痛みを識るもの   作:デスイーター

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弓場隊・風間隊⑮

 那須の操る弾丸、バイパー。

 

 遠慮なしの両攻撃(フルアタック)で放たれたそれが、四方八方から弓場隊へと襲い掛かる。

 

 同時に、嵐山と時枝もアサルトライフルを掃射。

 

 三人分の弾幕が、弓場隊へと迫る。

 

 これだけ弾幕が多ければ互いにぶつかり合って弾数が減りそうなものだが、那須の放つバイパーは嵐山隊の二人の弾には掠りもしない。

 

 弾丸の速度や軌道、発射タイミング等を計算し、互いの弾が干渉しないような弾道でバイパーを飛ばしているのだ。

 

 那須の高い技術力によって実現された、絶技。

 

 当然、それを黙って見ているような鈍間はいない。

 

 外岡が地面に手を付け、エスクードを展開。

 

 複数のエスクードにより、嵐山隊の掃射を妨害。

 

 更に、那須のバイパーに対してはエスクードを出した上で、神田と弓場がハウンドとバイパーを斉射。

 

 弾丸同士の相殺によりある程度弾数を削り、残りは展開したエスクードで防ぐ。

 

 そして、二人には第二試合で那須と出水がやらかしたような互いの弾幕を全て相殺するような変態(とんでも)技術は無い。

 

 故に、相殺されなかった弾丸が、嵐山隊へと降り注ぐ。

 

「「……!」」

 

 嵐山と時枝は、広げたシールドで弾丸を防御。

 

 同時に、再びアサルトライフルを斉射。

 

 無数の弾丸が、再度弓場隊へと向かう。

 

「────」

 

 外岡は、その弾幕に対しエスクードを展開。

 

 今度は、床と天井から通路を塞ぐ形でエスクードが出現する。

 

「無駄よ」

 

 だが、そのエスクードは一瞬にして吹き飛ばされた。

 

 アステロイドとバイパーの、一点集中砲火。

 

 那須が弾速と威力に振った弾丸を以て、弓場隊の守りを打ち崩す。

 

「……!」

 

 そこで、気付く。

 

 弓場隊の位置が、先ほどよりも遠くに離れている。

 

 グラスホッパー。

 

 恐らくは弓場が展開したそれを、三人が使用したのだろう。

 

 グラスホッパーは、分割すればするほど反発力は落ち、得られる加速も小さくなる。

 

 だが、三つ程度の分割であれば取り合えずその場からの離脱は可能だ。

 

 此処に来て、速やかにエスクードを突破する為に威力と弾速に振り射程をギリギリまで削った事が仇となった。

 

 那須の弾丸は、弓場隊の下へは届かない。

 

「バイパー+メテオラ────────|変化炸裂弾(トマホーク)

 

 ならば、離れた事を後悔させてやるだけだ。

 

 弓場隊が離れた事によって、那須に合成弾を行うだけの時間が与えられた。

 

 トリオン14のトマホークの爆撃で、一切合切吹き飛ばす。

 

 エスクードだけでは防ぎ切れないよう、全方位からの爆破で仕留める。

 

「吹き飛びなさい」 

 

 全方位から飛来する、爆撃の雨。

 

 容赦のない絨毯爆撃が、弓場隊へと降り注いだ。

 

 轟音。

 

 無数のトマホークが着弾し、大爆発を引き起こす。

 

 エスクードだけでは、凌ぎ切れない全方位爆破。

 

 その爆発は、弓場隊を────────全滅へは、至らせなかった。

 

 爆煙から間一髪で離脱する、三つの影。

 

 それを見た時、那須は察した。

 

 弓場隊が、エスクードによる射出によって脱出したのだと。

 

 那須の合成弾を見て、防御では間に合わないと判断したのだろう。

 

 だからこその、回避の選択。

 

「読めていたわ」

 

 故にこそ、那須はそれを読んでいた。

 

 跳躍中の弓場隊の三人に迫る、無数の弾丸。

 

 それは、最初から最上階へ照準させたトマホークの一部だった。

 

 那須は弓場隊がエスクードで上へ退避する事を予測し、その避難先へ着弾するよう一部の弾道を調整していたのだ。

 

 エスクードによるジャンプは、これが初見では無い。

 

 故に、充分可能性としては考慮していたのだ。

 

 彼らが、最上階へと逃げるであろう事を。

 

 迫り来る、無数のトマホーク。

 

 空中では、エスクードによる防御は不可能。

 

 これで、詰み。

 

 那須は、そう確信した。

 

「え……っ!?」

 

 そこで、気付いた。

 

 トマホークが着弾した、三つの影。

 

 その正体は、()()()()()だ。

 

 那須は、爆煙から飛び出た影を弓場隊の三人であると考えた。

 

 壊れた外壁から流れ込む暴風雨によって視界は悪く、極めつけに那須の爆破によって生じた煙がそれを助長していた。

 

 だからこそ、勘違いをしたのだ。

 

 あれが、上に逃げた弓場隊の三人であると。

 

 それは、奇しくもROUND6で七海が生駒相手に使った戦術と同じ。

 

 瓦礫を囮にした、()()

 

「……!」

 

 事態を理解し、那須は瞬時にグラスホッパーで背後に跳んだ。

 

 だが、一瞬遅い。

 

 煙の向こうから飛来した弾丸が、那須の左足を吹き飛ばした。

 

 弾速からして、ライトニング。

 

 放ったのは当然、外岡。

 

 彼は、那須に生じた一瞬の隙を見逃さず、正確に脚部を狙い撃ったのだ。

 

 急所ではなく足を狙ったのは、防がれる確率を下げる為。

 

 ランク戦に臨む者は、咄嗟の狙撃に対して急所を守る癖が付いている者が多い。

 

 特に、那須のような回避主体の者であれば猶更だ。

 

 だからこそ、足を狙った。

 

 那須の最大の武器である、その機動力を殺す為に。

 

「────」

 

 そして、攻守は逆転する。

 

 那須の機動力は、今の一撃で失われた。

 

 故に、これまでのように周囲を跳び回りながら気兼ねなく両攻撃(フルアタック)を敢行する事はもう出来ない。

 

 これまで両攻撃を継続出来たのは、その機動力あってのもの。

 

 回避が出来なくなった以上、防御にも枠を割かざるを得なくなる。

 

 那須の脅威は、半減した。

 

 その好機を、弓場隊が逃す筈もない。

 

 エスクードによって射出され、弓場が那須へと突貫する。

 

 無論、嵐山と時枝がアサルトライフルで迎撃するが、弓場はそれをグラスホッパーで回避。

 

 そして遂に、弓場が那須を射程圏内に捉えた。

 

 

 

 

「────」

 

 その光景を、上階から見詰める者が一人。

 

 彼は、佐鳥は、イーグレットの引き金を引いた。

 

 

 

 

「読んでたよ」

 

 佐鳥が放った、二発のイーグレットの弾丸。

 

 それは、神田の展開した二枚の集中シールドによって防がれた。

 

 神田は、分かっていたのだ。

 

 このタイミングであれば、佐鳥が差し込んでくるであろうと。

 

 故に、遠隔シールドを貼れる位置までエスクードで跳び、弓場を狙撃から守った。

 

「ぐ……っ!」

 

 無論。

 

 自身が無防備になる事を、承知の上で。

 

 吹き抜けを通って放たれた、一発の弾丸。

 

 それが、神田の胸を撃ち抜いていた。

 

 放ったのは当然、もう一人の狙撃手、日浦茜。

 

 四階に潜んでいた彼女は、神田が無防備になる瞬間を狙い、ライトニングで速やかに仕留めた。

 

 だが、これは神田にとっては必要経費。

 

 たとえ自分が犠牲になろうと、弓場が那須を仕留める事が出来ればそれで充分。

 

「吹き飛べ」

 

 今度こそ妨害のなくなった弓場の指が、その引き金を引いた。

 

「……!」

 

 放たれる、弓場の弾丸。

 

 だがそれは、那須へ当たる事はなかった。

 

 テレポーターで転移した時枝が、彼女の腕を引っ張り、集中シールドで弾丸を防いだが故に。

 

 周囲に常に気を配り、サポートこそが本領の彼だからこそ、行えた救助(レスキュー)

 

「あ……!」

 

 だがそれは。

 

 彼自身を、無防備にする結果となった。

 

 再び飛来した、一発の弾丸。

 

 それは時枝の張ったシールドを突き破り、彼の頭を撃ち抜いた。

 

 撃ったのは、当然外岡。

 

 彼のアイビスが、時枝の急所を貫いた。

 

「すみません嵐山さん。先に落ちます」

 

『『戦闘体活動限界。緊急脱出(ベイルアウト)』』

 

 二人のトリオン体が、同時に限界を迎える。

 

 神田と時枝は光の柱となり、戦場から消え失せた。

 

 

 

 

「────」

 

 風間が、正面から斬りかかる。

 

 菊地原は、側面から。

 

 七海を挟み込むように、二人の攻撃手が迫る。

 

 乱戦は七海の得意とするところだが、この二人は七海の戦闘の癖を知り尽くしている。

 

 チーム単位で七海との戦闘訓練を積み重ねている風間隊は、当然彼の対集団の動きを熟知している。

 

 加えて、第二試合では共闘の為にチーム同士での訓練も行っている。

 

 七海の取れる手は、大体把握されていると思って良いだろう。

 

 故に、七海の取った手はマンティスによる迎撃。

 

 その射程を活かして、風間と菊地原を薙ぎ払う。

 

「……!」

 

 当然、その程度で倒れる程甘い相手ではない。

 

 風間と菊地原は同時に跳躍し、マンティスの斬撃を回避する。

 

 そして、二人は同時にスコーピオンを投擲。

 

 二振りのスコーピオンが、七海へ飛来する。

 

「────!」

 

 七海はすぐさまマンティスを破棄し、スコーピオンを両腕に展開。

 

 投擲された二振りのスコーピオンを、それで叩き落とす。

 

 しかし、その間に風間と菊地原はカメレオンを展開。

 

 空気に溶けるように、その姿を消し去った。

 

「メテオラ……ッ!」

 

 七海は即座に、メテオラを射出。

 

 カメレオンで消えた二人を炙り出す為爆撃を敢行する。

 

 着弾し、吹き荒れる爆風。

 

 カメレオンを使用している限り、他のトリガーは一切併用出来ない。

 

 故に、爆撃から身を守る為にはカメレオンを解除してシールドを貼るしかない。

 

 そう、通常であれば。

 

「……!?」

 

 爆撃の着弾した付近に、突如二つのエスクードが出現する。

 

 その意味を瞬時に察し、七海は上空を見上げる。

 

 確かに、カメレオンを使用している間は他のトリガーは使えない。

 

 だが、他の人間が使ったトリガーの()()に関しては話は別だ。

 

 このエスクードは、間違いなく外岡が展開したもの。

 

 風間や菊地原のトリガーの枠を使っていない以上、カメレオンを解除する事なくエスクードを用いた跳躍が可能となる。

 

 エスクードジャンプの跳躍力は、かなりのものだ。

 

 こと跳躍距離に限って言えば、グラスホッパーすら凌ぐ。

 

 だが、此処は最上階。

 

 跳躍したとしても、高さには()()がある。

 

 そして、展開されたエスクードは真上を向いていたワケではない。

 

 斜め上。

 

 それも、吹き抜けの反対方向へとその角度を向けていた。

 

「佐鳥……っ!」

 

 こうなれば、狙いは明白。

 

 佐鳥を、狙撃手を落とす事。

 

 幾ら菊地原のサイドエフェクトで狙撃を察知出来るとはいえ、狙撃手の存在が邪魔である事に変わりはない。

 

 だからこそ、先んじて落としておく。

 

 それは、当然の思考だ。

 

 故に。

 

「違う……っ!」

 

 佐鳥の叫びで、気付いた。

 

 たった今。

 

 七海のサイドエフェクトが、警鐘を鳴らした事に。

 

 振り返れば、そこには。

 

 カメレオンを解除し、スコーピオンを振りかぶった風間がいた。

 

 七海は咄嗟に身体を捻り、跳躍。

 

 風間の刃から、その身を躱した。

 

 だが。

 

「ぐ……っ!」

 

 風間の刃は、更に一段階()()()七海の左腕を斬り落としていた。

 

 これは、知っている。

 

 知らない筈がない。

 

 スコーピオン二つを連結させ、射程を伸ばす発展技。

 

 マンティス。

 

 七海が影浦から継承したそれを、風間が己の刃として用いていた。

 

「悪いが、盗ませて貰った。お前や影浦ほど巧くは扱えないが、このくらいは出来たのでな」

 

 影浦が独自に開発した技術を、たとえ不完全であっても習得してしまうその技術。

 

 矢張り、風間は只者ではない。

 

 今の攻撃も、回避が一瞬遅れれば、七海の心臓は貫かれていただろう。

 

 七海はそう考えつつも、菊地原の攻撃に備えて警戒を強めた。

 

 先ほどのエスクードは、偽装(ブラフ)

 

 エスクードを展開し、佐鳥の下に向かったと見せかけて七海を奇襲する。

 

 カメレオンで姿を消しているからこそ可能となった、大胆な戦術。

 

 故に、次は菊地原の攻撃が来る筈。

 

 七海は、そう考えた。

 

 だが、一向にサイドエフェクトが反応する気配がない。

 

 それは、何故か。

 

「……! 佐鳥、そっちにも()()、行ってる……っ!」

 

 

 

 

「遅いよ」

 

 佐鳥の背後に、カメレオンを解除した菊地原が姿を現した。

 

 先ほどのエスクードは完全なブラフではない。

 

 ただ一人。

 

 菊地原だけは、あのエスクードを利用して佐鳥の下へ跳んでいたのだ。

 

 風間に七海を任せ、狙撃手を此処で落とす為に。

 

 菊地原はスコーピオンを振りかぶり、佐鳥の首を狙う。

 

 この狙撃手は、此処で落としておかなければ絶対に足元を掬って来る。

 

 飄々とした態度とは裏腹に、中々の曲者なのは知っている。

 

 笑いながら馬鹿話をしている時も、心音は平坦そのものである事を、菊地原は知っていた。

 

 普段のあの態度は、演技だ。

 

 本当の彼は思慮深く、東並みに食えない相手だ。

 

 だからこそ、此処で落とす。

 

 そう決意し、菊地原はスコーピオンを振り下ろそうとして────────その場から、跳び退いた。

 

「……!」

 

 彼が跳び退いた、その場所。

 

 そこから、エスクードが展開されていた。

 

 外岡のそれでは、有り得ない。

 

 何せ、メリットが無い。

 

 故に。

 

 これは、佐鳥のエスクードだ。

 

 恐らくは、この局面。

 

 自身を狙う相手を返り討ちにする為に、追加したトリガーセット。

 

 あのまま攻撃を続けていれば、菊地原は上に跳ね上げられ、仕留められていただろう。

 

「でも残念。聴こえてたよ」

 

 だが、菊地原のサイドエフェクトはエスクード展開時に発する()を見逃さなかった。

 

 佐鳥の策は、失敗に終わる。

 

 菊地原は、勝ちを確信した。

 

「え……?」

 

 だからこそ、起こった事が理解出来なかった。

 

 彼の、背中。

 

 その間近で生じた()を確認した瞬間、菊地原の胸に風穴が空いていた。

 

 振り返れば、そこにいたのは佐鳥。

 

 彼がイーグレットを構え、いつの間にか菊地原と密着する形で出現していた。

 

 この現象を可能とするトリガーを、菊地原は知っている。

 

 嵐山隊や日浦茜を主な使用者とし、この試合では繰り返し使われたトリガー。

 

 テレポーター。

 

 それこそが、佐鳥の本当の切り札だったのだ。

 

 迎撃のためのエスクードが菊地原に察知される事は、想定済み。

 

 エスクードを使用した本当の目的は、()()()()()()

 

 菊地原に、テレポーターを使用した事を察知されない為のブラフであった。

 

「ぐ……っ!」

 

 だが当然。

 

 スコーピオンの使い手と密着している以上、その刃を防ぐ手段は存在しない。

 

 菊地原の背中から伸びたスコーピオンにより、佐鳥の急所も貫かれる。

 

 されど、これは必要経費。

 

 強化聴覚という厄介極まりないサイドエフェクトを持つ菊地原を出し抜くには、相打ちの形を取ってでも零距離狙撃を敢行する必要があった。

 

 最初から、捨て身を計算に入れた策。

 

 相打ちではあるが、双方一矢報いた形となった。

 

「ちぇ、やられたよ。やっぱ君、相当腹黒いでしょ」

「佐鳥は自分の仕事をしただけですよ~。てなワケで、一緒に死んでね」

 

 はぁ、と何処か悔し気な溜息をつき、菊地原は自身の脱落を受け入れる。

 

 佐鳥はそんな菊地原を見て、普段通りの笑みを浮かべた。

 

『『戦闘体活動限界。緊急脱出(ベイルアウト)』』

 

 奇しくも、同時。

 

 二人のトリオン体が崩壊し、光の柱となって消え去った。

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