「時枝隊員、神田隊員が互いにエースを庇う形で緊急脱出……っ! 時を同じくして菊地原隊員・佐鳥隊員も相打ちとなりました……っ!」
「どちらも、見事でしたね」
村上は感嘆の息を漏らし、画面を見据えた。
諏訪もまた、息を飲んで画面を見据えている。
「時枝も一番大事な那須を守ったし、神田も弓場の奴をカバーしたからな。どっちも、自分が脱落する事まで織り込み済みだったろありゃ」
「でしょうね。あの局面で誰を生かすべきか、というのを分かっていました。加えて、神田は日浦隊員の位置を割り出すという置き土産も残していますからね」
「確かにな。日浦の位置が割れたのはデケェぞ」
だが、と諏訪は言葉を続けた。
「その代わり、菊地原は佐鳥がきっちり仕留めていきやがったけどな。ったく、つくづく食えねえ野郎だぜ」
「あのエスクードとテレポーターは、簡単に菊地原隊員を仕留める為だけにセットしていたものでしょうね。今回の試合であまり動かなかったのも、この時の為だったのでしょう」
「確かにな。佐鳥にしちゃあ妙に大人しいと思ってたが、最初から菊地原だけ狙ってたろありゃ」
そう、二人の言う通り、この試合での佐鳥は普段と比べ大人しい────────普通の狙撃手のような動きを、していたのだ。
佐鳥は言うまでもなく、凄腕の狙撃手だ。
狙撃の技術は言うに及ばず、その隠密能力や戦場を俯瞰する能力も総じて高い。
だが、ツイン狙撃という後先を考えない必殺技を持っている為か、他の狙撃手と比べてもその割り切りは尋常では無いのだ。
その立ち回りは、実を言うと東に近い。
チャンスがあれば躊躇わず引き金を引くし、戦場を俯瞰する能力も高い為一度撃った後に姿を隠す技術もかなり高い。
流石に東ほどの出鱈目な生存能力は持っていないが、仕事を果たせるならば見つかる事をそこまで恐れないタイプの狙撃手だ。
その佐鳥が今回の試合では帯島を狙撃して以降は妙に静かだったのだが、何の事は無い。
今回、彼は最初から菊地原を仕留める事を最優先に動いていたのだ。
「エスクードもテレポーターも、初見殺しの要素が強いトリガーです。ですが逆に言えば、その隊員がセットしていると判明すれば幾らでもやりようはある。テレポーターは、特に癖が強いですしね」
「だろうな。流石に一度使ってりゃあ、菊地原も引っ掛かりはしなかったろ。エスクードを
「恐らく、七海の仕込みでしょう。初見殺しは、彼の得意技ですから」
村上の言う通り、那須隊側の隊員で誰が菊地原を一番良く知っているかと言われれば、七海である事は間違いない。
単純に親しい友人であるし、互いのサイドエフェクトの特性も熟知している。
伊達に、繰り返し訓練相手になっていたワケでは無い。
菊地原の強みも、その能力の穴も、七海は知っていた筈だ。
「エスクードは、地面から出現するという一瞬のタイムラグがあります。そして、菊地原隊員であれば出現の兆候を聴き取って反応してもおかしくはない」
「実際、きっちり反応してやがったしな」
この場には観客含め正隊員しかいない事もあり、二人は菊地原のサイドエフェクトに言及する。
菊地原のサイドエフェクトは、風間隊の主軸なだけあって多くの隊員が周知している。
だが、その精度に関しては、実際に戦った者にしか脅威を実感し難いだろう。
派手な能力ではないが、それを十全に活かしているのが風間隊だ。
その凶悪さは、直に味遭えば嫌でも分かるのだから。
「だからこそ、本命の切り札であるテレポーターを用意していたんです。それも、菊地原隊員が反応しても回避出来ないように捨て身で零距離狙撃を敢行しました」
「ったく、度胸据わり過ぎだろ。狙撃手がわざわざ、密着して狙撃とかよ。そんな真似────────ああ、日浦も最終ラウンドでやってたか」
「そこが着想点だったのかもしれませんね。あれが最初からの指示だったのか佐鳥隊員の判断だったのかは分かりませんが、そうしなければ仕留められないと考えたのでしょう」
想起するのは、最終ラウンドの一幕。
茜がユズルを仕留めた、テレポーターからの零距離狙撃だ。
この戦術は実行した後の生存が絶望的という点を除けば、相手を確実に仕留めるには理に叶った戦術ではある。
何せ、大きな威力を持つ狙撃を零距離で行うのだ。
当然回避は出来ないし、シールドもほぼ無意味。
茜は相手が狙撃手であるユズルだからこそ一方的に討ち取れたが、スコーピオンの使い手である菊地原の場合は当然の如く相打ちになった。
自身の生存を度外視しなければ取れない、後先を考えない致死の一撃。
それが、あの佐鳥の狙撃であったのだ。
実際、それだけの価値があると考えたのだろう。
相手チームの
「菊地原隊員がいなくなった事で、ようやく不意打ちが不意打ちとして機能するようになりました。人数も減って、どちらも余裕の無い状態」
村上は顔を上げ、告げる。
「最終局面ですね」
「やられたな。最初から、あれが狙いだったワケか」
風間は七海と相対しながら、何処か嬉しそうに呟く。
実際、今の風間はとても楽しそうだ。
米屋や太刀川と違い
口では厳しい事を言いつつも、身内に激甘な風間である。
戦闘中にも関わらず笑っている姿は、本当に珍しい。
だがそれは、油断しているというワケでは無い。
弟子の成長は嬉しい。
しかし、それはそれとして全力で叩き潰す。
その顔は、言外にそう語っていた。
「日浦の位置は大体分かった。那須もあの足なら動けん。有利とまでは言わないが、易々勝てるとは思わない事だ」
「ええ、それは分かっています。ですが」
七海は顔を上げ、笑みを浮かべた。
「勝ちます。その為に、此処まで来たんですから」
その言葉と共に、七海は、風間は、スコーピオンを手に斬り結んだ。
「────」
弓場は、目の前の光景を静かに受け入れた。
那須は仕留め損ねた。
けれど、代わりに時枝を落とす事に成功した。
既に、那須は彼の射程内にいる。
だが。
それを待ってくれる程、那須は甘くは無い。
那須は、瞬時にグラスホッパーを展開。
残った右足でそれを踏み抜き、背後へと跳躍する。
「逃がすか」
されど、弓場も此処で彼女を逃がすつもりは無い。
元々、射程では大きく負けているのだ。
幾ら足を殺したとはいえ、ビッグトリオンは健在。
距離を取られれば、弾幕に圧殺されるだろう。
もう、カバーを行える神田はいないのだ。
故に。
弓場は、同じくグラスホッパーで加速。
那須を、再び射程圏内に捉えた。
「……!」
跳躍と共に、再装填は済ませた。
後は、リボルバーで撃ち抜くのみ。
「そっちをな」
「……っ!」
弓場は、嵐山の動きを見逃してはいなかった。
嵐山は、弓場に銃口を向けていた。
恐らく、那須を狙った彼を後ろから撃ち抜くつもりだったのだろう。
それを読んでいた弓場は背後に振り替えると同時に、リボルバーの引き金を引く。
前面後面、双方へと。
弾丸は、両面共にアステロイド。
那須と嵐山は、それを集中シールドで防御。
なんとか那須は防ぎ切ったが、嵐山の左足に弾丸が一発直撃。
嵐山も那須同様、片足が失われた。
どちらか片方に銃撃を絞れば嵐山は落とせたかもしれないが、そうなると那須がフリーになる。
故に、此処はこれが最善。
「────」
何故ならば。
既に、外岡がアイビスの銃口をこちらに向けていたのだから。
嵐山は、既に足を片方失っている。
回避は、不可能。
外岡は、迷いなく引き金を引いた。
「……!」
那須はすぐさまバイパーで外岡を狙うが、一歩遅い。
嵐山を囲うように、無数のエスクードが出現。
左右への逃げ場は失われ、嵐山と外岡の姿がエスクードによって隠された。
これでもう、嵐山が逃げるにはテレポーターを切る他無い。
だが、この状況で逃げ場があるとすれば、前後か上しか無い。
上に逃げれば、弓場の銃撃が待っている。
前に逃げようにも、嵐山には那須の射線が分からない。
万が一射線の中に転移してしまえば、味方の弾で自滅する。
故に。
(そう、嵐山さんは後ろに逃げるしかない。那須さんの射線が不明な以上、そうするしか────────いや)
そこで、外岡は気付く。
思い込み。
前回那須隊と戦ったROUND7では、それの所為で負けたのだ。
そして、今回の嵐山隊は佐鳥の動きを見る限り那須隊から個々人に特別な指示が与えられている。
ならば。
「……!」
「当たり、っすね」
前に。
那須の射線のど真ん中に、嵐山は転移した。
それと同時に、外岡はその周囲のエスクードを解除。
壁がなくなり、無数のバイパーが味方である嵐山へと降り注ぐ。
「危なかったっす。けど、これで終わりです」
テレポーターは、連続使用出来ない。
一度使ってしまった以上、もう切り札は使えない。
故に、此処で詰み。
嵐山は、那須の弾丸によって弾け飛ぶ。
恐らく、あそこで外岡がテレポーターの転移先を読めなければ彼の方が終わっていただろう。
幾らトリオンが増えたからと言って、同じくトリオンが増えた那須の射撃と嵐山の銃撃を同時に浴びせられれば、シールドが保たない。
過去の敗戦から学んだ経験が、活きた。
此処で嵐山を落とせれば、得点としては充分。
トドメが那須の弾だろうと、彼の足を吹き飛ばし痛打を与えたのは弓場である。
後は那須を落とせれば言う事なしだが、嵐山を落とせればその時点で9Pt。
那須隊は現在5Ptである為、弓場隊側は二人以上生き残れば勝てる計算になる。
そう。
嵐山が、
「え……っ!?」
外岡は、目を疑った。
嵐山に向かった、那須の弾丸。
それは直前で軌道を変更し、外岡へと牙を剥いた。
エスクードは、間に合わない。
故に。
外岡の姿は、その場から掻き消えた。
テレポーター。
本当の意味での最後の手を、外岡が切ったのだ。
いや、正しくは切らされた。
あそこで一瞬でも躊躇えば、外岡は落ちていただろう。
最初から。
外岡が嵐山の転移先を見破るまで、計算の内。
那須は最初から、嵐山の転移先を見越した上でバイパーの軌道を設定していたのだ。
連携は、出来ていたのだ。
嵐山との信頼関係ではなく。
単純な、読みと技術によって。
連携には信頼関係があって損はないが、理屈の上では仲間の動きが読めれば信頼関係などなくとも連携は出来る。
無論、それは那須の技術とオペレーターの小夜子の支援あってのものだ。
絆の有無は、技術と計算で補える。
想いではなく、技巧で。
結果が変わらないのであれば、どちらであっても構わない。
その割り切りが生んだ、彼女なりの連携。
それが、外岡の計算を上回ったのだ。
咄嗟に最上階へ転移した、外岡。
当然、転移と同時にシールドは広げてある。
前回のように、ライトニングを撃ち込まれてはたまらないからだ。
(きっと、此処で日浦さんの狙撃が来る。ライトニングは、これで防げる。アイビスかイーグレットが来るなら、集中シールドで防ぐだけ。落ちて、たまるか……っ!)
恐らく、この転移は読まれている。
既に、テレポーターという手札は晒した後だ。
此処に、追撃が来ない筈がない。
そして、来るとすれば茜しかない。
茜は下の階にいるが、テレポーターを使えば狙撃位置に付くのはワケはない。
だからこそ、テレポーターを使わなければ狙撃が届かない最上階へと転移したのだ。
テレポーターを使い切らせれば、後は弓場が仕留められる。
だからこそ。
「え……?」
降り注ぐ弾丸によってシールドごと穿たれた時、外岡は驚嘆する他なかった。
外岡は、那須のバイパーから逃走した。
その、つもりだった。
だが、彼女の弾幕は最初から、外岡の転移先へと置かれていた。
確かに、視線を隠す暇はなかった。
されど、バイパーはあくまで
自由自在に弾幕を操っているように見える那須だが、あくまでその場で弾道を引けるだけで、
つまり。
最初から転移先が分かっていなければ、この弾道を引く事は不可能。
そうとしか、考えられないのだ。
「当たって良かったわ。きっと、そこに来ると思ってた。だって、茜ちゃんを釣り出すにはそこしかないものね」
「そういう、事か……っ!」
それが、答え。
那須なのか小夜子なのかは、分からないが。
外岡の目論見は、読まれていた。
彼がテレポーターを使うなら、茜を釣り出せる位置に転移する。
故に。
彼が向かいそうな転移先に、バイパーの弾道を引いたのだ。
建物の構造。
瓦礫の位置。
自身と外岡の位置と、彼が狙う茜の場所。
それらを鑑みた上で候補を絞り、狙い撃った。
前回出水と正面からやり合って向上した那須の技術と小夜子のオペレートが組み合わさって初めて可能となった、絶技。
視点が違う。
そうとしか思えない、絶技だった。
「すいません、弓場さん。神田さん。力、及ばなかったです」
『戦闘体活動限界。
機械音声が、敗北を告げる。
外岡は悔し気に唇を噛みながら、光の柱となって消えていった。