痛みを識るもの   作:デスイーター

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弓場隊・風間隊⑰

 

「倒したか」

 

 那須は緊急脱出した外岡の姿を見て、気を引き締め直す。

 

 ビッグトリオンの適用者である、外岡はたった今倒した。

 

 作戦は成功。

 

 だが。

 

「────」

 

 目の前の男は。

 

 弓場は、未だ健在。

 

 彼が嵐山を狙った隙にギリギリリボルバーの射程外へは避難出来たが、その気になればいつでも詰められる距離でしかない。

 

 そして、現在那須の足は片方削れている。

 

 常のような圧倒的な機動力を失っている以上、頼りは己の技術とビッグトリオンを継承して得た膨大なトリオンしか無い。

 

 外岡を落とした事で優位には立ったが、依然として那須が落とされればルールにより試合が終わる事に変わりは無いのだ。

 

 捨て身は許されない。

 

 勝つのであれば、生き残る必要がある。

 

「行きましょう。最後の詰めよ」

 

 那須はそう告げ、キューブサークルを展開。

 

 それを合図として弓場が駆け出し、二人の一騎打ちが開始された。

 

 

 

 

「────メテオラ」

 

 七海はメテオラのキューブを生成し、無数に分割して射出。

 

 四方に、爆撃をばら撒いた。

 

 そして、その爆撃の中を縫うように迷いない足取りで疾駆する。

 

 メテオラ殺法。

 

 これまで七海が敢えて使わなかった、彼の得意戦法である。

 

 今になって使用を解禁したのは、外岡が落ちた為だ。

 

 ビッグトリオンを得た彼の狙撃は、メテオラのキューブを狙い撃ちにされる可能性があった。

 

 加えて、七海本人を狙われた場合も危険がある。

 

 多大なトリオンの後押しを受けたライトニングの狙撃は、文字通りの閃光。

 

 下手をすれば、七海のサイドエフェクトが反応してからでは対処が遅れる可能性もあった。

 

 だが、その外岡は落ちた。

 

 相手の駒は、エースにして隊長である風間と弓場の二人のみ。

 

 予想外の場所から奇襲が来る可能性は、なくなった。

 

 故に。

 

 風間に対して有利に立てる()()()()()()を活かさない理由は、何処にもなかった。

 

 隠密(ステルス)トリガー、カメレオン。

 

 その熟練者である風間相手には、射撃トリガーによる牽制が有効だ。

 

 無論、そんな事は風間自身も承知しているし、対策も用意している。

 

 だが、相手に対策を取らせる、という時点で処理能力を圧迫している事に変わりは無い。

 

 特に、七海のメテオラは強烈だ。

 

 豊富なトリオンから放たれるメテオラは、文字通りの爆撃の嵐。

 

 迂闊に動けば爆破に巻き込まれる以上、相手は慎重な立ち回りが求められる。

 

 七海のメテオラ殺法の最大の武器。

 

 それは、相手の行動に()()を与える事である。

 

 派手な爆撃の中では、闇雲に動く事を控えようとするのが当然だ。

 

 そして、消極的な動きは、自然と相手を守りに入らせる。

 

 そうなればしめたものだ。

 

 一度守勢に傾いた相手を押し込めば、心理的にも優位に立てる。

 

 人は、一方的に攻められていれば不快感を感じるものだ。

 

 それがスポーツであれゲームであれなんであれ、一方的にやり込められる、という状態はストレスを誘発する。

 

 ストレスは、焦りを生む。

 

 極限状態の戦いの中、そういった焦りは積み重なればミスへ繋がる。

 

 並みの相手であれば、そのまま攻めるだけで押し勝てるだろう。

 

 無論、風間相手にそんな事は期待していない。

 

 尋常でない実力者相手の戦闘にも、充分に慣れている風間だ。

 

 遠征経験もある彼にとって、不利な状況での戦い、というのは珍しくもない。

 

 頼れる者が少ない近界での戦いを潜り抜けるには、相当な覚悟が必要だ。

 

 風間は、その覚悟を有している。

 

 故に、心理的な圧力で押し勝つ事は不可能。

 

 だが、心理的に押し勝てずとも、風間の動きを制限するだけで大きな意味がある。

 

 風間の機動力は、七海と比較しても遜色ない。

 

 どころか、七海より鋭い動きを見せる事もそう珍しくは無い。

 

 攻撃・防御。回避・指揮。

 

 そのいずれもが、総じて高いレベルで揃っている。

 

 それが、風間蒼也。

 

 A級三位部隊隊長にして、隠密戦闘の名手。

 

 見た目不相応の経験値を持つ、ボーダーでも指折りの実力者だ。

 

 七海としても、師匠筋の一人にあたる。

 

 容易に勝てる相手だとは、間違っても考えていない。

 

 全ての手札を解禁し、ようやく追い縋れる。

 

 そういう相手だと、七海は認識している。

 

 だが、風間の最大の脅威であるチームとしての連携は菊地原が落ちた事で失われた。

 

 現在、弓場が生き残ってはいるが、那須を放置して此処に来る事は無いだろう。

 

 今の那須は足が削れているが、そのトリオンは健在。

 

 距離を取れば押し負ける事は、充分に理解しているだろう。

 

 故に、数の不利を承知で那須と嵐山を相手取る他ない。

 

 那須も嵐山も足が削れているという不安要素はあるが、双方の実力は欠片も心配していない。

 

 片や自身の隊長にして、エース。

 

 片や、A級部隊を率いる隊長。

 

 どちらも、実力に不足はない。

 

 連携の練度も、先ほどの一幕で心配ないと確信出来た。

 

 それだけが懸念事項ではあったが、上手くやれているようだ。

 

 故に。

 

 今は、目の前の相手に集中する。

 

「────」

 

 風間は、無手。

 

 茜の狙撃を警戒しているのだろうが、流石にこの爆撃の中カメレオンを使う気はないだろう。

 

「……!」

 

 と、考えていた。

 

 だが。

 

 風間は、迷いなくカメレオンを起動。

 

 爆撃の雨の中、シールドすら張れない状態で隠密状態に移行した。

 

 そして、七海のサイドエフェクトが反応。

 

 側面から姿を現した風間の斬撃を、スコーピオンでガードしながら後退する。

 

「この爆撃の中、余裕ですね……っ!」

「被弾しない場所はお前が教えてくれる。動きを見ていれば、容易い事だ」

 

 平然と言っているが、冗談ではない。

 

 確かに、七海は自身の放った爆撃の中をサイドエフェクトによる感知を利用して爆破の巻き添えを食らわないルートを算出して移動している。

 

 その七海の動きを見ていれば、理論上は被弾しない場所が分かるだろう。

 

 だが、理論と実践は別だ。

 

 言うまでもなく、七海の機動力は相当高い。

 

 そして、被弾しないルートが分かっている以上、爆撃の雨の中でも速度を緩める理由は無い。

 

 高い機動力を持つ七海の動きをリアルタイムで観察しながら、爆撃を食らわないルートを読み取り移動する。

 

 それは果たして、どれほどの高等技術と胆力の為せる業であろうか。

 

 分かってはいたが、並大抵の精神力ではない。

 

 理屈では被弾しないルートが分かっても、爆撃の雨の視覚的威圧感は相当に大きい。

 

 目と鼻の先で爆発が連鎖する中、シールドすら張れない状態で突き進む。

 

 クソ度胸、と表現してもなんら遜色の無い勇猛さである。

 

 メテオラ殺法では、風間の動きを止めきれない。

 

 それは今、充分に理解した。

 

 下手をすれば、自分のメテオラで首を絞める可能性すら有り得る。

 

 だが、メテオラは風間には無い自分のアドバンテージである事は事実。

 

 そして。

 

 七海だけのアドバンテージは、他にも存在する。

 

 故に。

 

 判断は一瞬。

 

「────メテオラ」

 

 七海は、再びメテオラを展開。

 

 それを。

 

「……!」

 

 分割なし。

 

 最大威力を保持した状態で、足場に向かって叩き込んだ。

 

 

 

 

「……!」

 

 その爆発は、弓場の眼にも見えていた。

 

 那須と追走劇を繰り返す中、突如最上階の床が爆発と共に崩落。

 

 その上から、二つの影が躍り出た。

 

「七海と、風間サンか……っ!」

 

 当然それは、最上階で戦っていた七海と風間。

 

 エース二人が、自由落下に任せて落ちて来る。

 

 否。

 

 二人は、空中で戦いながら落下していた。

 

 七海は、グラスホッパーを。

 

 風間は、あろう事か落下中の瓦礫を。

 

 足場として、幾度も交差を重ねていた。

 

 グラスホッパーを踏み込み、斬り込む七海。

 

 風間は落下する瓦礫を蹴り飛ばしながら、その勢いで跳躍。

 

 七海の攻撃を、真っ向から受け止める。

 

 風間は、続けてもう片方の腕でスコーピオンを構えた。

 

 今の七海には、左腕が存在しない。

 

 故に、正面からの鍔迫り合いは不利。

 

 だからこそ、七海はグラスホッパーを踏み込み、後退。

 

 そして、最大限に分割したグラスホッパーを風間の周囲に展開した。

 

「……!」

 

 跳躍。

 

 跳躍。

 

 跳躍。

 

 その、連鎖。

 

 乱反射(ピンボール)

 

 グラスホッパーを最大限に活用した、相手を攪乱する奇襲戦法。

 

 七海は、それを空中の風間相手に発動した。

 

 空中では、風間は大きな身動きは取れない。

 

 七海にこうも纏わりつかれては、先ほどのような瓦礫を使った移動も出来ない。

 

「ちぃ……っ!」

 

 風間を侮るワケではないが、このままではやられるのは時間の問題。

 

 そう考えた弓場は、七海のグラスホッパーを消し去るべく拳銃を構えようとして────────銃口を、那須に向け直した。

 

 風間の眼が、語っていた。

 

 こちらは任せろと。

 

 ならば。

 

 目の前の那須(エース)と、決着を着けるのみ。

 

 漢、弓場琢磨。

 

 此処で覚悟を決めない程、廃れてはいない。

 

 眼鏡越しに、那須を睨み付けた。

 

 那須は、怜悧な美貌を称えた顔で、ただ闘志をこちらにぶつけていた。

 

 足が削れ、不安もあるだろう。

 

 チームを文字通り背負う、重責もあるだろう。

 

 だが、臆する様子は微塵も無い。

 

 形こそ弓場から逃げているが、そもそも射手は逃げながら戦うものだ。

 

 距離を取りながらチャンスを探り、搦め手を駆使して攻め込んでいく。

 

 それが、射手の戦い方。

 

 戦い方と闘志の有無は、別のものだ。

 

 弓場もまた、そんな那須が臆病などとは微塵も思わない。

 

 彼には彼の戦い方があるように、彼女には彼女の戦い方があるのだ。

 

 それが違ったところで、気にする方がどうかしている。

 

 攻撃手に、接近戦を挑む射手はまずいないし。

 

 逆に、射手から距離を取る攻撃手も普通はいないのだから。

 

「────」

 

 弓場が、地を蹴った。

 

 那須は、後退しながらバイパーを放った。

 

『距離20』

 

 オペレーターの声が、聞こえる。

 

 それは、那須を射程圏内に捉えた、合図。

 

 弓場は、迷いなくその引き金を、引いた。

 

 

 

 

「……!」

 

 七海は、瞠目していた。

 

 必殺の意思を以て仕掛けた、落下しながらの乱反射(ピンボール)

 

 身動きの取れない風間を、一方的に削り殺す。

 

 そのつもりで仕掛けたそれを、風間は。

 

 七海のグラスホッパーの一つを踏み込み跳躍する事で、離脱した。

 

 確かに、グラスホッパーは展開後は誰であろうと使用出来る。

 

 たとえそれが、対戦相手であっても、である。

 

 だが。

 

 乱反射は、秒単位でグラスホッパーの展開と消費を繰り返す。

 

 ただでさえ機動力に特化した七海のそれを、大幅に引き上げている状態なのだ。

 

 そんな中で、七海の攻撃を躱しながら的確に展開されたグラスホッパーを利用し、離脱する。

 

 それがどれ程の難度かは、言うまでもない。

 

 このまま地に足が付いてしまえば、再び風間が優位に立つ。

 

 それに、五階に降りた風間が那須を狙わないという保証は無い。

 

 奇襲には慣れた風間だ。

 

 足の削れた那須では、逃げ切れない可能性が高い。

 

 故に、なんとしてでもこの落下中に決着を着ける必要がある。

 

 射程外からのマンティスの一撃。

 

 などでは、風間は倒せないだろう。

 

 七海のマンティスは、影浦のそれと比べれば練度は低い。

 

 使用機会の頻度と戦術の関係上、それは仕方のない事だ。

 

 初見であれば先ほどの風間がやったように不意を打てるかもしれないが、七海がマンティスを使える事は当然知られている。

 

 ならば、マンティスだけでは倒せないだろう。

 

 故に。

 

「メテオラ」

 

 再度、メテオラを使用。

 

 空中にいる風間に向けて、無数に分割した爆撃を撃ち放った。

 

「……!」

 

 流石にこれは、ガードする他ない。

 

 風間はシールドを広げ、爆撃を防御する。

 

 そこを。

 

 七海は、グラスホッパーを用いて風間の背後を取る。

 

 そして、渾身のスコーピオンを、振り下ろした。

 

「させん」

 

 だが。

 

 風間は、それを当然の如く受け止めた。

 

 穴の開いた、軽量化されたスコーピオン。

 

 風間はその刃の穴に七海のスコーピオンを引っ掛け、右腕ごとかち上げた。

 

 そして、同時に二の腕から伸ばしたスコーピオンで七海の右腕を切断。

 

 七海は遂に、残った右腕までも失った。

 

 だが。

 

 間髪入れず、七海は右足で風間を蹴りつけた。

 

 当然、その足先にはスコーピオンが伸びている。

 

 スコーピオンは、身体の何処からでも生やす事が出来る。

 

 故に、腕を失ったとしても、足さえあれば攻撃は可能。

 

 だがそれは。

 

 風間とて、当然承知の事。

 

 七海の攻撃は、既に読んでいた。

 

 だからこそ。

 

 風間は、足に生やしたスコーピオンの一振りで、七海の両足を斬り裂いた。

 

 ガードではなく、迎撃を。

 

 七海はサイドエフェクトで攻撃を感知していたが、間に合わなかった。

 

 彼がサイドエフェクトで攻撃を感知出来るのは、攻撃の発生が()()した瞬間。

 

 故に。

 

 攻撃から直撃までの()()が短ければ、七海の反応が間に合わない可能性は、有り得るのだ。

 

 風間はその性質を利用し、足が七海に触れるその瞬間にスコーピオンを展開。

 

 ほぼ零距離でスコーピオンを展開する事で七海に防御の時間を与えず、その足を斬り裂いた。

 

 丁度、以前の訓練で七海の首を掴むと同時にスコーピオンを展開して不意を突いた時のように。

 

 サイドエフェクトの性質を知るからこそ出来た、風間の経験値と即応力故の攻撃。

 

 これで、七海は両手両足を失い達磨状態。

 

 雌雄は決した。

 

「……!」

 

 とは、どちらも思っていなかった。

 

 七海はグラスホッパーで自身の胴体を跳ね飛ばし、風間に突貫した。

 

 当然、その胸からスコーピオンを生やして。

 

 四肢を失っても、未だ彼の闘志は折れていない。

 

 その証明たる、最後の一撃。

 

「お前なら、やるだろうと思っていた」

 

 だが。

 

 風間は、それすら承知の上だった。

 

 彼もまた、胸からスコーピオンを生やして、七海の刃を受け止めていた。

 

 七海なら、やると。

 

 四肢を失おうが、闘志が折れる事は無いと。

 

 理解していた、それ故に。

 

「ぐ……っ!」

 

 トドメは、忘れない。

 

 風間は刃を受け止めた場所の近くからもう一つのスコーピオンを生やし、七海の胸を貫いていた。

 

 枝刃(ブランチブレード)

 

 本来であれば腕で行うそれを、風間は胴体の、胸の部分で行っていた。

 

 腕での斬撃は、防御が間に合う恐れがある。

 

 故にこその、最短最速。

 

 風間の一撃は、七海の急所を貫いていた。

 

『トリオン供給機関破損』

「勝負あったな」

「ええ」

 

 七海は笑って、告げた。

 

「俺()の、勝ちです」

 

 瞬間。

 

 七海の向こう側から、一発の弾丸が飛来した。

 

 それは、七海ごと風間を貫く、必殺の弾丸。

 

 撃ったのは、茜。

 

 いつの間にか七海の背後に転移していた茜が、七海諸共風間を穿たんと、狙撃を敢行した。

 

 七海の犠牲を前提とした、致死の一撃。

 

「それは、もう見た」

 

 しかし。

 

 風間は、七海の背に集中シールド2枚を展開し、その攻撃に対する解答とした。

 

 那須隊は以前にも、確かにこの戦術を披露していた。

 

 ROUND5。

 

 東相手に七海と茜は、捨て身の狙撃を敢行する事で始まりの狙撃手を仕留めるに至った。

 

 そして、風間はその光景を収めたログをしっかりと目にしていた。

 

 風間は、七海を侮らない。

 

 彼であれば、必要とあれば自分を犠牲にする策も躊躇なく取って来るであろうと。

 

 信じていた。

 

 故にこその、対処。

 

「ええ、そうだろうと、思っていました」

「────!」

 

 されど。

 

 そのシールドのうち一枚は、下方から飛来した弾丸によって砕かれた。

 

 その弾丸の正体は、那須の変化弾(バイパー)

 

 七海は、分かっていた。

 

 風間であれば、茜の狙撃にも対応するだろうと。

 

 だからこそ、那須に頼んだのだ。

 

 指定の場所を、撃って欲しいと。

 

 那須は指示(オーダー)に応え、風間のシールドを破壊出来る弾道をセットした。

 

 わざわざバイパーを上空に打ち上げたのも、この為だ。

 

 そして、一枚になったシールドを貫き、茜のアイビスが七海ごと風間を撃ち抜いた。

 

「やられたな。確かに、これは俺の負けのようだ」

 

 風間は苦笑し、笑みを浮かべた。

 

 確かに、七海との一騎打ちには勝利した。

 

 だが、これは個人戦では無い。

 

 風間は、七海にではなく、那須隊に、敗北した。

 

 それを認め、風間は敗北を受け入れた。

 

『『戦闘体活動限界。緊急脱出(ベイルアウト)』』

 

 風間と七海は、同時にトリオン体が崩壊。

 

 共に、光の柱となって消え失せた。

 

 

 

 

「……!」

 

 その光景は、弓場も目にしていた。

 

 まさか、この局面でバイパーを弓場相手ではなく、七海の援護の為に使うとは。

 

 悔やむ気持ちもあるが、此処が正念場だ。

 

 嵐山は、距離的に援護は出来ない。

 

 だが、それもこの瞬間だけの事。

 

 数秒あれば、すぐにでもこちらに駆けつけるだろう。

 

 故に、その前に決着を着ける。

 

 弓場は、グラスホッパーを踏み込み、シールドを張りながら跳躍した。

 

 既に弓場の射程には入っているが、ギリギリだ。

 

 もっと距離を詰めなければ、グラスホッパーで逃げられる可能性がある。

 

 故に、詰める。

 

 虎穴に入らずんば虎子を得ずの言葉通り、リスクを恐れてはリターンは取れない。

 

 那須は、逃げる素振りは無い。

 

 どうやら此処で、迎え撃つ腹積もりらしかった。

 

 彼女の弾丸は、上空へ打ち上げられたものと弓場の正面のもの、その二つが存在する。

 

 上空へ打ち上げたものの幾つかは七海の援護の為に消費したが、まだ充分弾数は残っている。

 

 正面の弾丸をガードさせた隙に、上空の弾を落とすつもりだろう。

 

 故に。

 

 弓場は、正面と頭上、双方にシールドを展開した。

 

 正面の弾は、恐らくバイパーに偽装したアステロイドだ。

 

 上空へ打ち上げたバイパーは、恐らく魅せ札。

 

 本命は、この正面の弾丸。

 

 シールドを広げたところを、アステロイドで割る計算なのだろう。

 

 故に、正面のシールドは広げず、頭上のシールドを広げた。

 

 全てを防ぎ切る事は出来ないだろうが、要は致命傷さえ貰わなければ良い。

 

 最悪、相打ちでも構わない。

 

 勝ちが消えたとしても、諦める理由にはならないのだから。

 

 今はただ、何が何でも目の前のエースを獲る。

 

 故にこその、決断。

 

 グラスホッパーでの突貫は、先ほどの外岡のように移動先を割り出されて討ち取られる可能性がある。

 

 故に、此処は防御一択。

 

 ガードに成功し次第、早撃ちで那須を仕留める。

 

 正真正銘、最後の攻防。

 

 それは。

 

「が……っ!?」

 

 那須の、勝利で終わった。

 

 正面からのアステロイドは、ガードした。

 

 幾らかは貫通したが、致命傷には至らない。

 

 上空のバイパーも、防御した。

 

 こちらもある程度は被弾したが、急所は貫かれていない。

 

 だが。

 

 だが。

 

 ()()から飛来した一発の弾丸が、弓場の胸を貫いていた。

 

「そういう、事か……っ!」

 

 弓場は、気付いた。

 

 那須が上空へと打ち上げた、バイパー。

 

 その一部を、迂回させて下へ回り込ませていたのだ。

 

 そして、これまでの戦闘で空いた床の穴を通り、弓場の胸を正確に貫いた。

 

 那須が上空へ打ち上げたバイパーの目的は、三つ。

 

 一つは、七海の援護。

 

 二つ目は、弓場が推測した通り上空からの攻撃。

 

 そして三つめが、この本命の一撃であった。

 

「強ェな、おめェーら」

『戦闘体活動限界。緊急脱出(ベイルアウト)

 

 弓場は何処か晴れやかな顔で笑い、同時にトリオン体が崩壊。

 

 その身体が光となって消え、第三試験の決着となった。

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