伝える事でそういった事態は回避出来る。
だが、一分一秒どころか刹那のタイミングが生死を分けるのが戦場だ。
そんな中で、悠長に連絡を取ってから動けば、チャンスを逃す可能性が高い。
これが互いの動きや性質を熟知しているチームメイト同士であれば、何の問題もない。
細かい連絡などなくとも、ある程度は臨機応変にフィーリングでどうにか出来る。
されど、那須と嵐山隊の間にはそこまでの繋がりは無い。
当然この一週間で連携訓練は行っただろうが、逆に言えばそれだけの間柄でしかない。
同じ部隊の仲間のように、阿吽の呼吸、とはいかない筈だ。
無論、テレポーターを使わなければそんな危険性は排除出来る。
しかしそれは、嵐山隊から手札を一つ奪う事を意味している。
安全策を取るのであれば、それでも構わない。
だが、相手は弓場隊。
そんな甘えを、果たして彼等が見逃すのか。
勝敗を左右する陥穽があるとすればそこだろう、と村上は考えていた。
(那須隊長と、嵐山隊がどう連携して来るか。付け入る隙があるとすれば、そこだろうね)
「私は後衛に徹します。前衛、お願いします」
「了解した」
「分かった」
那須からの申し出を受け、嵐山と時枝は二つ返事で承諾する。
そんな三人と対峙しながら、弓場隊の面々は真剣な表情で各々の武器を構えた。
「さて、今の那須は大分厳ちィが、
「割と最悪な相手なのは変わりませんが、やってやれない事は無いでしょうからね。外岡、援護は頼むよ」
「了解したっす」
弓場はリボルバーを、神田はアサルトライフルを、外岡はアイビスを携え、油断なく那須達と相対する。
「「「────!」」」
緊迫による硬直は、一瞬。
開戦の狼煙は、三つの銃声と降り注ぐ弾幕によって告げられた。
「────」
「……!」
風間と七海、二人のスコーピオンが交差する。
側面から攻めて来た風間の一刀を、左腕のスコーピオンで迎撃。
同時に、右のスコーピオンで反撃を狙う。
「甘い」
「……っ!」
風間はその攻撃に、右腕から伸ばしたスコーピオンで対処。
七海の攻撃を、難なく弾き飛ばす。
「僕も忘れないでよ」
そこに、菊地原が敢えて声をかけ存在を強調してから斬りかかる。
サイドエフェクトで攻撃を察知出来る七海相手に、奇襲は無意味。
ならば、自身の攻撃を強調する事で少しでも意識を散らして風間のサポートを行う。
七海の実力や性質を良く知るが故の、当然の連携であった。
そんな意図など承知している七海は、すぐさまグラスホッパーを展開。
ジャンプ台トリガーを用いて、その場から退避する。
「いいの? 距離取って」
「……!」
だが、あまり大きく距離は取れない。
菊地原の指摘は、言われるまでもなく理解している。
距離を取れば、風間と菊地原の二人はカメレオンを使う隙が生まれてしまう。
そしてそれは、七海を放置して佐鳥を獲りに行く、という脅しにもなる。
菊地原は、サイドエフェクトで佐鳥の位置を補足している。
流石にモール内全ての音を拾う事は出来ないが、逆に言えば同じ階層の音であれば充分に感知圏内だ。
佐鳥は現在、この最上階に潜伏している。
しかしその位置は、菊地原にとって既知のものだ。
だからこそ二人から距離を取ってはいるが、同じ階層にいる以上その気になれば充分に補足出来る。
機動力は、攻撃手の二人に分があるのだ。
狙撃手の佐鳥は、まともに狙われれば一たまりもないだろう。
だからこそ、七海は距離を取っての爆撃、という手段が取れない。
風間達が爆撃の隙を突いて離脱し、佐鳥を落としに行かれる危険があるからだ。
佐鳥を下層に退避させる、という手もあるが、現在5階は激戦地となっている。
安全にそこを通り抜けられるか、というのは懸けになる。
選択肢の一つとしては有りだろうが、リスクを伴う手である事は否定出来ない。
それに、相手の戦力がこの最上階と5階に集中している以上、援護出来ない位置に行っても意味は無い。
しかし、風間隊の二人相手に佐鳥が活きるか、と言われれば疑問が残る。
サイドエフェクト、強化聴覚。
菊地原が保有するその能力の真骨頂は、音の
彼の能力の有効範囲はそこまで広いワケではないが、その効果圏内の音に関しての感知精度は相当なものだ。
雑多な音の中から、特定の音を聞き分ける。
この能力を用いて、菊地原は相手の位置はおろか、その攻撃の詳細やある程度の精神状態まで看破出来る。
故に、いざ佐鳥が狙撃を敢行したところで、菊地原が健在である限り察知されて躱されるのがオチである。
狙うのであれば、直接音を感知出来ない風間の方が確率はあるだろう。
「やるぞ、菊地原」
「はいはい、分かりましたよっと」
だがそれは、このままであればの話。
菊地原は風間の指示を受け、髪を後ろで纏め上げた。
下ろしていた髪を纏め、耳を露出させる。
これは、菊地原が本気でサイドエフェクトを活用する時の姿勢だ。
菊地原は、幼少期より
だからこそ、余計な音を聴かない為に髪を伸ばし、普段は耳を隠している。
たとえ気休め程度であっても、菊地原の心の安寧を保つ為には必要な処置だった。
その髪を纏め、耳を裸の状態にする。
それは、菊地原なりの
耳を露出させる事で、より深く、より繊細に音を聴き取り感知精度を引き上げる。
あくまで気持ちの問題であるが、その効果は馬鹿にならない。
サイドエフェクトの意味は、
一見便利に見えるそれは、同時に発現者に独自の瑕疵を齎す。
菊地原も、望んでもいない声まで聴こえるこの能力を疎んだ事は、一度や二度では無いだろう。
この姿は、そんな菊地原が自身の能力と正面から向き合った証でもある。
疎んだ能力を、正面から認めてくれた相手に、風間に報いる為に。
彼自身が定めた、覚悟の姿だ。
その意思を、その決意を知る七海は、菊地原のその姿を見て気を引き締める。
此処からが、本番。
その事を、誰よりも識っているが故に。
『聴覚情報、共有します』
そして、菊地原がこの姿を取ったという事は。
風間隊全員が、その能力の恩恵を活用する状態になったという意味でもある。
通信を介して、菊地原の得る聴覚情報を部隊全員が共有する。
いわば、全員が疑似的に強化聴覚を得た状態となる。
長く続ければ菊地原に負担をかける為ここぞという時しか使えないが、風間隊がA級に辿り着いた根本である戦術の肝。
それを使って来たという事は、ここで決めるという意思を表明したも同義。
下層の戦闘も、佳境。
どちらも、そう長くは続かない。
ここが、勝負どころ。
誰もが、それを理解していた。
「行くぞ」
風間がスコーピオンを携え、駆け出す。
同じように菊地原も刃を構え、床を蹴った。
最上階の戦闘もまた、佳境を迎えようとしていた。